HW Lab
2024年12月2日掲載
今月からハウラボ(HW Lab)がスタートします。本コーナーでは、電子工作をはじめアンテナ製作など、日ごろのアマチュア無線のアクティビティーに役立つ情報を提供します。
初回は、アイコムIC-705に代表されるコンパクトHFトランシーバー用のアンテナを製作します。IC-705がバックパックに収納できるサイズであることから、アンテナもバックパックに収納できるマグネチック・ループ・アンテナ(Magnetic Loop Antenna/以下MLA)とします。
MLAの“L”はLoopの略です。文字通り形状は図1に示すようにエレメントがループ(輪)状になっており、大小2つのループで構成されています。
2つのループはトランスのように1次側と2次側が電磁誘導で結合しています。小さい方のループはここでは1次側とし、結合ループ(Coupling Loop)と呼びます。このループがトランシーバーに接続され高周波信号の入出力を行っています。大きい方のループを2次側とし、このループをメインループ(Main Loop)と呼びます。1次側で発生した高周波エネルギーを電磁誘導で2次側に誘起させメインループから高周波エネルギーを輻射します。
図1 MLAの構造(左)とその等価回路(右)
ループ系のアンテナに代表されるキュビカル・クワッドやデルタループの放射器のエレメント長は1波長です。仮に7MHz帯のループアンテナを作ろうとすると1波長は約43メートルとなり、これをループ状にすると直径は13.6メートルとなります。これではポータブル用のアンテナとしては不向きです。
そこでループの直径を1メートル程度としてコンパクト化を図ります。直径1メートルのエレメント長(L)は、L=直径×πより3.14メートルとなります。3.14メートルのエレメント長でHF帯をカバーしようとするため図1の等価回路に示すループエレメントのインダクタンス(L2)が著しく低下するため同調周波数は上昇してしまいます。下の共振周波数の公式からも理解できます。
そこでエレメントが短くなった分のインダクタンス(L2)の減少を図1(右)に示すようにコンデンサー(C1)を回路に直列に挿入してアンテナの共振周波数を低下させます。この共振周波数を調整する部分がMLAのメインループに取り付けられたマッチングボックスです。
下に示すような特殊部品の準備が必要です。
・ 適度な太さの同軸ケーブル (約3メートル長) 例: 8D-2V、8D-FBなど
・ バリコン (300pF前後) ポリバリコンは不可
・ MJ T型同軸コネクター
・ 樹脂ケース (マッチングボックス用)
1. 適度な太さの同軸ケーブル
メインループと結合ループのエレメントとして使用します。図1(左)は今回製作するMLAの概略構成図です。メインループと結合ループの2つのエレメントを、バックパックに詰め込むことを考え、工作として扱いやすい同軸ケーブルを使って製作します。メインエレメントに約2メートル、結合ループに約60センチメートル必要です。
製作に使用した同軸ケーブルは、メインループ、結合ループ共に8D-FBです。本当はFBタイプではなく、外部導体にアルミホイルの使われていない同軸ケーブルの方が屈曲による金属疲労で導体が断線する心配もなく長持ちすると思います。また、手持ちの加減で8D-FBを使いましたが、それ以外の同軸ケーブルでも多少の電気的特性は異なりますが、同じような寸法で製作できると思います。
2. バリコンの選択
製作の中でバリコンの入手がすこし困難です。それでも送信出力が5Wや10WまでのQRP運用で使用することに限定するのであればFMチューナーやAMラジオに使われていたバリコンが使えます。ポリバリコンはNGです。図2は関ハムで見つけた4連バリコンです。
図2 ジャンク市で見つけたFMチューナー用の4連バリコン
容量を測定すると300pF×2、10pF×2でした。全部のバリコンを並列に接続すると620pFになりますが、300pFを1つだけ使います。この300pFのバリコンの可変でメインループの直径を60~70センチメートルとすると7~28MHzのHF帯がカバーできます。もし可能ならもう一つ10pF程度の小さな容量のバリコンもあればベストです。なくてもOKです。
3. MJ T型コネクター
図3に示すようなコネクターです。結合ループとトランシーバーとの接続に使用します。M型コネクターのメス(Jack)であることからMJと表現します。
図3 MJ T型コネクター
1. メインループの製作
8D-FBの両端にM型コネクターを芯線、網線とも普段同軸ケーブルにコネクターを取り付ける方法で取り付けます。完成すると図4のようになります。
図4 メインループの寸法図
2. 給電ループの製作
同軸ケーブルとM型コネクター(MP)の取付けに注意が必要です。下記(1)、(2)を参照ください。
図5 給電ループの寸法図
(1) 同軸ケーブルの両端処理
・長さ56cmの8D-FBを準備します。(図5に示す結合ループに使用)
・両端を図6のように処理します。
・片側は、同軸ケーブルの外側の導体(編線+アルミホイル)は切り取ります。芯線は残します。
・もう一方の側の芯線は切断します。
・切断したが少し残っている芯線と編線とを細い銅線等でハンダショートします。
図6 給電ループに使用する8D-FBの両端の処理方法
(2) コネクターの取り付け
・処理した同軸ケーブルの両端にM型コネクターを図7のようにハンダ付けします。
図7 給電ループのコネクターの取り付け方法
(3) 完成したメインループと給電ループ
図8 完成したメインループと給電ループ
3. マッチングボックスの製作
(1) バリコンの取付け
マッチングボックスは樹脂製としてください。送信時の感電の防止です。ボックスにはバリコンとMJ型コネクターを両サイドに各1個取り付けます。図9のケース内には300pFのバリコンと10pFのバリコン2つを並列(パラ)接続で組み込んでいます。300pFのバリコンは粗調用、10pFは微調用です。10pF程度の小さな容量のバリコンがなければ取り付けなくてもOKです。
(2) MJコネクターとバリコンの接続
このコネクターのセンターピン(芯線側)とGND側はメッキ線等でショートします。メインループとコネクター、またバリコンとの接続の関係は図10に示します。
図10 マッチングボックス内の配線
図11 完成したHF帯MLA
バリコンを最大容量から最小容量まで可変すると7MHz帯~28MHz帯までマッチングが取れることがわかりました。メインループの直径を1メートルにすると7MHz帯の同調はできましたが、300pFのバリコンを最小値にしても28MHz帯まで同調は取れませんでした。メインループの直径を約68センチメートルとすることで7~28MHz帯全部がカバーできました。
帯域幅は下のスクリーンを見ても分かるように非常に狭いです。縦の1目盛りはSWR=2です。7MHz帯では、SWRが2までの範囲は20kHzぐらいしかないことが分かります。28MHz帯ではもう少し広いですが、急峻であることには違いないです。
このことから、同調バリコンを回してもSWR値が最低になるポイントで止めることが難しく、そのため300pFのバリコンに微調整用として10pFのバリコンをパラに接続しました。このことで、調整が容易になりました。
図12 NanoVNAで測定したSWR
図13 MLAの指向性
運用する周波数に同調させるには、まずはアンテナをトランシーバーに接続し、運用する周波数で最大の受信音となるように300pFと10pFのバリコンを調整します。
IC-705を接続して運用するのであれば、短く送信電波を出しながらIC-705のSWRバーメーターを最小になるようにバリコンを回す方法もあります。受信音だけで調整するより、この方がより正確に調整することが可能です。
実運用で性能を確認しました。移動地は大阪南部。アンテナをIC-705に接続すると7MHz帯では、6エリアから7エリアまで開けて信号が入っていました。試しに6エリアの記念局をCWでコールしました。相手局からQRZのコールバックはありました。これで電波は届いていることが分かりましたが、なかなか正確にコールサインを取ってもらえず、結局は交信不成立となりました。
MLAは小型ですがたいへんよく信号が入ってきます。フルサイズのアンテナを使用した固定局での運用と錯覚するほどです。その感覚でコールするのですがなかなかコールバックが得られず、フラストレーションが溜まります。
図14 実運用を兼ねた性能実験
図15 MLAのメインループを丸めてLC-192のバックパックに収めたところ
参考資料
・月刊FB NEWS 2021年4月号 Short Break 「50MHzモノバンドMLAの製作」
・マグネチックループアンテナの改良および評価(https://omu.repo.nii.ac.jp/records/7540)
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