2014年9月号

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第8話 トラブル発生!~無線機を活用しよう~ エリー編

無線機を購入した3人は、各々電子申請による開局申請を行いました。一番積極的だったエリーは、いち早く開局申請を行ったので、他の2人に先駆けて免許状が到着しました。
 「3人で決意してから10ヶ月もたったけど・・・ (T_T) これでやっと電波が出せる~!」

近畿総合通信局から届いた封筒を開封すると、中には無線局免許状、無線局免許証票、無線局免許状の送付状、電波利用料納付案内書、アマチュア無線使用のルールについてのチラシが入っていました。
 「わたしのコールサインは何かなぁ?」
コールサインとは、個々の無線局に割り当てられた呼出符号(識別信号)のことです。「コールサインは一生もの」と宮代先輩から教わっていたエリーは、ドキドキしながら無線局免許状の「識別信号」欄を確認しました。

 「J P 3 J Z K!!!」
声に出して読み上げてみると、自分に秘密のコードネームがついたようで、エリーは嬉しくなりました。ふたりにもさっそく自分のコールサインを教えると、
 「“JP”って“JAPAN”の略なの? 3って何? JZKってどういう意味?(・o・)」
 「言われてみれば確かに、なんのことだろう・・・?」

エリーは、会社のお昼休みに宮代先輩に無線局免許状が届いたことを報告に行きました。もちろん、コールサインの謎を質問するためでもあります。
 「はっはっはっはっはぁ! 面白い考えだなぁ! でも、JPは“JAPAN”の略じゃないよ」

“JP”は局の国籍を表しており、それに続く数字の“3”は国の中の地域(エリア)を表しています。日本では、頭の2文字にJAからJSが割り当てられ、3文字目の数字として、0~9の数字が各エリアに割り当てられます。
 「数字はエリア番号と言うんだけど、関西なら3、関東なら1、九州なら6、北海道なら8になるんだ」
 「なるほど。じゃあ“JZK”にも意味があるんですか?」
 「その部分に特別な意味はないなあ。アマチュア無線の個人局にはAAAからXZZまでのアルファベットが、申請した順に割り振られる仕組みになっているからね。それにしても、“JZK”は少し言いにくいかも知れないぞ。今のうちからフォネティックコードを覚えて練習しておいたほうがいいな」
 「ふぉねてぃっく・・・?」

宮代先輩はデスクのブックスタンドから、何やら分厚い本を取り出しました。
無線に関する様々な情報が載っているようですが、今のエリーにはちんぷんかんぷんです。
 「通信する時に聞き間違えを防ぐために、スペルを単語で表現するんだ。例えば、“A”なら“Alfa(アルファ)”、“B”なら“Bravo(ブラボー)”なんだが、“JZK”は何だと思う?」
宮代先輩は、エリーが間違うことを確信して意地悪な笑い方をしていましたが、エリーはそれには全く気付かず真剣に考えていました。
 「“Jupiter(ジュピター)・Zone(ゾーン)・Kepler( ケプラー)”の略だと思います!」
 「う~ん不正解!さすが、もと天文部」

宮代先輩は満足げな顔で、「“JZK”は、正しくは“Juliett(ジュリエット)・Zulu(ズール)・Kilo(キロ)”」だと教えてくれました。
エリーは「ジュピターの方がかっこいいのになぁ・・・」と少しションボリしました。

 「あ、まだ免許証票を貼っていないじゃないか!よし、今貼ってしまおう」
無線局免許証票とは、無線局免許状と一緒に送られてくる小さな赤色のシールのことです。移動する局では、この証票を無線機に貼り付けないといけない決まりになっています。
無線機の表面にはざらつきがあり、貼ってもすぐに剥がれてしまいそうなので、エリーは先輩のアドバイスどおり一旦バッテリーパックを取り外して、内側の金属部分に貼り付けました。

 「ここなら簡単に剥がれそうにないのでバッチリですね」
 「よし、これで電波が出せるようになった。おっとまずはバッテリーを充電しないと」
エリーは、付属の充電器で、ID-51を充電しました。その間、エリーは宮代先輩とフォネティックコードを言う練習をしました。

しばらくすると、他の2人にも免許状が到着したため、まずは3人でテストを行うことにしました。
 「次の女子会までにちゃんと充電してきてね! 動かなかったら激おこぷんぷん丸だぞ~♪」
エリーはやっと運用ができるということで、ノリノリのメッセージを2人に送りました。

そして全員が満タンに充電されたID-51を持ち寄って集合しました。
 「でもさぁ、カフェとかで電波出すのはナシだよねぇ。携帯での通話もマナー違反なくらいだし」
ひとまず近くの公園に移動することにしましたが、そこでは初夏の日差しが3人を猛烈に照り付けてきます。女子の大敵・紫外線を避けて、3人は人影のないビルの中に逃げ込みました。

3人とも初めてのため、どうやって電波を出したらいいのか良く分りません。取扱説明書をめくってみましたが、それでもよく分りません。あーちゃんとサミーはすっかり困り果ててしまいました。
 「よし! Masaco先輩に聞こう! すぐ聞こう!」
エリーは携帯でMasaco先輩に電話をしました。
「無線機があるのに携帯を使うっていうのはなんだか面白いなぁ」とサミーは笑いそうになりましたが、エリーがとても真剣なので、頑張って表情を引き締めました。

 「もしもし。Masaco先輩こんにちは。コールサインが届きました♪」
M 「わぁ、おめでとう!何だった?」
 「私はJP3JZK “ジュリエット・パパ・スリー・ジュリエット・ズール・キロ” です。あーちゃんとサミーも届きました」
ほら、とエリーに携帯を手渡され、あーちゃんは緊張しながら
 「私はJP3KGT “ジュリエット・パパ・スリー・キロ・ゴルフ・タンゴ”です」
と言いました。まるで呪文を唱えているようで、あーちゃんはちょっと恥ずかしくなり、すぐさまサミーにバトンタッチしてしまいました。
 「お久ぶりですっ! 私はJP3KMI “ジュリエット・パパ・スリー・キロ・マイク・インディア”でした!とってもクールでしょ☆」
M 「JP3KMIかぁ、FBなコールサインだね。ちなみにFBっていうのは“Fine Business”の略で『素晴らしい』という意味よ」
エリーがとても代わって欲しそうに見つめているので、サミーは携帯を返してあげました。

 「Masaco先輩のコールサインは、1エリアのJH1CBXでしたよね。 実はですね、今3人で交信テストをやろうと思ったんですが、どうやって電波を出したらよいのかわからないんです」
M 「まずはどのバンドとモードで交信するのかを決めないとね。みんなID-51にしたのよね?
それなら、私もよく使う430MHz(メガヘルツ)帯にしようか。あとはモードね。ID-51ならアナログのFMとデジタルのDVが使えるけど・・・。音がクリアだし、相手のコールサインが表示されるから聞き取りに慣れていない初心者さんにはわかりやすくて、GPSとかいろんな機能も楽しめるから、断然DVモードがお勧めよ。あとは周波数ね。レピーターを使わないで交信するとしたら、う~ん。433.500MHz付近にしましょうか。誰かがその周波数を使っているようだったら、3人とも433.510、433.520の様に10kHzずつ変えていくといいわ」

Masaco先輩は、基本的な知識や使い方について色々と教えてくれました。それを聞きながら3人とも説明書のページをめくり、操作方法を勉強しました。
 「分かりました。DVモードで、433.500MHzですね。なんとかなりそうです」
M 「他にも分からないことがあったらいつでも電話してね。頑張って☆」
 「ありがとうございました!頑張ります!」

さっそく3人は、説明書を見ながら、ID-51の周波数を433.500MHz、モードをDVにセットしました。そして、まずは、エリーがあーちゃんを呼びました。
 「JP3KGTこちらはJP3JZK、聞こえますか」
 「JP3JZKこちらはJP3KGT、よく聞こえます」
 「すごい、すごーい!!ちゃんと聞こえた!」
この交信内容は、同じ周波数を聞いていたサミーにも聞こえました。
 「やっとここまで来れたね・・・!!」
初めて電波を出すことができて、感無量の3人は、何度も通信テストをして達成感を存分に味わいました。
 「そうか、アマチュア無線は一人がしゃべると全員が聞こえるんだね」
 「めっちゃ便利だね!これなら、離れていても全員に一斉に連絡できるね♪」
 「携帯じゃこんな風にはつかえないもんね!何人かで山登りとかスキーに行った時に便利そうだなぁ」

まだあまり使い方が分からない3人は、しばらくすると「喉渇いたねぇ」といつものカフェに行き、お喋りを始めたのでした。

しばらく経った土曜のある日、エリーは近所の山の麓にある公園に星の観察に出かけました。たまには自然いっぱいのところで思いっきり遊ばせてあげたいなぁと思っていたエリーは、愛犬のアポロも連れてきてあげました。お昼は公園の柔らかい下草で一緒に遊んであげて、夜になったらアポロは車で寝かせておいてエリーは天体観測をする、というプランです。

到着してすぐに、アポロは大興奮して飛び跳ねました。そして、エリーをぐいぐい引っ張っていろんなところに行こうとします。非体育会系で体力不足気味なエリーは、すぐにへとへとになってしまいました。
 「アポロー!こらっ、こっちにおいでっ!もうっ!」
愛犬のアポロが小憎たらしい顔で反抗するので、エリーはすっかり途方にくれてしまいました。

 「誰もいないし、別にいいよね・・・」
エリーはアポロの首輪からリードを外してしまいました。アポロは普段はエリーの言う事をよくきくいい子なので、危ないことにはならないだろうと思っていました。
アポロが嬉しそうに草木の間をぴょんぴょん飛び跳ねています。エリーはすっかり和んでしまい、さっきの疲れもあいまって、つい、うとうとしてしまいました。

はっと目が覚めると、アポロの姿がありません。
 「わ~!ヤバイっ!アポロ―――!!」
エリーが眠っている間に、どこかに行ってしまったようです。エリーはアポロの名前を呼びながら、一生懸命走りました。1時間くらい駆けずり回りましたが、結局アポロの姿を見つけることができませんでした。

エリーは大号泣しながら、車に戻ってアポロが帰ってくることを待ちました。
 「アポロ~・・・。わたしの大好きなアポロ。お願いだから無事でいて・・・(。>Д⊂)」
悲しみに暮れるエリーは、アポロとの昔懐かしい記憶を思い出していました。
エリーはアポロ計画の話が大好きなので、アポロを一目見たときにその名前にしようと決めました。ですが、大学時代、サミーとあーちゃんにアポロを紹介した時、「なんでもかんでも宇宙の名前にするんだから~(^^;)」と笑われてしまいました。

 「そうだ。2人にも手伝ってもらおう」
アポロはサミーとあーちゃんが家に来ると大喜びします。「2人がいればアポロが見つけやすくなるかも!」とエリーは考えたのでした。
エリーは、電話で2人にアポロがいなくなったことを伝えました。すると、2人ともお願いする前に「一緒に探すよ!」と言ってくれたので、エリーはさらにウルッとしてしまいました。

すぐに2人は公園に駆けつけました。
 「私は山の近くを探すね!」
 「じゃぁ、私は麓のほうに行くね!」
 「わたしはもう一度、アポロがいなくなった場所を探してみる!」
そして、アポロ探索のために3方向に分かれました。

 「あーっ!アポロ発見!!」
間もなく、あーちゃんは木の影でおしっこをしているアポロを発見しました。アポロの元気そうな姿に一安心。あーちゃんが捕まえようと駆け寄ると、アポロは猛ダッシュ!山道を駆け上ってしまいました。
 「あっ!こらっ、逃げるな!」
アポロの短いしっぽは、ちぎれんばかりに左右にフリフリしています。どうやらアポロは追いかけっこのつもりのようです。

 「サミー!アポロが山を登っていったよ!」
あーちゃんはすぐさまサミーの携帯に電話をかけました。
 「もしもし?あーちゃん?電波が悪くてちゃんと聞こえな・・・あっ、アポロ!」
サミーが通話に気を取られている間に、サミーの隣をアポロが走り去っていきました。慌てて後を追いかけますが、繁みに飛び込んで見えなくなってしまいました。

3人は再度集合して、作戦会議を開きました。次は、3人でいっせいにアポロを包囲して捕まえる作戦です。
 「こんな時こそ無線機の出番だねっ」
3人はそれぞれ自分のID-51を取り出すと、電源を入れて周波数を合わせました。無線機があれば、離れていても連絡が取れます。さらに電話をかけるという操作や電話を取るという操作が不要なので、通話ボタンを押すだけですぐに自分以外の2人に同時に連絡できます。スピーディーに連絡を取るためには、断然、携帯電話より無線機の方が便利なのです。
無線機をセットした後、3人は改めてアポロ捕獲のために解散しました。

次は、サミーが木陰で休んでいるアポロを発見しました。
 「こちらはJP3KMI。アポロを発見しました!上から回り込んであーちゃんの方に誘導します」
 「こちらはJP3KGT。アポロがこちらに走ってきました。今、エリーの方向に急カーブ!私も後を追います」
 「こちらはJP3JZK。アポロが見えました!絶対に捕まえますっ!」

エリーが走り始めると、アポロは「わんっ」と一吠えして、エリーとは反対方向に逃げてしまいました。ですが、エリーは、高校の体育祭以来の本気モードで、アポロを追いかけました。「今逃したら一生捕まらないかも知れない!」それくらいの気迫でした。

ですがエリーは悲しいことに、筋金入りの運動音痴なのです。気持ちとは裏腹に、足が思うように動きません。ついに、エリーは自分の足に反対の足を引っ掛けて、前のめりに転倒してしまいました。アポロが、ドアを開けっ放しの車の中に飛び込んでいくのを、宙を舞いながらエリーは目撃しました。
 「車のドア閉めました!アポロ確保!」
 「エリ~~~!!大丈夫~~~?!(>_<)」
こうして、アポロは無事に救出されました。

 「無線機ってこんな時にも役に立つんだね☆」
 「そうだね。これからはいつもバッグに入れておこっかなぁ」
 「私も・・・」

次回は
「第9話 トラブル発生!~無線機を活用しよう~ あーちゃん編」
お楽しみに☆

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