2015年5月号

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連載記事

防災とアマチュア無線

防災士 中澤哲也

第14回 防災視点でのアマチュア無線 「訓練」 (その2)

引き続き「訓練」について考えて行きましょう。

その前に、3月14日から仙台市を中心に開催された第3国連防災世界会議について前号で触れていますが、もう少し踏み込んでみましょう。この会議は国連(詳細には国連国際防災戦略事務局(UNISDR))が主催するもので、過去2回も日本(横浜、神戸)で開催されています。この会議については本連載第3回でも触れ、そのときの予想通り特別なコールサインを使ったアマチュア無線局の運用もありました。会議の目的等については、日本語では実行委員会の中核を担った仙台市のサイトや外務省のサイトをご覧いただければ詳しい内容が得られます。この会議のプログラムとして、誰もが参加できるパブリックフォーラムでアマチュア無線に関するセッションがないか探しましたが、事前に公表されていたリストから見つけることができませんでした。

しかし、IARU Reg.1のNEWS
http://www.iaru-r1.org/index.php/emergency-communications/1405-auto-generate-from-title
によると、3月15日に東北大学川内キャンパスでITU-D主催のカンファレンスがあり、アマチュア無線家(組織)が参加するパネルディスカッションがあったようです。聴講者は30名だったとのことですが、事前に周知されていればその何倍もの聴講者が集まったと思われます。もちろん筆者も参加したでしょう。この原稿を書いている(3月19日)時点ではこれに関する日本語の報道はありません。整理されたのち詳細が報道、報告などされるかと思いますのでそれを期待しましょう。ちなみにITU-D主催ということで、資料を探してみたところ“Smart Sustainable Development Model Report 2015”という資料が刊行されており、
http://www.itu.int/en/ITU-D/Initiatives/SSDM/Documents/SmartSustainableDevelopmentModel_Report2015.pdf
この中に「アマチュア無線の新技術紹介」として、「WSJT」などが紹介されていました。この技術の実験プログラムの一つにデジタルモードとして技術志向の高いアマチュア局が利用する「JT65」があります。これについて本紙では2013年6月号の編集部記事で採り上げており、また機器メーカーもアイコムがハムフェア2013で解説しています。

さて、前号では「無線局運用規則」について触れました。訓練でアマチュア無線家の皆様が、消防・救急や医療機関等の「プロ」の方々と連携して作業をする場面や、現場や拠点で肩を並べるような場面もあるかと思いますが、その際に、「彼等の呼出や応答はアマチュア局が行う無線局運用規則の手順とは異なるのでは…?」と違和感を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。確かに「本部から○○」、「○○から本部」と自局の呼出符号等が先になっています。我々アマチュア無線家の横でこのような通信が行われると、ついついつられて「JA3YUAからJK3ZNB」などと言いそうになるかもしれません。筆者は昨年ある自治体主催の訓練に、アマチュア無線の無線機とデジタル簡易無線(登録局)の無線機と2台を持ち、参加したことがあります。そのときデジタル簡易無線での交信相手は自治体職員の方々だったので、相手に合わせて「大阪中継から花A」などと話し、アマチュア無線では「JK3○○○、こちらはJI3□□□」と話していました。それぞれの違いに慣れるまで少し時間がかかりました。

ところでこのような自局の呼出符号を先に言うプロの運用は、無線局運用規則に定められた運用でないのでは…?と疑問符を付さなければならないのでしょうか。そうではありません。無線局運用規則には「通信方法の特例」という定めがあります。

第18条の2 無線局の通信方法については、この規則の規定によることが著しく困難であるか又は不合理である場合は、別に告示する方法によることができる。

とあります。これに関係する告示として、

昭和37年5月17日郵政省告示第361号
「無線局運用規則第18条の2の規定による無線局が同規則の規定によることが困難であるか不合理である場合の当該無線局の通信方法の特例」

というものがあります。それで実際の通信手順については、消防関係は「…消防無線局運用管理規程」など、地方自治体内でルールが仔細に定められています。また、警察も組織内でルール化されているようです。(業務の性格より敢えてサンプルは示しません。ご理解下さい。)


神奈川県警の多目的災害活動車(ウニモグ)
少女と比較してわかるタイヤの大きさなどから走破性が高いことが見て取れる。
横浜防災フェア2014にて筆者撮影(2014年8月24日 横浜赤レンガ倉庫)

また、この告示によって、デジタル簡易無線局についても「…それぞれ当該設備に適した方法により呼出し若しくは応答又は通報その他の事項の送信を行うことができる。」との記載があることより、その呼出しや応答について手順にこだわらず行うことが出来ます。

では話しを「訓練」に戻しましょう。「訓練」にはさまざまな視点があります。組織ではなく個人への視点としては、「心・技・体」という視点もあります。主にスポーツの分野でよく論じられますね。アマチュア無線家として技術は言うまでもなく、災害時・非常時には長時間連続運用を強いられる場面もあるでしょうから体力も必要ですね。では心=精神面については、スポーツの分野では実力を出し切るための集中力など論じられています。この精神面での訓練として「メンタルトレーニング」と表現されるものがあります。集中力以外にも、「さまざまな状況下であっても冷静を保ち、スムーズに間違いなく通信できるよう、感情をコントロールすること」、「平常心」、も訓練の対象になるかと考えます。

筆者がしばしば経験することで、和文通話表を用いて名乗っているにもかかわらず、間違って受信されることがあります。こちらがきちんと送信している以上、受信側の不手際(と思いたい)なのですが、何度も間違われると腹立たしい時やあきれてしまうこともあります。そんな思いをしたくないので、「漢字で書くと、真ん中の中に…」とまで送信することもあります。ひらがな4文字、濁点を数えてもわずか5文字をきちんと受信してもらうのに数十秒かかるなど、ちょっとこれは…と思うときもあります。負傷者や被災者がなんとか連絡を取ろうと送信している等、特段考慮すべき状況になく、交信相手があらかじめ組織の中で決められた「担当者」でありながらそのような状況に至った場合であったとしても、聞き手はいらだちを押さえ冷静を保ち、確認できるまで辛抱強く対応することを求められます。聞き手として普段そのような状況を経験し、冷静を保つよう努力することも「訓練」かもしれません。

東日本大震災のとき、アマチュア無線の短波で連絡役を担当された西日本の或るベテランの運用について、スムーズでないことに種々の意見が寄せられた事もあったようです。また、ご記憶の方もいらっしゃるかと思いますが、阪神淡路大震災では、広域レピータに執拗に妨害をかける輩が現れ、現場で冷静を保つどころか、頭から湯気がのぼるかの状況になった方も少なくなかったようです。また現場におらずとも、必要時に対応可能なよう受信を続けておられた方々は「聞くに堪えない状況」に憤りを覚えた方も少なくなかったでしょう。感情のままに「馬鹿野郎!引っ込め!」などと送信することは簡単ですが、その送信が、本来の緊急の通信を妨害していることに注意しなければなりません。

もっともっと厳しい状況もあります。被害状況によっては大変過酷な状況で通信を行う場面に遭遇するかもしれません。現場で「亡骸」について連絡するとき、本当に冷静でいることが出来るのか…。そのような厳しい内容、口にすることがつらい内容の連絡は本来警察や消防、自衛隊など「プロ」の方々が担うものと理解しています。しかし、災害現場ではいつもそのような態勢がとれるとは限りません。「一ボランティアのあなたが唯一の通信実施可能者」という状況があるかもしれません。まだそこここが燻っている大規模火災現場に踏み入った筆者でも、その場で両手を合わせた経験はありません。その場面に直面しないとどうなるか分かりかねます。


阪神淡路大震災被災地の様子 神戸市須磨区 鷹取東第二地区[筆者実家周辺]
(1995年1月18日)撮影 筆者

発災当日バイクで急行し実家全壊を目視確認。家族全員の無事を確認後一旦帰宅。報道より同地区大規模火災発生を知る。翌日到着時燻る火災現場を見ようが悲しいなどと感情が入る余地もない。「覚悟した」ためか。単に現実を直視しシャッターボタンを押す。どこからか飛来し重なるトタンをめくることもない。まだ熱く触れなかったか。時を重ね落ち着けばいくつもの感情が脳裏を駆け巡る。何年か経てようやく、「こんな状況だったか…」と醒めて見るようになる。そうできたのは近隣に死者がなかったからか。直視した故郷の変わり果てた姿は心に深く刻まれたはず。されども殆ど思い出せない。感情が記憶へのアクセスを拒絶するのか、随時見た復興過程に上書きされ続けたか。写真にはこう写っている、という事実。それは今しっかり凝視できる。

防災士の研修時、講師である救急医療関係の医師が「整体」の話をされました。(*世間一般で認識される意味とは異なります。同じ文字でも別の意味を有しています。)1985年8月の航空機墜落事故の話しです。500名以上が死亡した墜落現場は大変悲惨な状況で、一部分しかない亡骸や損傷の激しい亡骸をご家族にお渡しするためにお姿を整える、という大変な苦労があった、という内容でした。つまり直接表現ではありませんが、これを例に、「目にしたことでPTSDになりかねない過酷な状況が災害現場にはある。みなさん覚悟は出来ていますか?!」という投げかけだったと思います。(それだけでなく、救援者のストレス対処法として、自己管理/相互援助/チームリーダーの役割/ミーティングによるストレスマネジメント、という方法の解説もありました)以上は「防災士」の研修時の話しであって、アマチュア無線ボランティア説明会の話しではありません。

アマチュア無線ボランティアとしての立場で有れば、過酷な状況を伝える場合に、目にした(被害)状況を「そのまま『リアル』に」伝えることが求められることはないはずです。「見たまま伝えよ」といわれた場合でなければ、送信内容について、その表現から「聞き手に強い感情や印象を引き起こす言葉やフレーズを用いない」よう注意しなければなりません。この点なんら注意なしにやってしまうと聞き手がPTSDになる危険があります。ここを訓練で、と考えても大変に難しい部分だと思います。(米国the American Radio Relay League(=ARRL)の機関誌“QST”April 2015の“Public service”のコラムに“Practical Operating Tips from the Field”というまとめがあり、この内容の一つに同種のものがあります。)

何度も何度も繰り返しますが、職業として仕事で担当する方々を除き、我々アマチュア無線家はボランティアであってプロではありません。活動の結果、大なり小なり心にキズを負うことがあるかもしれません。「そうなることはまずありません」との保証が欲しい方は、予め自分の活動範囲、可能な内容を申し出ておく必要があります。救助・救出・捜索の現場でなくとも、避難所運営のシミュレーションでは、「亡骸」に関する内容も当然あります。日頃元気な方が避難場所の自家用車内でロングフライト症候群(エコノミークラス症候群)により最悪の場合となったことも少なくありません。もともと病状が思わしくなかった方が無理に避難した結果悪化して…、と言うこともあるでしょう。避けて通ることはできません。災害現場は過酷です。救助救出のプロであっても全員が鉄人ではなく、PTSDになった方も少なくありません。さらには事務官である地方公務員が任務を全うするため何日も帰宅できず、家族を顧みることもままならずその結果か離婚に至った事例も少なくありません。その精神的ダメージは過大なものだったでしょう。過酷な現場であるが故に、「そんなことすらできないのか!?とっとと帰れ!」、などと平常時であれば「言葉の暴力じゃないのか!」と言い返したくなるような言葉が飛び交う状況も理解しておくべき部分です。報道現場を災害現場と言えるのかわかりません。ある放送局のアナウンサーがスタジオで亡くなられた方々のリストを読み上げていたときでしたか、感情を抑えることができなくなった、ということもありましたね。

悲惨な状況を目にしてもダメージを軽減するトレーニングをするならば、図書館にある災害現場の写真を収録した図書を読むこと、またインターネット上の同種の情報にアクセスする、という方法論はあります。ネット上には上記航空機事故の墜落現場写真もあります。予め覚悟しショッキングな状況を目にしておくことで実際のダメージを少なくすることが出来るか、と筆者は考えますが、誰彼にでも勧められる方法ではないでしょう。国内では報道写真としては亡骸を写さない不文律があるようですが、事故記録の視点では少ないながらもあるようです。戦時の記録としてあるもののなかで、筆者はある空襲の犠牲者(母子)の写真が脳裏に焼き付いています。そんなこんな苦しい辛いことでも、仲間と分かち合えば、仲間に理解してもらえば、乗り切れる、軽くなる状況も少なくないと思います。その意味でも仲間を作る、仲間に入るべきだと考えます。

少し視点を変えますが、同じ内容を送信するにも相手により緊張度が違う、ということはあるでしょう。日頃から何でも気にせず話せる相手、そこまで行かなくとも同じ組織に所属する旧知の相手、名前、コールサインは知っているが挨拶程度しか話した事がない相手、全く見知らぬ相手、様々な相手と交信することが考えられます。ベテランのアマチュア無線家は、たいした苦もないでしょう。しかし、最近の若者は自分の身内、仲間内以外の者と話しをしようとすると。きちんとした会話にならない場合もある。と言われています。もちろん全ての若者がそうだとは思いません。また、災害の発生に備えるとき、発災したとき、余計な話しをしてはならないですが、伝達すべき情報が間違っていることに気付いても、「その情報は間違っている!」、あるいは「間違っていませんか?」と言うべき場面で言えないと、誤った情報がそのまま伝達されてしまいます。米国では学校で自分の意見を主張することの授業があるそうです。自己主張の訓練、でしょうか。

つらつらと書き連ねましたが、如何でしたでしょうか。そんなにつらい目に遭うなら、面倒なら、何もしたくない、と思うかも知れません。しかし、孤立地区からの唯一の連絡手段がアマチュア無線で、その通信のおかげで自らが、家族が、周囲の人々が助かった!という事例はいくつもあります。
自己訓練は意識していてもなかなか難しく、やる気が失せてしまいがちですが、仲間、友人と一緒であれば歩みを進める事ができると思います。

筆者の「なかざわ」という姓は、無線通信ではしばしば間違えられ伝わりにくい名字だと思っています。神仏が私に「和文通話表を忘れてはだめだよ」、と終生呼びかける証かもしれません。

速報(チリの火山噴火、ネパールの大地震)

4月22日にチリでCalbuco火山が54年ぶりに噴火し、周辺地区に大きな影響を及ぼしています。これについてIARU Reg.2のホームページで速報がスペイン語と英語で掲載され、非常通信周波数として7050kHz、14205kHz、3783kHzが示されています。

4月25日に発生したネパールの大地震についてはIARU Reg.3の国際非常通信コーディネーターのVU2JAUのネパールとインドに関するレポートがIARU Reg.1のホームページに掲載されています。彼はITU150年の特別局AT150ITUを運用し、現地では9N1AAがHFで電源事情により25Wでの運用をおこない、15名のアマチュア無線家がVHFでの連絡を取り合っています。HF 14210kHzで各国のアマチュア無線家が連絡を取り合い、そこにはアフガニスタン、イスラエル、ニュージーランド、ポルトガル、オーストラリア、もちろんインドのハムも参加しています。災害時に特別局が運用することは、インド洋大津波発生時にアンダマン諸島にペディション中のVU4RBIの例を思い起こさせます。

ARRLのWEB NEWSはさらに詳細を報じており、周波数は7100、14205、14215、18160、21360kHzの各周波数をリストしています。また、9N1KSというup434.500MHz/down145.000MHzのレピータがカトマンズに設置されていることも報じています。

JARLはWEBでこの地震での非常通信周波数として7100(7110)、14210、14310kHzをリストし、使用しないようアナウンスしています。国内では25日21時よりALL JAコンテストが実施されましたが、ワッチしていますと7100kHzである局がネパールの非常通信周波数なのでその周波数から±5kHzを使用しないようにと、その周波数での運用局の有無確認がなされるときに応答していました。

ネパールの救助救援状況を伝えるARRLやIARU Reg.1のNEWS続報によれば、米国MARSも在アフガニスタンのメンバーも含めて支援活動を開始しており、また、ネパール政府は通信支援その他で入国するアマチュア無線家に“9N7”で始まるライセンスの発給を始めたようです。ARRLは支援のための資機材の発送準備中。現地の被害状況はHFでのSSTVでも送信していると報じています。

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