Monthly FB NEWS 月刊FBニュース 月刊FBニュースはアマチュア無線の電子WEBマガジン。ベテランから入門まで、楽しく役立つ情報が満載です。

今更聞けない無線と回路設計の話

【テーマ2】デシベルと無線工学
第25話 変調器出力振幅と信号劣化(5)

濱田 倫一

2026年11月2日掲載

4. 劣化配分状況

前ページ図2のレベルダイヤグラム(抜粋)の65行目は各段の出力端子におけるSNR(信号電力と等価雑音電力の比)になります。DACからはSNR=42.2dB(セルM65)の変調信号が出力され、IQ-MODとU/Cで劣化が加わる結果、U/C出力端子においてSNR=40.9dB(セルO65)に劣化する設計となっています。SNRを1.3dB劣化させる要因を図示したのが前ページ図3です。ここでは直交変調器(I-Q MOD)での劣化(重畳される等価雑音)を、アップコンバータ(U/C)での劣化をとしてその内訳を記載しています。

(1) I-Q MODにおける劣化:
I-Q MODはアクティブミキサと増幅器から構成されるため、直流バイアスの加わる回路が存在します。このためこの回路では電流雑音(フロア雑音)が発生します。RF-ICのフロア雑音の大きさを表現する方法はメーカによって様々ですが、ここでは一般的な増幅器と同様、雑音指数で定義されている想定にしています。図2に示すようにI-Q MODのNFはレベルダイヤグラムのセルN79(黄色の囲い)に記載の30dB(1000倍)、従ってI-Q MODのI,Qそれぞれの入力端子における等価熱雑音は、環境温度=25℃(298K)、帯域幅B=10kHzとして、(式4-1)で導出した結果をレベルダイヤグラムのセルN68に示しています。


(式4-1)

この値にI-Q MOD部の利得−6.0dBを加えた値−109.9dBmがI-Q MOD出力端子で伝送信号に加わる等価熱雑音の大きさになります。続いて1stLOの位相雑音はレベルダイヤグラムのセルN72(赤色の囲い)に−50[dBc]で配分されています。位相雑音はSNRが保存される形で伝送信号に重畳するので実際にI-Q MOD部の出力端子で伝送信号に重畳する位相雑音電力は、セルN61に示した伝送信号のレベルの値(−5.0dBm)から(式4-2)で導出して、セルN71に示しています。


(式4-2)

非線形歪みによる劣化成分についてはセルN57に記載のバックオフ(セルM81: OP1dBとN61: 信号レベルの差分)が15dBあり、QPSKのPAPR(約4dB)に対して十分大きい値が確保できていると判断し、劣化配分を省略しています(PAPRについては第13話を参照)。

(式4-1)とI-Q MOD回路の利得から導出したと(式4-2)で導出したの真数和がセルN64に書かれた等価雑音電力となります。

(2) U/Cにおける劣化:
U/Cはパッシブミキサとパッシブフィルタから構成されるため、直流バイアスの加わる回路が存在しません。つまり電流雑音を発生する回路がありません。このため電流雑音起因の雑音は重畳せず、2ndLOの位相雑音とミキサの歪みによる劣化が伝送信号に加わります。2ndLOの位相雑音はレベルダイヤグラムのセルO72(赤色の囲い)に−50[dBc]で配分されています。と同様、位相雑音はSNRが保存される形で伝送信号に重畳するので実際にU/C部の出力端子で伝送信号に重畳する位相雑音電力は、セルO61に示した伝送信号のレベルの値(−25.0dBm)から(式4-3)で導出して、セルO71に示しています。


(式4-3)

最後に非線形歪みの影響ですが、U/Cに適用しているミキサのIP1dB※2が+5dBm(セルO82)に対してI-Q MODの出力レベルが-5dBm、つまりI.B.O(Input Back OFF)が10dB(セルO57)で歪みの影響が見え始めるレベルなので、セルO75で−65dBc配分しています。この値は伝送信号のキャリア電力比なので、(式4-2)、(式4-3)と同じ要領で等価雑音電力に換算します。


(式4-4)

なおデバイスのデータシート等に登場するIM3の値と、配分設計に必要なIM3の大きさは図4に示すように同一ではありません。このあたりの詳細は次回解説したいと思います。


図4 デバイスにおけるIM3の定義と劣化配分で必要なIM3の定義の違い

  • ※2 Input P1dB: 変換利得1dB抑圧入力電力。ミキサの場合、IP1dB、IIP3など飽和に関するレベル規定は入力電力を基準にするのが一般的です。なおP1dBについては第11話、IP3(IM3インターセプトポイント)については第12話を参照。

(3) DAC~U/C間のSNRの推移
以上でI-Q MOD部とU/C部での劣化量(重畳する等価雑音電力)が導出されたので、実際に伝送信号のSNRがどのように劣化していくのか図2と図3で確認します。

まずDACの出力端子におけるSNRは42.2dB(セルM65)、I-Q MOD出力端の電力に換算すると、信号電力=-5.0[dBm]なので、DACから出力された雑音に相当する電力は、


(式4-5)

I-Q MOD出力端での等価雑音電力は、との真数和となり


(式4-6)


(式4-7)

で、レベルダイヤグラムのセルN64の値となります。これをSNRに換算すると


(式4-8)

となります(セルN65)。次段のU/CにはこのSNRで伝送信号が入力され、I-Q MODと同様に考えれば良く、次段の送信増幅器に入力されるRF信号のSNRは(式4-9)~(式4-12)から40.9dBと求まります。


(式4-9)


(式4-10)


(式4-11)


(式4-12)

すなわち、伝送信号は変調器(DAC)出力から1.3dB劣化したことになります。

5. 第25話のまとめ

第25話では、DAC出力を始点として、直交変調器(I-Q MOD)を経て周波数変換回路(U/C)出力までの信号劣化の様子を実際に等価雑音の積み上げ計算をしながら解説しました。今回解説した内容が、通信機のアナログ回路を介して伝送信号のSNRがどのように劣化していくか、またその見積もり方の基本になります。今回の解説は、これまで解説してきた内容の実践的な計算事例なので要点の整理は割愛します。

第26話では送信増幅器における非線形歪み(IM)の具体的な考え方について解説します。

今更聞けない無線と回路設計の話 バックナンバー

2026年11月号トップへ戻る

サイトのご利用について

©2026 月刊FBニュース編集部 All Rights Reserved.