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無線をせんとや生まれけむ。

第三話 IC-7851とRX-340を聞き比べる

無線(CQ)をせんとや生まれけむ。
短波(ラジオ)聞かんとや生まれけん。
呼ぶ、かの局の信号(こえ)聞けば
我が身さえこそゆるがるれ。

JF3SFU 永野正和

皆さま、いかがお過ごしですか?
2020年、気が付けば2月も後半戦。早いですねぇ。1月は去ぬ(“いぬ”。いなくなる。時が去ってしまうという意味の関西弁)、2月は逃げる。3月は去る(“さる”)のだそうで、あせってしまいます。しかしながら、お空のコンディションはもう春の感じで、わくわくしますね。(本稿を書いているのは2月です。)

さて今月は、日本のICOM製IC-7851と、米国のTENTEC製のRX-340のBCL的受信性能について、聴いてみたい放送局を受信しながら比べてみようと思います。

IC-7851の製品価格は、RX-340の2倍を少しこえますが、これは送信機部と受信機部を備えたトランシーバですので仕方のないところです。しかし、使用していますと、その受信機部は、上級受信機をも超える実力を持っていると実感します。かたやRX-340も極めて優秀な受信機ですので、BCL目線での、この2台の比較は大変興味深いです。

まずは、RX-340について、少しだけご紹介をさせてください。この受信機は、米国テネシー州にあるTENTECの製品です。当時、この受信機を使っている日本のBCLはとても少なく、製品性能の情報もあまりなかったのですが、2003年5月、TENTECから個人輸入しました。RX-340は、ホビーユーザ向けの受信機というよりも、業務用の受信機であり、米国政府機関でも使用されていると聞いたことがあります。現在、販売されている受信機のなかでもトップクラスの一台であるといえます。そして、その外観/操作パネルは大変ノーブルでありシンプルです。


RX-340フロントパネル

周波数表示は、LCDではなく、7セグメントと8セグメントのLEDです。また、メインの周波数表示の左側にある上下2つの情報窓も1文字あたり横5ドット、縦7ドットで表示される、横16文字列、縦2文字行のLEDです。表示色はご覧の様なスカイブルーで、これらのLED表示は部屋の明かりを少し落としますと、ほれぼれするほど美しく、ドレークSPR-4のVFO窓の照明に匹敵するのではないかと思います。受信性能とは関係のないところではありますが、趣味の道具として、このような感覚は大事かなと思います。

Sメータはアナログで大変見やすく、各ボリューム、スイッチ類は基本的にはそれぞれ単機能であり、直観的で、操作性は良好です。RX-340を使いだしてから17年になりますが、不具合や故障は全くありません。壊れないということも性能の一つだと思います。

ところで性能と言えば、電子機器の総合性能は、構成要件の細かい数値データの向上の積み重ねと申します。しかし、今回は、数値データがもたらす先入観を排して、実際のBCLのシーンでの聴感上の性能を比較したいと思います。IC-7851は言うまでもなく、現在製造されているアマチュア無線用トランシーバとして、最高峰の機器ですが、「BCLが使う受信機」として使用した時、面白い発見があるのではないかと思います。


IC-7851フロントパネル

今回の評価では、受信専用アクティブループアンテナのALA1530を2分配して使用します。スピーカーは音の良いICOMのSP-34を使います。そして、それぞれの機器に搭載されている機能を活用し、ベストな状態で同一放送を聴き比べ、受信状況を評価します。 では、スタートしましょう。

強い局を聴いてみる/HCJB日本語放送


解説:
大好きなHCJBの日本語放送です。大変強力に入感していますので、特に何かの細工をする必要はありません。両機とも大変良好に受信できます。SINPOの最終評価に大きな影響を与えるほどではありませんが、オーディオ(受信音)に関して、両機を比較しますとIC-7851の方が聴きやすく、疲れません。また、SINPO評価としてはNの値で、IC-7851が一歩リードしています。受信信号は同じくらいで入感しています。強い局の受信シーンにおいては、音の輪郭がはっきりしつつも、聴き疲れしないIC-7851の高品位な受信音に一票です。

最近話題のちょっと珍しい局を聴いてみる/Radio Ndarason International


解説:
アフリカ大陸西岸と南アメリカ大陸東岸の中間点あたりに位置するアセンション島からの放送です。この島の南東1000kmのところには、かつてナポレオンが幽閉された島、またBCLにとっては、年に一度の七夕放送で有名だったセントヘレナ島があり、周辺の島々と英国の海外領土を構成しています。アセンション島にはBBCの送信所があり、そこから放送をしています。資料によると、放送言語は、ナイジェリア、ニジェール、チャド、リビアなどで話されるカヌリ語です。何を話しているのかさっぱりわかりませんが、流れてくる音楽は楽しめます。南海の孤島からの放送ですが、さすがBBCの送信所です。125kWの出力で、比較的良好に聞こえます。

ところが、この放送チャンネルの5kHz上、9540kHzにCRI(China Radio International)が高出力で放送しており、混信(かぶり)が大変な状態にあり、なんとかこの混信から逃げることを考えます。ここは、受信機の混信除去能力が問われる局面です。RX-340では、SAM(同期検波)モードで、下側波帯検波を選択し受信することで、高い周波数チャンネルからの混信から逃げることが出来ました。かたやIC-7851はSAM(同期検波)モードを持っていません。また、AM受信モードは、上側波帯を検波する方式をとっていますので、その状態でPBTシフトを低い周波数側にするとフィルタ帯域内に低い周波数成分だけが残り音がこもってしまいます。そこで、LSBモードで、下側波帯を受信し、更にフィルタ帯域をやや狭めて設定、あわせてPBTシフトを若干低い周波数側にすることで、聞き取りやすい受信音を得ることができました。

文字で書くと何やら厄介ですが、操作に慣れれば、比較的簡単に操作、設定が可能です。総合評価ではイーブンですが、IC-7851のAMモードでの受信では混信からクリアに逃れることができませんでした。AMモードの放送受信で、ターゲットの周波数より高いチャンネルからの混信に対してはやや苦手なようで、LSBモードでの受信となりました。このあたりは、AMモードで短波放送を聴くことより、SSBやCWモードなどアマチュア無線の交信を主眼に置くトランシーバであるIC-7851には不利な局面かもしれません。この受信シーンにおいては、RX-340に一票です。

幻の日本語放送と言われた局を聴いてみる/RAE・Radiodifusión Argentina al Exterior


解説:
アルゼンチンの日本語放送です。本国からの送信の頃は、なかなか受信できない放送局でした。最近は、米国フロリダ州マイアミにあるWRMIの送信施設を使って放送しており、比較的ラクに受信できます。ただ、毎週火曜日から土曜日、17:00-18:00(JST)の放送スケジュールですので、今なお、サラリーマンには、なかなか受信が難しい放送局であるかもしれません。番組はアルゼンチン内外のトピックスやニュース、フォルクローレやアルゼンチン・タンゴなども流れます。なんといっても日本語ですので聴きやすく楽しいです。2台のSINPO評価は、大きく変わりませんが、前述のHCJB同様、IC-7851の高品位な受信音に一票です。

少なくなった南米(ブラジル)の放送局を聴いてみる/Radio Voz Missionaria


解説:
この10年で南米からの放送は本当に少なくなりましたが、これは、ブラジルからの宗教放送局です。きびしい受信状態で、そのうえ、番組は「宗教(説教)」ものが多く、聴いていて全然面白くないです。しかし、地球の裏側からはるばる飛んできている電波をキャッチしていると思うと、受信状態が厳しいほど、なにやら、ロマンがあります。今回は、RX-340では、受信信号が弱すぎて、SAM(同期検波)がロックしません。AMモードでも時々音になる感じです。

IC-7851では、プリアンプOFFの状態で、放送は聞こえませんでしたが、プリアンプ2で音になり、放送が確認できました。スーパーローノイズのプリアンプの面目躍如です。プリアンプ2をONにすることで、アナウンサーの性別、音楽番組かトーク番組かなどの判別が可能なところまで受信状態を引き上げることが出来ました。評価としては、放送のアウトラインの受信ができたということで、IC-7851に一票です。

南太平洋の島の放送を聴いてみる/Radio Vanuatu


解説:
オーストラリア大陸から東北東へ1600km南太平洋に浮かぶイギリス連邦のバヌアツ共和国からの放送です。この放送局、私のシャックではなかなか良好に受信できません。今回も、信号が弱くRX-340では放送の存在はわかりますが音になりませんでした。IC-7851では、プリアンプを2に切り替えてようやく音になりました。放送のアウトラインを聴くことのできたIC-7851に一票です。

まとめ

今回の受信比較で両機の特長(特徴)がわかったような気がします。BCL受信機として、両機に対して私なりの5段階評価を付けると下表のようになります。BCL用としては、両機イーブンか、あるいはIC-7851が僅差でリードかもしれません。

しかし、短波放送受信は、いつも良好な状態でターゲットの電波がやって来るとは限りません。ある状況ではRX-340の方がよい評価の場合もあります。両機とも第一級の無線機器でありながらも、それぞれに得意、不得意が少しずつあり、とてもおもしろいです。


ところで、今回の受信比較で見つけた、IC-7851のBCL受信機としての不得意なところについて少し考察したいと思います。

AMモード受信でのIC-7851のちょっと困った問題

AMモードで低い周波数側にIFシフトを行うと受信音がこもり了解度が大きく下がる。

まず前提としてAMの放送波を模式化するとはこんな感じですね。


あるOMからお聞きしたところによれば、IC-7851のAM復調は下図のように上側波帯を検波して使っています。今回のちょっと困った問題は、ここに端を発します。


先ず、ここで、IC-7851のツインPBTとIFシフトについて説明します。

下図のようにIC-7851は独立で可変できるデジタルIFフィルタ、PBT1とPBT2を装備しています。それぞれの破線内がフィルタの通過域です。下図では、それぞれフィルタ幅を5kHzに設定し、PBT1とPBT2を100%重ねていますので、IFフィルタの通過域は5kHzのままです。


概念図 (PBT1とPBT2)


IC-7851の設定画面(IFフィルタ通過域は5kHz)

次にPBT1とPBT2を操作します。

PBT1とPBT2はそれぞれ独立でシフトさせることができ、PBT1とPBT2の重なった部分(オレンジの部分)がフィルタの通過域になります。下図では、PBT1を低い周波数側に、PBT2を高い周波数側にシフトしています。PBT1とPBT2の重なったところがIFフィルタ通過域です。実際の設定画面では、PBT1とPBT2をそれぞれ異なる方向に1kHzシフトさせてみました。その結果、IFフィルタ通過域(重なるオレンジ部分)は3kHzとなります。



IC-7851の設定画面(IFフィルタ通過域は3kHz)

IC-7851は、このように、PBT1とPBT2をシフトすることで、任意のフィルタ幅とフィルタの中心周波数を設定することができます。(もちろん、Bandwidthを使って、同様に好みのフィルタ帯域を設定することも出来ますが、この機能についてはまた今度。)

さて、下図のようにPBT1とPBT2を同じ方向にシフトさせることで、IFフィルタ幅を変えずにフィルタ域をシフトさせることにより、混信を除去することができます 下記にIFシフトの様子を概念図と実機画面で示します。

<高い周波数側にシフト>



<低い周波数にシフト>



低い周波数側にフィルタをシフトすると音がこもる原因

上の図を見ると一目瞭然なのですが、高い周波数側にシフトした場合は、IFフィルタ帯域に高い周波数成分が残り、比較的クリアな音になりますが、反対に低い周波数側にシフトした場合は、フィルタ帯域内に低い周波数成分が残り、こもった様な音になり了解度が悪くなります。

今回のケース

前述のRadio Ndarason Internationalの受信を思い出してみましょう。この放送局を受信したときは、上のチャンネルから強烈なCRIの混信(かぶりこみ)がありました。この状況を模式化しますと下図のようになります。

9535kHzで受信中のRadio Ndarason Internationalに9540kHzから強烈な混信が発生しています。


高い周波数側からのかぶりこみ(混信)ですので、IFシフトで低い周波数に逃げるしかないのですが、前述の理由により、こもった受信音になり了解度が随分下がってしまいます。


このような状況は、困ったものです。高い周波数に逃げると、更にかぶりこみが強くなり、低い周波数に逃げると、前述の理由により、こもった受信音になり了解度がずいぶん下がってしまいます。このような状況では、下図のように、AMモードでの受信をあきらめ、LSBモードでゼロビートをとりつつ、IFフィルタの帯域を少し狭める設定での受信がひとつの回答になります。


SSB(USB/LSB)やCW(CW/CW-R)モードなど、検波する側波帯を選択できるモードにおいてはツインPBTやIFシフトは大変強力な武器になります。実際、IC-7851に搭載されているデジタルフィルタの切れは凄まじいものがあります。

しかし、短波放送は、できればAMモードで聴きたいものです。(これは私のこだわりです。) もし、IC-7851にRX-340のような両側波検波+選択可能な同期検波(SAM)モードがあれば、下の周波数にIFシフトしたときに、AMモードで音がこもることもないですし、簡単に混信の除去が可能です。ICOMの受信機、モンスターマシンIC-R9500には側波帯選択可能なSAM(同期検波)が付いています。もし、このような機能がIC-7851にも搭載されていれば、BCL的にはとても嬉しいと思います。

さて、RX-340ですが、発売されてから20年をこえ、全体的にやや古さを感じます。しかし、受信機としての基本性能は優秀で、今回の比較ではIC-7851とは、ほぼ同等で良い勝負になったと思います。RX-340はまだまだシャックで頑張ってもらいたいです。

最後に、両機の簡単な比較表を付記したいと思います。ほとんどの部分で、IC-7851の方が良い感じなのですが、BCL的にはAMモードでのPBTと同期検波でRX-340に負けているところが惜しいです。AMモードでU/Dの両側波選択ができれば完璧です。


では、いつものように、7851で一句。

BCLから見た、ここが惜しいぞ! 7851③

「混信は、PBTで、切れるけど、下にシフトで、こもるサウンド。」
是非、両側波検波と側波選択可能な同期検波機能の実装をお願いしたいです。

BCLから見た、ここが惜しいぞ! 7851④

「無線機の、時間表示は、正しくね、自動補正を、Wi-Fiで」
BCLとして、またアマチュア無線家として、無線機(受信機)に表示される時間の正確さは気になりますね。IC-7851はパソコンとUSBで接続されているのですから、無線機の時刻校正はオートマチックで出来ないものかと思います。

IC-7851のマニュアルにはNTPとの接続について、ワイヤードでの設定の説明はあるのですが、Wi-Fiでの接続の記述がなく、そのための変換機器の購入に二の足を踏んでいます。サービスのご担当にお聞きしても、動作はわかりませんというご回答です。(無念!) まぁ、そのうちダメもとで試してみたいと思います。

さて、次月号では、ATUを使ったマルチバンド・モノポールアンテナのBCL的受信性能とHAM的アンテナ性能について報告したいと思います。

HFでアマチュア無線をされている方のなかで、複数のビームアンテナを上げることのできるタワーをお持ちの局長さんはどれくらいおられるでしょうか? 私は、屋根の上になんとかルーフタワーを立てて、トライバンダ(14/21/28)をあげているのですが、WEBに掲載されるペディションなどのDXニュースや、DX-Clusterに上がっている様々なバンドの情報を見ますと、多くのバンドにQRVできるアンテナが欲しい! と思ってしまいます。そのためにはまずアンテナです。これがなければ、電波を出せません。しかし、屋根の上に今以上にアンテナをのせるわけにもいかず、2階のベランダで、なんとかなるマルチバンドアンテナは? と考えたとき、出てくるアイデアは、モノポール+ATU+カウンターポイズの組み合わせです。アンテナ資材は概ね準備出来ました。絶対に必要なカミさんのOKもとりつけました(笑)。しかし、肝心のATUがまだ到着しません。はてさて、間にあいますやら。

では、来月までごきげんよう。73&88。

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次号は 12月1日(火) に公開予定

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