2014年11月号

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連載記事

防災とアマチュア無線

防災士 中澤哲也

第8回 欧州のアマチュア無線における「非常通信」(2)

前回は英国の状況、ということで“RAYNET”について紹介致しました。

このRAYNETにおいては、実際の運用手順が定められています。例えばCWでは、“RAYNET CW PROCEDUR”、SSBやFMなど無線電話では“RAYNET VOICE PROCEDURE”と呼ばれるものです。

これらは調べてみると“IARU HF INTERNATIONAL EMERGENCY OPERATING PROCEDURE”とコンパチブルであることがわかりました。この手順については、10月13日付けでIARU Reg.1のWEBサイトにUPされた“GAREC 2014 Summary Report”にて触れられています。(IARUそのもののGAREC2014のサイトには原稿執筆時点でsummaryはUPされていません)
http://www.iaru-r1.org/index.php?option=com_content&view=article&id=1348:garec-2014-summary-report&catid=48:emcom&Itemid=99

内容を簡単に言えば、「各国それぞれの事情や運用規則より様々な災害対応の必要があるが、例えばネット運用手順や標準的メッセージングプロトコルに関する各国各地域の基本的手順の継続的展開の要素を含めたものとしてこの手順を再確認した。これらについて推奨される最良のものは標準運用手順から離れ置き換えるものでなく、これらの質的向上である。」と述べられています。

それでは今回はこの“IARU HF INTERNATIONAL EMERGENCY OPERATING PROCEDURE”について皆様と見ていきましょう。
(以下のサイトからダウンロード可能です。IARU Reg.3のサイトにもタグがありますが、最終的に以下のURLから、となります)
http://www.iaru-r1.org/index.php?option=com_remository&Itemid=173&func=fileinfo&id=160

掲載されているサイトこそReg.1ですが、表紙には3地域全てに適合するものであることが明記されています。
内容は10の章に分かれて記載されています。

1. 全般
2. 非常時の対応
3. 非常通信の限界
4. 電文形式
5. 前置情報
6. 無線電話の運用例
7. 無線電信の運用例
8. 欧文通話表
9. 非常通信におけるCW/RTTYでの特別略語
10. 事後処理

ではこれらを順に見ていきましょう。

1. (全般) 著作権の関係で詳細には書けませんが、いわば運用手順を読む冒頭にあたって心がまえ的な内容が記載されています。非常に際して効率的な運用が求められますが、どうすればOKというものではなく、どのように対処するか、どんなことが出来るか考えなければならない、という概略です。

2. (非常時の対応) 一般的な内容が記載されていますが、我々アマチュア無線家になじみのない言葉として“welfare-traffic”というものがあります。意訳すれば、「安否確認および災害復旧情報(の通信)」でしょうか。また、アマチュア局用電波法令抄録に記載のない見慣れないQ符合として“QUF”なるものが登場します。無線局運用規則には次のようにあります。

QUF
問い:そちらは、・・・(名称又は呼出符号)が送信した遭難信号を受信しましたか。
答え又は通知:こちらは、・・・(名称又は呼出符号)が・・・時に送信した遭難信号を受信しました。

この“QUF”を受信したときの対応や、「情報」の要点が述べられています。

「情報」の要点
When?(いつ?   日付、時間、周波数)
Where?(どこで?  被災地・緊急事態発生場所)
What?(何を?   何がおこったのか、何をしたのか)
How?(どのように? どのように対応可能か)
Who?(誰が?    誰が対応(救出・救援・救護等)することが可能か)

3. (非常通信の限界) アマチュア無線が被災地、現場での最終の通信手段となる可能性があり、そのときは意見や考えを出して避難・退去しようという趣旨の内容です。しかし、文脈からは、アマチュア無線家はボランティアであるから身の危険を顧みずにいつまでも被災地、現場に留まることはせず、もう動かなければ、と思ったときにはすみやかに立ち去るべきである。そのときに、あなたの見た現状から今後の救助救出についての意見やアイデアがあれば、それは有効なものとなるだろうから出して欲しい、という意味があるのではないか、と考えます。

4. (電文形式) 情報のリレーをする際に効率的に内容を取り扱うには、正確に書き取ること、電報形式で書き取ること、とあり、シンプルな例文があります。これは無線電信の場合を想定したものと理解できますが、無線電信に限らず、無線電話以外の文字情報をシンプルに扱う必要のある運用スタイルでは、これに沿った運用を行うべきところです。

5. (前置情報) 電文(通報)番号を始めとして、各種伝送すべき情報が列記されていますが、(2)として簡略化されたものも示されています。例文を見れば大変簡潔であることがわかります。

6. (無線電話の運用例) この例では上記の前置情報は簡略化したものが使われ、“text”という語の後に、本文、“message ends”、“over”と続いています。この例では再送要求をし、それに応答しています。再送してもらい全文受信できた局(=YX1AA)は“QSL”や“roger”、“ok”とも言わず“received”としています。このあたりが我々日本のアマチュア局としてはちょっと慣れていない部分かと思います。また、交信終了時に“over”ではなく“out”と表現されています。この部分も同様と思います。(この例の最後の部分のコールサインのサフィックスを誤記しているのはお気づきでしょうか)

7. (無線電信での運用例) ここでは“QTC”が使われています。この”QTC”に応えて”QRV”となっていますが、このやりとりに違和感を覚えるのは筆者だけでしょうか。”QTC?”と質問され、”QTC 1”とか”QTC 3”とか応えるパターンかと思うところです。また、送信開始にKAが使われていること、本文は略語を使わずにスペルアウトしていること、送信終了のVAをSKと表現していること、に着目します。(ここでもコールサインに誤記があるようですが…?)

8. (欧文通話表) これは無線局運用規則別表5にある欧文通話表と同一です。

9. (非常通信におけるCW/RTTYでの特別略語) ”QOD”なる符合が登場しますが、これもアマチュア局用電波法令抄録に記載のない符合です。このQ符合の二文字目”o”のシリーズは上記抄録には掲載されていません。内容を見れば船舶通信に専ら用いられる符号と読めますので”o”=”Ocean”と想像できます。

この符合も含め、上記抄録に記載がないものをまとめておきます。

QOD
問い:そちらは,
0 オランダ語
1 英語
2 フランス語
3 ドイツ語
4 ギリシャ語
5 イタリア語
6 日本語
7 ノールウェー語
8 ロシア語
9 スペイン語

で,こちらと通信することができますか。

答え又は通知:こちらは,
0 オランダ語
1 英語
2 フランス語
3 ドイツ語
4 ギリシャ語
5 イタリア語
6 日本語
7 ノールウェー語
8 ロシア語
9 スペイン語

で,そちらと通信することができます。

QTV
問い:
こちらは,周波数……kHz(又はMHz)で(……時から……時まで)そちらに代わって聴取しましようか。
答え又は通知:
周波数……kHz(又はMHz)で(……時から……時まで)こちらに代わって聴取してください。

QTX
問い:そちらは,更に通知するまで(又は……時まで)こちらとの通信のために執務してくれませんか。
答え又は通知:こちらは,更に通知があるまで(又は……時まで)そちらとの通信のために執務します。

QUA
問い:そちらは,……(名称又は呼出符号)の消息を知っていますか。
答え又は通知:……(名称又は呼出符号)の消息は,次のとおりです。

QUF
問い:そちらは,……(名称又は呼出符号)が送信した遭難信号を受信しましたか。
答え又は通知:こちらは,……(名称又は呼出符号)が……時に送信した遭難信号を受信しました。

QUM
問い:こちらは,通常の業務を再開してもよろしいですか。
答え又は通知:通常の業務を再開してもよろしい。

QRR
問い:そちらは,自動機使用の用意ができましたか。
答え又は通知:こちらは,自動機使用の用意ができました。1分間に……語の速度で送信してください。

この中で目に付く部分はやはり”QOD”だと思います。よく見れば、ギリシャ語やノルウェー語があるので、そこから制定当時の海運事情を垣間見ることが出来ます。海運の現状を知らぬ私のような者からは10、11で何か新たな言語が加えられても良いのかとも思いますが、それは門外漢の戯言なのかもしれません。

10. (事後処理) 主管庁への届け出が必要とされていれば、対応せねばなりません。この点はアマチュア無線家の皆様はご存知かと思います。

以上の運用手順について、アマチュア無線での国際間の通信に実際に利用される、参照される場面は陸続きで隣国と接することのない我が国では、それこそ「海を越えて」救援に行く、来てもらう状況になるので、欧米に比べるとかなり少ないものではないか、と考えます。しかし海難事故、特にヨットなど商船、漁船ではない外国人だけが乗り組む船舶が対象であれば、この運用手順が役立つ場面があるかもしれません。

いざ、というときに慌てぬよう、備えは必要でしょう。

(以下、次号に続きます)

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