2014年9月号

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海外運用の先駆者達 ~20世紀に海外でアマチュア無線を運用した日本人達~


JA3AER 荒川泰蔵

その18 相互運用協定への聴問会が開かれる 1981年 (1)

相互運用協定への聴問会が開かれる

この年(1981年)には、アマチュア無線の相互運用協定につながる法令改正の聴聞会が開かれることになり、在米中の筆者にJARLから国際電話で出席の要請があったがとても一時帰国するための余裕がなく、当時ブラジルから帰国されたばかりの適任者であったJA1BNW/PY2ZTH廣島孝之氏を紹介し、依頼して頂くことにした。今般その廣島孝之氏に、当時の記憶を綴って頂いたので記録として紹介する。

「電波法第5条の改正に関連して、外国人アマチュア無線局および無線従事者国家試験関係の法令改正が行われましたが、これらの省令案に係る電波監理審議会聴聞会が昭和56年(1981年)10月22日(木曜日)午前10時から郵政省で行われました(写真1)


写真1. CQ誌に掲載された電波監理審議会聴聞会のニュース記事(JA1BNW/PY2ZTH廣島孝之氏提供)。

JARLからは、原会長、斉藤専務理事、梶田事務局長、藤岡事務局長付、野口会員業務部長をはじめ、JA1CLN笠原氏、JA1BNW廣島が出席、外国人にアマチュア無線局の開設を認める件について、外国のハムの現状の説明や、免許問題についての要望を行いました。その席上、私達にも、諸外国の免許事情についての説明のチャンスが与えられました。

笠原氏は、ITU並びに欧州及びアルゼンチンの免許制度について、私はアメリカ合衆国及びブラジルの免許制度について説明を行いました。笠原氏は、アルゼンチンでは日本の免許を基に現地の免許が簡単に取得できたこと。欧州の国々では、比較的簡単に相互に運用を認め合っている。実はこの制度が1986年から実施されている欧州共通の免許制度、CEPT(欧州郵政通信)免許に近いすばらしい構想であったことを後で知りました。

私は、米国のFCC免許は、国籍に関係なく誰でも取得できる、従免と局が同一のもので免許番号はコールサインである、免許を受け取った日から運用でき無線設備の検査はない、受験料も開設手数料も一銭もかからない、試験の結果はその場で分かるし合格すればその場で上級試験が受験できる。ブラジルの免許制度もほぼ米国のFCCと同様であること、ブラジルと米国との相互運用協定をベースにFCCの免許を持っている日本人にも無線局免許が与えられたこと等々、外国免許を見せながら説明をしました。当時の日本では、少々信じがたいほどの話でしたが、少しでも日本の関係者に理解してもらおうと二人とも汗ビッショリになって話したことを想い出します。

昭和56年10月に電波法第5条の改正が行われた後、現実に外国人が日本で運用できるようにするための関係政・省令である電波法施行規則、無線局免許手続き規則、無線局の開設の根本基準及び無線従事者国家試験及び免許規則、特定無線設備の技術基準適合証明に関する規則などが施行された後、郵政省は、諸外国の通信主官庁とアマチュア無線従事者資格の対応等、相互にアマチュア無線局の開設及び運用を認め合う場合の要件及び手続きについて調整を行ってきました。

これだけのことを行う訳ですから、第一号のアメリカ合衆国との締結に至るまでには、多くの年月を要しましたが、郵政省(現・総務省)、JARL等のねばり強い努力で、現在までに11ヵ国(アメリカ、 カナダ、 ドイツ、 フランス、 オーストラリア、 韓国、 フィンランド、 アイルランド、 ペルー、 ニュージーランド、インドネシア)と相互運用協定の締結がなされました。(2014年7月記)」

1981年 (マカオ CR9JA, CR9WW, XX9WW)

JA1UT林義雄氏は、グループでマカオからCR9JA(写真2)を運用した様子を報告してくれた。「ペディグループのひとり JH1KXJ 大光明氏の米国ライセンスを添付しマカオ郵政局に申請した。落成検査の後電波の発射が許可された。ペディグループは総勢15名であったが、大光明氏以外は全て指名されたコントロールオペとして運用した。免許の取得にはCR9AKのPinto氏が大変援助してくれた。


写真2. (左)CR9JA林義雄氏達のQSLカードと、(右)CR9JAでSSTV運用中の左からJJ1CEI, JK1QHK, JH4RUG, JE2GLQ, JA1UPA。

運用は1.9MHz - 144MHz の全バンド、CW, SSB, FM, RTTY, SSTV, AO-8の全モードで行った。総交信局数は11,935局。運用はポルトガル海軍のマカオ警備隊宿舎を借りて行ったが、Macauで最も高く、南支那海及び中国本土が一望の下に見渡せる、QRVには最高の場所だった。(1986年5月記)」。しかし、免許の申請書及び運用許可証(写真3及び4)は、米国の免許を持つKA1CW, Yoshitaka Omiya氏になっている。


写真3. (左)CR9AJ林義雄氏達の免許申請書と、(右)CR9AJ林義雄氏達の運用許可証。(クリックで拡大します)


写真4. (左)CR9AJ林義雄氏達の運用許可証の英訳文書とJA1UT林氏のメモ。(右)CR9AJ林義雄氏達のQSLカード裏側、運用者のコールサインと運用結果が印刷されている。

JA1WSA / JJ3PRT青木洋二氏(写真5)はマカオからのゲストオペについてレポートしてくれた。「マカオと日本の間には相互運用協定がないため、米国等の免許を持っていない限り個人局は取得不可能であった。このため1981年1月から1985年11月にかけて友人のJose (CR9WW / XX9WW)の家よりゲストオペレーターで10数回運用した。(1991年11月記)」


写真5. (左)CR9XXを運用したJA1WSA/JJ3PRT青木洋二氏(2013年NDXAの忘年会にて)。(右)2013年N2JA塚本葵氏(前列中央)を大阪に迎えて集まったJANETメンバー達とJJ3PRT青木洋二氏(後列右端)。

1981年 (フィリピン 4D6UB)

JA3UB三好二郎氏は、セブ市で地域の無線クラブの会合に参加し、4D6UBを共同で運用したらしく、数枚の写真とQSLカードを送ってくれた(写真6及び7)。(1985年12月)


写真6. (左)4D6UB三好二郎氏達のQSLカードと、(右)JA3UB三好二郎氏が参加したCebuアマチュア無線クラブの会合風景。


写真7. (左)4D6UBのオペレーター達とJA3UB三好二郎氏(左端)。(右) 4D6UBのオペレーター達とJA3UB三好二郎氏(右から2番目)。

1981年 (インドネシア YB2SEA)

JA3UB三好二郎氏はSEANETコンベンションに参加したとレポートしてくれた。「インドネシアのYogyakartaで開催されたSEANETコンベンションに参加し、参加者に運用を許された特別局YB2SEAを運用した(写真8)。(1988年1月記)」


写真8. (左)Yogyakartaで開かれたSEANETコンベンションに参加したJA各局。右から2番目のマイクの前に立つのがJA3UB三好二郎氏。(右)YB2SEAのQSLカード。

1981年 (タイ HS0JUA)

JA3UB三好二郎氏は、「ユニセフハムクラブ設立準備メンバーなどにより、HS1WR故カムチャイ氏のご協力で運用しました。HS1WR亡き後、1982年12月にHSでのオンエアは禁止されましたが、RASTは公式解禁に向けて努力中です。今回(1984年)も特別に免許され、タイAIT (Asian Institute of Technology)の副学長 西野博士(JA1BAR)らのご協力により、AITの校舎を借用して運用しました(写真9)。(1988年1月記)」と2回にわたる運用についてレポートしてくれた。


写真9. HS0JUA三好二郎氏達のQSLカード(1984年のカード)。

1981年 (スリランカ 4S7GGG, 4S7EA)

JA8WKE野坂康博氏は4S7GGG (写真10)を運用した経験をレポートしてくれた。「JAの免許証の英文と免許状のコピーをテレコムに出し、約1週間で臨時免許が来る(ICPOのブラックリストに名前がないか確認するそうです)。本免許はJAについてから用紙が届きました。テレコムのアマチュア無線係の長、4S7WS (W. S. A. Perera氏)の家は民宿をやっており、1日5,000円くらいでシャックを貸してくれました。本免許がなくても運用許可証で運用ができます。Rigは空港から入れられず、4S7WSの付き添いで、やっと出すことができました。免許内容はJAと同じ(6mは除く)でした。テレコムへJAから免許の申請をしておけば、すぐに運用できると思います。(1986年2月記)」


写真10. 4S7GGG/8Q7DX野坂康博氏のQSLカード(写真は9N1BMKを運用した時のものと思われる)。

JI1VLV伊原ナナ子氏は、「4S7へは8Q7への行き帰りに寄り、4S7EAのシャックに1泊しました。コールサインが欲しかったのですが、週末だった為、役所が閉まっていてダメでした。確かワッチのみで、オンエアはしませんでした・・!(1987年4月記)」とレポートしてくれた。

1981年 (モルジブ 8Q7DX, 8Q7BI, 8Q7NN)

JA8WKE野坂康博氏は、8Q7DX (写真10)を運用した時のことを、「8Q7BF(丸山OM)とテレコムに行き、JAの英文免許証と免許状のコピーを出しました。次の日に免許がおりるとのことでコールサインを"どうしても8Q7DXにしてくれ"と言うと、大臣の許可がなければダメと言われ、大臣が来るまで待ち、許可をいただきました。手数料は米5ドル以下だったと思います。ローカルのJA8MWUの免許(8Q7JA)も本人がいなくてもすぐおりました。首都マレ以外は1つの島で自家発電しており、夜になると電気を止められダメな様です。私は現地の人用の貸間に泊まり、ダイポールをはり運用しました。1日、朝食がついて米3ドルに宿に入りましたが、観光目的ならば、首都以外に行った方が良いようです。外人向けは1日33米ドル以下の宿はないようでした。スリランカ人の8Q7AV-AZの父子とも会いましたが、運用についてはあまり協力的ではなかったようでした。(1986年2月記)」とレポートしてくれた。

JH1KRC渡辺美千明氏は8Q7BIの運用(写真11)について次のようにレポートしてくれた。「赤道をはさんで南緯1度から北緯7度付近に点在する大小1,200の島々よりなるインド洋の真珠モルディブ共和国から50MHz運用のためJA1UT(不参加)、JH4JPO、JH4RUGが当初の企画をたて、HF帯運用要員として、JH1FMW、JH1KRC、JI1VLVとJP1LAB(当時SWL)が追ってライセンス申請を行い参加した。申請はモルディブ・Telecommunications Department (現 Dept. of Post and Telecommunications)あて英文にて、運用目的、使用機材の詳細、期日及び場所等を記した申請書を作成し、日本の局免、従免のコピー及び電監で発行された英文証明各1通を添えて郵便にて提出した。モルディブの免許は現地到着、機材通関の後、本島(Male)にあるTelecomオフィスにて発給され(写真12)、その際、各自のコールサインがコールサイン台帳の空いているところに記入された(原則としてアルファベット順、希望があれば考慮される)。

- 一部省略 - 運用については、時期的に現地の真上を太陽が通過する頃であったため、HF帯は夕刻から夜間のパスのみがDXに有効だった。日の出以降、午後2, 3時まではマレ本島の局(距離は30km位)しか入感しないので、もっぱらマリンスポーツないしは日陰で昼寝を楽しんだ。3.8~50MHz CW・SSBの運用で、約3,300 QSO出来た。伝搬は低緯度にあるため比較的MUFが高く、日本で運用するよりCondxは良好。日本とヨーロッパとがほぼ等距離となるため、オープニングはほぼ同じ様な感じになるが、北米とのショートパスは難しく、むしろ11~2月のロングパスの方が可能性が高い。(1986年2月記)」


写真11. (左)8Q7BI渡辺美千明氏達が運用したロケーション。(右)8Q7BIのQSLカード(写真の右側が渡辺美千明氏)。


写真12. 8Q7BI渡辺美千明氏の免許状。(クリックで拡大します)

また上記渡辺美千明氏達に同行したJI1VLV伊原ナナ子氏は、「以前CQ誌にJH1KRCが書いていた通り。他の方はアルファベット順にBI, BJ, BK・・と、コールを頂いたが、私はNaNaでNNを、特別にいただきました。当時8Q7YLは既に他の方(外人の方)におりていたのでダメとの由でした。運用は、バンド別にコールを使い分けたので、必ずしも、8Q7NN=伊原、と言う事ではありません。(1987年4月記)」と、レポートしてくれた。

1981年 (ブルネイ VS5TX, VS5LH, VS5DX, VS5SS)

JA1BK溝口皖司氏から、「1981年11月5日から2日間、ブルネイからゲストオペとして、史上初の50MHzのQRV。RTTYもQRVした。(1986年4月記)」旨のレポートとQSLカード(写真13)を頂いた。QSLカードの右下の写真は、溝口氏と一緒に写ったVS5TX, Alan Kan Kam Yuen氏(右側)であり、裏面には当時のデータが印刷されている。


写真13. VS5TX溝口皖司氏のQSLカード表と裏。

JI1VLV伊原ナナ子氏は、「ちょうど私の滞在した前後の時期のみ、短期訪問者に対する免許がおりない、とんでもない時で残念でした。1981年2月28日から3月9日まで、VS5LH, VS5TX, VS5DX, VS5SSのゲストオペとして、HF及び50MHz(CW & SSB)を運用しました。(1987年4月記)」と、多くの局からゲストオペした旨、当時の様子をレポートしてくれた。

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