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今更聞けない無線と回路設計の話

【テーマ2】デシベルと無線工学
第19話 レベルダイヤグラムの縦軸(その3)

濱田 倫一

2026年5月1日掲載

3. 実際のレベルダイヤグラムを見る

最後にADCの入出力でレベルダイヤグラムの振幅軸(縦軸)はどのように繋がるのか。第18話で使用した「一気通貫で作成したレベルダイヤグラム」(図6)を用いて解説します。第18話で述べましたが、AさんからBさんまでの通信路において、アナログ信号とデジタル信号の境界が存在するのは「①音声入力」「②変調」「④復調」「⑤音声出力」の各区間です。このうちADCが存在する・・・ すなわちアナログ信号からデジタル信号への変換回路が存在するのは「①音声入力」と「④復調」の区間になります。


図6 一気通貫で作成したレベルダイヤグラム

(第18話の図1※2に加筆。下方は省略)

このうち「①音声入力」区間(①音声回路と①’コーデック(エンコーダ)の一部、図6の黄色太線で囲った部分)のみを抜き出して解説したのが図7、「④復調」区間(図6の黒い太線で囲った部分)のみを抜き出して解説したのが図8になります。


図7 レベルダイヤグラムから①音声入力ADC部分を抜粋(図6の黄色矢印部分)

「①音声入力部」はマイクロホンからの音声信号を増幅してAD変換する区間です。AD変換に関する計算情報はExcelのJ列「ADC」以下に記載されています。ここではデジタル変換後の信号処理空間を12bitとし(76行目)、12bitのADコンバータを採用する想定にしています。ADコンバータへのアナログ入力電圧の最大値はデバイスのVREFの大きさで決まります。ここではVREF=2.0[V]のデバイスを採用する想定としているので等価飽和レベルPSAT(デジタル出力が0[dBFS]となる入力レベル)は(式2-1)を用いて、


(式3-1)

となります。この計算はセルJ80に埋め込んでいます。セルJ80だけ文字が斜体になっているのは、他のセルが基本的に当該回路ブロックの出力端子のレベルを示しているのに対して、この項目だけが入力端子のレベルを示している為、識別の目的で斜体としたものです(特に決まったルールがあるわけではありません)。80行目のPSATとは増幅器の飽和レベルを示す言葉ですが、(式2-1)の解説で述べたとおりADCにおいては、入力電圧がこの値を超えると飽和、またはオーバフローが起きるので、便宜上同列として扱っています。音声信号のPAPR(第13話参照)が6dBあると想定して、先ほどのPSATから6dB低い114[dBµV]をADCの平均入力レベルとします(Excelの57行目と59行目)。つまりデジタル変換後の信号の大きさは-6[dBFS]です(Excelの60行目)。一方でマイクロホン(MIC)から入力される音声信号は平均値で70[dBµV]、従って増幅部には44dBの電圧利得が要求されます(Excelの58行目と59行目)。トランジスタ増幅器1段あたりの利得は20dB程度なので、図7に示す通りLNA+ゲインブロック1段のアンプ構成を想定しました。またこのときのADCへの雑音信号の入力レベルは64.1[dBµV](-55.9[dBFS])(Excelの62,63行目)であるのに対して量子化雑音レベルは-72.2[dBFS]※3(Excelの77行目)で、約16dB下回る値(約1/6の振幅)になっており、入力されるアナログ信号のSNRに対して妥当なビット数(殆ど影響しないレベル)だと判断出来ます。なお雑音レベルの考え方は後日詳しく解説します。


図8 レベルダイヤグラムから復調器ADC部分を抜粋(図6の黒矢印部分)

続いて「④復調部」は受信機のI-Q DEM(直交検波器)のアナログベースバンド信号をAD変換し、後段のQPSK復調部にて隣接チャネル除去(フィルタリング)、振幅スケーリング、搬送波周波数再生(AFC)、ビットタイミング再生(BTR)、QPSK硬判定(デジタルデータ列の抽出)を行う区間です。AD変換に関する計算情報はExcelのAA列「ADC」以下に記載されています。ここではデジタル変換後の信号処理空間を12bitとし(76行目)、12bitのADコンバータを採用する想定にしています。ADコンバータへのアナログ入力電圧の最大値はデバイスのVREFの大きさで決まります。ここではVREF=1.0[V]のデバイスを採用する想定としているので等価飽和レベルPSAT(デジタル出力が0[dBFS]となる入力レベル)は(式2-1)を用いて、


(式3-2)

となります。この計算はセルAA80に埋め込んでいます。後日詳しく触れますが、当該部分は音声入力区間と異なり、目的信号以外の信号(隣接チャネルの信号など)が合成された状態で入力される事、ならびに目的信号の受信レベルが大きく(数10dBオーダ)変動するため、回線設計ポリシーに従ったバックオフレベルの設定が行われます。ここでは結果のみの紹介になりますがPSATから42.7dB低い71.3[dBµV]をADCの平均入力レベルとしています(Excelの57行目と59行目)。つまりデジタル変換後の信号の大きさは-42.7[dBFS]です(Excelの60行目)。一方で受信機のここまでの雑音振幅は平均値で53.3[dBµV](-60.3[dBFS])(Excelの62,63行目)であるのに対して量子化雑音レベルは-72.2[dBFS](Excelの77行目)で、約12dB下回る値(約1/4の振幅)になっており、入力されるアナログ信号のSNRに対して妥当なビット数(若干劣化に寄与するレベル)だと判断出来ます。

4. 第19話のまとめ

第19話では、一気通貫で作成したレベルダイヤグラム※2の「①音声入力」「②変調」「④復調」「⑤音声出力」の各区間の縦軸目盛についての解説の第2回として、AD変換(ADC)の原理とレベルダイヤグラム上でADCを挟んだ前後のレベル配分の設計について解説しました。以下第19話の要点です。

  • (1)一般的なADコンバータ(ADC)の最大入力電圧(フルスケール電圧: 0[dBFS])は、通常VREF端子に加える基準電圧の値に等しくなる。
  • (2)一般的なADCの最小入力電圧は0[V]なので、交流信号を変換するためには直流バイアスを加える必要がある。一般的には ⁄ 2の直流バイアスを加えてサンプリングし、変換出力から2N-1を引き算して2の補数表記に変換する(N:変換ビット数)。従って交流電圧の最大入力電圧(フルスケール電圧)は ⁄ 2[VPEAK]([VP−P])である。
  • (3)差動入力を備えたADCでは、差動信号で±の電圧をデジタル変換可能で、この場合は外部のバイアス印加は不要。±の入力電圧を2の補数表現で−2N−1 ~ 2N−1−1に直接変換できる。
  • (4)マイクロホン信号のように他の信号が干渉せず、信号レベルに幅が存在しない場合※4は、SNRを劣化させない観点から、信号のPAPRに相当するバックオフを確保してできるだけ大きな信号レベルでAD変換を行う。
  • (5)無線通信機の受信信号のように隣接チャネルの干渉信号などが存在し、自信号も送信局との距離でレベル変動が生じる場合は、これらのレベル変動で歪みが生じないよう、最大振幅PSATと自信号のレベルの間に余裕を持たせる必要がある。この場合量子化雑音レベルが信号レベルに近づくことになるので、復調器が要求するSNRを確保する観点から、必要に応じてADCのビット数を増やす必要が生じる。

第20話ではDA変換について解説します。

  • ※2  第16話第18話で配布した解説用のレベルダイヤグラムを第19話で改訂しました。Excelシートはこちらからダウンロード可能ですので、必要に応じてExcelシートから計算内容等をご確認下さい※3。改訂箇所は以下の通りです。
    ・レベルダイヤグラムグラフ上で量子化雑音の表示設定が漏れていましたので、今回設定を修正しています。
  • ※3  ダウンロードされたExcelシートに関するご質問についてはご容赦ください。Excelシートの内容に関する知的財産権その他一切の権利は筆者濱田倫一に帰属します。月刊FB NEWS編集部は筆者濱田倫一の許可を得て本件記事を掲載しております。また筆者、ならびに月刊FB NEWS編集部は、これらExcelシートの二次使用に伴う一切の責任を負いませんので、あらかじめご了承ください。なおExcelは米国マイクロソフト社の商標です。
  • ※4  実際にはマイクロホンが拾う音声レベルも送話者とマイクロホンの距離で変動するので、増幅部にALC回路やレベルリミタ回路を設けて一定のレベルに自動調整するのが一般的です。

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