2015年1月号
連載記事
防災とアマチュア無線
防災士 中澤哲也
第10回 周波数の使用区別変更に伴う非常通信周波数の変更、阪神淡路大震災から20年
この記事が皆様の目にとまる頃には、既にアマチュア無線家諸兄は新たな周波数の使用区別(バンドプラン)に従って運用をされている事と思います。これまで慣れていた状況が1月5日より変更ということで、戸惑いをお持ちの方も少なくない、と思います。 前号では“RAYNET”の記事の中で、我々のできる国際協力ということで、近隣諸国と我が国の非常通信周波数について紹介致しました。今回はこの非常通信周波数について進めて行きます。
今回の周波数の使用区別の変更については「アマチュア業務に使用する電波の型式及び周波数の使用区別を定める件の一部を改正する件(平成26年総務省告示第432号)」(平成26年12月17日告示、平成27年1月5日施行)で定められました。一般のアマチュア無線家に影響の大きな部分は、短波のSSBの周波数区分(俗に言う“フォーンバンド”)の下限周波数が変更されたこと、だと思います。3.5MHz帯では、従来3,525kHzであったものが3,535kHzに、7MHz帯では、従来7,030kHzであったものが7,045kHzになります。これに伴い3.5MHZ帯の非常通信周波数が3,525±5kHzであったものが3,535kHzに。7MHz帯の非常通信周波数が7,030kHz±5kHzであったものが7,050kHzに変更されています。(詳細は最新のJARL資料にてご確認ください。記事作成時点ではJARL WEB上の記事で確認しています。ここには±の記載はありません。)
HFローバンドの非常通信周波数
3.5MHz帯3,535kHz
7MHz帯7,050kHz
また、50/144/430MHz帯には、デジタル呼出周波数・非常通信周波数が設けられました。
デジタル呼出周波数・非常通信周波数
51.30MHz
145.30MHz
433.30MHz
非常通信周波数の変更、ということで、アマチュア無線家の中でも、特に防災視点での運用を重視する社団局にあっては、メモリー周波数の書き換え、運用マニュアルの修正や、運用卓備え付けの掲示の変更等にも大わらわだった方もいらっしゃる、と思います。対応お疲れ様でした。
特に注意したいのは、自治体などと災害時の協定などを締結されている組織です。運用周波数として明記していると、確実に連絡し、変更、書面や資料の修正をしておかないと、記載された周波数と異なるなどと問題となる可能性もあります。
無線設備の整備の観点からは、空中線の整備が必要な局もあると考えます。特に短縮コイルを用いたホイップアンテナで運用する場合は、共振点からVSWRの低い帯域が狭いので、従来のままで有ればVSWRが高くなっている可能性があります。意外に手間がかかる部分ですが、確実に対応しておきたい部分です。
これから年度末の3月末にかけて、防災訓練などを実施される団体も少なくないと思います。このときに、無線局の運用や、無線設備の点検も予定されているなら、そのときに慌てないよう、あらかじめ対応しておく必要があります。みなさまは如何でしょうか。
非常通信周波数の変更についての対応
□ 無線局に表示、掲示があればその変更
□ 運用マニュアルに記載があればその修正
□ 自治体との協定などに記載が有ればその修正
□ 運用団体の会員への周知
□ 無線機のメモリー内容の書き換え
□ アンテナの同調点の変更
さて、2015年1月17日は阪神淡路大震災から20年になります。故郷が被災地となり家族が被災者となった筆者にとっては、20年前の出来事は昨日のように記憶に残っています。
実家はJR鷹取駅近傍にあり、当時震度「7」を記録した地域です。写真は翌日筆者が実家周辺を撮影したものです。震災後の火災で地域はご覧のよう空襲を受けたかのようなありさまです。昭和一桁生まれの親は、「空襲よりはまだまし。あのとき焼死体がそこらに転がっていた。」と言います。しかし、東日本大震災の津波被害現場では溺死体がそこここに見え、よりきびしい光景だったかと想像します。現場の光景それだけでPTSD、軽く済んでも思い出せば涙ぐむ記憶が残ってしまいます。通常の火災では木造住宅の屋根は「焼け落ちる」のですが、震度7で全壊したうえで火が回ったので、このような状況です。瓦礫の下にはほんの少しですが燃え残ったものもありました。消防関係者でしょうか、鎮火状況の確認に回っています。その先にはJRの高架があります。この辺りは鷹取駅が貨物ヤードの中にあるので、線路は複々線どころかもっと多く、ガードの長さは50m程度あります。しかし、この地区の火災原因は線路の向こう側からの「飛び火」とのこと。線路の南側からの飛び火です。北側から南側への飛び火ならこの季節の北風で、と理解できるのですが、その逆方向からです。火災については素人ながら気になり調べてみると、通常でも火災現場から半径100m程度の全方向に火の粉や燃焼物が飛ぶようです。この震災時の線路の向こう側=鷹取東第一地区の大火は焼け落ちた商店街の報道写真でわかるよう大規模火災でしたから、その火災による上昇気流の勢い、発生したかもしれない「火災旋風」、あるいは様々な報道機関の取材ヘリの飛行などで、想像できない状況が生じていたかもしれません。仮に火の粉や燃焼物が飛び屋根の上に落ちても、普段なら屋根瓦などが防火壁のよう作用し発火に至らないそうです。ところが激震で倒壊し柱の木材などが露出し、また冬季なので暖房用の灯油などがこぼれていたかもしれません。そのように「可燃物」などが露出している状況であれば、飛び火で火災発生に至るようです。災害現場では「何が起こるかわからない」、「常識が通用しない」と考えるのが良いのかもしれません。
先の写真と同地点からの風景(2014年12月撮影)
区画整理、換地が行われ道路・歩道も整備されカラフルな住宅も建っている。先の写真で見える奥の電柱の位置に今も電柱が建っている。東日本大震災の被災地も、20年後にはこのような家並みが出来ることを祈念する。この地区は被災後のまちづくり協議会設立から都市計画決定まで約3年かかっている。関係者の苦労はかなりものであったと聞く。
この1.17から20年という機会に各地でいろいろな防災行事が予定されているようです。兵庫県では1.17ひょうごメモリアルウォーク2015という行事が予定されており、最長で15km徒歩で移動するプランもあります。
地元の方でないと参加が難しいと思われますが、もしアマチュア無線家の皆様が参加されるなら、ただただ歩き進むだけでなく、歩きながら交信し仲間や他の参加者と「情報交換」することも立派な「訓練」になると考えます。(もしおやりになる場合はレピータの独占使用、長時間占有使用はお控えください。シンプレックスでの運用をお薦めします。その場合でも呼出周波数の独占使用、長時間占有使用はお控えください。またデジタル簡易無線(登録局:3R)のチャネル15は呼出チャネルとされていますので。こちらも同様に注意が必要です。)特定の相手方のみならず、多くの方と情報交換すること、また交信をシンプルに行うことも「訓練」だと考えます。かつて有る通信訓練でコントローラーである運用者がコールサインに「さん付け」で応答していたのを耳にし、驚いたことがあります。
また、アマチュア無線のみならず、家族や友人と参加しデジタル簡易無線(登録局)や特定小電力トランシーバーを用いて連絡しながら徒歩移動訓練に参加するのもよい訓練になるでしょう。
特に市街地での通信距離は、その運用場所のロケーションで大きく異なってきますので、思ったより飛ばない、思いのほか飛んだ、ということもあるかもしれません。また、アマチュア無線と違い、デジタル簡易無線(登録局)や特定小電力トランシーバーはチャンネル数が多くないので、混信やキャリアセンスによる送信できない状態を経験するかもしれません。いずれにしても、多くの方々に、「無線機はいざという時に役立つツールなんだ」と認識していただき、実際に交信の様子を見てもらう、聞いてもらうことも、その運用の理解につながるのではないかと考えます。それに加えD-STARではテキストデータの送信も可能ですから、予めメモリーしておいた何種類かのセンテンスをその都度切り替えて送信する、といういわばメールのやりとりのような訓練も有効と考えます。
交信のみならず、無線機に備わる機能としてGPSによる位置情報と時刻の記録、あるいは外部機器との組み合わせで画像の送受信、というツールの利用があります。(アイコムID-31やID-51など) 上記のメモリアルウォークではUP/DOWNは殆ど無いコースだと思いますが、神戸のみならず、市街地から自宅のある住宅街へ向かう場合は、ラスト1キロが急な上り坂という場合も少なくないと思います。日頃徒歩で移動することが少ないのであれば、この機に一度歩いて移動速度や所要時間を確認するのも良いでしょう。
さらに、地域コミュニティの行事では、これからの時期、耐寒登山(ハイキング)と称して近郊の山へ子供会行事などで出かけることもあると思います。このような機会に世話方に特定小電力トランシーバーを使ってもらうことも大切です。読者諸兄は「子供会役員でないし、保護者でもない」ということで直接の参加機会はないかもしれません。しかし、1ペアでも特定小電力トランシーバーがあれば貸し出して、世話方にその利便性を体感していただくことも緊急時、非常時の無線通信への理解につながるもの、と思います。
筆者の所属する地元の自主防災防犯会の総合防犯防災訓練は3月に予定されています。このときアマチュア局の短波での運用はありませんが、デジタル簡易無線(登録局)や特定小電力トランシーバーを連絡担当者などに使ってもらう予定です。これらの機器も保有されている団体や個人の方々は、この時期に点検や電池の交換等をされることをお薦めします。特に車載のバッテリーを非常電源とお考えの場合は、特に冬季は負荷が大きくなるのでバッテリーの種類にもよりますが交換、補充電などを適当なタイミングで行うことの考慮が必要でしょう。では次号は別の話題で進めます。
防災とアマチュア無線 バックナンバー
- 第20回 防災とアマチュア無線+α
- 第19回 要救助者と無線
- 第18回 無線機を取り出す前に
- 第17回 火山と無線通信
- 第16回 IARU “Emergency Telecommunications Guide”その2
- 第15回 IARU “Emergency Telecommunications Guide”
- 第14回 防災視点でのアマチュア無線 「訓練」 (その2)
- 第13回 防災視点でのアマチュア無線 「訓練」 (その1)
- 第12回 防災視点でのアマチュア無線 「組織化」
- 第11回 防災視点でのアマチュア無線 最近の話題
- 第10回 周波数の使用区別変更に伴う非常通信周波数の変更、阪神淡路大震災から20年
- 第9回 欧州のアマチュア無線における「非常通信」 (3)
- 第8回 欧州のアマチュア無線における「非常通信」 (2)
- 第7回 欧州のアマチュア無線における「非常通信」 (1)
- 第6回 米国のアマチュア無線における「非常通信」 (3)
- 第5回 米国のアマチュア無線における「非常通信」 (2)
- 第4回 米国のアマチュア無線における「非常通信」
- 第3回 海外における「非常通信」
- 第2回 「非常通信」とは
- 第1回 防災と情報の収集・伝達