2016年10月号
連載記事
日本全国・移動運用記
JO2ASQ 清水祐樹
第13回 熊本市の政令指定都市移行
前回と前々回は、新しい市ができる時=“新しいJCCが増える時”の移動運用記を紹介しました。新しい市ができる以外に、区、郡、町が新しくできる場合があります。特に、新しい政令指定都市ができる場合、同時に複数の区が新設されるため、アマチュア無線では新しい区との交信を狙ったパイルアップで賑わいます。
最近の政令指定都市移行は2012年4月1日の熊本市で、5つの新しい区が誕生しました。今回は、その移動運用記の詳細です。
事前の準備
最近10年ほどで政令指定都市に移行した市はいくつかあります。その特徴として、数年前から周辺の市町村を合併して一つの大きな市となり、規定の人口要件を満たした後に政令指定都市に移行するパターンが多いようです。合併した周辺の市町村は広大な面積を有することが多く、市の中心部を除いては、運用場所探しはそれほど難しくないのが通例です。
熊本市の5区のうち、中央区だけは昔からの市街地で、運用場所探しが難航すると予想しました。夜間でも立ち入りできそうな公園をいくつかピックアップしておき、深夜にアイドリングを行わなくても運用できるよう、バッテリーを十分に用意して運用に備えました。
運用場所がどの区に該当するのか、手持ちの地図やカーナビにはデータがまだ無く、調べることができません。運用場所から区を特定する方法として、次の方法が考えられます。
①市役所や観光案内所、現地の書店等で、区が記載された最新版の地図を入手する
②市のホームページなどで町名と区の対応表を入手し、カーナビで現在地の町名を割り出し、区を調べる
③現地でインターネット上の地図にアクセスし、最新の地図情報を得る
現地で最も早く確実に調べられる方法は②と考え、町名と区の対応表を印刷して持参しました。難読町名がいくつかあり、町名が50音順に並んでいる中で該当の町名を見つけるまで少し戸惑うこともありました。③も検討したものの、3月31日時点でデータの更新が行われていないサイトがあり、この方法は断念しました。
“熊本市”最後の日
最後の日といっても、市の消滅ではありません。アマチュア無線でAJAのアワードとして、政令指定都市移行前の交信が有効となる最後のチャンス、という意味です(後述)。
3月31日は土曜日で、熊本市最後の運用で多くの局から呼ばれそうです。熊本市のどこで運用してもアワードとしては同じです。午前中は運動公園の広い駐車場で機材テストも兼ねて運用しました。午前0時からの運用は中央区と決めて、誰も運用していない区があれば直後にすぐ移動することに決めました。
昼間は十分な休養の後、中央区になる場所で17時過ぎから7MHzの運用を開始し、ローバンドも対応できるように準備を整えました(図1)。ある局から24MHzが未交信と聞き、ダメもとでチャレンジしてみるとバッチリ聞こえました。季節外れの突然のEスポが発生し、28MHzで19局、24MHzで28局と交信できました。しかし、他のバンドに移る間もなくEスポは消滅。直前までの賑わいが一転して静かになりました。市町村が消滅する最後日のEスポ発生は過去に何度かあり、突然28MHzや50MHzで思いがけない所と交信できることがありました。季節外れのシーズンでも、短時間のEスポは気づいていないだけで意外に発生しているのかもしれません。23時台は1.9MHzと3.5MHzで最後の運用、そして午前0時になりました。
図1 熊本市中央区での運用の様子。限られた駐車スペースを有効に活用してローバンドの運用にも対応した。
午前0時を迎えて
3.5MHz CWで猛烈なパイルが始まりました。本州で運用する場合と違って各局の信号強度に差があり、パイルの中での信号の分離も容易な感じです。また、市ができる場合よりは局数が少な目な感じがします。1.9MHzにQSYの後、インターネットで各局の状況をチェックすると、南区の運用局がいないとの書き込みがありました。午前1時9分に1.9MHzで中央区最後の交信の後、南区に移動して3.5MHzと1.9MHzを運用することにしました。中央区の次にどこで運用するかは事前に決めておらず、全く知らない場所なので、カーナビで空き地がありそうな場所を決め打ちして移動しました。
午前1時54分に南区で3.5MHzを最初の運用、そして1.9MHzを運用した後、7MHzにQSYすると、インターネット上には情報を流していないにもかかわらず、1エリアの何局かから呼ばれました。深夜でも7MHzが開けていること、それを熱心にワッチしている追っかけの皆さんには脱帽でした。
休む間もなく市内を渡り歩く
その後、市内を渡り歩き、V/UHFを中心にとりあえず全区を回りました。午前5時台に、最初の衛星通信となるAO-7は東区で運用しました。3.5MHz、1.9MHzの後、7MHzは夜明けとともに近距離が開け始め、猛烈なパイルが始まりました。午前6時台でも10MHzが開けており、まずまずのコンディション。休む間も無く食事をしながらの運用でした。
続いて中央区に戻って衛星のVO-52、7MHzと続き、1時間に100局を超えるペースでパイルが続きました。7MHzから順番に各バンドを上がっていくところで、10MHzと14MHzのコンディションが良く、各バンドとも猛烈なパイルになりました。
11時台に北区の公園の駐車場に移動しました。北区は他にも運用局がいる様子なので、まだ運用されていないと思われる14MHzから開始し、一気にパイルになりました。ただ、18MHzは聞こえる局が限られ、周波数の高い方まで十分に開けているわけではなさそうです。北区は2時間弱の運用で、続いて西区の川沿いの空き地に移動、これでHFでも全区を制覇しました。
西区も未開拓と思われる14MHzから開始、15時台からは10MHzのコンディションが絶好調で、10MHzだけで200局を超えました。1か所で同一バンド100局を超えることは珍しくありませんが、200局はなかなか体験できません。
新しい区は5区あり、運用が少ない区・バンドでコンディションが良くなると、1局集中の猛烈なパイルになります。新市移動では同じ市内から何局も運用しており、同じバンドに複数の局が出ることも多く、これほどの猛烈なパイルにはなりません。加えて熊本市は運用局が多い1エリアから離れているので、多少コンディションが悪くても7MHzや10MHzで安定して呼ばれ続けます。
西区の運用終了は18時過ぎ、川の対岸の南区に移動し、休む間も無く運用を続けました。既にバッテリーの残容量が少なく、エンジンをアイドリングしながら無線用の電源を供給するため、周囲の迷惑にならない広い河川敷を確保しました。日没後に何とEスポが発生。20時台に28MHzでガンガン呼ばれ続けました。通常、4月1日にこのような伝搬状況になることはありません。新区祭りに合わせて天も味方したのでしょう。Eスポが消滅した後も7MHzのパイルは続き、22時30分に終了宣言をしました。
3月31日から24時間近く不眠不休で運用した結果、4月1日だけで延べ1,818局と交信できました。1日の交信数の最多記録です。伝搬のコンディションに恵まれた上、一度に5区ができるという貴重なケースで生まれたこの記録は、更新されることは難しいと思います。
アワードの扱い
政令指定都市ができる場合、アワードでの扱いはアワードの種類によって異なるので、しっかり確認しておく必要があります。
新設された区との交信は、アワードとしては市郡区の数をカウントするAJAや、全区との交信を目標とするWAKUの対象となります。AJAでは、政令指定都市移行後の区は、政令指定都市移行前の市と別々にカウントされます。政令指定都市移行前の市は、政令指定都市移行と同時に消滅とみなします。
市の数をカウントするアワードのJCCでは、政令指定都市に移行する前と後は同一の市とみなされ、扱いは変わりません。私のQSLカードは、DX局向けにはJCC#4301, AJA#430101のようにJCC番号とAJA番号を併記して、JCCだけを集めているDX局に混乱が生じない(JCCの消滅と誤解されない)ようにしています。