2015年1月号
連載記事
第12話 3人娘、また会う日まで 後編
あーちゃんが海で遭難している頃、サミーとエリーは2人でのんびりと、カフェでお茶をしていました。
サ 「今ごろあーちゃんはチャラ男のところかなぁ」
エ 「なんだかんだで、うまくやってるみたいだね~」
サ 「わたしたちに連絡来ないってことは、きっとそういうことだよね。あーちゃん、落ち込み方が分かりやすいから」
エ 「でも、時間の問題だと思うな。だってあの男、いざという時に絶対頼りにならないタイプだもん」
サ 「間違いない!」
サミーはホカホカのココアをすすりながら笑いました。
あ 「さ~む~い~!」
一方、あーちゃんは寒さでガタガタと震えていました。
あ 「ねぇ、何か暖をとれるものはないの?」
恨めし気に彼を睨みつけますが、彼は船の隅でうずくまってシクシク泣くばかりです。
あ (こいつぁもうダメだ)
とうとうあーちゃんは彼に見切りをつけました。
あ (そういえば、カイロをカバンに入れてきたような)
カバンの中を探ると、愛機ID-51が入っていることにあーちゃんは気付きました。出かけるときは無線機を持ち歩くことが習慣になっていたのです。
あ (これがあれば助けを呼べるかも・・・!)
最寄レピータをFROMに設定した後、反射的にサミーとエリーが普段聞いているレピータをTOに設定しましたが、喧嘩中だったことを思いだし、あーちゃんは二人を呼び出すのをやめてしまいました。
こんな時2人の他に誰を頼ればいいんだろうと、あーちゃんは悩みました。自分が今までどれほど2人に頼ってきたかが思い知らされます。
しばらく悩んだ後、あーちゃんはMasaco先輩をコールすることにしました。忙しいMasaco先輩なのでどこにいるのか分かりませんが、D-STARであれば、相手局のコールサインをTOに設定するだけで自動的に相手局が最後に使ったレピータに繋いでくれます。
何度かMasaco先輩をコールすると、
M 「JP3KGTこちらはJH1CBX。あーちゃん、お久しぶり」
Masaco先輩の声を聴いて、あーちゃんは涙が出そうなくらいホッとしました。
あ 「Masaco先輩、助けてください!海で遭難中なんです!!」
M 「ええ?!どういうこと?!」
あ 「クルージングしてたら、船のエンジンが止まっちゃったんです!操縦士はポンコツであてにならないし、スマホを海に落としちゃって救助も呼べないし・・・。Masaco先輩、助けてください(ToT)」
M 「わ、分かったわ。そうね・・・。まずはリグのGPS送信をONにして、そっちの位置情報を送ってくれない?」
あーちゃんは山で迷った時にエリーから教わったことを思い出しながら、Masaco先輩に位置情報を送信しました。
M 「OK。あーちゃん、もう少し待ってて。必ず助けを呼ぶわ」
あ 「ありがとうございます!!」
これで助かる―――。そう思うと、ほろりと涙がこぼれました。
サ 「でね、今度ね、カレ、日本に来てくれるって~♡ Japanese sakeが飲みたいんだって♪」
エ 「私は今度アポロと一緒にふたご座流星群の観測に行くよ~♡」
サミーとエリーがトークに花を咲かせていると、サミーのスマホが鳴りました。
サ 「Masaco先輩からだ☆ はーい、もしもーし♪」
M 「サミー!大変なことが起こったわ。今どこにいるの?」
サ 「エリーといつものカフェでお茶してますけど・・・」
M 「あーちゃんが海で遭難してるの!たぶんそこの近くよ!」
サ 「Really?!」
Masaco先輩から事情を聴いて、サミーとエリーの顔は真っ青になりました。
M 「私は今東京にいるから、すぐに救助に向かうことはできないのよ。サミー、あなた船舶免許を持ってたよね?」
サ 「はい。クルージングが趣味なので・・・」
M 「お願い!あーちゃんを助けに行ってあげて!」
サミーとエリーは顔を見合わせると、力強く頷きました。
2人はカフェを飛び出しました。サミーはMasaco先輩との通話を終了すると、別の電話をかけ始めました。
サ 「Hello, Dad! ねぇ、ボート1台使っていい? Right Now!!」
エリーは、ID-51を片手に持ち、コールサイン指定でMasaco先輩を呼び出します。
エ 「JH1CBXこちらはJP3JZK。Masaco先輩、私たちの位置情報も送るので、ナビゲートをお願いします」
Masaco先輩は東京のオフィスで、3人から送られた位置情報をもとにタブレットに表示させたマップで3人の動向を確認します。Masaco先輩はD-STARの楽しみを広げる「RS-MS1A」というAndroidアプリをタブレットに入れてあったので、D-STAR機とタブレットを接続すれば、相手局から送られてきた位置情報で相手局の位置が表示できるのです。
M 「あーちゃんのこと、頼んだからね・・・!サミー、エリー」
サミーとエリーはボートをかっとばしてあーちゃんの救助に向かいました。サミーは、Masaco先輩の情報からGPSプロッターにあーちゃんの遭難位置をセットし、たくみな操縦テクニックで、ぐんぐんあーちゃんのいる地点に近づいていきます。
サ 「だから言わんこっちゃない!」
エ 「あーちゃん、お願いだから無事でいて」
あーちゃんはID-51をかた時も離さず、ぶるぶる震えながら救助を待っていました。Masaco先輩からの連絡はしばらく途絶えていました。誰かと話しているのか、あるいは、レピータまで電波の飛ばないところまで自分たちは流されてしまったのか・・・。あーちゃんは不安で不安でなりませんでした。彼は、こんな緊急事態だというのに、泣きつかれたのか船内のソファに横になってスヤスヤ寝息を立てています。
あ 「こんな時、サミーとエリーならすぐに助けてくれるのに」
あーちゃんはサミーとエリーの声がききたくて堪らなくなりました。ID-51を握りしめながら、この1年、サミーとエリーにたくさん助けてもらったことを思い出していました。
あ (2人に謝ろう。謝って、助けてって、ちゃんと言おう)
あーちゃんは決心してID-51のPTTボタンを押そうとしました。その時です。
エ 「JP3KGT聞こえますか。こちらはJP3JZK。」
握りしめていたID-51から、エリーの声が聞こえてきました。なんとワッチしていたローカルレピータを介して、エリーからコールがあったのです。あーちゃんは思わず耳を疑いました。
サ 「JP3KGTこちらはJP3KMI。あーちゃん、Are you OK?」
今度はサミーです。あーちゃんは信じられない気持ちでデッキに出ました。1台のボートがこちらに向かって進んでくるのが見えました。
サエ 「あーーーーーちゃーーーーーん!!!」
あ 「サミーーー!エリーーー!」
あーちゃんは2人の乗るボートに向かって、両腕をぶんぶん振りました。
こうして、3人は再会を果たしました。
あ 「2人とも、心配してくれたのに、怒って出て行ってしまってごめんなさい」
サ 「もう気にしてないよ。あーちゃんが無事で何よりだよ」
あ 「・・・やっぱり持つべきものは、彼氏じゃなくて、友達だね」
エ 「あーちゃん、もっといい人紹介してあげるから。例えば宙ボーイとか♥ だから・・・」
あ 「うん。この人とは別れる!!」
男 「ちょ、待てよ!オレは認めないぞ!」
今までしゅんとして話を聴いていた彼ですが、勢いよく立ち上がると、あーちゃんに詰め寄ろうとしました。
あ 「こんな目にあったのに、もう好きなわけないでしょ?!」
あーちゃんは彼をキッと彼を睨みつけました。
エ 「あーちゃん、こんな人は放っといて、さっさと帰ろう」
3人はサミーのボートに乗りこみました。
男 「おい!お、オレのことは・・・」
サ 「海上保安庁にはちゃんと救助を要請しておいてあげましたから」
あ 「船は“友達”なんでしょ?友達を置いては行けないんじゃない?」
男 「うっ、うっ、ウワァァァァ! おうちに帰りたいよ~~~!!!」
サミーは問答無用で船を発進させました。壊れた船のデッキで泣き崩れる彼に、あーちゃんは颯爽と手を振って別れを告げました。
あ 「よしっ!帰ったらいつもの店で呑もう!」
エ 「今日はもしかしてもしかして、あーちゃんのおごり・・・?♪」
あ 「もっちろん、好きなだけ呑んじゃって(^O^) あっ、そうだ!大事なこと忘れてた!」
あーちゃんは深呼吸すると、ID-51のPTTボタンを押しながら元気な声で言いました。
あ 「JH1CBXこちらはJP3KGT聞こえますか。Masaco先輩、サミーとエリーが助けに来てくれました。これから3人で帰ります。ありがとうございました!」
すると、すぐにMasaso先輩から応答がありました。
M 「FBなお知らせをありがとう。安心しました。帰りも気を付けて」
3人は顔を見合わせてにっこりと笑いました。
あサエ 「はい!」
これにて3人娘アマチュア無線チャレンジ物語は完結!
長らくの応援、ありがとうございました!
(完)