2015年10月号
連載記事
日本全国・移動運用記
JO2ASQ 清水祐樹
第1回 八重山郡竹富町移動―日本の端から電波はどこまで飛ぶか?
今回から新シリーズ“日本全国・移動運用記”をお送りします。
HF(短波)帯では、電離層反射の状態が良ければ、遠距離の交信は決して難しくありません。しかし、MF(中波)帯に属する1.9MHz帯は、電離層反射が他のバンドと違っていて遠距離の交信が難しく、国内でも1000km以上の交信には相当のテクニックが必要です。特に東日本からは、1.9MHzで沖縄県と交信する機会が少なく、交信できた時のうれしさは格別と聞きます。そこで、日本の最西端JCGである沖縄県八重山郡での移動運用を計画しました。
計画編
八重山郡のどこで運用するか?
八重山郡には与那国町と竹富町の2町があります。どちらの町にするか、どの島で運用するかは、八重山郡自体が初めての運用だったこともあり、特にこだわりませんでした。交通の便を考え、石垣市から定期船で容易に移動できる竹富町の西表島にしました。
いつ行くか?
沖縄からハイバンド(18~50MHz)で多くの交信を期待するには、Eスポが発生する5月~6月がベストの時期です。7月下旬の3連休はEスポの発生頻度が極めて低くなります。ローバンドを狙うのであれば、日没が遅い春か秋が適しています。冬の沖縄では快適な気候で、運用には適しているものの、本州側が雪などの影響でノイズが多くなるため交信が難しくなります。
荷物の輸送時における遅延などを考えると、飛行機や宿が空いている時に行きたいと考えました。3月中は卒業旅行や転勤などと重なり、飛行機も宿も予約はどこも満杯。ところが、4月の最初の土日は空きが多いことに気付きました。新年度で仕事との兼ね合いが大変でしたけれど、そこは事前の準備をしっかりして、土日月の3日間の移動予定にしました。
現地での運用時間
HFの伝搬は、電離層の状態に大きく左右されるので、運用時間は現地の状況を判断して柔軟に対応すると良いと思います。沖縄で運用する場合の傾向として明らかに言えることは、11~13時は電離層のコンディションが低下することと、7MHzで本土と安定して交信できる時間帯は早朝または16時~20時頃ということです。昼休みを長めに取って、観光した後に夕方から無線というパターンでも楽しめるでしょう。今回は現地で弁当などが調達できたので、食事をしながら1日中ずっと無線機の前に座っていました Hi
ローバンドは日没後の1~2時間がチャンスです。理由は、中国大陸が日没になると、急激にノイズが増大するからです。この時間に7MHzに出ると、国内から猛烈なパイルアップになります。その一方で、1.9MHzと3.5MHzの国内交信にベストの時間帯であることも忘れてはいけません。
運用編
現地の運用場所
運用場所として、本土側に開けた場所が望ましいです。アンテナはダイポールアンテナを使うので、その方向に合わせてダイポールアンテナの両端を固定する場所が必要です。例えば丈夫な立木や柵が広い範囲に並んでいると、アンテナの長さと固定位置の関係を深く考えずに済むので便利です。今回は片側が立木、片側が柵という場所を選びました(写真1)。
写真1 竹富町の運用場所。立木と柵を利用してアンテナを固定した。
暑さ対策
低緯度地方は日差しが強力なため、車の中で運用するとしても日焼け止めは必須です。水分・塩分補給も大切です。また、高温で弁当などの鮮度が落ちることも考えられるので、店舗の営業時間を確認しておき、保存が効かない食べ物は買ってすぐ食べるようにしています。
離島移動で注意すること
離島に移動する時に注意しておきたいことは、荷物の発送と、現金についてです。荷物を発送する方法は5月号にまとめてあります。離島に荷物を発送する場合、運送業者が取り扱っているか(配達可能エリアにあるか)、営業時間や休日は対応可能か、を必ず確認する必要があります。土日には現地からの荷物の発送を受け付けていない所もあります。現地の宿や営業所で荷物を受け取る場合、交通機関の遅延や保安検査の関係で配達の遅れが起こり得るので、荷物の発送・受け取りは十分に時間の余裕を持って手配することをおすすめします。
離島では金融機関が少なく、あったとしても取り扱える銀行が限られている、クレジットカードを扱える店が少ないなど、都会の生活に慣れてしまうと意外に見落としやすい事情があります。現地に到着する前に現金を十分に用意しておくことが必要です。また、不測の事態で多額の現金が必要になることがあります。予約していたチケットが紛失や盗難で無くなった場合や、飛行機が欠航になり振替便の確保が困難で、他社便を正規運賃で購入するといった場合です。
運用結果
4月4、5日の2日間の運用で、次のような交信数になりました(1.9~28MHzはCW、サテライトはCW・SSB)。7~28MHzまで全てのバンドで交信できた局が多かったこともあって、各バンドとも同じような交信数になりました。1.9MHzでの51交信は、どの局にとっても貴重な交信だったと思います。特に、8エリアの信号が強くなってくる数10秒間のタイミングを捕らえて交信できた時には、この上ない達成感がありました。50MHzはチャレンジしたものの、コンディションが悪く、どこからの信号も聞こえませんでした。