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新・エレクトロニクス工作室

第1回 モールス練習用低周波発振器

JE1UCI 冨川寿夫

3月までは週刊BEACONに執筆していましたが、都合により今月からは月刊FB NEWSに移る事となりました。「新・エレクトロニクス工作室」として再出発しますので、よろしくお願いします。


写真1 50年ぶりに作ったモールス練習用低周波発振器

苦労したCWの試験

私が電信級を取得したのは、半世紀以上前の昭和46年になります。この頃は送信も受信も試験があったため、発振器を作ってテープレコーダに録音し、受信の練習をしていました。3号テープを使ったオープンリールのテープレコーダです。カセットテープではありませんし、もちろんオープンデッキのような高級品ではありません。それ以前の骨とう品で、高校の先生が「使うか?」と聞くので「使う」で頂いたものでした。

しかし発振器の方は、どのようなものを作ったかの記録も記憶も全くありません。恐らく1石程度だったように思います。このような受信練習では上達するはずがありません。電信級は何とか1回でクリアしましたが、案の定2アマでは受信で失敗し3回も受験するハメになりました。何とか2アマまではクリアしましたが、元々はアマチュアテレビが目的だったのでそれでも良かったのです。このような流れもあり、今になってもCWは苦手です。

以前はカツミ製のEKMシリーズの低周波発振器が市販品にありましたが、最近では完成品の入手は難しいようです。BEACONで長い間工作を紹介していましたが、このような基本的な工作が少なかったのも確かです。そこで、50年前を思い出して写真1のように作ってみました。アマチュア無線をするのであれば、このような機器は作るのが良いと思います。しかし、これで受信練習用のテープを作るのは絶対にお勧めしません。写真1の上側に見えるのは、一応専用に作ったコードです。

実験1

どのように作るのかで少々悩み、最初にツインT型の発振回路を実験してみました。良くある回路ですが図1のようになります。ツインTの部分の値をいろいろと試してみたのですが、なかなか計算どおりにはいかないようです。自分で計算した値では、うまく発振しませんでした。図1の値は、FCZ研究所のキットを参考にしています。これだと700Hz位で発振します。


図1 ツインT型を使った実験回路

この回路を写真2のように基板上に空中配線で組んでテストしました。トーンはマアマアな感じなのですが、少々気になったのが周波数の変動でした。キーを叩いた一瞬の周波数が僅かに高いようで、若干ですがピョーと言う感じになりました。キーを押下するたびに発振をスタートさせるので仕方ないのでしょう。別のキーイング方法もあったと後で気が付きました。もちろん、CWの練習には何の支障もありません。


写真2 ツインT型の発振器は基板上に空中配線で実験

実験2

次に図2のような回路で、DDSを使った実験をしました。写真3のようにDDSのテスト用ボードを使って試しました。基本的には週刊BEACONのNo.177で筆者が作ったオージオメータを、そのまま応用しています。そのためにCPUがオーバースペックで、無駄なピンが多くなっています。これでまとめるのであれば、CPUは大幅にダウングレードするべきでしょう。


図2 DDSでの実験回路


写真3 DDSは専用のボードとブレッドボードで実験

キーをONした瞬間に700Hzを発振させ、OFF時には100kHzと絶対に聞こえない周波数にジャンプさせました。発振周波数も安定ですし、滑らかな感じです。トーンも完全なサイン波です。ほとんど不必要と思いますが、1Hzや10Hzステップで自在に可変する事も可能です。DDSのVFOと変わりませんので当然と言えば当然です。

それは良いのですが、どう考えても大袈裟過ぎでしょう。性能や機能が良ければ良いというものではありません。将来的に「音質が良い超高級を・・・」というテーマであれば否定はできませんが、アマチュア無線の入門者用の自作とすればダメです。CPUを使うのであればPSoCも使えると思いましたが、これも同じ理由でダメでしょう。

実験3

JARLでは毎年、ハムフェアの時に工作教室を行っています。2007年の工作教室ではNE555を使ったモールス練習機がキットとして使われました。これは今でもここに資料があります。

これを参考にして写真4のように試すと簡単に動作しました。図3の回路となります。低周波アンプが不要ですので回路的にも簡単ですし、部品も多くありません。これがトータル的に一番良さそうに思いました。この良いところは、キーをONした時だけ動作しますので電源スイッチが不要です。切り忘れを心配する必要がないのはメリットでしょう。


写真4 ICM7555はブレッドボードで実験


図3 NE555での実験回路

作製

このようにいろいろと実験をした結果、タイマーICを使ったJARLの回路を使ってまとめてみる事としました。写真4の状態でも動きますが、これでは完成とは言えません。図3は、工作教室の回路とは少し変えていますが基本的には同じです。

JARLの回路ではICはNE555だったのですが、CMOSのICM7555にしました。JARLの資料のとおりに少し音量は下がるようですが、一人で使うには充分と思います。また、電圧がNE555は4.5~15Vです。ICM7555は2~18Vで使えますので、単3電池2本で済みます。全体の大きさも考えて、3Vで動作するICM7555を使いました。

NE555であれば秋月電子で20円、ICM7555は60円で入手できます。手持ちを探したところ写真5のように、これらのシリーズが5個ほど見つかりました。左上にあるのが使用したICM7555です。実はNE555でも3Vで充分に動きました。試して見ると2.3Vまでは動きました。電圧が高過ぎる訳ではないので問題になるとは思いませんが、このような使い方はお勧めできません。ICM7555では1V近くまで動作しました。音量は電圧が下がると小さくなりますので、とても実用的では無くなります。いずれにしても、工作のしやすい写真5のようなDIPタイプを使うのが良いと思います。一応これらの手持ちのICは、全て3Vでも動きました。


写真5 手持ちにあったNE555のシリーズ

スピーカにはダイソーで購入した写真6を使用しました。これは無線機等の自作用に何個かストックしていたものです。両面テープで簡単に固定できますので、面倒な部分の工作が省略できます。小型ですがボックスにも入っていますので、裏側からの漏れもありません。周波数特性が良いとは思えませんが、元々単一の周波数を出すのが目的ですので問題にはなりません。


写真6 ダイソーで購入したスピーカを使用

ケースはタカチ電機工業の黒のプラスチックケースSW-50Bを使っています。この時点では「候補」であり、次のレイアウトで決めています。ここは試行錯誤が入るので少々説明が前後します。工作に慣れない方は、もう少し大きめが良いかかもしれません。電鍵を接続するターミナルは結構大事だと思います。使いやすくて品質の良いものを選びたいところです。この他抵抗やコンデンサ類は一般的なもので充分です。

まず、使う部品等を集めてレイアウトを考えます。全体をこのようにまとめよう、というイメージを写真7のように作ってから作業に入りました。このように部品を並べてサイズの関係をチェックします。左右や上下関係をチェックします。最終的に左右は逆になりました。


写真7 部品を置いて全体のイメージを検討

基板は図4のように実装図を作製してから、ユニバーサル基板に作製しました。ハンダ面は図5になります。使用したのは一般的なユニバーサル基板で、これをカットして使いました。最近では簡単なものでも実装図を先に作製するようにしています。これは思わぬ失敗を何回もしたからで、急がば回れです。注意すべきは、ICの下側にジャンパー線がありますので、ICの前にハンダ付けをしておきます。私の場合は、いろいろなICで試したかった事もあってICソケットを用いています。これは良し悪しがありますので、どちらでも良いと思います。基板のできた時点で仮配線を行い、動作確認をしておくのが良いでしょう。


図4 実装図


図5 実装図のハンダ面

次にケースに穴あけを行い、ターミナル及び電池ボックスとの間を写真8のように配線します。電池ボックスからのワイヤーはケースに穴を開けて通しています。基板はケース内で間違ってもターミナルに接触しないように、厚紙等を入れて絶縁をすると良いでしょう。その上で動かないようにホットボンドで基板をケースに固定しています。内部を見ると写真9のように少々狭いので、もう少し大きめのケースでも良かったかと思います。


写真8 最初に電池ボックスとターミナル間を配線


写真9 内部の様子

これらをaitendoのカット銅基板100×70mmの上に固定する事としました。これもレイアウトを考えながら決めた事です。いろいろなサイズの基板を切り売りしていますが100円のものです。もちろんこのような基板を使う必要は全く無く、ベニヤ板でもアクリル板でも何でも良いと思います。しっかりと固定できれば良いのです。アルミ板でも良かったのですが、一番良さそうなサイズがaitendoの基板でした。これはカットする手間が無かったという意味です。

スピーカとSW-50B等は、この基板に両面テープで固定しています。つまりネジ止めは全く行っていません。SW-50Bは写真10のように蓋の方を固定しています。これを閉じる前にVR2個を調整し、音量とトーンの周波数を好みにして下さい。このように板の上に固定しなくても使えますが、電池のワイヤー等がすぐに切れてしまうでしょう。めんどうでも固定するのが良いと思います。固定する事で使いやすくなり、作品としてもまとまります。


写真10 SW-50は蓋の方を基板に固定

使用感

写真11のように使います。音量はあまり大きくはありませんが、一人で使うには充分です。大人数で聞くようなCWのデモンストレーション用としては少々音量不足ですので、電圧を6VとしてNE555を使用するのが良いと思います。あるいは、アンプを使った別の回路を検討するのも良いでしょう。


写真11 このように使用

周波数を測ってみると、470~1410Hzの間で発振しました。十分な幅と思います。もちろんICやC,Rによって多少の違いはあります。試しに音を800Hz付近に調整し、パソコンのFFTのソフトで分析してみました。その結果図6のようになりました。ボリュームはあまり上げていません。800Hzの他に3倍と5倍が高めのレベルです。何となく歪っぽいと思っていましたが、それが数値で表されてしまいます。もっともパソコンのマイクで拾っていますので、あまり正確とは言えません。正弦波の発振器ではないので仕方ないのでしょう。


図6 FFTのソフト(WS)で解析

久しぶりに、このような発振器を作製しました。後から考えると、別の作り方も浮かんできます。秋月電子のLTC1799のモジュールを、目一杯低い周波数で使う方法もあったかなと思いました。このような簡単なオーディオの発振器なのですが、その性能や作りやすさを考えると正解が無い事にも気が付きました。そのために定番とされる回路が無いのでしょう。また考え直して正解を追ってみるのも面白そうです。

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