2014年12月号
連載記事
楽しいエレクトロニクス工作
JA3FMP 櫻井紀佳
第19回 マルチバンド ワイヤーアンテナ
HF帯で、できるだけ単純なマルチバンドに使えるワイヤーアンテナを検討してみました。アンテナの長さやコンディションなどから7MHzを基準に考え、まず7MHzのダイポールアンテナを張ることにしました。
1. 考察
このアンテナの構成は次の通りです。
最近はあまり使う人がいないようですが給電にはハシゴフィーダーを使い、7MHzに対してλ/2の長さにします。λ/2ではフィーダーがどんなインピーダンスでもアンテナ給電端のインピーダンスがそのまま戻ってきます。
フィーダーのインピーダンスをアンテナ端より高いインピーダンスにすると必ず高い方に変換され、逆に低いインピーダンスでは低い方へ変換されるためアンテナチューナーでマッチングが取りやすくなります。例えば、アンテナ端が30Ωに対し、75Ωフィーダーをスミスチャートで見ると高い方へ円が描かれ、2kΩに300Ωフィーダーでは低い方へ円が描かれるのがわかります。
アンテナの長さがλ/2だけでなく、その長さが変わると次の図のようにインピーダンスが変わります。7MHzのλを42mとすると、アンテナ線の直径dが1.25mmならλ/dは33600位になり、図のピークより低くなります。
7MHzのλ/2ダイポールアンテナに他のバンドを乗せると、この図を使って概略、次のようになることがわかりました。ただし図のピッチが粗いので正確ではありません。
次の表のλは7MHzでは0.5λですが、他の周波数ではそれぞれの数値になり、その数値を元に上図より読み取ったものがANT IMPの数値です。ここより「λ」の長さの580Ωのフィーダーで給電するとインピーダンスはFeeder endの値になります。10MHzの例では600+j700が0.713λ回って312-j428になるはずです。
エレメントが0.5λのアンテナのインピーダンスを73.13+j42.5としていますが、これは自由空間の値で実際には対地効果があってインピーダンスが変わり、次の図のようになるようです。今回実験したアンテナの地上高は13m位ですのでh/λが0.31程になり95Ω程度の可能性があります。
また、他の周波数ではエレメントが0.5λではないため、地上高によるインピーダンスの変化がどの程度か分かりません。後で測定して推測してみます。
2. 設置作業
先にハシゴフィーダーを作ってみます。ハシゴフィーダーのセパレーターは最近ホームセンターで売っている厚さ1.5mmのPET樹脂です。これはPETボトルのPETですが正確にはPolyethylene Terephthalateの略のようで、アクリル板より安く買えます。今回はHF帯用のアンテナでもあり、このセパレーターはあまり誘電率とか誘電体損失とか気にしなくても良いと思われ、価格が安いのでこの材質にしました。
この板を幅20mm、長さ100mmのサイズに切り、間隔80mmの所に3mmφの穴をあけました。このフィーダーにはビニール線を使いますが、穴の大きさはこの線の外径に合わせます。あまり緩いとずれないようにするのが大変ですし、きついとセパレーターを線の真ん中まで通すのが大変です。一度先に穴をあけて確認してから全部の穴をあけます。
このセパレーターの間隔は30cmで、板の寸法はフィーダーのインピーダンスを500Ω程度と見当をつけ、後はPET板の材料取りの一番良い寸法にしました。線材はホームセンターでよく売っている緑色のアース線でビニール線の外形が3.0mmφ、断面積が1.25mm²、芯線は52本のより線でした。この断面積で計算すると芯線の直径は1.26mmになり、次の計算式と図表でハシゴフィーダーのインピーダンスは580Ωとなりました。
λ/2を20mとして30cm毎にセパレーターを入れると66~67枚必要です。セパレーターは端から入れていくしかないので線の真ん中までセパレーターを入れるのが結構大変です。そのため、給電線を半分に切って10mのものを2組作り、後で半田付けで繋いでもOKです。
給電線とセパレーターの間は、はじめは結構きつくてもそのうちに緩んでくる可能性があるため、セパレーターの両側を小さい結束バンド(ロックタイ)で留めておきます。結束バンドは耐候性のあるものを使用しないと、時間が経つと紫外線でバラバラになってしまいますので注意が必要です。最初はボンドで留めていたのですが、ボンドの種類を変えても接着側はビニール線のため長時間安定に接着できませんでした。
以前は、400Ωのハシゴフィーダーが販売されていましたので、もしこれが手に入ればこのハシゴフィーダーをわざわざ作らなくても良いかも知れません。
エレメント用の線材は無線機屋さんで売っているもので高張力の繊維で補強した丈夫なものです。普通のビニール線でもアンテナにはなりますが5kgで引っ張るので強度が少し心配です。購入したままでは7MHz用となっていましたが、少し長めだったため、後で調整時に少し切ることになりました。
設置の方法は、片方が13mタワーで反対側が檜の立木です。両方とも十分な長さの6mmのクレモナロープ※と滑車をつけ、点検や調整の時には下まで下ろせるようにしました。片方は立木のため風が吹くと大きく揺れ実質的な長さが変わりますので反対側(タワー側)の端には5kgの重りをつけ、テンションを一定にするよう考慮しました。重りはホームセンターで買ってきたものです。
※クレモナロープ:「クレモナ」は株式会社クラレが生産するビニロンとポリエステルの混紡糸の商標。強度・耐久性に優れたロープで、ポリエステルを混ぜているため耐水性・耐候性もよい。
給電点には波形碍子を使います。波形碍子は磁器でできたものとプラステックのものがありますが磁器の方を選びました。エレメントとハシゴフィーダーの線は波形碍子の穴に通してしっかり留めます。ロックタイだけではやはり耐候性が心配であるため、フィーダー側は圧着金具で留め、さらに細い針金でも留めています。エレメントとハシゴフィーダーの接続はより合わせてハンダ付けし、その上を自己誘着テープで巻きました。
バランは平衡型のハシゴフィーダーから不平衡の同軸ケーブルに変換します。アンテナチューナーAH-4は入力が不平衡のためこれが必要です。このバランは大進無線の通販で買ったのものを使っていますが、基本的な構造はコアに3本のより線を巻いて接続を図のようにすると1:1のバランになります。右の図のトランスの形にすると理解しやすいと思います。
バランからアンテナチューナーまでは50Ωの同軸ケーブルを使用します。ケーブルはできるだけ短くします。バランの不平衡側の線材の一端は、M型メスのコネクターの芯線を通してAH-4のアンテナ端子に、シールド網線も同様にM型コネクターを通してAH-4のGND端子にできるだけ短く接続します。
アンテナチューナーAH-4の仕様はアイコムのホームページを見てください。マッチング可能なインピーダンスの数値は不明ですが、結果的に広範囲にマッチングできました。
3. 測定
設置した7MHzのλ/2ダイポールアンテナに580Ωのλ/2長のフィーダーをつけたバランの後で測定しました。
測定器は三田無線DELICAのアンテナアナライザーAZ1-HFとクラニシのSWR計BR-200です。DELICAのAZ1-HFはアンテナの抵抗分とリアクタンス分も計れるもので、L側もC側も計れます。クラニシのBR-200はSWRとインピーダンスを計るものですが、リアクタンスがL側かC側かは表示されません。また、両測定器共、比較的アンテナの低いインピーダンスを計るようになっており、400Ω以上の高いインピーダンスは測定できません。
両方の測定器で計った結果は次のようになりました。7MHzのダイポールアンテナであるため7.1MHzで85Ωは妥当な値のように思います。また、中心より上下の周波数でインピーダンスが上がっているため中心付近で共振しているのではないかと思われます。他の周波数はインピーダンスが高すぎて、計測できないケースが大半でした。
この状態でアンテナチューナーAH-4を動作させて測定しました。測定の方法は、無線機とアンテナの間に切り替えスイッチを入れ、まず各周波数毎に無線機でチューニングを取り、その後スイッチを測定器側に切り替えて測定します。
アンテナ切り替えスイッチ
その結果は次の通りですが、リアクタンスが0の所は両方の測定結果が比較的合っています。リアクタンスの残る部分はどのような表示になっているのか後で調べてみたいと思います。DELICAの測定ではダイヤルを回して最小点を探すのですが、相当ブロードで必ずしも正確とはいえません。またクラニシの測定では目盛が粗く目盛の間の値は正確に読み取ったとはいえませんでした。
DELICAのRpとクラニシのZが近い値を示す部分が多いので、インピーダンスではなくRpの表示になるのではないかと思われます。
アンテナチューナー AH-4 通過後
SWRの値を見るともう少しマッチングが取れても良いように感じますが、実際に電波を出して運用した結果はまずまず良好なように感じられます。3.5MHzはアンテナエレメントが短く、マッチングしなのではないかと思いましたが、意外にマッチングしました。実際に交信もできたので一応使えるのではないかと思っています。
実験場所には、14MHz、21MHz、28MHzはトライバンドの4エレメントビームアンテナがあるため、わざわざこのアンテナを使うこともないのですが、一応電波が乗ることは確認できました。このアンテナの難点はハシゴフィーダーの長さが長いことで、狭い敷地ではどこかで折り返して使うなどの工夫が必要かも知れません。
1本のアンテナでHFオールバンド運用を行ってみたい場合は、ぜひ実験してみてはいかがでしょうか。
■測定器の構造と確認
・DELICA AZ1-HF
この測定器は写真のように抵抗分とリアクタンス分を分けて測定できます。リアクタンス分はバリコンの容量そのものをpFで表示されるため、リアクタンスに表現するためにはその周波数での計算が必要です。またこのCは回路的に負荷と並列になっているので一般的なアンテナの等価回路の直列表示には並列-直列変換が必要です。
L性の場合はスイッチを切り替えて表示された容量の値と同じLのリアクタンスに計算し直す必要があります。
並列-直列変換の計算は次の通りです。
確認のため、抵抗とコンデンサーを並列に接続して値を色々変えて測定したところ、抵抗は比較的元の抵抗に近い表示をしますが、コンデンサーは並列の容量が大きくなると実際の容量の何倍にもなる値を表示します。その理由はよく分からないので測定したアンテナの実測値がどのような意味を持つのか不明です。
・クラニシ BR-200
この測定器はSWRとインピーダンスを表示ますが、リアクタンスはL性なのかC性なのかが表示されません。DELICAの測定器でリアクタンスが0の時には両測定器の値がほぼ同じですが、リアクタンスがある場合は値が異なり、DELICAで測定した値から計算したインピーダンスとクラニシのインピーダンスとも合いません。
DELICAと同様に、抵抗とコンデンサーを並列に接続して値を色々変えて測定したところ、次の表のようになりました。使用した抵抗値はBR-200の目盛に合わせたものです。
スミスチャート上で測定されたSWRの円のどこかにこの時のインピーダンスがあるはずですが、どうしても丁度合うポイントが見つかりません。この測定器も純抵抗ならよく合いますが、並列のコンデンサーが大きくなると合わず、測定値は何を意味するのかやはり不明です。
スミスチャートで色々検討の結果、このBR-200のインピーダンスとはRを示しているようです。このRからSWRの円に接するコンデンサーを探せば表示される数値が合いそうです。
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