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特集2

ドイツにおけるSHFの現状

筆者: ミヒャエル・ コーラ(Dr. Michael Kohla, DL1YMK/SA6BUN)
抄訳: 月刊FB NEWS編集部

ドイツのアマチュア無線におけるSHF帯の現状について、1GHzから24GHzの間で人気のある周波数帯に焦点をあてて解説します。アマチュア無線に割り当てられている周波数帯は、1.3、2.3、3.4、5.7、10.3、および24GHzです。一般的な免許の最大エンベロープ出力レベルは23cmバンド(1.3GHz帯)で750Wですが、それ以上のすべてのバンドでは75Wの出力が適用されます。

現在、ドイツで最も人気のあるSHFバンドといえば1240〜1300MHzの1.3GHz帯ですが、これは最近の日本製トランシーバが1.3GHz帯をカバーしていることが主な要因です。この周波数帯は、これまでは中間周波数(IF)が28MHzあるいは144MHzを用いてトランスバータを自作する人たちがよく使っていました。2007年にDUBUS誌にミヒャエル・クーネ氏(Michael Kuhne, DB6NT)が設計した無線機の設計が掲載されていますがよくできており人気があります。

1.3GHz帯やそれ以上の周波数帯の76GHzまでのSHF帯用の既製最高級トランスバータは、Kuhne Electronicsが販売しています。実際、HFトランシーバと組み合わせた28MHzをIFとしたトランスバータは、フロントエンドで高いIP3を達成しているため、コンテストでは今でも抜群の性能を誇っているリグといえます。このことは、多くの局がハイパワーでオンエアしているような状況では非常に重要です。また、最近のVHF/UHF/SHFトランシーバは、アナログであれSDRであれ、位相雑音がモノバンドトランスバータより劣るため、アマチュア人口が密集する地域で法定限度内の送信電力で行うコンテストには不向きといえます。

ドイツでは、SHF帯のアクティビティは、コンテスト期間中の週末には爆発的に増加しますが、それ以外の期間は正直なところ閑散としています。もし、このSHF帯で1週間を通して夕方の時間帯にSSB/CWのQSOパートナーを探すとしたら、予め144MHzや430MHz帯で連絡を取り合い、その後SHFバンドに移行するような方法を取らない限り、交信の相手局を見つけるのは非常に難しいといえます。例えばCWやSSBのようなナローバンド・モードでのランダム・コンタクトは、対流圏伝搬(Tropospheric Propagation)のときでさえなかなか難しく、QSOの確率はかなり低いです。そのため、最近SHF帯でコンタクトを試みようとしている局は、インターネットを通じて専用のチャットルーム、例えば非常に人気のあるON4KSTチャットでスケジュールを組んだりしています。幸いにも大都市のような人口密集地での1.3GHz帯といえば、従来のFMやデジタル変調方式を使った多くのリピータにアクセスが集中しています。

最近、VHF/UHFと同様、FT8のようなマシンジェネレーテッドモード(Machine Generated Mode: MGM)が特に1.3GHz帯でも人気があります。しかし、このバンドでのアクティビティは、1296.174MHzの単一周波数に集中し、相互干渉の可能性が高くなっています。また、WRC2023以降の将来の周波数割り当てにおいて、アマチュアが1.3GHz帯で60MHzの帯域幅をさらに主張していますが、アマチュアTVを除く最近のMGMによる2.7kHz幅の単一チャンネルしか占有していない現状を見ると通信当局に対してなかなか反論しにくいと思います。

SHF帯の電波伝搬といえば準光学的な見通し通信が基本となります。そのため通信距離は最大でも約300kmに制限されてしまいます。しかし、近年、通信距離を伸ばすために、狭帯域の散乱伝搬モードが一般的になってきています。その代表的なものが、雨天散乱(Rain Scatter: RS)、航空機散乱(Aircraft Scatter: ACS)です。RSによる通信は、雷雲が発達した夏場に雨が降ると10GHz帯が望ましいですが、3.4、5.7、24GHz帯でもランダムなQSOが可能です。大きな雨粒の反射や屈折による通信可能距離は、雨粒や氷の粒子やひょう(雹)が積乱雲の中でどれだけ高くまで発生するかによりますが、800kmまで可能です。MGMでは信号の広がりやドップラーシフトに対応できないため、CW、SSB、FMが望ましいといえます。

航空機の散乱による通信は、交信する2局間のタイミングが必要です。交信が成り立つには、レーダー反射率の高い大きな航空機が、その2局間のアンテナのビームラインを横切る必要があります。航空機はそれぞれの局のアンテナのビーム方向に直視できる空間に存在し、その高度が高いほど通信距離が伸びます。このような航空機散乱による通信は、交信する2局間のそれぞれの送信パワー、航空機の速度、使用周波数によって異なりますが、数秒から最大2分程度はチャンスがあります。このため、航空機散乱による通信トライアルは、ON4KSTチャットのように、チャットルームを使って徹底的にスケジューリングする必要があります。もちろん、両局は、航空機の反射を利用するため、特定の飛行機の正確なコースを知る必要があります。このために、インターネットから入手できる航空機の放送型自動従属監視(Automatic Dependent Surveillance: ADS)データを使い、DL2ALFが開発した“AirScout”などの専用ソフトウェアで処理して、スケジュールを立てます。

このソフトウェアは、ある地点を通過する航空機の飛行経路を示し、予想される反射のタイミングを正確に予測します。このため、この伝搬モードでは数百キロメートルにおよぶ距離にアクセスすることができます。雨天散乱(RS)と航空機散乱(ACS)は、いずれも仰角を可変できるアンテナを使用するのが効果的です。

SHF帯で行われるもう一つの反射モードは、地球-月-地球(Earth-Moon-Earth: EME)通信です。このEME通信は、QSOパートナー間の距離を一気に地球表面で16,000km以上まで拡張します。この通信に最もよく使われる周波数帯は1.3GHzと10GHzで、その間の2.3GHzから5.7GHzではアクティブ局はかなり減少します。1.3GHzで必要とされる数百Wの高い送信パワーは、最近のLDMOSトランジスタ技術による自作のソリッドステート・パワーアンプ(SSPA)で実現可能です。3.4、5.7、10GHzによるEME通信では、フリーマーケットに放出されているような進行波管(TWT)を使い、送信パワーを法定限度までアップさせています。また、GaAsやGaN技術のパワーFETも一部で使用されていますが、これらのデバイスはまだまだ価格の面で手が届きにくいです。


図1 自作の10GHz帯 出力50W GaAs-SSPA

狭いビーム幅と高い利得のアンテナが必要なときは、直径1mから10mのパラボラアンテナがよく使われます。それ以上のサイズとなれば、専門家が通常現場で製作することになります。23cmバンド(1.3GHz帯)、13cmバンド(2.3GHz帯)、9cmバンド(3.4GHz帯)、6cmバンド(5.7GHz帯)のEMEアンテナでは、円偏波を容易に発生できるセプタムポラライザ付きクマールフィードホーンが最も広く普及しています。小型のアンテナしか使えない場合は、JT65やQ65などのMGMが普及していますが、これらのモードはコンピュータによる信号処理であるため「人間の頭の中で考えても」解読できず、ドイツのEMEerはこれまで通りCWやSSBを続けているようです。


図2 1.3GHz EMEに使用したクマールフィードホーン付き5mパラボラアンテナ

SHF帯でトロッポ伝搬を用いた通信では2.3GHzまでは60素子のロング八木アンテナが広く使われています。このアンテナの利得は優に22dBdを超えています。2.3GHz以上の帯域では、民生用テレビ業界から入手しやすいオフセット型も含め明らかにパラボラアンテナが主流となっています。直径2.5mまでの主焦点メッシュディッシュは、アルミ素材のスポークに亜鉛メッキの金網を反射板として使用したものがほとんどです。


図3 直径1mと1.5mの自作SHFディッシュと広帯域ダブルリッドフィードホーン

1.3~10GHzの全帯域で使用でき、全帯域で許容できるリターンロスの広帯域アンテナとして、ダブルリッドフィードホーンがあります。これは、金網で作るには多少の複雑さを伴いますが、現実的なアイデアといえます。モノバンドピラミッド型ホーンアンテナは、機械的なスキルをあまり必要としません。


図4 1.3〜10GHzの広帯域ダブルリッドフィードホーン

反射板の前に全波長ループアンテナを設置する方法は、製作が容易であるためSHF愛好家の間で広く使われています。このフィーダーアンテナの利点は、広くて均一な照射となることから、深いパラボラアンテナにも適していることです。また、1つの給電で異なるSHFバンドをサポートするため、複数のバンドループを共通の反射板の前に固定することで、各バンドループの1/4波長の距離を保つことができます。


図5 1.3GHzループ給電の例 (写真提供: DL4MEA)

しかし、10GHz以上のディッシュアンテナでは、同軸ケーブルの損失が大きく導波管による給電が必要となります。多くの場合、単純な開放導波管と反射板の組み合わせが使われますが、同軸と導波管を移行させたフィードホーンもしばしば適用されます。


図6 50cmディッシュとWG/リフレクタフィードを備えたポータブル10GHz局 (筆者運用)

昨今のあらゆる商業通信サービスの周波数枯渇問題は、ドイツのSHF帯に限ったことではなく、世界中の同サービスについて言えることです。言いたいことは「それを使うか、失うか!」ということです。一つの周波数帯に運用を集中せず、アマチュア無線に割り当てられた全周波数帯に分散して運用する。また、アマチュア無線のSHFスペシャリストの技術力と実力を発揮しながら、これからも自作を続ける・・・ そして語る! これらが重要と思います。

WRC2023とその成果は、通信当局のSHF帯におけるアマチュア無線の認識を示すものです。ヨーロッパのいくつかの国では、5G携帯電話通信の導入に伴い、すでに2.3GHzと3.4GHz帯のアマチュア無線の割り当てをキャンセルしています。さらに現在IARU第1地域全体では1.3GHzが衛星ベースのナビゲーションシステムにより危険にさらされています。08.12.2022 / Kh

<筆者自己紹介> ミヒャエル・コーラ(Dr. Michael Kohla, DL1YMK/SA6BUN)
私は現在66歳です。私が初めてアマチュア無線の免許を取得したのは、1972年、まだ16歳のときでした。それ以来、私の興味は常にVHFからSHFの周波数帯にあり、主にCWとSSBで交信していました。後年になってからDX QSOをしたいと思いHF帯にもオンエアするようになりました。現在、私がアクティブに行っていることといえば、1.3~24GHz帯のCW/SSBによるEME通信です。もともと私は高分子に関する化学者であり、研究開発ラボの上級化学者として主要なポジションに就いていました。

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