2016年10月号
連載記事
楽しいエレクトロニクス工作
JA3FMP 櫻井紀佳
第41回 コードレスキー
アマチュア無線を運用するための机の上で、CWを運用する時、キーと無線機をつなぐコードが意外に邪魔になるものです。そこでこれのコードレスを検討してみました。
コードレス接続実現のため、無線屋としては当然無線を使った接続を検討しますが、机の上だけのことなので微弱電波を使うことにしました。微弱電波の許容値は322MHz以下で3mの距離において500μV/m以下となっているのでこれに従うことにします。
ところで電波伝搬は、遠方界の平面波では距離に反比例して減衰することになっていますが、近傍界では異なります。一般的にはλ/2π以下が近傍界と言われ、距離の2乗に反比例する電界強度に加え、距離の3乗に反比例する磁界強度の成分も影響するようなのでこれも考慮することにします。
ワイヤレスの信号として短点側と長点側を色分けして送れば良いのでその方法を色々考え、最終的に無変調(長点)とパルス変調(短点)で識別することにしました。実は当初、広帯域FSKで送ること考え、32MHzと27MHzの信号で実験してみたのですが、ダイレクト受信方式では選択度が十分とれず、かといってスーパーヘテロダイン方式を採用すると回路が複雑になってしまい、簡単に作れるという主旨に反するものになるため、広帯域FSKは断念しました。
無変調 バルス変調
1.送信側
送信側回路はできるだけ省エネにするため、発振回路と変調のためのCMOS発振回路はできるだけ周辺部品が少ない回路にしました。
メインの発振回路はLCによるコルピッツ発振回路で周波数は34MHz位です。発振のON/OFFはQ3のベースバイアスの電源を切り替えて行い、また省エネの意味で電源もQ6でスイッチしています。長点符号の送出の間、ベースバイアスはONのままなので連続した信号ですが、短点符号の送出の間はCMOSのロジック発振回路の断続した信号でスイッチしますので電信のような振幅変調がかかります。
発振出力はR7のエミッター抵抗を通して取り出し、R13で出力の調整をします。近傍界のため、出力端はループに近いアンテナにしてみました。半波長の長さの線をループにするとよく乗るのではないかと考え、周波数を34MHzとして0.5mmΦのホルマール線をループにして実験してみます。形状は手持ちの横ぶれキーの前面に貼れる形にしました。
ループアンテナ
このアンテナを実際の使用状況を考慮して50cm離して対向させ、トラッキングジェネレーターで測定してみると次の図のようになりました。
対向したアンテナとその特性
2.受信側
受信側の全体の回路は次の通りです。ループアンテナで受け取った信号をまずIC1で増幅します。IC1のuPC1651は以前の本誌記事にもよく使った古いICですが、手元にたくさん残っているので今回も活用することにしました。この周波数で使えるゲイン20dB前後のICであれば何でも良いと思います。
IC1で1段増幅後BPF (バンドパスフィルター) を通します。その特性は次の通りです。
このBPFの特性はあまり良くないのですが、この用途には使えると思います。BPFの後IC2とIC3で2段増幅しますが、このICの振幅は大きく取れないので1段トランジスターのアンプQ1を加えました。これによって振幅は1V以上取れるようになりました。
検波したDot側の信号は矩形波の繰り返しになるのでIC4Aのコンパレーターで比較して取り出し、この信号をIC4A 74HC123のワンショットマルチに通します。このICはリトリガー動作のため入力される信号の繰返し周期より長いRx/Cxで決まる出力幅に設定により、信号の入力期間中は出力QがHに保たれます。この動作によってDot側の信号を検出することができます。
プリント基板 送信部 (左)、受信部 (右)
当初CWキーのコードレスは簡単にできると思っていましたが、実は意外に苦戦しました。簡単に作りたいために複雑なものを避け、当初考えていた広帯域FSK方式では二つの信号の周波数選択と信号強度の変化に悩まされ、結局完成には至りませんでした。
今回紹介した無変調とCW型チョッピング方式も苦肉の策であり、実験してみたもののあまりお勧めする気にはなれません。
結局無線方式では、自分としてすっきりしたものを完成することができませんでしたので、光通信方式を検討してみたくなりました。これを次の課題にしたいと思います。
楽しいエレクトロニクス工作 バックナンバー
- 第89回 温度/湿度計
- 第88回 CWスピード
- 第87回 雨量計
- 第86回 IC-705用電源
- 第85回 デジ簡と特小のリンク
- 第84回 エレキー
- 第83回 スピーチコンプレッサー
- 第82回 長波JJY受信機
- 第81回 3.5MHzアンテナ
- 第80回 シニアスピーカー
- 第79回 バッテリーアイソレーター
- 第78回 F2A発振器
- 第77回 DDSの動作
- 第76回 マルチチェンジャー
- 第75回 ハンディ無線機用電源
- 第74回 NAVTEX
- 第73回 多用途タイマー
- 第72回 周波数誤差検出
- 第71回 ワイヤレス充電
- 第70回 警報付電圧計
- 第69回 分配器
- 第68回 半田ごてタイマー
- 第67回 可変アッテネーター その2
- 第66回 アンテナマッチング回路
- 第65回 AM受信機
- 第64回 2バンドアンテナ その2
- 第63回 2バンドアンテナ その1
- 第62回 ドライバーSG
- 第61回 144MHz→50MHzダウンコンバーター
- 第60回 音声帯域モデム
- 第59回 位相方式SSB (その2)
- 第58回 位相方式SSB (その1)
- 第57回 AMトランシーバー
- 第56回 グリッドディップメーター
- 第55回 低周波発振器
- 第54回 スイッチトキャパシターフィルター (SCF)
- 第53回 SWR計 その2
- 第52回 SWR計 その1
- 第51回 コードレスキー その2
- 第50回 2トーン発振器
- 第49回 スペクトラム拡散通信 その2
- 第48回 スペクトラム拡散通信 その1
- 第47回 ワイヤレスハンドマイク
- 第46回 自動アンテナ切替器
- 第45回 CI-Vターミナル
- 第44回 案内放送
- 第43回 PEP パワー計
- 第42回 容量計
- 第41回 コードレスキー
- 第40回 電子バグキー
- 第39回 お酒沸かし
- 第38回 電圧給電アンテナ
- 第37回 パルスジェネレーター
- 第36回 インピーダンスブリッジ
- 第35回 GPS その3
- 第34回 GPS その2
- 第33回 GPS その1
- 第32回 鹿おどし
- 第31回 続CW復調改善 その2
- 第30回 続CW復調改善 その1
- 第29回 CQコールマシン
- 第28回 PINダイオード
- 第27回 可変アッテネーター
- 第26回 誘導無線アンテナ
- 第25回 CW復調改善
- 第24回 1.2GHz受信用プリアンプ
- 第23回 パワー計
- 第22回 実験用定電圧電源
- 第21回 色々なフィルター
- 第20回 1人でタワーを建てる
- 第19回 マルチバンド ワイヤーアンテナ
- 第18回 省エネシステム
- 第17回 太陽光発電で無線をしよう! その3
- 第16回 太陽光発電で無線をしよう! その2
- 第15回 太陽光発電で無線をしよう! その1
- 第14回 0-V-1 その2
- 第13回 0-V-1
- 第12回 周波数カウンターの製作 5
- 第11回 周波数カウンターの製作 4
- 第10回 周波数カウンターの製作 3
- 第9回 周波数カウンターの製作2
- 第8回 周波数カウンターの製作1
- 第7回 送信機2 (最終回)
- 第6回 送信機
- 第5回 HF受信機3
- 第4回 HF受信機2
- 第3回 HF受信機
- 第2回 無線通信機の構成
- 第1回 ゲルマラジオ