2016年10月号
JJ3PRT 青木洋二さん
ロケーションの良い山頂に別宅シャックを構築し、リモート運用にもアクティブなJJ3PRT青木さん。滋賀県に住んでいた小学生の頃、2軒となりにアマチュア局があり、交信を見せてもらったことがきっかけとなりアマチュア無線に興味を持った。その後、父親の仕事の関係で東京に転居し、中学2年生だった1965年10月の国試で電話級の資格を取得。翌1966年3月にJA1WSAの免許を得て開局した。
開局当時は28MHzの電話(AM)で主に国内や近隣諸国とのQSOを楽しんだという。高校生になり、高校1年の4月の国試で2アマを取得。14MHzのグランドプレーンアンテナや、28MHzの3エレ八木アンテナを自作してDX QSOを楽しんだ。当時はこの程度のアンテナが標準だったため、他局に設備で劣るということもなく、QSOを楽しむことができたという。
その後、大学生時代に町田市に引っ越したが、その際父親に、購入する土地はできるだけ高いところにして欲しいと頼んだ。父親はその申し出を受け入れてくれ、素晴らしいロケーションのところに家を建ててくれた。その結果、青木さんは、アルバイトで購入したFTDX-400とモズレーの6エレトライバンダーをタワーに上げ、「存分にDXを楽しむことができました」、と話す。
大学卒業後は大阪の会社に就職した関係で、その後関西を始めいろいろなところに居住することになった。1982年に大阪でJJ3PRTを取得してからはこのコールサインでの運用がメインとなった。もっとも青木さんは、仕事の関係でフランスに2年間、米国に5年間など、海外生活も長かった。さらに日本にいる時でも海外出張が多く、「これまで仕事で50ヶ国ほど訪問しました」、と話す。その間はアクティビティが落ちたものの、出張の機会などを利用して海外からの運用も行い、珍しいエンティティでは、HV3SJ(バチカン)、XX9WS(マカオ)、VK2EVP/LH(ロードハウ島)、4U1UN(国連)などからの運用実績がある。
諸事情により数年間のQRT時期もあったが、2009年10月に奈良県宇陀市にある小高い山の頂上の土地を購入して、別宅シャックの構築をスタートした。この土地に巡り会うまでに2年間を要した。それまでは不動産屋に紹介された土地に行ってみると、竹藪だったり、真上に高圧電線が走っていたり、電気などとても引けそうにない山奥だったりして、無線をやるのになかなか適したところがなく、13箇所目にしてようやく納得できるこの土地を見つけたという。「ここは人工ノイズがほとんどないのですよ。ハイバンドではSメーターがいつもゼロまで下がります」、と話す。
それからは、まずは木を切って土地を開き、フェンスや門を作った。当初は独力で設備の構築を始め、ある程度設備が整ったところで変更検査を受け、1kWでの運用を2010年10月に始めた。ロケーションが良いだけに良く聞こえ、良く飛んだが、自宅から別宅シャックまで約1時間がかかることや、冬期は積雪で別宅シャックに到着できないこともあり、いつでも好きな時に運用できるという状況では無かった。
山頂に建設したシャックとアンテナ (2016年9月現在)
特に、冬場は3時半に起きて別宅シャックに通うのは身体的にかなり無理があった。そのため、リモートコントロールによる運用を検討し始めた。光回線が引けたことも後押しとなった。しかし、独力でリモートシステムの構築を進めることに限界を感じ、青木さん自身が会長を務めるNDXA(Nara DX Association)のメンバーを中心に数人のスペシャリストに協力してもらい、皆で力を合わせてリモートシステムの構築を進めて行った。
メンバーはそれぞれ自分の得意な分野で力を発揮し、ソフトウェアが得意なメンバーはリモートコントロールソフトを開発。ハードウェアが得意なメンバーはハードウェア系の構築を担当。そのほか、避雷システムもそのジャンルを得意とするメンバーが力を発揮した。もちろん土木技術に精通したメンバーはアンテナの建設、マストの溶接、倉庫の組立に力を発揮した。
中でも青木さんが特に力を入れたのが、避雷システムの構築で、雷電流が流入する4つの経路、アンテナライン、ACライン、通信ライン、アースラインの全てを検討した。まずリグのアースはとらず、その他の3つの経路は全て対策を施した。これにより、過去に数度の落雷があったが、シャック内の装置においては、何も被害を受けていない。
避雷システムのひとつである、同軸ケーブル切り離し装置。
遠隔操作で同軸ケーブルを約20cm切り離すことができる。(JA3FGJ製作)
約1年を要してほぼ満足の行くリモートシステムの構築が完了し、いつでも奈良市にある自宅からリモートコントロールでDXingを楽しむことができるようになった。「これは皆で力を合わせた賜です」と青木さんは話す。もちろん、今でも継続して改良を重ねており、メンバーの衆知を結集して作業している。なお、協力してくれるメンバーには、別宅シャックで設備共用の免許を取得してもらい、休みの日には別宅シャックに来て運用してもらったり、さらには、メンバーがそれぞれの自宅からもリモート運用できるようにしている。
青木さんは、アマチュア無線をやってきて良かったことを3つ挙げる。1つ目はアマチュア無線を始めたことで電気の知識を身につけることができ、それを仕事に活かせたこと。2つ目は、海外とのQSOを通して高校生の時に既に英語が話せることになったこと。その後大学生の時にスペイン語とロシア語を習得し、就職後にはフランス語も習得するなど、「すべてアマチュア無線のお蔭です」と説明する。3つ目は、常に向上心を持ち続けられること。「特にDXingにおけるあるべき姿と現実とのギャップを埋めるために、休んでいる暇が全くありません」、と話す。
青木さんは今後の目標として、DXCCチャレンジ3000の達成を挙げる。現在は約2700ポイントだが、HFハイバンドではもうあまりポイントが延びなくなってきており、今はローバンドである1.9MHzと3.5MHz、それにVHFの50MHzに力を入れている。
DXCCチャレンジ3000を達成するために、青木さんは3.5/3.8MHzのアンテナのビーム化を検討し、本年7月に2エレ八木を建設した。従来使用していたダイポールアンテナと比べると使用感は雲泥の差だという。ただし、3.5/3.8MHzはバンドが広いため、リレーなどを使って使用周波数に同調させる操作が必要であるが、今これをリモートでも同調させられるシステムを構築中である。
青木さんの現在のアンテナ群。
左が7-50MHzに対応したモーター同調式6エレ八木、右が3.5/3.8MHz 2エレ八木
「単なるリモート運用であれば、今では市販の装置や市販のソフトを使って、比較的簡単に構築できるようになりました。しかし、私のような複雑なシステムとなりますと、さすがに独力では無理です。皆で考えてアイデアを出し合い、皆の力を合わせて構築するのがベストだと思います」、「アマチュア無線以外でも現在では一人でものが開発されることはほとんど無く、ほとんどの場合プロジェクトで開発されます。自分一人で悩んではいけません」、と何でもチームで進める重要性を説明する。
1.8MHzについては、アース棒を100本以上埋め、受信用ビバレッジアンテナを4方向に展開した。次は1.8MHz用の4スクエアアレーの建設を計画している。自ら立てた「全バンドビーム化」という目標達成のために、青木さんは日々鋭意努力を続けている。
自薦も歓迎しますので、info@fbnews.jpまで、写真1、2点と紹介文(300字以内程度)を添えてご送付下さい。
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