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Short Break

50MHzモノバンドMLAの製作

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アイコムからIC-705が発売されてまもなく1年が経過します。ひょんなことから7~28MHzまでカバーする磁界型ループアンテナ、英語ではMagnetic Loop Antenna(以下MLA)と呼ばれるアンテナをIC-705に接続して使う機会がありました。MLAを部屋の中でIC-705に接続して7MHzを受信してみました。受信を行ったのはビルの5階の窓際ということもありましたが、まるでアクティブアンテナのように外から信号がバンバン入ってくるのには驚きました。傍にいたハム仲間も「これは凄い」と絶賛していたほどです。


図1 製作した50MHzモノバンドMLA

ある日山の上に移動し、IC-705にこのMLAを接続して7MHzで実運用を行いました。受信は部屋の中で行ったときと同様、文句なしでした。ところが、送信は受信ほど印象が強くありませんでした。IC-705の5W/QRPということもありましたが強く入感している局をコールしてもなかなかピックアップしてもらえず正直フラストレーションを感じました。もちろんSSBやCWでこちらからCQを出すとそれなりの応答はありましたが、パイルアップが続くというものではありませんでした。山の上からのQRVということもあり少しパイルアップを受けることを期待していたのですが残念でした。それでもバックパックに収納できるほどのコンパクトさで、山歩き半分、無線半分という楽しみ方の人たちには持ってこいのアンテナと思いました。

そこで、私が移動したときによく運用する50MHzをターゲットにした50MHzモノバンドMLAを製作することにしました。今回その製作をご紹介します。


マグネチックループアンテナの原理

MLAをネット検索しますと多くの製作記事や動作原理を記したサイトがヒットします。筆者はアンテナの動作原理は、それほど得意とする分野ではありませんので簡単に説明するとして、今回は製作に特化した記事とします。

図2は、MLAの等価回路です。回路は変圧器のように1次側と2次側の2つのコイルから構成されています。実際にはアンテナエレメントにはコイルは見当たりませんが、高周波的にはインダクタンスの働きをする2つのループで構成されています。小さい方のループは1次側で給電ループと呼びます。無線機との高周波エネルギーの入出力を行います。大きい方のループは2次側です。メインループと呼び1次側で発生した高周波エネルギーを電磁誘導で2次側に誘起させメインループから高周波エネルギーを輻射します。


図2 MLAの等価回路

エレメント部は、給電ループもメインループも図3で示すように同軸ケーブルで輪(ループ)を作り、その両端にコネクタを取付けただけです。ループは高周波回路としてRLCの回路が形成されています。メインループは、高周波エネルギーを効率よく輻射させるため、輻射される周波数に合わせた共振回路とする必要があります。共振することでループには大電流が流れ、それに伴いそのループの周りには磁界が発生するといった原理です。参考ですがメインループの共振周波数は、次式で求めることができます。これは無線従事者国家試験で何度も見た公式です。


メインループが共振するとインピーダンスは非常に低くなるため、給電ループにてインピーダンス変換を行い50Ωに持ち上げます。メインループと給電ループは、トランスのように電磁誘導にて結合しています。

マグネチックループアンテナの寸法図

製作するMLAは、50MHz専用としています。山歩き半分、無線半分派の私のようなアマチュア無線家のために製作するアンテナはバックパックに入るようにすることが重要ポイントです。

小型化するためにエレメントのループは同軸ケーブルを用います。銅やアルミパイプを使うと表面積も広くなり、アンテナの使用帯域幅も広くなることが予想できますが、ポータビリティを考えると断念せざるを得ません。メインループを作る同軸ケーブルは、8DFBとしました。同軸ケーブルの芯線と編み線の両方をアンテナエレメントとして使うため、芯線と編み線はコントロールボックス内でショートさせています。こうすることで、マッチングの帯域幅は若干ですが広くなります。

給電ループのエレメントにはRG58A/Uを使いました。特にメインループと給電ループの同軸ケーブルの太さに差をつける必要はありませんが、小型化で給電部のT型コネクタをBNCタイプとしたいためRG-58A/Uとしました。


図3 50MHzモノバンドMLAの設計図

メインループの製作

8DFBを使い、図3に記載のメインループを製作します。同軸ケーブルの長さは、書籍等で得た情報を元にだいたいの長さを決めます。そのあとはディップメーターを用いてカットアンドトライで同軸ケーブルの長さを調整し、共振周波数を50MHzに追い込んでいきます。詳しくは、後述のメインループの調整で説明します。

ここでポイントとなるのはカットアンドトライで8DFBの長さを調整する方法です。両端に取り付けるM-Pのコネクタを図4の左側に示した普通のM型コネクタとすると同軸ケーブルに一度半田付けをすると、取り外してまた取り付けるといった作業はほぼ不可能です。これでは長さの調整はできません。そこで図4の右側に示したコネクタであると、N型コネクタのように半田付けする部分は芯線の部分だけですので、比較的簡単にカットアンドトライで同軸ケーブルの長さを調整することができます。


図4 2種類のM型コネクタ

メインループは、8DFBの芯線と編み線の両方を輻射エレメントとして使用します。そのため芯線と編み線を図5左のようにショートさせますが、これはM型コネクタ内ではショートさせるのは難しいため、図7で示すようにマッチングボックス内で行います。


図5 メインループ、給電ループの結線図

給電ループの製作

給電ループの給電部は図5の右側のように結線します。このイラストではループの各先端にはコネクタは付いていませんが、実際は図6のようにBNCコネクタを使い、取り外しができるように製作します。給電ループのエレメントは、RG-58A/Uを使っています。同軸ケーブルの両端に取り付けるBNCコネクタには少し細工が必要です。BNCコネクタを取り付ける際、片側のBNCは芯線を接続せず、もう一端のBNCコネクタでは編み線は接続しないといった取付けです。詳しくは図5右側の結線図を参照してください。この同軸ケーブルの長さは、図3の設計図にも記しましたが約237mmです。調整は、後述の給電ループの調整の項目で説明します。


図6 完成した給電ループ

マッチングボックスの製作

マッチングボックスの中には、図2の等価回路で示した可変容量コンデンサ(以下バリコン)を組み込みます。さらに、携帯性を高めるためメインループは、マッチングボックスから取り外せるようにM型コネクタを使います。構造は図7を参照してください。


図7 マッチングボックスの内部

図7に示したバリコンには、15pFのバリコンがパラに2個付いています。最初は、30pFのバリコンとして使って製作していましたが、希望の周波数に合わせるのがたいへんクリチカルであったことから、使用するバリコンの容量を減らし、1個のみと使用しています。

最近は、バリコンの入手が難しく、こういった製作記事を掲載しても部品入手が困難で製作を断念されるケースが多いと聞いています。とりあえず今回は、手持ちのバリコンで製作してみましたが、また別の機会にバリコン以外の部品を用いてMLAを製作したいと考えています。

メインループの調整

製作したメインループをマッチングボックスに取り付けます。ディップメーターのコイル部をメインループの輪の中に接近させると直径40cmもあるループがRLC共振回路として動作します。まずは、バリコンのローターを半分程度ステーターから抜いた状態で図8のようにディップメーターを使って共振点を探ります。

注意深くディップメーターの調整ダイヤルを回しますとディップ点(共振点)を見つけることができます。筆者の使っているディップメーターは、三田無線研究所製のDELICA HAM-DXです。


図8 メインループの共振周波数をディップメーターで測定する

50MHzよりはるか下の周波数に共振点がある場合は、バリコンを調整した程度では共振点を50MHzまで持ち上げることはできないと思います。この場合は、面倒ですが、同軸ケーブルを若干短くする必要があります。ここで図4の右側に示したM型コネクタが役に立ちます。

要は、バリコンのローターを半分ぐらい抜いた状態で50.200MHzに共振するようにすれば、あとは運用周波数が変わってもバリコンの調整で50MHzのバンド内はカバーできると思います。

バリコンの調整が非常にクリチカルである場合は、バリコンの容量が大きすぎます。その場合は、バリコンのローターとステーターを外してバリコンの容量を低くすると軽減されると思います。

給電ループの調整

メインループをマッチングボックスに取り付け、さらに給電ループをメインループに電磁誘導するように近づけて調整します。できあがったMLAの同軸ケーブルの先端には図9のようにアンテナアナライザーやネットワークアナライザーを接続します。


図9 給電ループの調整

給電ループのループ長を調整してアンテナアナライザーでSWR値を最低にします。このループ長の調整もBNCコネクタをRG-58A/Uから外して同軸ケーブルを調整します。筆者が製作した図9のMLAでは、50.200MHzでSWRは1.1まで追い込めることができました。メインループと給電ループとは結束ファスナーで動かないように接続しています。

IC-705を50MHzで受信状態に設定します。MLAのバリコンを回すとIC-705のスピーカーから出るノイズ音が変化します。最大となる点がMLAのマッチングが取れた状態です。ピンポイントでマッチングを取るためにIC-705をRTTYモードにして、送信状態で調整します。IC-705のディスプレイでSWR値を観測できるようにセットし、その状態でRTTYモードで送信しながらバリコンをゆっくり回すとSWRがストンと落ちるところがあるはずです。

あとがき

部屋の中で調整したMLAを屋外に持っていくとたちまちSWRは3以上となりました。SWRの調整を行うためにIC-705で送信しながらバリコンを回してSWR値を最低にするのですが、SWRが最低になったからといってバリコンのツマミから手を放すとSWRは悪化してしまいます。運用周波数、設置するアンテナの環境、あるいは人体とアンテナの距離などの影響をものすごく受けるアンテナであると感じました。

この製作したMLAはよく飛ぶアンテナであるのかどうかはまだ、十分に比較テストを行っていませんのでよく分かりません。他のアンテナとの比較テスト、それに入手しにくいバリコンの代わりとなるものでMLAを製作するといった課題は積み残しとなりましたが、別の記事で結果報告をします。

CL

参考文献・資料
電波社 HAMworld 2019年11月号、2020年1月号、2020年3月号、2020年5月号 「電磁界アンテナとの出会いから今日まで」
CQ出版社 CQ ham radio 別冊 QEX No. 25 入門作って学ぶMLA

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