2015年11月号
連載記事
防災とアマチュア無線
防災士 中澤哲也
第20回 防災とアマチュア無線+α
11月になりました。この月は神無月とも言います。日本中の八百万の神様が出雲大社にお集まりになるのでそのように言われます。日本の神様は他国の神様のように唯一絶対の万能の神様でなく、それぞれ得意分野をお持ちであることはみなさまご承知のとおりです。では「防災の神様はどなた?」とお思いの方もいらっしゃるでしょう。「防災」と一言で表現しても、そこに含まれる災害は本連載第1回の図表で示したように多くの種類があります。おそらくその災害それぞれにお働きいただく神様がいらっしゃると思います。それらの神様が今月は出雲にお出かけになられるなら、災害が起こるとどうしよう…、とご心配かもしれません。そこは最初から神頼みするのではなく、自分達で出来ること、これを確かめ備え進めていくことが大切です。神様以外に頼れる相手は…というと、国が、県が、あるいは警察が、消防が、自衛隊がやってくれる、と期待する部分は確かにあります。しかし、それらの行政や公的機関で全てが整う、全てをやってもらえるわけではありません。そこに『自助・共助・公助』という考えが出てきます。端的に言えば、自分でできること、周囲の方々と助けあってできること、行政や公的機関にお願いすること、となりましょう。
公助はさておき、自助、共助の要を担うべく、特定非営利活動法人日本防災士機構が定める一定の要件を満たした者を「防災士」と呼びます。詳細は同法人のホームページhttp://bousaisi.jp/をご覧いただくとして、おおよそのところ(あくまでも筆者が個人的に説明するもので、内容について関係団体の承認確認を得た記載ではありません)で申し上げますと
- 民間資格である。
- 試験は筆記試験のみであり、特定業務経歴保有者を除き、一般的には一定の研修受講と「普通救命講習」修了者であれば誰でも受験できる。
- 知識、技能のレベル維持目的の研修受講義務はない。
- 行政が主催する「防災リーダー研修」などを利用して資格取得する方が多い模様。
- 上記「防災リーダー研修」の受講者について、主催者が自治会や自主防災組織の活動者を優先しているよう伺える。そのためか年齢層がかなり高い。また、資格取得後所属する自治会や自主防災組織で引き続き活動することが多い様子。
- 資格維持のために特定非営利活動法人日本防災士会あるいはその都道府県支部の会員であることが要件とはなっていない。
- 活動を強制されるものではない。また活動は一般にボランティアである。
といえます。
筆者は特定非営利活動法人日本防災士会、同県支部会員であり、拙宅マンションの自治会や、小学校校区の自主防災防犯団体で主に活動し、もっぱら情報通信とその機材管理を担っています。また随時本部、県支部や行政の研修を受講し、防災防犯展などの見学、活動範囲での訓練に参加しています。しかし、現役サラリーマンの立場もあるので、プライベートとのバランスが取り辛いところです。
防災士会には「教本」があり、必要な知識はそこから得ることができます。しかし、一年のうちに次々と発生する災害についてのレビューや、行政が取り組む課題部分、例えば「避難行動要支援者の避難支援」など、そのような部分に対しての知識吸収は自助努力により行わねばなりません。全てに対して個人で補うことは無理があると考え、ローカルでは勉強会を重ねて集団としての意識、知識レベルの保持に努めています。
筆者の知る限り上記「教本」には具体的なトランシーバーの使用法や解説の記載はありません。この点では、この記事をお読みのみなさまが、一般の防災士よりトランシーバーの活用、運用能力や無線通信の知識に秀でていると言えましょう。
もちろんその能力や知識は、みなさまご自身の防災に役立つのみならず、必ずや周囲の方々にとっても役立つであろう、と考えます。それを「より」役立たせるためには、
- 災害、防災に関する知識を広げましょう。実際にトランシーバーを使う場面、活用できる局面を知っておけば、より有効に能力や知識が活用できるでしょう。
- 地元のコミュニティで親睦を深めておきましょう。ご近所さんや関係者と普段のおつきあいができていてこそ、の部分もあります。
- トランシーバーを多くの方に使っていただきましょう。その先生役を担うことができるのは、あなたです。(ここでトランシーバーとは無資格無免許で使えるものを指します)
このように考えます。
読者のみなさまが、アマチュア無線に興味をもった理由はそれぞれ異なるでしょう。またその楽しみ方もさまざまなものがあります。その楽しみが受信のみ、ではなく、免許不要の「微弱」範囲を超える電界強度で電波を発射する以上は、一般に電波法に基づく無線従事者免許と無線局免許が必要です。電波法は第1条で「公共の福祉の増進」を目的と定めています。「防災とアマチュア無線」という視点で今回までみなさまと進めてまいりましたが、将来見舞われるであろう「国難」と表現される大規模災害に備え、また万一そのような事態に遭遇した際に、少しでもこの連載記事から得られた知識がお役に立つことを願ってもやみません。明治維新はペリーの来航(黒船の来航)の影響、との解釈が一般的なようですが、ある防災関係者は、「度重なる国難と言える大規模災害で幕府や諸藩のダメージが大変大きく財政難であったという状況がその根底にあるからこそ倒幕に至った」とお話されます。1854年12月の安政南海、安政東海地震、1855年11月の安政江戸地震、1856年9月の安政江戸暴風雨(台風)と大規模災害が続きました。政府は南海トラフ巨大地震のみならず、首都直下地震についても防災対策を急いでいます。
http://www.mlit.go.jp/river/mlit_at_wcdrr/pdf/Forum2_jp.pdf
では将来いつ発生するかわからない大規模災害を我々は甘受せねばならないのでしょうか。地震予知についてはその精度を上げる研究が進んでいます。筆者が注目するのは、北海道大学大学院理学研究院地球化学部地球惑星ダイナミクス部門の日置幸介教授がとなえる「巨大地震直前に震源上空で発生するTEC異常」というものです。
http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~heki/pdf/Keisoku_Seigyo2014Jun.pdf
(上記論文上梓時と現在とでは所属部門名称が変更されています)
(ダイジェストとしては下記報告の4ページ目の記載がわかりやすい)
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2014/08/01/1349792_03_1.pdf
教授の研究によれば東日本大震災発生約40分前から震源域上空の電離圏で最大一割近くに達する全電子数(TEC)の正の異常が観測され、同様の前兆変化は2010年2月のチリ地震、2004年12月のスマトラ地震、1994年北海道東方沖地震においても見出されており、巨大地震に普遍的なものである可能性が高い、といわれていいます。
この全電子数の変動を容易に見ようとすれば、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)電磁波計測研究所宇宙環境インフォマティクス研究室電波伝搬渉外研究プロジェクトが提供するリアルタイムデータ「GEONET 準リアルタイムGPS全電子数マップ」で見ることができます。しかし、データが30分遅れのものとなっています。この点についてある機会にNICTの別の研究者に質問できましたが、情報取扱の問題でリアルタイムにはUP出来ないのではないか、とのことでした。一般閲覧ではなく研究用途であれば情報更新頻度の異なるデータが入手可能かもしれません。http://seg-web.nict.go.jp/GPS/RT_GEONET/
しかし一般に巨大地震にはその前震があると考えられますから、東京大学地震研究所地震火山情報センターが提供するWEBページhttp://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/harvest/から各大学の観測データを見て、ある種の予想をたてることはできるものと考えます。(あくまでも筆者の個人的な考えを記すもので、精度や信頼性などを保証するものではありません。)
この連載は今回を期に一旦お休みを戴きます。永らくのご愛読ありがとうございました。
(完)
防災とアマチュア無線 バックナンバー
- 第20回 防災とアマチュア無線+α
- 第19回 要救助者と無線
- 第18回 無線機を取り出す前に
- 第17回 火山と無線通信
- 第16回 IARU “Emergency Telecommunications Guide”その2
- 第15回 IARU “Emergency Telecommunications Guide”
- 第14回 防災視点でのアマチュア無線 「訓練」 (その2)
- 第13回 防災視点でのアマチュア無線 「訓練」 (その1)
- 第12回 防災視点でのアマチュア無線 「組織化」
- 第11回 防災視点でのアマチュア無線 最近の話題
- 第10回 周波数の使用区別変更に伴う非常通信周波数の変更、阪神淡路大震災から20年
- 第9回 欧州のアマチュア無線における「非常通信」 (3)
- 第8回 欧州のアマチュア無線における「非常通信」 (2)
- 第7回 欧州のアマチュア無線における「非常通信」 (1)
- 第6回 米国のアマチュア無線における「非常通信」 (3)
- 第5回 米国のアマチュア無線における「非常通信」 (2)
- 第4回 米国のアマチュア無線における「非常通信」
- 第3回 海外における「非常通信」
- 第2回 「非常通信」とは
- 第1回 防災と情報の収集・伝達