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アマチュア無線のデジタル化

最終回 アマチュアのデジタルはやっぱりFDMA方式か

月刊FB NEWS編集部

1. SCPC (Single Carrier Per Channel)

前号では、FDMAとTDMAについてその概要を説明しました。FDMA方式とは、一組の通信は一つのRF信号(周波数)を使う通信方式であるとの概略を説明し、JARLが開発したD-STARはまさにFDMA方式を採用していると記述しました。その説明に対して読者の方から「正しくはSCPC(Single Carrier Per Channel)の間違いではないか」とのご指摘をいただきました。

D-STARのみならず八重洲無線が販売しているアマチュア無線のC4FM機もD-STARより帯域幅は広いですがFDMA方式を採用しています。ご指摘いただきましたようにFDMA方式はSCPCの言葉を使って説明する方がより分かりやすく説明できると思うことから、この章ではもう一度FDMA、つまりSingle Carrier Per Channelについて少し触れたいと思います。

図1を参照願います。一つのキャリア(Carrier)に何らかの変調を掛けることで、キャリアが情報を持つことになり、音声やデータを伝送することができます。二つの異なる情報を伝送するには、青と紫の二つの異なるキャリアが必要になることを概念的に表しています。

ここで145.00MHz/FMにてA局とB局が通信を行っていたと仮定しましょう。この通信とは別にC局とD局が通信を行うには、145.00MHz以外の周波数(Channel)、例えば145.02MHz等の周波数(チャンネル)を使って通信を行う必要があります。こうしなければ通信が混信してしまうからです。

SCPCとは、一つの通信チャンネルには一つのキャリア(RF信号)が存在するという意味です。このことからこういった通信方式をSCPCと呼ぶことがあります。アマチュアではあまり聞きなれない言葉ですが、実はこのSCPCは普段我々アマチュアが行っているQSOの形態に他なりません。


図1 FDMA(SCPC)方式の概念図

2. デジタル無線の世界の情勢

日本のアマチュア人口は、残念なことですが年々減少の一途をたどっています。かつて毎年増加傾向にあった時代では144MHz帯や430MHz帯では、周波数(チャンネル)の「奪い合い」といった言葉もあったほどです。最近では、週末を除けば都市部でも比較的自由にどのチャンネルでも使えるようになりました。

アマチュアを離れ、業務無線の世界に入るとこの周波数の空き具合(通信トラフィック)は一変します。米国ではPS(Public Safety)およびB&I(Business and Industry)と呼ばれる市場を中心として、無線通信機器の普及に比例するように都心部を中心に「RF周波数の不足」が深刻化しています。業務機の世界で、占有周波数帯幅のナローバンド化が進められる理由はここにあります。

かつては、FMモードのチャンネルステップが40kHzも50kHzもあった時代があります。その時代からすれば想像もつきませんが、今はその半分以下です。業務無線で使われているチャンネルステップの12.5kHzの由来は、かつての50kHzの半分の25kHzから、さらにその半分の12.5kHzとナロー化が進んでいったことによるものだそうです。

12.5kHzのナロー化された占有周波数帯幅でもアナログ変調で通信は可能です。さらにその半分の6.25kHzの占有周波数帯幅で音声通話を実現するには、それなりの高度なデジタル変調の技術が必要となるようです。占有周波数帯幅を12.5kHzのところを6.25kHzにする等でRF周波数の不足を補うことができます。限られた周波数帯域にできるだけ多くの局が通信できるようにすることが重要で、これが周波数の有効利用、効率化つまりデジタル化につながっていきます。

3. 業務無線の世界

アマチュア無線から少し離れますが、海外の業務無線についてお話します。周波数の有効利用、効率化を実現する方法の中にFDMAやTDMA方式があることは前号でも触れました。デジタル通信と一言でいってもお互いに通信方式が異なれば通信はできません。

北米の業務無線の世界では、FDMA方式を使い6.25kHzのチャンネルステップでNXDNといったシステムがあります。アイコムやJVCケンウッドがそのシステムを使って製品やシステム開発を行っています。モトローラは、NXDNの2倍の占有周波数帯幅の12.5kHzのチャンネルステップでTDMA方式を用いたDMRという製品やシステムを開発しています。DMRは、12.5kHzの幅の中にタイムスロットが2つ存在します。つまり、12.5kHzの帯域幅だけを考えますと、FDMAは2組、TDMAも2組の通信ができることになり、方式の異なるFDMAとTDMAがぶつかり合っています。

これらの方式のどちらも一長一短があるわけですが、仮に通信の頻度(トラフィック)だけを捉えると、トラフィックが著しく低下して一組の通信しか存在しない場合は、FDMA方式つまりNXDNでは図2のX/4 kHz分の占有周波数帯幅を考慮しておけばよいのに対し、TDMAを採用しているDMRでは通信のトラフィックに関係なく常にX kHzの幅を確保しておかなければならないことになります。


図2 FDMA(左)と、TDMA(右)の違い

4. レピーター運用

図2は同じ帯域に4局が出ていることをそれぞれFDMAとTDMAで表現しています。同じ帯域で4局の電波を発射しようとすると、FDMAでは各CHの幅を狭くすることに対して、TDMAではスロット1、スロット2とタイミングを計って電波を発射しなければなりません。これを人間の手でタイミングを取るようにするのは不可能です。どうしてもコンピューターの力が必要となり、システム運用が必須となります。仮に2チャンネル分の帯域を持っていたとしても人間の手ではそれぞれの局の同期がとれませんから、1局しか出られないことになります。


図3 FDMA、TDMAのレピーター通信の概念図

業務無線のように莫大な経費を掛けてレピーターとその下にぶら下がっている端末(トランシーバー)がシステム化されているのであれば、お互いの無線機の同期も比較的容易に取れますが、アマチュア無線のように限られた予算の中でのTDMA方式は簡単では無く、自作も考慮するとTDMAよりFDMAが適していると思います。さらにD-STARのように狭帯域の電波でレピーター運用はもとよりシンプレックスで運用することが電波の効率化、有効利用につながると思います。FBDX

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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