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今更聞けない無線と回路設計の話

【テーマ2】デシベルと無線工学
第24話 変調器出力振幅と信号劣化(4)

濱田 倫一

2026年10月1日掲載

第23話では、アップコンバータで発生する雑音劣化の主要因である局部発振(LO)信号の雑音「SSBノイズ」について解説しました。第24話ではSSBノイズが伝送信号をどのように劣化させるのか、また伝送信号のSNRにどのように配分すれば良いのかについて解説します。

1. (改めて)サイン波のかけ算の話

これまでも述べたように、LO信号の雑音は伝送信号にかけ算される形で重畳します。具体的にどのような載り方をするのか、ここでは図1に示す内部損失ゼロ・理想乗算(n乗等の他の演算が同時に発生しない)のモデル回路を用いて考察します。


図1 モデル回路(理想演算・損失ゼロのミキサー回路)の入出力スペクトル

図1において、伝送信号、LO信号はともにノイズレス、の振幅はの振幅を基準にして−40dB、つまり=0.01とします。2つのサイン波とのかけ算は今更聞けない無線と回路設計の話【テーマ1】三角関数のかけ算と無線工学(第1話)の(式2-7)に示した通り、


(式1-1)

で表されます。とがそれぞれAとBの振幅で、両者に振幅差がある場合は


(式1-2)

になります。従って図1の条件を当てはめると、回路の出力信号は、


(式1-3)

負荷インピーダンスを1とおいて電力に換算すると


但し=1     (式1-4)

なので、は図1のグラフに黒色で示した-6dBの2本のスペクトルとなります。

2. LO信号に位相雑音が含まれる場合

ここまでの説明は伝送信号もLO信号もノイズレスの前提でした。次にLO信号が有限のSNRの場合、すなわち位相雑音を含んだLO信号を入力信号にかけ算した場合を考えます。LO信号に重畳した位相雑音(正確にはかけ算された雑音)は第23話で解説したSSBノイズと呼ばれるもので、図2に示すようにキャリア周波数(LO周波数)を頂点に、高域側は9dB/octまたは6dB/oct、あるいは3dB/octで減衰する帯域特性、低域側はキャリア周波数を中心に周波数軸上で高域側と軸対象のスペクトル分布を示します。ここでは位相雑音のスペクトルを無数の線スペクトルの集合体として考えることにします。


図2 位相雑音が重畳するLO信号のスペクトル

LO信号に雑音が重畳されるので、図1のミキサのLO端子に入力される信号は図3に示すように、から+に変わります。の電力は図2の茶色の領域の面積に該当します。ここでは線スペクトルの集合体と見なしたので


(式2-1)

となります。従って雑音電圧も


(式2-2)

と表現されます。SSBノイズのスペクトルはLOスペクトルの周波数から何処まで離れても存在するので「(式2-1)は何処まで足し算すればいいの?」という話になりますが、伝送信号であれ、雑音であれ、劣化配分の世界で必要な値は、伝送路の帯域内に存在する電力なので、雑音電力として足し算する範囲は「伝送路の帯域幅に該当する範囲」が基本です。雑音電力に関して言えば「復調器の入力端子において時間軸上で見たときに観測される受信信号と無相関な全ての振幅」を表しています。変調方式によっては帯域内で周波数選択性があったりして補正する場合もありますが、通常は伝送帯域内に存在するスペクトルの積分値を雑音電力と定義します。

但し、ここでは雑音を含んだLO信号を伝送信号にかけ算したときの信号スペクトルの推移を解説することが目的なので、雑音の大きさを簡易的に最も大きい雑音スペクトルの大きさで表すことにします。図2の場合、LO信号スペクトルに重畳している位相雑音スペクトルの大きさは最も電力の大きい雑音スペクトル、すなわち雑音スペクトルの頂点部分を構成する線スペクトルの大きさで表現することとし、その大きさはを基準にして−35dB、先と同様、負荷インピーダンスを1とおいて電圧振幅に換算すると(式2-3)に示す値になります。

式2-3

(式2-3)

これを図3に示すようにノイズレスの伝送信号と乗算します。ここでも伝送信号の振幅は図1と同様の振幅を基準にして−40dB、つまり=0.01です。帯域幅を持った信号をミキサ回路でかけ算した時の動作については、今更聞けない無線と回路設計の話【テーマ1】三角関数のかけ算と無線工学の第3話で解説した通り、このとき回路の出力振幅は、


(式2-4)※1

先ほど述べたとおり、雑音の大きさについては簡易的にのみ取り扱うと


(式2-5)


(式2-6)

となります。(式2-6)の第1項はとの積の和周波成分、第2項はとの積の差周波成分で(式1-3)と同じです。新たに増えた第3項と第4項はとの積の和周波成分と差周波成分です。(式2-6)では位相雑音のスペクトルをのみとしましたが、実際の位相雑音のスペクトルは(式2-1)に示した通り線スペクトルの集合体なので、実際の出力スペクトルはとの積成分とに加えて、(式2-6)の第3項・第4項と同様の各線スペクトルの振幅と入力信号の積の成分が発生する結果、図3に示すようにLO信号スペクトルと相似形のスペクトルが現れることになります。


図3 LO信号に位相雑音が重畳している場合

出力スペクトルのUSB成分とLSB成分がそれぞれLO信号スペクトル+の相似形になっているということは、LO信号のSNRが出力信号のSNRに保存されているということになります。

  • ※1 DBM等のアナログミキサーの場合、LO信号(レベルの大きい方の信号)は波形歪みを伴うため、厳密に言うと重畳された雑音のN乗成分も発生します。レベルが小さくなることもあって、話を簡単にするため本稿では説明を省略しています。

次ページは「伝送信号にも雑音が重畳している場合」から

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