2014年9月号
連載記事
楽しいエレクトロニクス工作
JA3FMP 櫻井紀佳
第16回 太陽光発電で無線をしよう! その2
前回提示のシステムの構成に従って検討していきます。
2.1 太陽電池パネル
太陽電池パネルは前回検討したように、必要とする電力に合わせた枚数が必要です。一般的な売電では、出力を100Vにするためにピークで140V以上になるよう太陽電池を直列に接続することが多いようです。このため、購入した時点で太陽電池と並列にダイオードが入っています。複数のパネルを直列に接続した場合、部分的に陽の当たらないパネルが出ると全体に電流が流れなくなるので、このダイオードはその時のバイパスに使われています。
今回のシステムではパネルを並列に接続して電力を増していくため、このダイオードは不要です。むしろ逆流防止の意味で直列にして欲しいのですが、私の購入したパネルではこのダイオードの接続変更はできない構造になっていました。
太陽電池は基本的に定電流電源であるため陽の当たる量によって出力電圧が変わります。その代わり必要な枚数を全部並列接続しても過電流は流れませんが、定電圧回路と接続する部分で逆流防止の大きなダイオードが必要です。
太陽電池パネルの取付けは一般的には下図のようにその緯度と同じ角度にするといいようです。もう少し水平に近い20°程度でもあまり発電量は変わらないとのレポートもありましたが、雪の降る地域では水平に近いと雪かきが必要となるので考慮が必要です。
簡易的な計算のため、春分または秋分の日で南中(正午)した時を想定
太陽電池パネルの設置台はホームセンターでよく売っている単管パイプで作りました。パネルを取り付ける傾斜は緯度35°で上図のように水平と垂直の比が1:0.7になります。地面が平らな所に設置するのは簡単ですが、傾斜している場所への設置は測量の技術が必要で単管パイプを打ち込む位置を決めるのに結構苦労します。
今回使用した太陽電池パネルの取付穴がちょうど単管パイプに止めるUボルトの寸法に合っており、上下2枚のパネルを1つのUボルトで留めることができました。
2.2 定電圧電源
既に説明したように太陽電池の電圧は希望する電圧より高く、定電圧回路が必要です。太陽電池パネルで発電した電力をバッテリーに充電する方法は色々あるようですが定電圧でも充電できます。12V系のバッテリーを13.8Vで充電すると、陽が昇った直後に大きな電流が流れ、次第に電流が減少して日没には充電が止まることになります。
バッテリーを定電圧で充電する時、バッテリーの種類によって最適な充電電圧があるようですから注意が必要です。一般的な車用やフォークリフト用のバッテリーへの充電は13.8Vでも大丈夫なようですが、MSEバッテリーへの充電は13.4Vが良いようです。
この充電用の定電圧回路はスイッチング方式で下図のようになっており、スイッチングはパワーMOS FETで行います。この回路で後から色々なものをつけて電流が増えた時は、ダイオードとドライバーを含めてFETを2個並列にすると出力を増加することができます。
定電圧電源の入力は、太陽電池パネルの出力に接続します。IC1(NJM2309)は降圧用スイッチングレギュレータ制御ICで、出力から帰還された直流電圧はR7(3kΩ)のボリュームの分圧で調整されて入力されます。このICの内部基準電圧の0.52Vと比較され、電圧に比例したPWM(Pulse Width Modulation)として出力されます。従って13.8Vの時には抵抗の分圧比(電圧比)が26.54倍(13.8V÷0.52V)、13.4Vの時には25.77倍(13.4V÷0.52V)になっています。
IC1の4番ピンから出力されたPWMの波形はQ1(2SD1760)でエミッターフォロワーとして出力されPチャネルパワーMOS FET(Q2)のゲートをドライブします。PWMの下がった部分の波形はD3を通してゲート電圧をONの方向に引き下げます。
ゲートからドライブされたQ2(MOS FET)はコイルL4をスイッチします。スイッチされたL4のエネルギーはC7~C10に充電され、OFFになった時にはD5からC7~C10を通して還流電流が流れてDC電圧が出力されます。
このPチャネルMOS FET 2SJ555は大電流が取り扱えますが、ON-OFFの周波数特性はあまり良くなく、今回は動作周波数が10kHz程度と低くなりました。このFETは今では保守品種となっておりネットの在庫品しか手に入りません。周波数を上げるとコイルも小さくできるので周波数を上げて最新のFETを選んだ方がベターと思われますが、絶対最大定格のソース-ドレイン電圧は60V以上は欲しいところです。
スイッチング電源は切替時にドレイン側でリンギングが発生します。FETの破壊にも繋がるのでこれを減少させるのがスナバー回路で、C14とR24で振動を吸収します。定数の決め方はリンギングの周波数fを測定して次式で計算できます。
出力回路のスイッチにも同じパワーMOS FETのQ3(2SJ555)を使用しています。直流的なスイッチとしては優秀で、ソースを基準としてゲートに-10Vをかけるとドレイン-ソース間がONとなり、そのON抵抗はわずか0.017Ωですから接続する無線機の送信時に流れる15Aでは、0.25V程度しか電圧は低下しません。このFETを制御している回路はバッテリー電圧が下がって限界までくると切るように働きます。この電圧の設定は11.3Vに調整します。この電圧の検出回路は少し正帰還をかけているため、切れる時は11.26V、入る時は11.71Vになります。電圧検出回路の後にゲートを設けて、スイッチでいつでも切れるようにしています。
大電流が流れるため、内部の配線は1mm厚で幅6mmの銅板で配線しています。また端子は8mmのネジを使いました。電流による発熱の安全性もありますが、なにより0.5Vでもドロップすると電圧が足りなくなる心配からできるだけ電圧降下を起こさないようにしています。
写真にあるこのユニットは120mm×180mm×50mmのアルミのケースに入れていますが、このままでは放熱が不十分で放熱板を追加する必要があります。このケースの裏側一杯に放熱フィンを付けてください。できれば温度が上がった時にファンが回って冷やすようにするとベターです。
2.3 昇圧回路(12V-13.8V)
昇圧回路は送信機のために12V位から13.8Vまで昇圧するものです。この回路は入力電圧が13.8Vより下がるとIC1が電圧に比例したPWMの波形を出力します。その信号でQ5のパワーMOS FET 2SK3163をスイッチします。このFETでスイッチされたL1のエネルギーがD2のショットキーダイオードD30SCMを通してC5~C7のコンデンサーを充電します。この出力電圧は、R7~R9によって分圧され、IC1内部のVref 1.25Vと比較されて電圧に比例したPWM波形を出力します。R13は過電流検出用の抵抗でマンガニン線を使っています。D2のショットキーダイオードは3本足で対向して2個入っているので並列に接続して使用しています。
Q1、Q2はFETのドライブ回路で、D1、Q3、Q4は電圧が低下し過ぎた時にIC1の動作を止める保護回路になっています。バッテリーの電圧が高くこの昇圧回路への入力が13.8Vあるときにはこの昇圧回路はほとんど働かずバイパスに近い動作をしますので、入力電圧はあまり気にしないでも大丈夫です。
電源の12V入力側に30Aのブレーカーをケース側面につけています。これは出力がショートした時などの保護と電源スイッチの兼用でつけています。この昇圧電源はわざわざ作らなくてもネット通販で販売しているようなので、作るのが趣味でなければ購入した方が早いかも知れません。
これらの定電圧回路と昇圧回路は大電流をスイッチするので不要輻射も気をつけないと受信機に妨害波が入ります。受信機で妨害を調べながら入力や出力に数nF~数10nFのセラミックやフィルムコンデンサーをいくつか取付け、線の太さに合わせたEMC対策用のフェライトコアをつけてみて下さい。昇圧回路にはL2、L3の大電流用のコイルを入れていますがインダクタンスが小さく効果はあまりないかも知れません。
一応主要な回路などできましたので、次回は実際の配線などの説明をしたいと思います。
■FET 2SJ555
Pチャンネルの大電流FET、
パワーMOS FETは電圧制御素子で基本的にはゲートに電圧を与えるだけで大電流でも制御できる筈です。しかし実際にはゲートソース間の容量が非常に大きいため、スイッチングする時この容量を充放電しなければなりません。
■ショットキーダイオード (D30SC4M)
スイッチングされた電力を必要な電圧に整流するダイオードは周波数特性がよく、順方向電圧の低いショットキータイプのものが必要です。今回使ったものは下図のように向かい合わせの2個入りのものを並列にして使いました。
■インダクター
大電流をスイッチするFETの周波数特性の関係でスイッチング周波数が低くなったのでインダクターも大きいものになってしまいました。周波数を上げるとインダクターとコンデンサーを小さくできます。
■逆流防止用ダイオード
逆流防止ダイオードは接続したバッテリーから太陽電池パネルへ逆流しないようにするものです。電流容量は太陽電池パネルの最大電流の合計値以上のものが必要です。
■FET 2SK3163
Nチャンネルの大電流FET、
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- 第81回 3.5MHzアンテナ
- 第80回 シニアスピーカー
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- 第77回 DDSの動作
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