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新・エレクトロニクス工作室

第44回 クリスタルフィルタチェッカ その1

JE1UCI 冨川寿夫

2025年12月15日掲載

前回はラダー型クリスタルフィルタの自作でした。外注で作った基板を使って、一般的なフィルタと同じサイズで作りました。このラダー型の厄介なところは、周波数や帯域幅によってインピーダンスが変わる事です。そこで、その特性をインピーダンス毎に確認するチェッカを写真1のように作ってみました。その結果、どの程度のインピーダンスで使うのが良いのかを確かめる事ができます。つまり、実際のインピーダンスを測るのではありません。入出力の特性が平坦になるインピーダンスを知るのが目的です。もちろん、仕様が不明のジャンクのフィルタも同様に確かめる事ができます。


写真1 自作したクリスタルフィルタチェッカ

このような冶具は、冶具だけで使えるものではありません。トラッキングジェネレータとスペアナ、FRMS等が必要になります。SGとレベルメータでも測る事は出来ますが、測定には相当な時間がかかります。もちろんNanoVNAでも測れますが、S11でインピーダンスを測るのではありません。S21で透過した比率を測ります。つまり一般的に言えば通過特性です。

回路

まず問題となるのが測定方法です。抵抗を入れる方法もあるのですが、どうしても減衰してしまいます。インピーダンスが合う値は解るのですが、フィルタのロスは測れません。また、抵抗が大きくなるほど減衰しますので、特性自体も見難くなってしまいます。もちろん、適したインピーダンスを知るだけなら問題はありません。

そこで図1のようにして、クリスタルフィルタから見えるインピーダンスを変える事としました。1巻きずつをロータリースイッチで切り替えてインピーダンスを変えます。これだと最大の巻き数比が1:12ですので、インピーダンス比は2乗となり1:144となります。50Ωに対して7.2kΩになります。図1左側に50ΩのスペアナかTGを接続し、ロータリースイッチが1の接点の場合OUTは144倍の7.2kΩになります。ロータリースイッチが8の接点の場合8回巻いているので、この位置と1の接点とのインピーダンス比は1:64になります。OUTは1:144ですので、50Ω×144/64=112.5Ωになります。解り難いのが、基準となる50Ωの位置を変化させている事にあります。


図1 12接点のロータリースイッチでインピーダンスを変換

このようにして、各接点のインピーダンスを計算すると表1のようになります。どの程度の精度かは別として、使いそうな値はカバーできると思います。しかし、これでは全体的に高過ぎますし、50Ω以下が測れません。ただ、あまり極端なインピーダンス変換は誤差の元になります。また、場合によっては50Ω以下を測りたい事もあります。


表1 図1の各接点における計算上のインピーダンス

図1ではロータリースイッチのコモン側を50Ωにしています。これはスペアナ等の測定器をコモン側とし、接点側をクリスタルフィルタとしたためです。これは逆でも問題はないのですが、BNCコネクタをスペアナ側に使いたかった事があります。フィルタ側のコネクタについては、SMAコネクタがサイズ的に有利になります。複数付けやすいのは小型のSMAコネクタでしょう。

フィルタに接続するSMAコネクタは3か所ですが、このタップ位置以外でも問題ありません。もちろんハード的に付けやすい位置と、そうでない位置があります。また、値として重なる位置もあります。もちろん、12か所に付けるのは無理です。一応ですが、フルバージョンの計算を表2に示します。この中で、3,6,12のタップを使うようにSMAコネクタを付けました。表2だけでは解り難いと思いますが、表1と比べると解りやすいと思います。これで50Ω以下にも対応は可能です。繰り返しますが表2は計算上の値で、あまり極端な変換は誤差の元になります。


表2 全部の接点からタップを取り出した場合のインピーダンス

作り方と使い方にも関係するのですが、ロータリースイッチを前面から回そうとすると、実に配線が上手くできません。ロータリースイッチのコモンの接続は、スペアナとTGになります。ところがコモンを両方共に外側にするような配置は、他の接続を考えると上手くありません。そこでロータリースイッチを背中合わせにするようにしました。するとコモン(スペアナ&TG側)を前側にする事ができます。そしてフィルタ側を背面あるいは上面に置く事ができます

しかし、右側と左側で回転のイメージがし難くなります。そこで苦肉の策ですが、左右で逆の接点を使う事にしました。つまり、1と12、2と11、3と10のように逆回りの接点をペアで使うようにしました。すると、割と対照に近い体構造にする事が出来ると同時に、操作的にも向こう側と手前側のように違和感無く回す事ができます。ただ、たまにズレる事がありますので、接点の位置は確認する必要があります。

フィルタを接続する位置として、3か所にSMAコネクタを設けました。これで50Ω以下のフィルタも測定可能となります。もちろん別の位置に付けても、問題はありません。従って回路図としては図2のようになります。ロータリースイッチは2回路であれば1個で済むのですが、作りやすさと電気的な性能を考えて2個を別々に使いました。それは仕方ありませんし、その方が性能的にも良くなるはずです。あるいは、入出力でインピーダンスの異なるフィルタもありますが、このような場合の対応もできます。なお、図2のロータリースイッチは、便宜的に下から1~12としています。しかし、実際には左側はスイッチ表示の番号とは逆になります。また、この1~12は対アース間からの巻き数にもなります。


図2 全回路図

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