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今更聞けない無線と回路設計の話

【テーマ2】デシベルと無線工学
第22話 変調器出力振幅と信号劣化(2)

濱田 倫一

2026年8月3日掲載

3. DACのアナログ回路部分における劣化

図1に話を戻します。DACにおける信号劣化は、デジタル側の量子化雑音とアナログ回路部分で発生する雑音の二乗和が主因になります。さらにアナログ回路部分で発生する雑音は等価熱雑音(足し算される雑音成分)と位相雑音として伝送信号にかけ算されるサンプリングクロックジッタの電圧換算値にわかれます。DACによってはフルスケール出力で歪みが生じるものもあり、その場合は非線形歪みによる等価雑音IM も加算されることになります。内部回路との対応関係を図5(第21話の図5の再掲)に示します。


図5 DACで発生する信号劣化要因

(第21話の図2を再掲)

これらの雑音がいつもの「一気通貫で作成したレベルダイヤグラム」※2にどのように反映されているか図6で確認していきます。等価熱雑音(電力)は、増幅回路で付加される増幅器雑音、その他の回路雑音から構成されます。は主にR-2Rラダー回路の電流雑音が主体となります。図6のレベルダイヤグラム上においては等価熱雑音(電力)の大きさをNFで30dBと規定しています。(図6のセルM79) NF=30dBとは「当該回路の付加雑音が回路の入力端で熱雑音電力(電力密度)の1000倍あります」という意味です(図7)※4

熱雑音電力密度はボルツマン定数K=1.38×1023[J/K]、環境温度T=298K (=25℃)とすると


(式3-1)

回路の動作帯域幅BはレベルダイヤグラムのセルM78から10kHz、従って


(式3-2)


(式3-3)

TIAも出力反転増幅器も基本的に電圧利得を持っていないので、回路の伝達利得Gは1倍(0dB)として、DACの等価熱雑音の大きさは


(式3-4)

導出された等価熱雑音はセルM62でL列にて導出された量子化雑音と実効値和をとりますが、NFから導出した雑音量は「電力」なので、回路インピーダンスを50Ω(DAC出力端子は50Ωで終端する想定)としてセルM66で[dBµV]に換算しています。もしDACの後段回路がhigh Z回路の場合は「開放端電圧」となるので、この値に6dBを加えます。

サンプリングクロックのジッタ雑音は、ExcelシートのセルM72に100dBcの位相雑音として計上されています。位相雑音は伝送信号に対して乗算されるので、伝送信号に重畳するときには、信号レベルに関係なくこの値がSNRとして保存されます。DAC出力端子における信号振幅SはセルM59からS =108dBµV、従って伝送信号に重畳するジッタ雑音電圧は、


(式3-5)

この値と、(式3-4)で導出しセルM66でdBµVに換算した等価熱雑音、およびL列にて導出された量子化雑音の実効値和をセルM62で計算しています。

最後に非線形歪みによる劣化ですが、今回のモデル事例では、DACは0dBFSまで線形性が確保されていて、歪みの影響は無視できる想定としています(セルM73~75、セルM80)。


図6 レベルダイヤグラムから「②変調」部分を抜粋

(第21話の図2を再掲)


図7 NFの定義

4. 第22話のまとめ

第22話では、アナログ劣化を伝送信号に積み上げ計算する方法について解説し、アナログ回路の劣化が加わる最初の回路ブロックである変調部のアナログ回路部分について、いつもの「一気通貫で作成したレベルダイヤグラム」上での計算内容を具体例として解説しました。劣化の積み上げ方についてイメージを掴んでいただけたなら幸いです。以下、第22話の要点です。

  • (1) 伝送路で発生する劣化の積み上げ計算は、等価雑音電力に換算して前段から入力される雑音電力に足し算する。
  • (2) オペアンプ回路などのように信号や雑音が電圧(dBµV)で表記されている場合の足し算は二乗和(電圧に戻す場合は実効値和)となる。
  • (3) 一般に雑音は足し算される成分、かけ算される成分を問わず、無限の帯域幅(もしくは信号帯域のn倍の帯域幅)を有しており、通常電力密度(dBm/Hz)で表現されるので、伝送路の通過帯域幅、もしくは回路の動作帯域幅を乗じて電力に換算後に足し算を行う。
  • (4) 熱雑音や一般的な回路雑音(増幅器雑音、電流雑音)はその値が絶対値で与えられるので、雑音源が回路ブロックの入力側に存在するか出力側に存在するかに留意する必要がある。増幅器雑音の大きさを示す雑音指数(NF)の場合、雑音源は入力端となる。
  • (5) 位相雑音やジッタ雑音など、信号にかけ算される雑音は、その大きさがSNR(dBc)で規定されるので、伝送信号の大きさを乗じて実際の雑音電力に変換後に足し算を行う。この場合、雑音源が回路の入力端、出力端どちらにあっても結果は同じになる。

今回は直交変調器まで解説するつもりでしたが、書き始めると色々書くことが多くて書き切れませんでした。第23話では、直交変調器の劣化計算について解説します。

  • ※2  第19話で配布した解説用のレベルダイヤグラムのExcelシートはこちらからダウンロード可能ですので、必要に応じてExcelシートから計算内容等をご確認ください※3
  • ※3  ダウンロードされたExcelシートに関するご質問についてはご容赦ください。Excelシートの内容に関する知的財産権その他一切の権利は筆者濱田倫一に帰属します。月刊FB NEWS編集部は筆者濱田倫一の許可を得て本件記事を掲載しております。また筆者、ならびに月刊FB NEWS編集部は、これらExcelシートの二次使用に伴う一切の責任を負いませんので、あらかじめご了承ください。なおExcelは米国マイクロソフト社の商標です。
  • ※4  増幅器の雑音指数(NF)については、Mr. Smithとインピーダンスマッチングの話の第26話第32話でも解説しているので参考にしてください。

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