Monthly FB NEWS 月刊FBニュース 月刊FBニュースはアマチュア無線の電子WEBマガジン。ベテランから入門まで、楽しく役立つ情報が満載です。

My Project

第41回 自立型 ダイアルチューニング式 マルチバンドHFアンテナの製作

JP3DOI 正木潤一

2024年12月2日掲載


「ちょっと波を出してみようか」というぐらい気軽にHF帯を運用できたらいいなという想いをカタチにしました。「エレメントの自立」「クリチカルチューンによる低SWR」「長エレメントによる実用的な飛び」という3要素を盛り込んだアンテナです。

設置場所を選ばない自立型なので展開/撤収が早くて簡単。弱いアースでもSWRが下がる連続チューニング方式。エレメントを縮めることなくSWRを下げられます。エレメントに触れないので送信しながらでもチューニング可能です。

自作に至った経緯

私の主観ですが、市販のポータブルHFアンテナで「気軽に運用する」にはいくつか欠点があると思います。

  • 1. 送信しながらチューニングが取れない。(エレメントやラジアルに触れると同調がズレるため)
  • 2. エレメントが自立しないのでカメラの3脚などが別途必要となり、運搬や設置、撤収が迅速とは言えない。
  • 3. エレメント長(物理長)の調整によるチューニングは放射効率を犠牲にしていそうな感じがする。
  • 4. ローディングコイルのタップ位置切り替えに使うショートプラグを忘れたり紛失したりしそう。

仕様

周波数: 7/14/18MHz
SWR: 同調点にて1.5以下(環境により多少異なる)
耐入力: 10W(SSB)
エレメント長: 約3m(展開時)、約50cm(折り畳み時)
型式: 1/4λ短縮型(連続可変インダクタンスローディング)


治具の製作

加工し易くしたり加工精度を上げたりするため、かんたんな治具を2つ作って使用します。

・加熱ごて
チューナー本体の電線管(塩ビ製)に細長いスリットを綺麗に開けるには、半田ごてで加熱して溶かします。その加工のために、L型アルミアングルを使った治具を作成します。指定の長さに切り取ってヤスリで端をできるだけ鋭利にしておき、両方から押し曲げてあいだを狭め、真ん中に穴を開けます。


使い方: 穴に小手先を挿して加熱しながら塩ビパイプにゆっくり押し当てる。

・パイプ溝入れ
アルミパイプに溝を入れるには、パイプカッターを改造した治具を使います。パイプカッターの歯を外して1mm厚のM4ワッシャーに入れ替えるだけです。


使い方: アルミパイプを挟み、少しづつ力を加えながら回して1mm幅×約0.5mm深さの溝を作る。

使用部材

チューナー部:
・J管チーズ(電線管用)×2
・電線管(18cm使用)
・TSカップリング(電線管用)
・TSユニオンソケット(水道管)
・M2.6×5mmネジ×7
・M4ネジ
・M4スプリングワッシャー
・ポリウレタン銅線(0.5mm径)2m
・卵ラグ(M2.6用)×3
・ツメ付きナット
・スプリング(外径18mm) (Amazonで検索)
・M3×10mmイモネジ
・M3貫通化粧ナット
・フェライトコア(ZCAT2132-1130)
・3mm幅両面テープ
・15㎜両面テープ(強力タイプ)

ベース部:
・バイポッド(出来るだけ長い物) (Amazonで検索)
・樹脂製ピカティニーレール(5スロット) (Amazonで検索)
・M4×8mmネジ
・M4ナット
・M4内歯ワッシャー
・M4ワッシャー
・ピンジャック
・M3×10mmイモネジ

エレメント:
・4mm径アルミパイプ(1m)×2本
・5mm径アルミパイプ(1m)×1本
・6mm径アルミパイプ(1m)×1本
・金属スペーサー(4×35)×3
・金属スペーサー(5×35)×3
・金属スペーサー(6×50)×3
・金属スペーサー(6×30)×1
・金属スペーサー(6×50)×3
・M4両ネジスペーサー(M4×8mm)×1
・銅線(0.8mm径)×適量

ケーブルアッセンブリ―部:
・タカチケース(SW-40B)
・BNC端子付き3D同軸ケーブル(50cm程度)
・ビニール線(カウンターポイズ用)(2.5m)×2
・ピンプラグ
・56pFと100pFリードコンデンサ(高耐圧品)

部材の加工

図のように塩ビパイプを加工します。水道管用の『ユニオンソケット』以外は未来工業製の配線管です。同社の配線管はカラーバリエーションがあり、見た目にこだわることができます。


未来工業製の配線管。筆者は「ベージュ」と「チョコレート」を使用。


4種類のパイプを加工する。

本体パイプの穴あけ位置のケガキには精度が求められるのでテンプレートを使います。原寸大で高品質モードで印刷して切り抜いてパイプに貼り付けます。


印刷したテンプレートをパイプに巻いた様子。

ダウンロードはこちらから。(等倍で高品質印刷してください)

本体パイプの加工

このアンテナは、本体パイプの内側に入れたフェライトコアを上下させ、パイプの外側に巻いたローディングコイルのインダクタンスを増減させることでチューニングをおこないます。運用バンドの選択は、パイプ内部に設けた導通接点を選択することで、ローディングコイルのタップを切り替える仕組みです。

フェライトコアを上下させる(インダクタンスを増減させる)ためのジグザグのスリットと、バンドスイッチを回転させるための水平のスリットを設けます。開けたスリットに沿ってM3ネジをスライドさせるので、ヤスリをかけて滑らかにします。なお、裏側には基部を取り付けるための縦向きのスリットも開けます。


治具を使ってチューニング用のスリットを開ける様子。テンプレートを使って開けた3mmの穴同士を繋ぐようにスリットを開ける。


スリットにヤスリをかけて滑らかにし、M3ネジがスリットに沿ってつかえることなくスムーズに動くことを確認する。


バンドダイアル用のスリットは、3つ並んだM2.6ネジ穴の上を水平に開ける。
バンドスイッチ用スリット(上部)とチューニング用スリット(下部)


裏面基部のスリット。

<参考: なぜギザギザのスリットか?>

本アンテナはローディングコイル内にフェライトコアを挿入してインダクタンスを可変する仕組みです。内部にあるフェライトコアはダイアルの動きに合わせてコイルに挿入されますが、その変化量はダイアルの動きを誘導するスリットの形状(ギザギザ)に合ったものとなります。

仮にスリットが縦直線だった場合、フェライトコアの位置を微調整することは難しく、僅かに動かしただけでインダクタンスがたいへん大きく変化することになり、同調ポイントに合わせることが極めて困難になります。

そこで、スリットをギザギザにすることでわざと遠回りさせて上下の変化量が小さくなるようにしています(ギア比による減速と同様)。なおかつ、ダイアルから手を放してもフェライトコアの重みで下がることなく、合わせた位置を保つことができます。

本体の組み立て

チューナー本体となるパイプの内部にチューニングのためのフェライトコアやタップ切り替え接点となるバンドスイッチを収めます。外側にリング状のダイアルを通し、それを回すことで中のフェライトコアやスイッチを動かせるようにします。



バンドスイッチ。先を切り取って曲げた卵ラグが、本体パイプに付けたM2.6ネジとの接点になる。一旦イモネジが完全に隠れるまでスイッチ内まで回し入れ、パイプ内に入れてスリットから出すことでパイプ内に固定される。


フェライトコアはカバーから取り出し、3mm幅両面テープで向かい合わせにして貼り合わせる。


バンドスイッチと同様、イモネジを緩めて頭をスリットまで出すことでスリット内に固定する。



イモネジを緩めていくと頭がダイアルの穴から出る。こうすることでダイアルと内部のスイッチ/スライダーが固定される。



4か所のM2.6ネジ穴に加え、ビニール線を通すための1mm程度の穴も開ける。ビニール線に半田付けした卵ラグを、4か所のうち1つのネジで共締めする。


エレメント接続部と本体パイプ接合部はビニールテープをきつく巻いて固定。


0.5mmウレタン線を隙間なく下から上に巻きつけていき、巻き始めから11回目と4回目でそれぞれ卵ラグと半田付けする。巻き終わりは裏側から出した、エレメント取り付け部からのビニール線とハンダ付け。

<参考: 巻き線コイルの保護>
コイルが何かの拍子にほどけないよう、上からテープを貼ったり熱収縮チューブを被せたりすることをお勧めします。

・基部の加工
基部に『ピカティニーレール』と呼ばれるNATO標準規格の汎用取り付け具を付け、2脚を付けられるようにします。2脚は出来合いの物で、モデルガンの“バイポッド”を利用します。Amazonなどでなるべく足の長い物を購入します。


・本体への基部の取り付け


組み立てたチューナー本体の下から出ているビニール線をピンジャックの端子にハンダ付けし、チューナー本体に基部をしっかり差し込みます。

・バイポッド(2脚)の取り付け


バイポッド側の溝をピカティニーレールの溝にはめ、ネジを回して固定する。

・エレメントの加工
エレメントは、7パートに分かれたアルミパイプをショックコードで繋ぐ構造です。パイプ同士をまっすぐ確実に接続させるため、各パートにスペーサーを取り付けます。アルミパイプのカットには必ずパイプカッターを使用します。





#7のパイプに、チューナー本体と接続するM4ネジ付きスペーサーを付ける様子



・ケーブルアセンブリの加工
※必ずしもこの図の通りでなくて構いません。要は、同軸の芯線をピンプラグに付け、芯線とGNDにコンデンサ、GNDに2本のカウンターポイズを付ければOKです。


使いかた

エレメントを本体に取り付けて完全に伸ばします。ケーブルアセンブリを取り付けてカウンターポイズを伸ばし、無線機に接続します。


エレメントをネジ穴にあてがえて回して取り付け、ケーブルアセンブリを取り付ける。

[バンドダイアル]を押し上げながら回して運用バンドに合わせ、[チューニングダイアル]を左右に回しながら上下させてノイズが最も大きくなるように調整します。各バンドでSWRがおおむね1.5以下ならばOKです。QSYした際は再び微調整してみます。


[バンドダイアル]を回して運用バンドに合わせ、[チューニングダイアル]を左回してノイズが最も大きい点にセットする。

飛びについて

このアンテナは、エレメントが市販のポータブルアンテナよりも長く、インダクタンスの微調整で鋭くチューンすることもあり、飛びも悪くないようです。製作してから実際に運用した回数は少ないのですが、1エリア(@7MHz)、3エリアから7エリアと8エリア(@7MHz)の交信実績(いずれも5W SSB)があります。

自立させるために少し斜めになることから指向性が出ていると思いますが、逆にそれを活かすことができれば最大能力を引き出せるかもしれません。
※当局は3アマのため14MHzでは運用できません

最後に

このアンテナの特徴である連続可変インダクタンスは、弱いアースでもSWRがしっかり落ちます。私が好きな7MHzで最も低くなるように定数を設定していますが、[バンド選択ダイアル]を回してコイルのタップ位置を切り替えることで18MHzまで低いSWRを実現させています。[バンド選択ダイアル]もチューニングダイアルと同様の構造です。ダイアルを一旦上げて回して下ろすことで内部の接点端子によりコイルのタップが切り替わる仕組みです。

カウンターポイズは2.5m×2本ですが、これでも7MHzにおいても十分にSWRが落ちます。地面、アスファルト、屋上、室内と、あらゆる場所や環境で試しましたがダイアルチューンによって(多少差はありますが)おおむね1.5程度にまで下がりました。すなわち、広い適応範囲を持っています。実はこのことはこのアンテナの製作と検討においても重要なことです。というのも、特性の測定やテストを屋外の、しかも開けた場所でなくては出来なければ、たいへん効率の悪い作業となります。HF帯は特に波長が長いので周辺の導体や樹木などの影響を受けます。しかし、そのような影響を吸収できる仕組み、すなわち広い連続チューニング幅を持たせれば、実際の使用に近い環境でなくとも検討や測定が可能となります。

2脚は出来合いの物で、モデルガンの“バイポッド”を利用しています。アンテナ本体には『ピカティニーレール』と呼ばれるNATO共通規格の汎用取り付け具を付けています。これは現代の銃器に付いているもので、ライフル銃などにライトや持ち手、光学機器や2脚などを取り付けるプラットフォームです。銃の2脚というものは頑丈かつ軽量で折り畳めるようにできているので、ポータブルアンテナに使えると思いました。

アンテナ本体とT字のベース部にはPVC管を使っています。いわゆる塩ビパイプと同様ですが、紺や灰色などではいかにも「水道管」ですので、同様のものでカラーバリエーションのある『電線管』を選びました。スリット(開口部)開けとツメ付きナットの取付けはハンダこてを使った熱加工をおこないました。エレメントにはアルミパイプを使っていますが、材質上ハンダ付けができないため、改造したパイプカッターで窪みを作ってそこに銅線を巻き、それに一回り太いパイプをハンダ付けすることで継ぎ目の部分を実現させました。当初はハンダの乗る真鍮パイプを使っていたのですが生産終了してしまい、アルミのパイプしか入手できなくなったために考えた方法です。

当局にとって移動運用は、出来るだけ身軽で早く設営、撤収が出来ることが重要で、そのための最適化を図って来ており、それがまた自作の楽しみになっています。エレメントのコンパクト化やケーブル接続の簡素化がそれです。柵や木立を利用してワイヤーアンテナを展張したり、ポールを立てて釣り竿アンテナを使ったりと、運用場所が限られたり装備が大掛かりになったりしがちなHF帯の運用は特にチャレンジだと思っています。

当局は『駅前QRV』のように「出先での空き時間に少し波を出してみる」ことをHFバンドでしたかったので数年前から構想していました。実現には「アンテナの自立」と「場所を問わずSWRを下げられること」、かつ「実用的な飛びにはエレメント長が必要」ということがポイントだと分かりました。その3要素を加えたのが本アンテナです。

My Project バックナンバー

2024年12月号トップへ戻る

サイトのご利用について

©2024 月刊FBニュース編集部 All Rights Reserved.