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友人がスマホでSNSをサーチしていると「アンテナを持って走っている小学生がいる」とレポートしてくれた。ARDFに参加している中国の小学生である。ARDFを知っている我々には特に珍しい写真でもなかったが、興味本位にサーチするとその小学生たちは中国を代表する「中国伝媒大学付属小学校」の生徒たちであることがわかった。
中国伝媒大学付属小学校
この中国伝媒大学とは、中国を代表する放送やメディア関係の最高レベルの国立大学である。「伝媒」とは日本語でいう「マスコミ」のいう意味。中国マスコミ大学とでもいうと分かりやすいかもしれない。SNSに掲載された写真の小学生はこの大学に付設された付属小学校の生徒たちであった。
さらに調べるとコンテスト通ならすぐにお分かりと思うが、この小学生たちはかの有名な無線コンテストのオリンピックとでもいうべきIARU HF Championshipコンテストにも関係していたのである。
そこであるコネを使ってこの付属小学校で生徒たちを指導している方を見つけ出し、スカイプを使ってインタビューすることに成功した。その方とはその小学校の先生をされている許さん。ご自身も熱狂的なアマチュア無線家で、コールサインはBD1KV。今回そのインタビューでお聞きした内容をお話しすることにする。
中国伝媒大学付属小学校の生徒たち(B1HQのオペレーター)
1. BY1CY(中国伝媒大学アマチュア無線クラブ)
この中国伝媒大学に付設されている小学校には、日本同様6歳から12歳までの生徒が通っている。9歳になれば週三回、毎回一時間程度のCWの練習があるらしい。そこでCWを会得するのだそうだ。この付設された学校にはアマチュア無線クラブがあり、現在部員は32名。クラブ局のコールサインはBY1CY。
普段コールサインは、シャックの写真のBY1CYであるが、IARU HF Championshipコンテストのときは、国を代表する連盟局(IARU Member Society HQ Station)同士がスコアを競い合う部門に参加するためこのコンテストのときだけは、連盟(HQ)局とすぐに分かるB1HQにコールサインが変わるのだ。
普段はBY1CYの無線局。IARU HF ChampionshipになればB1HQに変わる
2. B1HQ(IARU HF Championshipコンテスト局)
B1HQはこのコンテスト用に特別に付与されたいわば中国を代表するアマチュア局のコールサインである。この数字の後に「HQ」と付くコールサインでオンエアできるということはたいへん名誉なことである。日本でもこのコンテストに連盟(JARL)の代表として参加する局に対して8N3HQ等の特別コールサインが付与されているのでご存じの方もいると思う。なお、中国の連盟(CRAC)局はB1HQの他にも、B2HQ、B3HQ、B4HQなど中国国内の各エリアから複数局がお互いにバンドやモードが被らないように調整してこのコンテストに参加しているので、多数のBxHQと交信された方も多いと思う。
このIARU HF Championshipコンテストに連盟局のオペレーターとして参加する人たちとはどういう人たちなのかを許先生に尋ねてみところ、B1HQの場合はなんと全員が許先生のもとで指導を受けた小学校の生徒たちであると聞いて驚いた。つまり中国を代表するB1HQのオペレーターは驚くべきこの小学校の生徒たちであったのだ。
では、どのようにしてB1HQのオペレーターに選ばれるのか、これも興味あるところである。許先生は、多くの生徒たちの中からトップ10名の生徒たちを選んでいるとのことだった。選抜されたトップ10名の生徒たちの平均年齢は11歳。9歳の生徒もいるそうだ。ではトップ10名はどのような能力を持ち合わせているのかを尋ねたところ、例えばCWであれば常に安定した受信、送信ができる生徒であるとのことで、参考にCWの受信スピードの能力を尋ねたところ、多くの生徒はなんと40wpm(200文字/分)を長時間安定して取れるのだそうだ。まさに超人的である。筆者の友人にも世界的なコンテストで何度もCW部門で入賞している鬼のようなアマチュア無線家がいるが、それでも40wpmは正確にコピーできる限界だと言及していたほどである。
3. コンテスト風景
決められた時間内にできるだけ多くの局と交信をするコンテストでは、交信をサポートする周辺機器の使い勝手もたいへん重要である。日本国内のコンテストで多くのアマチュア局が使っているコンテストログといえば「CTESTWIN」。ZLOGのシェアも比較的高い。しかし世界的なコンテストで常に入賞されているような、あるいは上位入賞を目指しているようなアマチュア局は、「WINTEST」というコンテストログのアプリを使っている。B1HQでオペレートしているデスクのモニターにも明らかにその「WINTEST」の画面が映し出されている。
B1HQを操作するオペレーター。このオペレーターも小学生だ
左手に気になる黄色のベルが置いてあるのが見える。コンテスト中はメインとサブの二人一組のチームで一つのバンドを担当するそうだ。決められた時間が来たのでメイン、サブのオペレーターを交替する場合など、交替を口頭で伝えるのではなく、このベルを押して伝えるようにルールを作っているようである。例えば、交替時間になれば、サブのオペレーターが一度ベルを鳴らす。メインのオペレーターは、「いやまだ乗っている最中だから交替は不要」と言いたいときには、ベルを押し続けるといった具合である。これも時間のロスを最小限に抑えるための策だそうである。
小学校低学年と思われるこの生徒もB1HQのトップ10オペレーターの一人だ
コンテスト中は小学校の教室にテントを張って寝泊りする。これも訓練の一つだそうだ
4. B1HQの設備
アマチュア無線家ならB1HQの無線設備にも興味があるはず。入手した写真を見るとデスクには数台の無線機が設置されている。生徒たちの指導を行っている許先生にインタビューで確認したところ、世の中には色々なメーカーの無線機があるが、今回B1HQで使ったのはアイコム製だそうだ。IC-7700やIC-7851も備え付けられているとのお話だった。
なぜアイコム製を選んだかをお聞きしたところ、まずは2003年、開局した当時に設置したリグがアイコム製であったということ。その理由は送受信の性能のこともあるが何よりも信頼性を重要視したことが一番の理由だそうだ。無線機以外にも少し気になるのが一番右側のツマミが三つついた装置。たぶんリニアアンプであろう。中国製AMPTEC社のLA2000リニアアンプと思われる。
すばらしいB1HQの無線局
建物の屋上には大小数基のアンテナタワーが設置されている。見たところタワーのトップに取り付けられたアンテナはローテーターで回るようであるが、その他のアンテナは目的とする地域向けの固定シングルバンド八木アンテナのようである。これは世界上位を目指しているクラブ局で時々目にするものだが、スイッチで瞬時にビーム方向を変えられるようにしているのだ。弱い信号でコールされたとき、アンテナを瞬時に切り替えてその信号をピックアップするためである。
小学校の建物の屋上に設置されたアンテナ群
5. 許先生(BD1KV)
では最後に、この生徒たちを育てている許先生についてお話したい。許先生は中国のアマチュア無線のライセンスではC級の持ち主。日本でいう1アマ、19歳でARDFに出たのを機に23歳でライセンスを取得し、アマチュア無線を始めたそうである。現在は自宅にも大きな4エレ八木トライバンダーを設置し、主に14MHz、CWでオンエアしている。CWの腕前も上級で35wpm程度であれば全く問題ないとおっしゃられていた。インタビューではCWのお話が主であったがFT8のお話も伺った。許先生ご自身もFT8はオペレートされ、FT8はそれなりに有意義なモードであるとおっしゃられていたが、通信そのものはPCで行うよりも身を張って交信するCWが好きなようだ。
許先生(BD1KV)
6. あとがき
B1HQのオペレーター全員がこの許先生の生徒たちであったことは驚きであった。許先生自身も自宅ではCWの運用を行い、学校でも生徒たちに通信の基礎を勉強させたいとのことであえてPCを使うデータ通信よりもCWによる通信の訓練を行っているそうである。来年のIARU HF ChampionshipコンテストにB1HQの信号を見つけたら、オペレーターは小学生であることを思いながらQSOするのもまた感慨深いものであろう。
中国の免許制度のため今回B1HQで運用している生徒たちも18歳になるまで個人コールサインは付与されず、自宅に個人局を開設できないために引き続きどこかのクラブ局での運用となるが、生徒たちが18歳になるおよそ10年後はすごいオペレーターになっていると思う。
今回、許先生にはスカイプによるインタビューを受け入れて頂き、また写真等の資料もいただいた。許OM(BD1KV)には紙面ではありますが深く御礼申し上げます。
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