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新製品インプレッション

IC-PW2 (アイコム株式会社) ~SO2Rでの実戦~

JS3CTQ 稲葉浩之

2024年5月1日掲載

はじめに

本年2024年1月から販売が開始されたHF+50MHz 1kWリニアアンプIC-PW2(以下PW2)。今回は、4月13日(土)16時~4月14日(日)22時に開催されたJapan International DX Contest電信にて、同製品の謳い文句の一つである「1台のリニアアンプで可能なSO2R運用」を実際に行ってみましたのでレポートします。

なお、アマチュア局の免許関係の手続きに関しては昨年の法改正でかなり簡素化されましたが、リニアアンプの追加や取り替えなど、200Wを超える装置の変更申請に関しては検査(もしくは登録点検事業者による点検)が必須となり、以前よりも逆にハードルが上がりました。今回は前もってPW2追加の変更検査(近畿総合通信局による実地検査)に合格したJA3YUAで運用しました。


メインモニターの右下にPW2のコントローラーを配置

結果

結果から先に書かせていただきますと、30時間のコンテストを1kWフルパワーで電信の連続運用を行いましたが、パワーダウンすることもなく乗り切りました。前モデルのIC-PW1(以下PW1)と比べると冷却ファンが高速回転時でも静かで、PW1のファン音に慣れてしまっている身としては、本当に1kW出ているのかと心配になるほどでした。

本レポートの本題である、「1台のリニアアンプで可能なSO2R運用」はうそ偽りなく可能でした。PW2にコンテスト対象6バンド分のアンテナを直接接続し、それらをPW2内蔵のアンテナスイッチでRadio1、Radio2に自由に割り当てることができ、片方のRadioが送信中でも、当然ながらもう片方のRadioで受信できました。またソフトもよく仕上がっており、インターロック機能で両方のRadioが同時に送信状態になることは確実に阻止されました。


リアパネルの接続状況

使用環境

・無線機: IC-7850(Radio1)、IC-7610(Radio2)
・アンテナ: 1.8M: 1/4λスローパー、3.5M: ロータリーダイポール、7M: 3エレ八木、14M: 6エレ八木、21M: 7エレ八木、28M: 7エレ八木
・バンドパスフィルター: ICE Model419 2台
・SO2Rコントローラー: DX Doubler
・CWキーヤー: WinKeyer v2
・パソコン: ミニPC(OS: Windows11pro、CPU: Alder Lake-N95、RAM: 8GB)
・ロギングソフト: Wintest v4

設定

PW2の詳細設定の説明は本稿の目的ではないため、2R運用でのポイントだけを記載させていただきます。取扱説明書をご参照いただき、自局の環境にマッチする様に設定されてください。

なお、設定を始める前に、連係動作に対応している無線機(本稿執筆時点ではIC-7850/7851/7610/7300)と組み合わせて使用する場合、必ず無線機のファームアップを実施してください。


連係動作対応無線機をファームアップすると、無線機側のセットモードにこの項目が追加される。(7610の例)

1. SO2R運用を行う場合は、2台の無線機を接続しますので、「MENU」の「エキサイター接続」の項目で「2台をINPUT1/2それぞれに接続」を選択します。


2. 接続した2台の無線機のCI-VボーレートとCI-Vアドレスを設定します。この際、前モデルPW1の場合は、2台の無線機を接続した際、ボーレートをそれぞれ異なる値に設定しないと両機の周波数が連動してしまいましたが、PW2の場合は同じボーレート(当方は19200ボーに設定)に設定しても問題はありませんでした。


INPUT1(7850)と通信するCI-Vボーレートを19200ボーに設定した例


バンド表示の下に「AUTO」がそれぞれ点灯したら、同期完了。

3. 無線機2台のCI-V設定が完了し、無線機とPW2の周波数が同期することが確認できたらALC調整を行います。2台別々に調整が必要です。取説にはSWR1.5以下の負荷で行うように記載があるため、耐入力に十分余裕のあるダミーロードをお持ちの場合はそれを使用するのがベターです。ダミーロードが用意できない場合は、SWR1.5以下のアンテナで行います。

AC200Vを供給している状態では、1kW出力時と500W出力時の両方でALC設定が必要ですが、手順に従って進めていけば、至って簡単に設定できました。ボリュームツマミなどを回す必要は一切無く、自動で調整してくれます。ただし、PW2がサポートしていない無線機の場合は、手動調整が必要です。


INPUT1(7850)の1kWのALC調整に入る画面


自動調整中の画面


調整完了

4. Radio1(INPUT1)とRadio2(INPUT2)の設置位置ですが、当方のようにRadio1が右側、Radio2が左側設置の場合、表示を入れ替えることができます。



Radio1を右側、Radio2を左側した設定した例

5. 次に、どのアンテナ端子にどのバンドのアンテナを接続するかのアンテナ設定も行います。特にこだわりがなければ、1.8MをANT1に、3.5MをANT2に・・・ 、28MをANT6の設定がわかりやすくて良いかと思います。


ANT3を7Mの3エレ八木に設定した様子

6. DXコンテストを戦う場合、主ビームを南方に向けることはあまりありません。今回は、北米もしくは欧州を相手にランニング中、南方から弱い信号で呼ばれた場合に対応するために、南向け固定の14/21/28Mの2エレトライバンド八木を使用しましたが、PW2のアンテナ端子は6バンド分のアンテナで埋まっているため空きがありません。そのため日中はANT1端子にこの2エレ八木を接続し、夜間に1.8Mを運用する時のみANT1端子に1/4λスローパーを接続しました。


使用したアンテナ群

さて、PW2はアンテナクイックセレクト機能を持っています。これは「ANT」ボタンの長押しで、設定したアンテナ端子に一発で切り替えられるという機能です。今回は、ANT1をアンテナクイックセレクト機能に割り当て、北方ビームでのランニング時に南方から呼ばれた場合、一発でANT1を選択し、南方からのコールに対応しました。これは極めて有効でした。


アンテナクイックセレクト機能(「ANT」キー長押し)をANT1に割り当てた例
(デフォルトのANT6から設定変更した)

アンテナチューナー

PW2はアンテナチューナーを内蔵しています。リレータイプのため同調動作時にはガチャガチャと音を立てるのでいささかうるさいですが、バリコンをモーターで回す方式のPW1と比べると高速です。しかも、連係動作対応無線機の場合、無線機側の操作が不要で、PW2の「TUNER」スイッチを長押しすることで、PW2側から無線機を自動的に送信にさせ、同調が完了すると無線機の送信を止めるので、ワンアクションで同調操作を行うことができます。

一度同調させてしまえば、その後はリレーがガチャガチャと音を立てることなく、メモリーに従って瞬時にリレーが動いて同調しますので、リレー音は全く気にならなくなります。今回は、アンテナのSWRが1.5以上のバンドでチューナーを動作させました。チューナーのオン/オフはバンドごとに記憶しますので、バンドを切り替えるごとにチューナーのオン/オフも自動的に切り替わります。アンテナのSWRが1.5以下のバンドでは(挿入ロスを避けたいので)チューナーは動作させませんでした。

なお、PW2内蔵メーターの出力値とSWR値は、チューナーの前段で見ているので、アンテナ端子より後段に接続された外付けのパワー計やSWR計は、内蔵メーターとは異なる値を示すことが多々あります。内蔵チューナーを起動させた場合、外付けのパワー計にはチューナーの挿入ロスも加味した値が表示されるため、一般的に内蔵メーターより少ない出力が表示されますし、チューナーより後段(アンテナ側)に挿入したSWR計では、チューナーで落としたSWR値を表示することができません。

実戦レポート

さあ、実戦レポートです。4月13日の16時にコンテストがスタートしました。ロギングソフトの設定に手こずり、5分遅れ1605jからのスタートとなりましたが、28Mがヨーロッパに対して広くオープンしており上々の滑り出しができました。当初はプチパイルにもなって呼ばれ続けたため、Radio1だけでランニングを行い、Radio2は受信しませんでした。21MHzにスイッチしてからも同様にしました。

しばらくして呼ばれ方がまばらになってからRadio2での同時受信も始め、2R運用に切り替えました。たとえば21MHzでランニングしながら、同時に28MHzでマルチを探すという方法です。当然ですが2バンド同時運用は効率が良く、両バンドでQSO数が伸びていきました。


インターロック機能が動作して、同時送信が禁止された表示例 (7850の例)

ここで一番気になるのが送信波の受信側への影響でしょう。影響が大きいとSO2Rどころではありません。本当に1台のリニアアンプでSO2Rが行えるのか、内部のアイソレーションは十分に確保できているのかという点です。はじめのRadio1(7850)で21MHz、Radio2(7610)で28MHzをという状況では、ほとんど影響はありませんでした。

その後30時間の運用を通して、様々なバンドの組み合わせを行い、途中、両バンドで交互にCQを出すデュアルランも実施しました。その結果、組み合わせたバンドによっては、受信側のノイズレベルが無視できない程度上昇したケースもありましたが、運用できない程ではありませんでした。これはアンテナ間の距離や、アンテナの方向によって変化がある(アンテナ同士が向き合うと影響が大きくなる)ため、一概にはいえませんが、従来のリニアアンプ2台を使用して行う2R運用と大差ないと感じました。

一番厳しかった状態では、Radio1(7850)で送信すると、Radio2(7610)側のOVF(オーバーフロー)が点灯してしまい、受信音がブツブツととぎれてコピーできない状況がありました。このケースでは、運用バンドを(ロギングソフトで)入れ替えて、受信部がより強いRadio1(7850)をサブ受信側に設定、Radio2(7610)をランニングバンドに設定することで、影響を軽減して受信信号をコピーできるようにしました。

この結果から、今回のように7850(7851)と7610の組み合わせで2R運用を行う場合は、7610の方を主たるランニング側で運用するのが良いかもしれません。

また、バンドの組み合わせで、回り込みと思われる状況も発生し、送信中にPW2内部のリレーのばたつきが発生しましたが、この時は電源ケーブルの根元(PW2に近いところ)に分割型フェライトコアを挿入することで解決しました。これは各種ケーブル類の長さや引き回し、それに運用バンド(波長)やアンテナ間の距離でも変わってくると思われますので、運用を重ねながら発生したら解決していくしかないと思います。

長時間運用の信頼性と静粛性

JIDXコンテストの開催時間である30時間フル運用を行い、そのうちほとんどの時間で2R運用を行いました。2日目の昼前後など、1時間で数局しかできなかった時間帯もあり、このような時間帯ではCQ連発となるため、送信のデューティ比がかなり上がりますが、PW2は安定して1kWを出力し続けました。

前述しましたが、クーリングファンの音がPW1と比べるとかなり静かになっていましたので、この程度であれば、AFノイズとして受信に影響を来すことはなく、また例えば隣室で睡眠中の家族に迷惑をかけることもないレベルだと思われます。

それに加え、2R運用で特にデュアルラン時には1分間に何度も送信側のRadioの入れ替えを行いますが、その切り替え音も、アンテナスイッチの切り替え音を含めて、(リニアアンプ2台と外付けアンテナスイッチを使用する従来の2R運用と比べると)静かになっていました。

運用中の操作

フルオートのリニアアンプはコンテスト運用中にあまり操作する事はありません。前モデルPW1では、コンテスト中に何も操作する必要が無かったため、コントローラーは体の正面ではなく、体の左右に設置したリグの上に置き、時々パワーメーターを見て、問題なく1kWが出力されていることを確認する程度でした。

しかしPW2は6x2のアンテナスイッチを内蔵しているため、アンテナの切り替えのために、コントローラーを操作しました。もちろん、同一バンドのアンテナは複数系統接続されていない、といったセッティングの場合はアンテナ切り替え操作不要です。前述のように今回は1.8Mを使用しない日中に、1.8M用として設定したANT1に南向け固定の14/21/28Mの2エレ八木を接続し、ランニング中に南方から呼ばれた際にこのANTに切り替えて対応しましたので、その操作が必要でした。

2エレ八木に切り替える際は、アンテナクイックセレクト機能を使用して、どのバンドの運用時からでも「ANT」スイッチの長押しでOK。元のアンテナに戻す際には、「ANT」スイッチの短押しで一瞬で戻り非常に便利でした。1.8Mの割当がない5バンド開催のRTTYコンテストなら、アンテナ端子が1個余ってくるので、つなぎ替え無しで有効利用できると思います。

これ以外は、コンテスト中に操作することはほとんどないと思います。

コンテスト結果

下記の様なクレームドスコアとなりました。


JIDXコンテスト公式WEBサイトを見ると、英語表記にて「ロシア局とベラルーシ局とのQSOは得点にもマルチにもならない」と記載されています。実際にはコンテスト中に、ロシア局とベラルーシ局から相応に呼ばれ、それらはそのままロギングしてありますので、その分、減点されると思われます。特にZ18とZ19は領域内にロシアしか存在しないので、無視できない減点になることでしよう。

時間ごとのバンド別QSO概略は下記のとおりです。サンスポットサイクルのピークを感じるコンディションでしたが、前サイクル(サイクル24)のピーク時と比べると、参加局が減少しているように感じました。前サイクルのピークでは2000QSOできた記憶があります。


最後に

広告での宣伝文句どおり、PW2を使用することで1台のリニアアンプでのSO2R 1kW運用が可能でした。これにより、従来は2台のリニアアンプが必要だったSO2R運用のハードルがぐっと下がったと思います。さらに6x2アンテナスイッチさえ別途用意する必要が無いため、経済的負担がさらに下がります。これからリニアアンプを用意してハイパワーでのSO2Rにトライされる方には、有力な購入候補になることでしょう。

1kW出力でSO2Rを実戦的に運用するには、送信波からの受信側への抑圧や被りを軽減するため別途バンドパスフィルター(BPF)が必須となりますが、PW2では、マルチバンドBPFを1台だけを受信ラインに挿入するという対応が可能となっています。これについては、(接続ケーブルの手配が間に合わず)、今回のモニターでテストすることができませんでしたが、機を見て追試を行いたいと考えております。また、今回は電信コンテストへのエントリーだったため、電信では動作しないDPDについても、機会があれば電話コンテストで使ってみたいと思います。

なお、同軸1本で給電するタイプの一般的なトライバンドアンテナを使用してのSO2R運用にトライされる場合は、別途(ハイパワー対応の)トリプレクサーや固定バンドのBPFも必要になるでしょう。

今回のモニターは、「コンテストでのSO2R運用」という、一般的とは言いにくい使用方法でのモニターになりましたが、エキサイター1台のみを使用する一般的なコンテスト運用、DXハンティング、アワードハンティング、FT8運用、ラグチューなどでは、長時間運用においても問題なく使用できると思います。

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