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特別寄稿

クリスマス島VK9XからQO-100へQRV!

VK9QO・JA3GEP 毛利幹生


図1 インド洋水平線近くにQO-100が見えませんか?

インド洋静止軌道上のアマチュア通信衛星QO-100(アップリンク2.4GHz ダウンリンク10.4GHz)はヨーロッパ・アフリカ・南米では大人気ですが、残念ながら日本ではウインドウから外れていることもありポピュラーではありません。COVID-19も少し収まるのではないかとの希望的観測から、衛星が動かせないならこちらから動いてやろうと、移動運用を半年以上先の10月25日~11月1日に実施する計画を今年の3月ころから立て始めました。

1. どこへ行こうか、どこなら行けるか? 計画立案

行先は、日本から行くことが可能で(3月の段階では行先・経由地・航空会社など限られていました)、まだQO-100にQRVのないところと調べましたら、オーストラリアの北西のVK9Cココス(キーリング)諸島、VK9Xクリスマス島がありました(図2)。ここは、AO-13、AO-40でもQSOを逃したところです。

Cocos Keeling Island(CCK) 12゚05'S 96゚53'E  →  Az: 274.13 deg Elv 10.09 deg
Christmas Island(XCH)     10゚29'S 105゚39'E   →  Az: 271.88 deg Elv 1.67 deg


図2 QO-100のウインドウとココス諸島、クリスマス島

フライトは週2便のみ、西オーストラリアのパースからバージンオーストラリア航空が、火曜はパース→VK9X→VK9C→パース、金曜はパース→VK9C→VK9X→パースと、三角コースで飛んでいます。せっかく行くのだから1週間で両島にと考えると、行き・帰りともに目的でない方の島を必ず経由することになります。

何しろ初めてのことなので、手続きに要する日数がわからないため、免許証・免許状の英文証明、そしてオーストラリア領事館での認証など、早いうちにと3月から手続きをはじめ、5月中旬に希望のVK9QOのコールサインを取得しました。

2. QO-100に使う機材は?

機材は3年間旅行制限で出番のなかった、JAMSAT(日本アマチュア衛星通信協会)がIC-820を親機にした移動用のトランスバータ(145MHz→2.4GHz、10.4GHz→433MHz)とパラボラアンテナを準備していました。今年のハムフェアで展示・デモ運用されていたので、ご覧になったかたもおられると思います(図3、4)。


図3 ハムフェアでデモしたトランスバータとIC-820、右はラジエータ部、左は臨時に組んだ疑似衛星


図4 構成: 145MHzを2.4GHzへ、10GHzを433MHzへコンバート

QO-100のウインドウの周縁にあたるため、当初準備の60cmディッシュを75cmに変更し、それを運べる段ボール箱も製作しました。パワーも10W出せる設計としました(図5)。


図5 ディッシュ比較: 左がハムフェアに展示された60cm、右が三脚にセットした75cm 大きい!

IC-820で接続・操作の練習を続けていたのですが、運搬にスーツケースに詰める段になって、重さ・大きさ・運用の容易さに問題が見つかりました。パイルの最中に自身のダウンリンク信号周辺を常時モニターするのにウォーターフォール機能が欲しい、IC-820では筐体が大きくてスーツケースに収まりきらない、などから、親機を送信・受信用に合わせて2台のIC-705への変更を希望したのです。幸いアイコム株式会社から借用できることになり、このプロジェクトの実現に大きく寄与しました(図6)。ドップラーの追跡など必要ないので、オールモード機の「衛星通信機能」は不要なのです。

3. 関西空港からシンガポール・パースを経由してVK9へ 悪天候でフライトがキャンセル!


図6 パース空港で出発前の機材 アンテナ・ケーブル関係の箱と機器関係のスーツケース

10月22日深夜、関西空港を発ってシンガポール経由パースへ、24日はCOVID-19対応に備えた予備日です。25日(火)昼過ぎにココス諸島へ向け、定刻に出発しました。2時間近く飛行したところでキャプテンのアナウンスがあり、機内がざわめきます。なんと、「天候悪化の予測のためパースへ引き返す」というのです。結局翌日、翌々日ともフライトはなく動きがとれません。バージンオーストラリア航空のホームページをチェックし、カスタマーサービスに電話しまくって、ようやく28日(金)の便のクリスマス島行きの便に空席を発見・確保しました。一時はオールキャンセルの可能性もあったのですが、予定後半のクリスマス島のみ4泊の運用で、予定前半のココス諸島3泊はキャンセルとなりました。運用開始の遅れ、あるいはキャンセルの可能性は、ヨーロッパにも流れて大変な騒ぎになっていました。

4. セットアップを始めたものの

クリスマス島で確保していた部屋は、「インド洋への日没を水平線まで見たい」という希望どおりの2階でした(図7)。


図7 窓から見るインド洋の日没

早速窓に向けてアンテナをセットアップしたのですが、窓が開かない。それならとベランダへの戸口に三脚を移動したのですが(図8)、外は真っ暗、茂みがある気配です。


図8 窓に向けてアンテナを設置 機材はベッドと藤製家具の上

ビーコンの周波数に合わせてアンテナを振るのですが、結局到着の夜は、衛星が受信できませんでした。翌日は、早朝から隣人が部屋を出たのが幸いし、隣室前のベランダポールへアンテナを固定することにしました(図9)。ポータブル機の利点を生かして機器をベランダへ持ち出し、衛星のビーコンをヘッドホンとウォーターフォールで確認しながら、アンテナの方向を微調整しました(図10)。昼前にはなんとか水平線近くの衛星のダウンリンクを捕捉できました。意外に信号が弱い!


図9 ベランダの柱に固定したアンテナ 三脚より方位微調整は確実


図10 アンテナの横へ機材を持ち出しての方位調整

続いてアップリンクです。対応したダウンリンク周波数に自身ではもとより、ヨーロッパでも聞こえないという。送信が何かおかしい。145MHzでの送信有無にかかわらず、2.4GHzのパワーアンプのインディケータが振れる! どうも自己発振している様子です。翌朝まで調べたもののわからず、アンプ(max.10W)の使用を断念、145MHzから2.4GHzへのアップバーターをアンテナへ直結しての運用を決断しました。1Wも出ていないか?


図11 BATCのWebSDR パイルアップが猛烈になる前の10/30 06:21UTC 700kHzの点々がCW!

SSBでは音声が聞き取れない、CWなら問題ない、というサポート局の判断で、CWアップリンク、SSBダウンリンクの変則的なクロスモードでの運用とすることになりました。おっとキーヤーを持ってきていない(大きなミス!) そこでFMモードでマイクのPTTスイッチでオンオフしてのCWとなりました(図11)。

5. ついに運用開始 2022/10/30 05:00UTC

ときおり小雨がぱらつくので、ベランダへのドアを開けて外を確認しながらの運用となりました。リゾートらしい藤製の家具にIC-705 2台、ノートパソコン(ログ、ZOOM)にサブディスプレイ(WebSDR、メール)とメモ帳を広げて、床へ座り込んでの運用となりました(図12)。


図12 シャックから外を見ながら運用

受信が弱く自分のCWのダウンリンクも十分に確認できない状態でのスプリット運用でしたので、ヨーロッパ・アフリカからのコールに十分に応えられず、また間違ったコールバックをしていた可能性もあり、満足な運用ではありませんでしたが、多くのDXCCを追っている局との交信ができました。最終集計はまだですが、実質40時間ほどの運用で、重複を除き150局、30Entityあたりでしょうか?

LoTW、eQSLだけで十分、という局も多いですが、昔気質にペーパーQSLも用意して、請求を待っているところです(図13)。


図13 QSLカード ストーリーを詰め込んだら、こんな賑やかな4面に

6. 運用をおわって

・日ごろから使っている衛星でないので、方位の合わせ方、信号強度、呼ぶ局のくせ、などわからないことが多く、要領を得ないことが多かったと思います。伝搬の良しあし、設備トラブル、日程の乱れなど予想しないことが起きます! そこを予想して対応をしておかないとダメ、というのはよくわかりました。詳しい分析はこれからです。

・IC-705 2台は、正解でした。ウォーターフォールはパイルアップが20kHz近くに広がるなかで相手局を選ぶのに必須です(QO-100のナローバンドのバンド幅は500kHz近くもあるので、こんな芸当が可能なのです)。また、2台あることで、アップバーター、パワーアンプ、あるいはLNBと組み合わせている中で機器の異常を、効率的に判別できました。

・楽しいこと! この10月25日のキャンセル便、28日の確保できた便には、CQ WW DX-Phoneコンテストに参加のVK9CMチームも乗っていて、声をかけられました。帰路11月1日(火)のパース行きの便がココス諸島に立ち寄った20分ほどの間に、空港近くで運用中のVK9CM局を訪問して挨拶することができました。こんなことは旅に出てこその楽しみです。

・ウインドウに含まれていない東京からも、WebSDRを見ながら運用を支援してもらいました。今回の運用でウインドウに含まれていない、あるいは自分のQTHにつながらなくても、QO-100で遊ぶことの楽しさが広まればうれしいです。HFのペディション計画にQO-100も加えませんか?

謝辞: このVK9QOペディションの実現のため、IC-705 2台を貸与して下さいましたアイコム株式会社、ヨーロッパからダウンリンク信号の確認や周波数の確保、技術的・運用面でのアドバイスを頂きましたAMSAT-DLのDD1US Matthiasさん、DK3ZL Charlyさん、QO-100 DX ClubのCT1EAT Costaさん、日本からサポートしてくださったJAMSATのJH4PHW坂井さん、JA1OGZ金子さん、JA0FKM上田さん、多くの関係の方々に、深く感謝します。

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