2014年12月号

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連載記事

防災とアマチュア無線

防災士 中澤哲也

第9回 欧州のアマチュア無線における「非常通信」(3)

これまで“RAYNET”について紹介致しました。今回も引き続き進めて行きます。
このRAYNETの創設時の状況と現状(マニュアル)については過去2回に掲載しました。それで今回は、創設から現在に至るまでの経過に関し、我々の参考になる部分がないのか手元にあるRSGBブリテンのバックナンバーの記載を追ってみました。

調べてみると、意外な事実もありました。

1. RSGBブリテンには毎号連載のコラムとしての掲載がなかった。それどころか何年も記事が掲載されない時代があった。(継続して啓蒙することの難しさ)

全く意外でした。この組織の目的からすればブリテン毎号に某かの内容があるものとばかり思っていました。発足間もない’54、’55年のころでも毎号連載ではありませんでした。’60年代では年1回程度、何らかの記事があったのですが、’70年代になると’72~’74の3年間は全く記事がありません。’80年代になると改善傾向がみられ、’90年代になるとRAYNET以外にも“Emergency”の視点での記事が充実していました。それでも先に記載のよう、UKの地理的、地形的条件から大規模自然災害が発生しにくい結果か、自国の自然災害に関する記事はほとんどなく、海外の自然災害に関する内容が目立つように見えます。
RSGBブリテンという歴史有る格調高い媒体に災害の話題はふさわしくない、という視点もあったのかもしれません。そのためなのか、RAYNET独自に年6回発行の有償のニュースを発行していました。(例えばブリテン’89年2月号、3月号の購読広告)
別の視点では組織運営そのものがどうであったかとの視点もありますが、この点については表面的には知ることが出来ない部分と考えています。

2. 「シンポジウム」、「チャリティ」の案内があった。(非常時以外での活動)

(例えば’78年4月号でのシンポジウム告知広告、’94年8月号のチャリティ記事)
どの時代にもあった、と言うものではありませんが、意識や興味を有するアマチュア無線家、あるいはこれからアマチュア無線をやろうとする人達への意識の向上、知識の伝達、経験知の共有などの目的で開催したのであろう、と考えられます。
また、チャリティについては、自分達の設備、装備の拡充目的なのか、被災者への救援目的なのかは不明ですが、副次的ながら活動の理解を得る広報としての側面も有するもの、と考えられます。この部分での活動の意義はかなり大きなものではないか、と考えられます。我々国内のアマチュア無線家は、そのアマチュア無線界の中では防災視点での活動を多くの方が様々なスタイルで取り組んでおられることを理解されていると思います。しかし、アマチュア無線界の外では、と言えば実際に災害が発生したときの活動についての報道が一般の方の知り得る情報の大半ではないか、と考えます。最近では自治体レベルで地域住民の理解も得て、防災視点のアマチュア無線活動を行っているところもあるようですが、まだまだ少ないようです。

3. 海外の大規模災害での救援活動の報告記事があった。(国際協力)

(例えば’91年8月号対ルーマニア協力記事、’93年3月号対ボスニア派遣記事など)
これは我々が最も苦手とする部分かもしれません。欧州では歴史的、文化的に交流の障害となるものが少ないのかもしれません。地理的要因の他にも、言葉についても我々日本人が近隣諸国に行こうとするときのハードルよりはるかに低いものであろうと想像できます。
直接被災地に乗り込み救援活動、支援活動ができるに越したことはないでしょう。しかし、国際協力はそれでだけではありません。短波帯でよくある、「被災国の非常通信周波数について近隣諸国での運用停止協力」という状況は、我々もしばしば経験することです。

近隣諸国での大規模災害発生時に我々が為し得る国際協力

近隣諸国で非常通信が実施される周波数での運用停止

特に3.5MHz帯、7MHz帯ではよく有る事で、台風被害を受けたフィリピンからの要請も記憶に残る部分です。この「被災国の非常通信周波数での運用停止」は簡単なようで、国レベルでみれば残念ながら出来ていないようです。その周波数で平然と運用する輩をしばしば耳にします。忠告を受けても「他国の事など知るものか」と言わんばかりに運用を続けることもあったようです。世界的な周波数割当区分でアジア諸国についてアマチュアバンドの非常通信周波数が統一されていない、だから知らない分からない、という現実もあります。
しかしこれではその周波数での運用を停止しない限り国際的に非難を浴びることになりかねません。無線局を運用し電波を発射するかぎりは「電波に国境はありません」。これは短波に限ったことではありません。隣国から50kmも離れていない国土もあります。隣国はおろかコンディションによっては遠く離れた他国へも電波は飛びます。本来その点にも注意を払うべきです。
RAYNETとは直接関係ありませんが、話題とした「国際協力」の視点より近隣諸国のアマチュアバンドの非常通信周波数をリストアップしておきます。ご覧下さい。


※クリックで拡大画像が表示されます

(筆者調べ:2014年12月17日現在)
(注)フィリピンは担当行政官庁の指定は4波のみで、各地のアマチュア無線の団体が独自に担当行政官庁に申請しその周波数を使用するとのこと。

この表をみると、日本と近隣各国の指定周波数が完全同一でないことが分かります。近隣諸国で大規模災害発生時は注意が必要です。
日本のバンドプランが平成27年1月5日から変更されます。詳細は以下URLに示されるJARLのWEBにてご確認ください。
http://www.jarl.org/Japanese/A_Shiryo/A-3_Band_Plan/A-3-0.htm

以上のよう、RAYNETの活動について手元にあるRSGBブリテンバックナンバーの記載を追ってみましたが、現在のRSGB機関誌である“RadCom”の記事に依存せずとも、RAYNET独自のWEBサイトに各種のフォーラムがあり、その中に“weekly news bulletins”というものがあり、2004年1月から諸々のニュースが書き込まれています。
http://forum.raynet-uk.net/forum_topics.asp?FID=15&title=weekly-news-bulletins
これらを丁寧に追っていけば、ここ10年のRAYNETの動きがよく分かるものと思います。
読者の皆様と共に詳細を見ていきたいところですが、筆者は研究者ではないので遺憾ながらここまでとさせていただきます。次号は別の話題で進めます。

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