2015年5月号
連載記事
第2話 ミリタリーエアバンドを聞いてみた
平成27年3月26日午前10時。姫路城の修理完了を祝う式典が開かれ、空には「ブルーインパルス」によって大輪の桜が描かれました。このお祝いの場に、あーちゃんもいました。もちろん、ブルーインパルスの交信を聞きながら!
先日エアバンドを聞いてみた(第1話)あーちゃんでしたが、エアバンドについて調べている時に一緒に目に入ってきたのが「ミリタリーエアバンド」という言葉でした。
「もしかしてこれって・・・、ドラマのやつ?!」
あーちゃんは、少し前に放送していた自衛隊の活躍をテーマにしたドラマを思い出しました。あーちゃんはそのドラマが大好きで毎週欠かさず観ていました。ドラマでは、イケメン俳優が演じる航空自衛官が、飛行する航空機内で無線機を使って話しているシーンがありました。
ドラマを観ていた当時は「ふ~ん」くらいの気持ちでしたが、アマチュア無線を始めた今となっては、
「これは一度聞いておかなければ・・・!」
そんな気持ちがみるみる湧き上がってきました。あーちゃんの脳内では、イケメンのパイロットが、親指をたてて「Good luck!」と言っているイメージが広がりました。
「ふふふ、これはサミーとエリーに自慢できるぞ♪ あ、ついでに写真も撮っとくか~」
カメラガールになったはずのあーちゃん。いつの間にか写真は二の次になっています。
ミリタリーエアバンドを聞くにはどうすればいいのか、あーちゃんは調べ始めました。
主な方法としては、日本各地にある基地で開催される「航空祭」「基地祭」といったイベントで行われるデモ飛行の交信を聞く方法と、訓練や大規模な演習での交信を聞く方法があります。
残念なことに、あーちゃんの在住している近辺に基地はありません。遠出することを半ば覚悟した時でした。
「ん? 姫路にブルーインパルスがやってくる、とな?!」
とあるニュースサイトにそのような記事が掲載されていました。姫路城の「平成の大修理」完了を祝って、姫路城の上空をブルーインパルスが祝賀飛行する、と記事は伝えています。
「やったあ!ここなら行ける!(^O^) でも、ブルーインパルスって何だったっけな~。ドラマに出てきたけど」
あーちゃんは『ブルーインパルス』とは何かをはっきり知らないまま、何となくはしゃいでいたようです。そろそろ一部の読者様からお怒りの声が聞こえてきそうです。
ブルーインパルスとは、航空自衛隊の飛行部隊のひとつで、航空自衛隊の航空祭や国民的な大きな行事などで、華麗なアクロバット飛行(展示飛行)を披露するチームの愛称です。(正式名称は、宮城県松島基地の第4航空団に所属する「第11飛行隊」)
※出典:航空自衛隊ホームページ
ブルーインパルスのアクロバット飛行は、航空祭の目玉として、多くのファンを魅了しています。ブルーインパルスのことを知るにつれ、あーちゃんはますます好奇心に駆られました。
あーちゃんは次の日、出勤すると速攻、会社に有給休暇を申請しました。ひとまず行くことは決定しましたが、困ったことに肝心の「聞く」手段が今のあーちゃんにはありません。
というのも、ミリタリーエアバンドは民間機の飛行管制で使うエアバンドとは少し違います。民間機は主に118.0~136.975MHzの「VHF帯」を使用しますが、ほとんどの軍用機は225~371MHzの一部を使う「UHF帯」にも対応した無線機を搭載しています。あーちゃんの持っているID-51では上記のUHF帯を受信することはできません。
「どうしよう・・・」
途方にくれるあーちゃん。これまで何度もあーちゃんの窮地(?)を救ってくれた相棒・ID-51に立ちはだかる、UHF帯という謎の強敵。
あーちゃんは相棒を授けてくれたハムショップの店員さんに、救いの手を求めることにしました。
店員 「なるほどなるほど。そういうことなら、これが役に立つと思うよ」
店員さんが見せてくれたのは、IC-R6という受信機でした。
あ 「これなら、ミリタリーエアバンドも聞くことができますか?」
店員 「もちろん!ミリタリーエアバンドだけじゃなく、他にもいろいろな楽しみ方があるけど、それはおいおい教えてあげよう。今度のブルーの交信は、これがあればバッチリだよ」
価格もID-51と比べればずっと安価で、あーちゃんでも十分に手の届く範囲です。
あ 「欲しいなぁ。どうしようかなぁ」
店員 「迷っているなら、僕のを貸そうか?一度使ってみれば、絶対欲しくなると思うからね」
あ 「え?!いいんですか?!」
店員 「今回だけ特別にね!」
あーちゃんは、IC-R6を店員さんから借りることになりました。IC-R6は、幅広い周波数帯を受信することが可能です。またIC-R6はアマチュア無線機ではなく受信機なので、他人のものを借りて使用することができます。あーちゃんの新たな相棒の誕生です。
店員 「ついでに、当日ブルーが姫路城の上空で使いそうな周波数をメモリーチャンネルにセットしておいてあげよう。初心者じゃぁ、周波数の割り出しは難しいだろうから」
あ 「ありがとうございます!」
店員 「ああ、僕も行きたかったなぁ・・・。営業日でなけりゃなぁ・・・」
あ 「私がおじさんの代わりに、た~っぷり、ブルーの交信を聞いてきてあげますね♪」
店員 「はは、僕のぶんも楽しんでおいで」
そして当日。あーちゃんはいつもより早起きして姫路行きの電車に飛び乗りました。電車は目的地である姫路駅に着くまで、ずっと満員状態でした。駅周辺も、多くの人々でで賑わっています。
「わお!あれが姫路城!すごい迫力!!」
あーちゃんは姫路城を見るのはこれが初めてです。駅からまっすぐ伸びる道の向こうに、姫路城は悠然とそびえたっていました。姫路城への道中には、大きなカメラを首から下げた人、さらには高い脚立を運搬するまで、熱狂的なファンの姿をたくさん見かけました。
そしてついに、姫路城に到着!
完成記念式典が開かれる場所は三の丸広場です。式典の開始時刻は9時30分、ブルーインパルスの祝賀飛行は10時すぎからのスタートです。あーちゃんは片耳にイヤホンをいれ、首からカメラをさげて、IC-R6をスキャンさせながら、ブルーインパルスの交信が始まるのを、今か今かと待ちわびました。
9:45頃。IC-R6のスキャンが一瞬止まりました。慌ててスキャンを解除します。それはブルーインパルスのパイロットで間違いありませんでした。
ふと隣を見ると、あーちゃんの隣の女性も、受信機を持ってきていました。必死に周波数を探している様子です。あーちゃんは周波数を設定してくれた店員さんに、心から感謝しました。
そしてついに、10時を少し過ぎた頃―――。
ブルーインパルスのアクロバット飛行が始まりました!
会場からは歓声が沸きあがります。
ブルーインパルスは突然現れて華麗な演技を披露すると、あっという間に空の彼方に飛び去って見えなくなってしまいます。ですが、機体が見えなくなっても、あーちゃんにはパイロットの声が聞こえています。会場からの演目のアナウンスを聞かなくても、交信内容を聞いていれば、「もうそろそろお城の上空に戻ってくる」というタイミングを知ることができるのです。
パイロットは、はきはきとした快活な声をしています。業務的なお堅い感じの口調ではなく、どちらかというと話し口調に近いようにあーちゃんは感じました。時折、パイロットの気合いの入った掛け声が聞こえて、つられてあーちゃんも力が入ってしまいます。
ところで、あーちゃんが何より嬉しかったのは、民間航空機の時とは違い、英語だけではなく日本語でも交信しているところです。時折英語が混じりますが、「レディ」、「ナウ」、「スモーク」、「ストップ」など、使われるのはとても簡単な単語だけです。もしも交信が完全に英語で行われていたら、あーちゃんのテンションはがた落ちだったに違いありません。
「パイロットのお兄さん、こんな爽やかな声してるんだもん、絶対かっこいいよねぇ♡」
空に描かれた大きなハートマークを見ながら、あーちゃんの脳内もハートマークでいっぱいでした。
およそ10分間の祝賀飛行を心から満喫したあーちゃん。
式典が終わり、会場を後にしたあーちゃんは、その足でまっすぐハムショップに向かいました。
あ 「おじさん!これ買います!」
店員 「お帰り。そう言ってくれると思ってたよ」
あ 「っていうか、これが欲しいです!初めてブルーの交信を受信した、記念すべきこの受信機が!」
店員 「でもそれ、僕のおさがりだけど、いいのかい?」
あ 「これじゃなきゃダメなんです!新品だと、今日聞けた周波数がわからなくなっちゃう!」
店員 「それなら大丈夫。新しいIC-R6をクローニングしてあげるから、僕のIC-R6とそっくり一緒にできるよ」
あ 「クローニング?」
クローニングとは、無線機/受信機同士を専用ケーブルで接続してメモリの内容をそっくりそのままコピーしたり、無線機/受信機を専用のソフトを入れたパソコンに接続してメモリの中身を書き換えたりできる機能のことです。店員さんにIC-R6をクローニングしてもらったあーちゃんは、今度はちゃんとお金を払って、IC-R6をゲットしたのでした。
後日、記念式典での出来事を自慢するために、あーちゃんはサミーとエリーをいつものカフェに呼び出しました。
あ 「でねでね、ブルーの演技はすごい迫力だったし、交信もすっごい聞きごたえがあって、本当に最高だったよ~(*^o^*)」
あーちゃんは、2人に撮影した写真を披露しました。
エ 「うんうん、よかったねぇ。私も今度エアバンドを聞いてみたいな♪」
サ 「それにしてもあーちゃん・・・」
※あーちゃんの撮影です
サ 「こんな写真ばっかりじゃん!」
エ 「う~ん、さすがにこの構図はヒドいね~(>_<)」
あ 「あはははは。ブルーってば、めちゃくちゃ高速で飛んでるもんだからさ~(笑)」
受信の腕はあがったあーちゃんでしたが、カメラのスキルはまだまだのようです。
(注)記事中に登場する無線通信の内容は実際のものとは異なります。
次回・・・
新たな無線機を手に入れたあーちゃん。それを生かすべく、次にあーちゃんが向かった先は・・・?