2015年8月号

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連載記事

防災とアマチュア無線

防災士 中澤哲也

第17回 火山と無線通信

八月になりました。朝顔、向日葵、ラジオ体操、の季節と言って良いでしょうか。いつの頃からか最高気温が35℃を越えるのが常のようになりました。この記事は「防災」視点で記事を書き進めていますが、その視点でボランティア活動を行うとき、被災地に出向き救援、復旧活動を行うことのみならず、例えば小中学生の夏休みに子供会や自治会で夏祭りや花火大会などのイベント時に防災啓発活動を行う方もいらっしゃるでしょう。日差し厳しい日中の活動では、「熱中症」に注意する必要があります。最近では日中のみならず夜間の室内でも発症する方が出ています。アマチュア無線家が暑い自室に冷房なしで籠もると、無線機や周辺機器からの放熱で、室温は上がる一方かと思います。窓を開けていても、特に都市部ではヒートアイランド現象のためか気温が下がらず「冷たい風」が得られることはひと夏に数回しかない、といった昨今です。予防策は皆様充分にご承知で、あれこれ実践されているでしょう。それでも万一、何かおかしい、調子が変だ、と感じた時は、無理せず我慢せず、すぐさま対策を執ることが肝要です。首の後ろを冷やす大きな蓄冷材が無くても、ケーキやシュークリーム等の持ち帰り時に箱に入れてもらえる『小さな保冷剤』を『脇の下に挟む』だけでもかなりの効果があります。読者のみなさまも平常時に一度お試し下さい。その効果を実感していただくと、いざという時直ぐに思い浮かぶ対処法になるかと思います。

さてこの猛暑の時期、時節の言葉に「避暑地」があります。首都圏からは各方面にお出かけと思います。足を伸ばせばいくつもの避暑地がありますが、100km圏内にある手軽な場所として「箱根」があります。鉄道を乗り継ぎ最後に登山電車風の電車で終着駅に降り立てば、そこはもう都会の暑さを忘れさせる国立公園の一画となります。「箱根の山は~天下の険♪」、この歌い出しで始まる滝廉太郎作曲で有名な「箱根八里」、またお正月の風物詩とも言える「箱根駅伝」など、日本人にとって非常に親近感の湧く場所である、と思います。

この箱根、特に大涌谷を中心とする火山活動が活発になりその動静が大変気になる所です。その活動のレベル如何ではまさしく「防災」の視点であれこれ考えねばならぬところです。(箱根山の火山活動については神奈川県温泉地学研究所のサイトが参考になります。
http://www.onken.odawara.kanagawa.jp/

昨年の御嶽山噴火は死傷者が多数出た火山災害ですが、それまでに筆者の記憶に残る火山災害では、1991年6月3日の雲仙普賢岳火砕流があります。この災害は衝撃的な映像が報道された火山災害で、その日以後も火山活動により溶岩ドームが成長し、付近住民の不安な日々が続いた時期がありました。
http://dil.bosai.go.jp/workshop/02kouza_jirei/s18kasairyu/kasairyu.htm
(独立行政法人 防災科学研究所のサイト)

その当時、携帯電話が現在のよう普及していない一方、アマチュア無線の世界では430MHzのハンドヘルド機(ハンディ機)は特別に高価なものではなくなり、また各地にはレピータ(中継器)があちこちに設置運用されていました。この雲仙普賢岳周辺地区にもレピータが仮設され、アマチュア無線家達が定期的に火山情報についてレピータを利用して伝達し、その情報はアマチュア無線家以外に一般の方がその周波数を受信できる受信機を購入しレピータを通じてやりとりされる情報を入手していた、ということがありました。
(情報の出典確認が出来ていませんが、確か当時のJARL NEWS等にもこのような内容の記事があったかと筆者は記憶しています)

上記の火砕流については、一般に土石流のような印象を持つきらいがあるようですが、その規模は、過去において「巨大な」レベルのものものあり、最近しばしば取り沙汰される「破局噴火」に劣らぬ甚大な被害が生じるものもあったそうです。
http://dil.bosai.go.jp/workshop/03kouza_yosoku/s13bakuhatu/explosion.htm
(独立行政法人 防災科学研究所のサイト)

視点は変わりますが、防災に関する法律と言えば災害対策基本法や災害救助法に代表されますが、特定の災害に対応する法律も設けられており、地震、津波、台風、原子力災害のほか、火山に関するものがあります。「活動火山対策特別措置法」というものです。

阿蘇が戦前に国立公園となったように、桜島も国立公園となり、日本のみならず海外でもイタリア、ベスビオ火山に「フニクリ・フニクラ」という歌のモデルになった登山電車があり(連載第11回:2015年2月号参照)いずれの火山も観光地になっています。もちろん、規制区域は立入禁止ですが、筆者は40年ほど前に修学旅行で阿蘇を訪れています。その当時は火山活動が活発でなかったこともあってか、特段の注意は受けなかったと記憶しています。しかし、今では火山に立ち入ろうとする登山者には、ある「努力義務」が定められました。『火山活動対策特別措置法の一部を改正する法律』(法律第五二号 内閣府本部 平成27年7月8日公布)により改正される火山活動対策特別措置法 第11条第2項『登山者等は、その立ち入ろうとする火山の爆発のおそれに関する情報の収集、関係者との連絡手段の確保その他の火山現象の発生時における円滑かつ迅速な避難のために必要な手段を講ずるよう務めるものとする。』という内容です。以下の官報での記載部分をご覧下さい。


(官報 平成27年7月8日 号外第153号 8ページ抜粋)

この内容について、内閣府より以下の制度PR資料がされています。
(http://www.bousai.go.jp/kazan/taisaku/pdf/k404_1_03.pdf)


(クリックで拡大します)

「活動火山」という視点から少し遠くなりますが、「山」=「登山」という視点では、文部科学省をはじめ環境省、警察庁、気象庁、消防庁、一般社団法人日本山岳協会、独立行政法人日本スポーツ振興センター国立登山研修所、山岳対策中央協議会が主催する、平成27年度全国山岳遭難対策協議会で採択された「山岳遭難事故防止のために」という提言の中で「登山者は山岳遭難事故防止のために次のことに取り組むこと」として8項目を挙げており、その一つに従来からのものですが、「危急時に確実に連絡を取れる手段を確保するために、無線機、携帯電話等の通信機器を持参して登山を行うこと。」という内容があります。
http://www.jma-sangaku.or.jp/tozan/safety/prevention/

内閣府の制度PR資料では「携帯電話の通信機器」とあります。(③の2番目の項目)しかし、携帯電話はまず通話圏内(契約電話会社だけでなくWi-Fiサービスも含めて)でなければ通話しようにも出来ません。また、通話圏内、サービス圏内であってもではよほどの仕組みを講じておかなければ、相手と話しをしようと思っても一対一でしかできません。しかし、無線機(広義にみれば携帯電話も無線ですが、ここでは“トランシーバー”と考えて下さい)であれば、一般に誰かが交信中であっても、その内容を聞くことができます。また、一対一でなく、一対多、多対多の通信もできます。やはりこのような状況ではトランシーバーの特性、有効性が注目されるべきところ、と考えます。

一般に山へ出かける時には荷を軽く…と考えます。しかし、まずは我が身を守る、そのために必要なツールとして無線機を携行する、と思えば重さも気にならないのではないでしょうか。アマチュア無線のトランシーバーにはGPSも内蔵され、位置情報の送信に加え、その位置情報をロギングできるものもあります。(例えばアイコムのID-51など) それらを日頃から使いこなしていればこそ、「荷が重い」とはならないでしょう。

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