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特集1

マイクロ波帯の運用状況

JA0RUZ 関崎文男

マイクロ波帯とはどんな帯域か?

「マイクロ波」と聞くと、多くの方の常識として「見える範囲でしか飛ばない電波」とも言われると思われますが、皆様はどんな印象をお持ちでしょうか?

実際私たちアマチュア局がマイクロ波を上手に使ってみると「こんな所まで飛んでいるのか」と「??」が連続し、驚きを覚える事でしょう! また、マイクロ波帯は広帯域モードも使えるため、TV映像の送受信や高速大容量データまでの送受信が十分に楽しめる帯域なのです。

そして私が今まで20年以上に渡りマイクロ波通信で楽しんで来られたのは、やればやる程不思議の連続と新しい事が体験できるからで、しかもそれがアマチュア無線の醍醐味の一つとして挙げられる「自作機器」で味わえるからでもあります。

FHDの画像に魅了された

その楽しみの一つに、地デジ放送映像品質同等のFull-HD Amateur TV(略称: FHD-ATV)があります。


写真1 長野県北佐久郡軽井沢町 見晴台での5.7GHz FHD-ATV運用の風景
(アンテナと電源を繋げば、即Full-HD映像の送受信及び録画まで可能)

FHD-ATVを始める以前はFM-ATVやDVB-S方式のデジタルATV(SD映像: 480i)等も運用していましたが、TV放送の完全デジタル化から5~6年経ってもアマチュア局だけは数十年も前のSD映像品質のATVしかできない事に情けなさを覚えたため、マイクロ波仲間の協力を得ながら、紆余曲折はありましたが5年程前に地デジ放送画質並みのFHD-ATV(1080i)送受信機を自ら開発し、免許を下ろして運用しています。

10.2GHz 運用風景


写真2 10GHz 送受信設備(AV・モニター・IF部等はトランクに分離組み込み)

FHD-ATV の仕組み

まず、FHD-ATV送信機はどのような構成で働いているかを図1で見て下さい。デジタルビデオカメラ等からのFHD-AV信号はHDMIにて取り込み、映像信号はMPEG2等に圧縮処理され符号化されます。

それらをTSフレームのパケットに変換した64QAM 5.7MHz帯域幅の変調信号をIF信号としてトランスバーターユニットに送り、5.7GHzや10.2GHz、24GHz等に変換されパラボラアンテナ等から送信します。

受信はその逆に、トランスバーターにてIF変換後STB(ISDB-Tチューナー)を通してデコードした後HDMI信号にて録画機器や超高輝度モニターTV等に送り、直射日光下でも鮮明に見える様に映し出します。

この映像録画は、SDカードやUSBメモリを使った物を採用してコンパクトに仕上げています。IF周波数(CH)は、主に周波数リパックでTV放送としては使わなくなったTV CH帯を使っていますが、ダイレクトに700MHz帯を使うシステムの他、一部では従来のTRVを使う様にするため1265MHz帯をIFに使うシステムや、更にそれを700MHz帯に変換するダブルコンバーション方式等々、各局のアイディアによって作られています。

なおこの変調ユニットは、ホテル内の案内映像送出等にも使われている市販機器等を採用しておりますが、免許申請では変調器内部の分析等をしてブロックダイヤグラム等を作成し、送信機の工事設計も保証認定を頂き、正式に免許を下ろしてから運用しております。(採用機器例: XHEAD-2・EMB-220 J 等)


図1 FHD-ATV 送信系統図

今では国内でATV運用を楽しむ50局近い方が、5.7GHz~24GHz帯でISDB-T方式のFHD-ATVを手掛けているようです。


写真3 新潟県上越市鳥ヶ首岬灯台付近でのFHD-ATV運用会の様子

交信映像等の一部はYouTubeで見る事ができますので、FHD-ATV ISDB-T JA0RUZなどと入力して検索してご覧下さい。


写真4 志賀高原にてゼロエリア3局同時運用の風景

マイクロ波の交信記録

また、マイクロ波のDX記録については、JARLのHPで5.7GHz帯や10.2GHz帯を見て頂ければ判りますが、FM等でも1000km近い記録が残されています。
https://www.jarl.org/Japanese/A_Shiryo/A-8_Kiroku/distance.htm

これは日本海ダクトの利用による物で、FHD-ATVに於いても5.7GHzと10.2GHzで、石川県羽咋郡宝達志水町宝達山と鳥取県鳥取市魚見台間287kmでのFull-HD映像伝搬にも成功しています。

その映像はこちらです。 → https://www.youtube.com/watch?v=wu5j8J0sWAM

またDVB-S方式ATV(SD)では、秋田県男鹿市寒風山と富山県南砺市医王山間の463km伝搬が記録となっています。

マイクロ波のロールコール

マイクロ波の運用はロケーションの良い場所に移動しての運用ばかりかと思われるかも知れませんが、5.7GHz 10.2GHzの固定運用では、20年程前には盛んに関東一円の局と長野県内や新潟県内、そして富山県等の二十数局が、千葉県習志野市のセンター局を中心にFMやSSBでのロールコールに参加してDX QSOを楽しんでいました。

当時の記録は下記に残されています。
5.7GHz https://jh0yqp.org/roll_call/old/5G_cuy/5G_cuy.htm
10.2GHz https://jh0yqp.org/roll_call/old/10G_cuy/10G_cuy.htm

ロールコールは山越えの通常伝搬ですが、時に「レインスキャッター」と言った雨雲散乱反射を使い、1・9・0エリアの5~6局が一斉に交信できる豪快な楽しみを年何回も味わいました。


写真5 当局のマイクロ波固定アンテナ設備(現在撤去)
(左)Φ1.8m 2.4GHz & 5.7GHz用 (右)Φ0.9m 10.2GHz用

モービル運用も問題ありません

5.7GHzや10.2GHzでのモービル運用も1.2GHz帯伝搬とあまり変わらないサービスエリアでの伝搬が確認できており、走行しながらのレインスキャッターも使えます。

但し、今後発売予定のIC-905の様に周波数管理された無線機であれば良いでしょうが、従来型の周波数精度と安定度が悪い無線機を使った場合、下記の様な事を理解して運用する必要があります。

1. モービル局同士で運用の場合はお互い周波数合わせが出来なくて上手く交信できない場合があります。
2. 通信状態が急激に変化するため、お互いが送信時間を数秒以内として会話して行かないと、アッと言う間に聞こえなくなる場合がある事を理解して運用する必要があります。
3. 波長がcm級なため、QSBがものすごく速く且つ細かくなります。


写真6 当局のモービルアンテナ
①は5.7GHz用3段コーリニアアンテナ ②は1.2GHz用アンテナ

マイクロ波ビーコン

当局は5.7GHzビーコンを自宅(長野市内)に設置していますが、1W~2W程度の送信機+無指向性アンテナでの送信信号でも、関東平野や新潟県北部の村上市まで「常時」飛んでいる事が確認できています。
https://blog.goo.ne.jp/ja0ruz/e/78ba9245ba88aa9221072dadc8a4f573

また、3000m級の北アルプスを越えた9エリアでも常時受信出来ています。
https://www.youtube.com/watch?v=JtZCkpKH_74

この様に山々に囲まれた信州に居ても、それらの山並みを利用して県外との交信が楽しめるのがこの5.7GHz、10.2GHz帯ですので、新しい無線機の発売によって多くの皆様がマイクロ波帯にQRVされる事で、アマチュア無線の楽しみも幅が広げられる事と思われます!

なおこれら日本のマイクロ波情報は、東京マイクロウエーブクラブや、西新潟クラブにも記録されていますので、参考にされて下さい。

今後更に多くの皆様とマイクロ波でコンタクトできる日を楽しみにしております。73!

<筆者自己紹介> JA0RUZ 関崎文男
約50年前に50MHzで開局し、順に上のバンドへと移行し、現在では1.2GHzから47GHzまでのFMやATV等を運用しています。

平成28年に「地デジTV画質並みの5.7GHz Full-HD ATV」の開発に着手し、翌年免許取得と同時に運用開始して、今では24GHzまでの「FHD-ATV」を運用しながら、全国のマイクロ波ファンに広めています。また1.2GHz帯を守るため、ローカル数局で40年近く働き続けるJR0WS・聖山レピーターの保守・管理等も行っています。

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