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Short Break

QRP用アンテナチューナの製作


完成したQRP用アンテナチューナ

フィールドでの運用が楽しい季節となってきました。今回は、すぐに手に入る簡単な部品で小型のQRP用アンテナチューナの製作にチャレンジしたので紹介します。

インピーダンスマッチング

アンテナチューナとは送信機または受信機とアンテナの間に挿入するマッチング回路です。送信機、受信機のアンテナ端のインピーダンスをアンテナの持つインピーダンスに合わせることで送信機からアンテナ、あるいはアンテナから受信機に信号を効率よく伝達するために用います。

特に高周波増幅回路の信号を次段に減衰なく効率よく伝達するには、増幅回路の出力インピーダンスとその信号を受ける側の入力インピーダンスが合っていることが重要です。このインピーダンスの合っている状態を「マッチングが取れている」といいます。マッチングが取れていない状態では送信機の信号が次段の入力側に効率よく伝わらない状態が発生します。そこに反射波が発生し、その反射波が回路内を往復することで、元の信号と重なった信号が次段の回路に入力されることで、その結果波形がひずみ、不要輻射が発生する要因にもなります。ここで次段の回路とはアンテナのことです。

図1 (左)は低周波増幅器のブロックダイヤグラムです。効率のよい電力の伝達とは、前段の出力抵抗R1に対してそれを受ける後段の入力抵抗R2が同じになることです。図1 (右)がその低周波増幅器を送信機とアンテナに置き換えたものです。送信機の出力をアンテナに効率よく伝えるには、低周波増幅器同様、Z1=Z2の条件が必要です。


図1 (左)増幅回路においてR1=R2のとき最大の電力を生ずる
(右)アンテナ回路も同様、Z1=Z2となったとき最大の電力がアンテナから放射される

低周波増幅回路では扱う周波数が低いため、コイルやコンデンサの周波数に対するリアクタンスの影響をそれほど考えなくてもよいのですが、高周波ではそうはいきません。少しのインダクタンスやキャパシタンスでもMHzオーダーとなるとそこには無視できないインピーダンスを生じます。そこで図2に示したように送信機側からアンテナ側を見たインピーダンスをZ1と同じようにする働きをするのがアンテナチューナとなります。


図2 アンテナチューナを含めたマッチング回路

アンテナチューナの目標とする仕様

アンテナチューナの製作といえば、コイルとバリコンはつきものです。コイルは自作できますが、バリコンとなれば自作は困難ですし、また市場での入手も困難になってきました。10W以上のパワーを扱うアンテナチューナにはそれなりの耐圧を持つバリコンが必要になります。5W以下のQRP用のアンテナチューナであればゲルマニウムラジオでおなじみのポリバリコンで製作することができるため、今回はその5W以下のQRP用のアンテナチューナとしました。

・マッチング可能周波数: 7~28MHz
・出力マッチング範囲: SWR=3以下
・マッチング回路: π型整合回路
・マッチング状態が分かるインジケータを装備
・最大入力パワー: 5W PEP (IC-705のバッテリーパック運用時の出力)
・可変コンデンサに260pF単連ポリバリコンを使用
・軽量、小型を目指す
・電源を必要としない

回路図

図3、図4に示します。両者ともアンテナチューナ部は同じ回路です。ややこしい回路はさておきQRP用のアンテナチューナがほしいという方は、図に示した「アンテナチューナ部」だけを製作するだけでアンテナチューナの役目は十分果たします。図3のPWR検出部や図4のSWR検出部はおまけの回路と理解してください。

回路はπ型マッチング回路としました。L1のコイルは、小型化にすることもありトロイダルコアに巻きました。アンテナとのマッチングはL1の両端のバリコンの可変だけでは、広い周波数帯に対応できないため、コイルのインダクタンスも可変できるようにしました。コイルのインダクタンスの可変は、適当な巻き数でタップをとり、それを12接点のロータリスイッチでインダクタンスを切り替えています。


図3 π型アンテナチューナ(パワー検出回路付き)


図4 π型アンテナチューナ(SWR検出回路付き)

アンテナチューナの製作

(1)コイルの製作
キーパーツは、コイルとバリコンです。軽量や小型化にこだわらないのであれば、どのようなバリコンでも問題ありませんが少なくともバリコンの容量は、250pFは欲しいところです。今回は小型化を図る意味でコイルはトロイダルコアに巻きましたが、スペースに余裕があれば空芯コイルでもOKです。

今回使用のトロイダルコアは、以前関ハムのジャンク市で購入したものです。型名やスペック等は全く分かりません。適当に40回ぐらい巻くと30µHぐらいのインダクタンスとなるのではないかとこれまでの経験で40回巻きとしました。後ほどインダクタンスを測定器で測ったところ36µHでした。ジャンク市で購入したトロイダルコアは他にもありましたので、適当に選び同様にコイルを作ったところ、同じようなインダクタンスのコイルとなりました(図5)。


図5 トロイダルコアでコイルを作る

参考ですが、トロイダルコイルに巻いたコイルのタップ位置とそれぞれのインダクタンスを測定器で測ったものを図6に示します。


図6 図5に示したコイルの巻き数とインダクタンス(実測)

SWRの検出に使用したトロイダルコアもスペックは分かりません。トロイダルコアの直径は実測で10mm、内径は5mmでした。このコアに0.3mmのポリウレタンを10回巻きます。このトロイダルコアに巻いたものはコイルというよりトランスフォーマの役目を果たします。1次側にはトランシーバからアンテナチューナに供給するRFを入力し、2次側はその信号を検波して進行波、あるいは反射波を検出します。

(2)メータ
前述しましたように単純なアンテナチューナの製作とするのであれば、パワー検出やSWR検出の付加回路は不要です。今回使用したメータも関ハムのジャンク市で購入したものです。スペックは不明でしたが、計測すると約0.1mAフルスケールのインジケータであることが分かりました。QRPのパワーからRFの一部を取り出し、それを検波してメータを振らすわけですが、メータを振らすために多くのRFを取り出すと出力が低下するし、また検出回路を取付けることによるSWRの悪化も考えられます(図7)。


図7 検出回路に使用した新古品のメータ

(3)組み込み
軽くしたかったこともあり樹脂ケースに組み込みしました。完成したアンテナチューナの重量は、160gでした。図8にパワー検出回路を組み込んだもの(左)とSWR検出回路の組み込んだもの(右)の内部写真を掲載します。アンテナチューナ部は同一です。


図8 樹脂ケースに組み込んだアンテナチューナ
(左)パワー検出回路付き (右)SWR検出回路付き


図9 完成したアンテナチューナのフロントパネル

アンテナチューナの調整

回路的には特に調整するところもありません。また回路も簡単であるため配線を確かめた後、図10のようにIC-705に製作したアンテナチューナを介して50Ωのダミーロードを接続し、動作チェックを行います。

IC-705の運用モードをFMあるいはRTTYにセットします。また、IC-705のメータ表示は、[MENU]ボタンを押し、“METER”を選択して、予めSWRの状態を表示するようにしておきます。周波数をHF帯のセンター付近の14MHzにセットします。IC-705を送信状態にするとPOメータが振ります。SWRメータも振ると思います。製作したアンテナチューナのインダクタのツマミを回し、そのSWRメータの振れを最小にします。最小になれば、Tune-2(出力側のバリコン)を回しメータ指示が最小になるように調整します。さらにTune-1(入力側のバリコン)を回しメータ指示が最小になるように調整します。それぞれを交互に調整して最小の指示になるようにします。50Ωのダミーロードを接続していますので、IC-705のSWRメータは何も振れないはずです。同様に7MHzから28MHzの周波数帯で動作確認を行います。


図10 50Ωのダミーロードによるアンテナチューナの動作チェック

次は、実際のアンテナを接続して動作の確認を行います。方法は、50Ωのダミーロードのときと同様です。

パワー検出回路の調整

図3の回路図でR1は10kΩの可変抵抗器です。アンテナチューナを調整して最大パワーとなったときに、このR1を調整してメータをフルスケールになるようにセットします。ご使用のメータの感度が0.1mAより悪いと、R1を調整してもメータがフルスケールにならないことがあります。その時は、C3の容量を少しアップするとメータの振れが大きくなります。ただし、これは出力の一部を横流ししていることと同じですので、アンテナに送られる送信電力は若干低下します。

SWR検出回路の調整

調整箇所は、図4のC5、C8、R5です。アンテナチューナに50Ωのダミーロードを接続した状態で、まずはアンテナチューナを調整してSWR=1となるようにします。次にそのままの送信状態でC5、C8を回してメータの振れを最小にします。アンテナチューナに接続したアンテナのSWRが悪化すると送信時メータは振り切れるかもしれません。その場合は、R5でフルスケールになるように調整します。

感想

仕様は7MHzから28MHzとしましたが、トロイダルコアに巻いたコイルのインダクタンスが予想以上に高く、3.5MHzでもアンテナチューナとして動作しました。ただ、バリコンの容量が不足しており、SWRは2弱が精一杯でした。HF帯のハイバンドは全く問題なしでした。NanoVNAで測定したところ36MHzまではマッチングの取れることは分かりましたが、50MHzまでには至りませんでした。

CL

<参考>
CQ出版社 エレクトロニクス製作アイデア集 [1]センサー編

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