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HW Lab

第4回 LEDを光源とする可視光線による通信実験(前編)

JH3HWL 箭野佳照

2025年3月17日掲載


電波は電磁波の一種とも呼ばれているように、光も電磁波の一種です。日本の電波法では、電波は300万メガヘルツ以下のものと定義されています。それ以上の周波数の電磁波、例えば可視光線を含む光は電波とは呼びません。それは、光の波長はナノメートル(10のマイナス9乗メートル)で、λ=c/fの公式で周波数を計算すると、300万メガヘルツよりはるかに高く400THz~790THzであることで理解できます。したがって光は電磁波の一種ですが電波とは呼びません。(cは真空中における光速 c≒3×108m/s)

とはいえ、気になるのが「電磁波」という言葉です。この電磁波に変調を掛けて通信はできないかということで実験を行いました。今回はその前編。LEDの光を使ってデーターを離れたところに伝送する実験を行いましたので紹介します。

可視光線による通信の概要

海上に浮かぶ二隻の船の甲板でお互い、大きなサーチライト(探照灯)のようなものを相手の船に向け、ライトの点滅で通信を行っている様子をテレビや映画で見ることがあります。この探照灯の前面を覆ったり、開けたりすることで光の断続を作ることで可視光線による通信が行われています。この探照灯は発光信号機とも呼ぶそうです。たいへん原始的な方法ですが、現在の海上保安庁の巡視船にも搭載されています。(図1)

発光信号機による通信は相手の船舶と、光の断続で通信を行うもので、私たちの無線でいうなら搬送波の断続で通信を行うCWのような感じです。


図1 海上保安庁 巡視船かつらぎ 天保山にて(2025.3.6筆者撮影)

一方、光ファイバーケーブルを使った通信もあります。船舶の発光信号機の光がいくら強力であったとしても光は地平線の向こう側にまでは届きません。光ファイバーケーブルの中に光を通すとファイバーの中を光が反射しながら遥か遠方にまでほとんど減衰せずにその光が到達します。両者とも光を媒体とした通信の一種です。

今回の実験は正にこの可視光線を使った通信です。送信側の光源にはLEDを使い、受信側のソーラーパネルで受けた光を電気信号に変換します。どちらもすぐに入手できるもので実験を行います。


図2 LEDを使った可視光線による通信実験の概要

本前編は、光源にLEDを使ったこともあり、情報の到達距離は1mぐらいでした。それでも光にオーディオ信号で変調を掛け、その情報を受信側に伝えることができました。

受信側のソーラーパネルの出力

ソーラーパネルは、光を電力に変換する装置です。ご存じのように再生可能エネルギー源として利用されています。今回使用したソーラーパネルは、図3に示すような超小型のものです。


図3 使用した受信側のソーラーパネル (サイズ67mm×41mm)

出力端子に1mAの電流計を接続して、太陽光をソーラーパネルに当てると、メーターは振り切れます。また、出力のリード線に直接LEDを接続すると、しっかりと点灯します。


図4 ソーラーパネルにLEDを接続すると点灯する

さらに図5に示すようにソーラーパネルの前面にフラッシュライトを置き、そのライトをON/OFFさせるとLEDはそのON/OFFに追従してLEDは付いたり消えたりします。フラッシュライトのON/OFFを結構なスピードでON/OFFしてもLEDの点滅はそれに反応します。人間の指でON/OFFを繰り返してもせいぜい1秒間に数回というところでしょうが、1秒間に1000回、つまり1kHzの信号もソーラーパネルは検知してそれを電気信号に変換します。


図5 フラッシュライトのON/OFFに追従してLEDは点いたり消えたりする

また、フラッシュライトの明るさを変えると、受信側のLEDの明るさも変化します。発電量が増減していることが分かります。つまり、光のレベルで発電量が変わります。

ここで大きな声を出すと強く光り、小さな声では弱く光るようなものを送信側で準備すれば、その光を受けたソーラーパネルは、送信側の光の強弱に応じて、電気信号を出力するはずです。

送信側で音の強弱を光の強弱に変える

光源をLEDとしました。LEDの光量は低いですが、低い電圧と少ない電流で点灯することに加え、流れる電流の増減による発光する光量の反応も半導体であることで速く、実験段階では扱いやすく問題なしと思います。図6にその変調回路の原理図を示します。

LEDの種類にもよりますが、実験で使用したものはごく普通の10mA程度でけっこう明るく点灯するものです。LEDの接合電位差は、概ね2VとしてLEDと直列に接続する抵抗値を求めます。電源電圧を5VとするとR=(5-2)/(10×10-3)=300Ωとなります。抵抗値の加減で330Ωを採用します。


図6 LEDの光に変調を掛ける回路

図6のようにAF信号はコンデンサーを通してLEDに加えます。AF信号の強弱に応じてLEDが点灯しているはずですが、私たちの目ではそのスピードを追うことはできず、常に点灯しているように見えます。ここまでが送信側の装置の準備です。

送信側の音源(AF信号)

送信はマイクに向かって「本日は晴天なり」といえばよいのですが、そうすると別の操作ができませんので、送信のAF信号は800HzぐらいのシングルトーンとメロディーICで作ったミュージックとしました。また、実際にマイクに向かってしゃべる音でも変調を掛け、それが受信側で検波できるかどうかも確認したかったため、ECM(Electret Condenser Microphone)を接続し、その信号を増幅するマイクアンプも組み込みました。

図7に今回の実験で使った全回路を示します。変調の掛かった音が光に重畳されて伝送される実験だけを簡単に行いたい場合は、74HCU04のインバーターで作ったシングルトーンの回路の製作だけで十分と思います。また、ECMおよびその増幅回路も不要です。

可視光線通信の送受信回路

回路図は送信側と受信側に大別できます。受信側はソーラーパネルの出力端子をAFアンプに接続しているだけの単純なものです。AFアンプは、月刊FB NEWSの2月15日号で紹介したものです。

送信側のAF信号で変調された光はD4のLEDで発光します。D4はハンダ付けせず、いろいろな種類のLEDが接続できるようにソケット式にしています。

電源のON/OFFスイッチは付けていません。J1に電圧を印加すると回路が動作するように簡略化しています。


図7 可視光線通信の全回路

送受信回路の組み立て

図8は、図7の回路を樹脂ケースに組み込んだものです。製作的に特に難しいところはありません。RFのように回り込みを気にする必要もないので、アース周りもいい加減に製作しても特に問題はありません。


図8 可視光線通信装置(送信部)の外観

電源部は78L05の三端子レギュレーターで5Vを作っています。IC2、IC3、IC4、それにD4の送信LEDを動作させると100mA程度流れます。78L05のスペックでは出力電流は100mAとなっているのでギリギリです。回路を動作させると78L05は熱を持ちますので、もし同等の回路を製作されるようでしたら、十分な電流が取れる三端子レギュレーターを選択されることをお勧めします。


図9 可視光線通信の送信部の内部

通信実験

図10のように送信装置と受信装置を40cmぐらい離して設置します。送信側に電源を印加し、受信側のアンプの電源をONにするとアンプのスピーカーより音源の音が鳴ります。LEDの光を手で遮るとアンプの音は止まります。光を媒体にして情報が届いていることが分かります。

実験を行っている部屋の照明を少し落とすと送信装置のLEDから発せられる光が音源の強弱によって光の強さが変化していることが分かります。光を媒体にして振幅変調が掛かっています。実験の様子をビデオ撮影したものが図11です。クリックすると始まります。


図10 完成した装置で可視光線による通信実験(ソーラーパネルにLEDの光が照射されている)


図11 通信実験の動画(クリックで動画再生します)

考察

コンデンサーマイクを接続し、音声の情報を光に載せて伝達する実験も行いました。きれいな音とは言い難いですが、しゃべっている内容は十分了解できました。送信装置と受信装置の距離を離していくとスピーカーから出る音が徐々に小さくなります。1mぐらいにするとかなり小さくなりますが、アンプのボリュームを最大にするとまだ聞こえました。

送受信間が1mぐらいでも、送信側のLEDの前に虫眼鏡(凸レンズ)を置き、LEDの光源の焦点がソーラーパネルの中央に集まるように凸レンズを動かすと、40cmぐらいの距離の時と同じぐらいの大きな音となりました。

受信側で発生する電力はソーラーパネルの大きさではなく、ソーラーパネルの表面に照射されている光の束がどれくらいかで決まるようです。参考ですが、A4サイズのソーラーパネルに変更して同じ実験をおこないましたが、受信側で発生する電力に変化はありませんでした。

光源のLEDの色によって受け側の状況はどのように変化するかも調べましたが、色の変化で通信距離が伸びることはなく、むしろLEDのレンズによる光の広がりが少ない方が通信距離は伸びました。これは無線のアンテナと同じ原理だと思います。

図12にLEDの種類による発光ビームを示します。写真を見ると一目瞭然ですが、③、⑥、⑦、⑧、⑨のLEDは、通信距離は1mぐらいまで伸びました。白色の③番、青色の⑥番、それに赤色の⑨番のLEDは、さらに通信距離は伸び、1.5mぐらいまで通信はできました。


図12 LEDの種類による発光ビーム

今回は光に変調を掛けて通信を行いました。通信距離は1m程度でしたが、次回は通信距離を伸ばす方法を考え、後編に続くようにします。

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