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国家試験や養成課程講習会でアマチュア無線技士の資格を取得、無線機を入手してアマチュア無線局を開局したものの、いざリグに向かうと「知らない人と交信するのが怖い。間違ったことを言って叱られないか心配だ」、「相手局と何を話したらいいのかわからない」、「自分でCQを出す勇気が湧かない」といった戸惑いを感じる初心者は多いようだ。昔なら近所に親切なローカル局やOM局がたくさんいて、ビギナーに優しく的確な指導をしてくれたが、最近はアマチュア局数の減少もあって難しくなっているようだ。
そんな中、JARL(一般社団法人 日本アマチュア無線連盟)や、JARD(一般財団法人 日本アマチュア無線振興協会)は、開局したての“交信初心者”を対象に、実践的な交信テクニックを身につけてもらうためのセミナーを開講し好評を得ている。緊張の面持ちが笑顔に変わる、その取り組みを紹介しよう。
JARL主催「ニューカマーセミナー」の集合写真(11月13日午前の部)
JARLは昨年11月13日、コールサインを取得したばかりの初心者(JARL会員)を対象に、実際の交信方法とマナー、無線交信の楽しさを知ってもらうことを目的に「ニューカマーセミナー」を連盟本部(東京都豊島区)で初開催した。企画はJARL中央局(JA1RL)運用委員会が行い、会員増強組織強化委員会が運営に協力した。
冒頭でセミナーの運営スタッフを紹介
公募で集まったのは10代から60代前半までの男女会員16名で、いずれも最近開局したJK1プリフィックスだった。このうち「無線機は入手したが誰とも交信したことがない」人が8名、「まだ数局しか交信していない」人が5名というビギナーで、多くの参加者が買ったばかりの真新しいハンディ機を持参していた。
午前の部と午後の部、それぞれ8名のビギナーが受講した
受講者の多くは真新しいハンディ機を持参。なかにはポータブル機のIC-705を持って来た人もいた
セミナーは2時間弱のコースで、午前の部と午後の部でそれぞれ8名ずつが出席。参加者はJARLが作成したビギナー向けのリーフレット「ハムエッグスNEXT」を参考にしながら、「アマチュア無線の楽しみ方について」、「アマチュア無線の交信の仕方とマナー」という2つの講演を真剣な面持ちで聴講した。
「アマチュア無線の楽しみ方について」と「アマチュア無線の交信の仕方とマナー」という2つの講演を聴講
続いてJA1RLと運用委員(個人局)による“お手本の交信例”を学んだ上で、1人ずつ順番に持参したハンディ機を使って、別室で待機しているJA1RLとの交信を430MHz帯FMで行った(ハンディ機を持参しなかった数名は、JA1RL局のハンディ機でゲスト運用を行い、髙尾JARL会長と交信)。
髙尾JARL会長のサポートを受けながら、持参したID-52でJA1RLと初交信
JA1RLの無線機でゲスト運用し、髙尾JARL会長と交信中
初交信の緊張からPTTを押す手が震えたり、JA1RLからのCQ呼び出しに慌ててしまい、すぐにリポートや氏名まで送ってしまう参加者もいたが、運用委員のサポートで全員が無事に交信を終えることができ、笑顔が見られるようになった。
全員の交信後には、参加者が日頃感じている疑問や不安を解消するための「質疑応答タイム」がたっぷりと時間を取って行われた。ここでは「ワッチ中に聞こえてきた交信中の局の“仲間”に入れてもらうにはどうすれば良いか?」、「空きチャンネルの確認はどうやるのか?」、「呼出周波数での呼び出し方法とサブチャンネルへの移行方法」、「コンテスト参加局との交信方法」、「災害時などに、非常通信を聞いたときはどうしたら良いか?」など、初心者らしい質問が相次いで出され、運用委員や髙尾JARL会長らが1つずつ丁寧に回答していたのが印象的だった。
親子で参加し、交信方法を確認し合う様子も見られた
最後にセミナーの受講修了証と、参加記念のJARLグッズが渡されてセミナーが無事終了した。
(記事内写真提供: JARL)
JARDは、JARDが実施する養成課程講習会の受講者交流サイト「HAMtte(ハムって)」の会員(2022年12月末現在の会員数: 約15,000人)を対象にした「初心者交信教室」を、毎年3回(交信イベント「HAMtte交信パーティー」の開催期間に合わせて1月、5月、8月)、東京都豊島区の「JARDハム教室」で開催している。
東京都豊島区の「JARDハム教室」を使って、初心者交信教室を開催
もともとは2019年の「HAMtte交信パーティー」開催時に、JARD事務局に設置した社団局「JO1ZRD」のオペレーターを会員から募集する際、「初心者も大歓迎、ベテランハムがペアになって交信方法をレクチャーするので、ぜひお気軽にご参加を」と呼び掛けたことからスタートした企画だが、近年は「初心者に交信方法をマンツーマンで学んでいただき、実際にJO1ZRDの設備からHAMtte交信パーティーに参加していただく」という“交信教室”形式に進化し、定期的に開催されるようになった。
主催者の開会挨拶
2023年1月9日に行われた今年1回目の「初心者交信教室」には、10代から60代まで9名の初心者(うち女性1名)が参加した。内訳は2アマ: 2名、3アマ: 5名、4アマ: 2名で、すでに7名がコールサインを所持しているが、交信経験は大部分が「ほとんどない」か「まったくない」ということだった。
2023年1月期の第1回目となる、1月9日の初心者交信教室には9名が参加
最初に主催者挨拶と運営スタッフ(HAMtteのサポーター会員であるJARD職員、養成課程講習会の講師、JARDコンテスト委員会の委員が出席)の紹介があり、続いて交信方法に関する全体説明が行われた。ここでは単に「交信のしかた」だけでなく、アマチュア無線運用に欠かせないログ(無線業務日誌)の記入法やQSLカードの記入方法、ビューローを通じた交換方法まで詳しく説明していたのが特徴といえるだろう。
全体説明で交信方法についてをわかりやすくレクチャー
アマチュア無線運用に欠かせない、ログやQSLカードの記入法も説明した
続いて参加者は3名ずつ、無線機が1台ずつセッティングされた3つのテーブルに分かれて着席。まず無線機を使わずに“バーチャル交信(エア交信)”で交信方法を学び、さらにテーブルに置かれたJARDクラブ局(JO1ZRD)の無線機(無線従事者免許を申請中の参加者は、体験局「8J1YAM」の設備を使用)を使って運営スタッフの個人局と初交信を行った。そして最後には144/430/1200MHz帯でCQを出すなどして「HAMtte交信パーティー」に参加中の一般局と交信するという“三段構え”の交信体験を行った。
3名ずつ、3つのテーブルに分かれて交信を体験していく。それぞれのテーブルには無線機がセッティングされている
各テーブルに2名のベテランハムを配置。マンツーマンの指導で一人ずつ交信を体験していく
各テーブルにはベテランハムである運営スタッフが2名配置され、マンツーマンの指導が受けられた。1テーブルの参加者が3名と少なく、気軽に話せる雰囲気だったことから、参加者同士はすぐに打ち解けて、笑い声が絶えない明るいセミナーになったのが印象的だった。
臨時体験局「8J1YAM」の無線機(IC-9700)で初交信に挑戦中
JARDでは、2023年1月期の初心者交信教室を3回(1月9日、14日、21日)開催する予定だ。また今後も「HAMtte交信パーティー」の開催に合わせて企画するほか、コロナの状況などを見ながら、大阪など別の地域でも開催したいと考えている。
アマチュア無線の資格を持たない人にハム交信を体験してもらう「臨時体験局」の運用は、各地のアマチュア無線イベントなどで行われるようになってきた。しかし免許を取得したばかりの初心者を対象に、より実践的な交信術を教える取り組みは、あまり開催されていないようだ。
アマチュア無線局数が減少する中、新たに開局したばかりの初心者に適切な交信サポートを行い、長続きできる自信を持ってもらうことはとても重要だ。JARLやJARDのこうした取り組みが全国各地に広がり、地域のアマチュア無線クラブなどでも定期的に行われるようになることを願いたい。
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