特別寄稿
移動運用において使われるHF用のアンテナでは、グラスファイバー製ロッドと電線の組み合わせが多く使われており、カーボンファイバー製ロッドは、その導電性がアンテナ特性に影響することから一般的にはほとんど使われていない。他方、最近の釣り竿は、その軽さや機械的剛性などからほとんどがカーボンファイバー製になっており、無線家にとって適当なグラスファイバー竿を見つけるのが困難になってきている。最近になってアンテナ用としては「ご法度」であったカーボンファイバー竿をアンテナエレメントとしてFBに使用しているという情報をインターネット上で目にしたことから、実際にカーボンファイバー竿を入手し性能を調べた。以下、アンテナの基本的性能についてはJG1GPYが、実際の運用結果についてはJG1BOKが報告する。
図1 山頂でのSOTA運用の様子。カーボンファイバーロッドアンテナ+チューナーでHF CWオペレーション中。
数年前から友人に誘われてSOTA(Summits On The Air)を始めた。いろいろルールはあるが、要するに山に登って4局以上のアマチュア局と交信すると、その山をactivate(活性化)したことになり、登山の難易度に従ったポイントが付与されるというものだ。記録はネット上のデータベースに自分で登録する。QSLカードは不要で自己申告である。まあ、アワードというよりも自己啓発のためのランキングリストのようなものである。山登りとセットのSOTAは、ちょっと行き詰まり感のあった当局のアマチュア無線趣味に新たな楽しみ方をもたらしてくれた。
図2 FT-817NDをPDバッテリーで5W運用。ZM-2アンテナチューナーでマニュアルマッチング。キーはこだわりの縦振電鍵。
SOTAでは山に登って無線を運用するので、アンテナから無線機まで全ての道具を担ぎ上げなければいけない。もちろん水や食料などの普通の山登りの装備も持っていくので、全部合わせると結構な重量になる。重くなればなるほど体にかかる負担も大きくなるので、できるだけ装備を軽くすることが重要だ。一番簡単なのはUHFのハンディ機を1台持っていけば、山の上というロケーションもあり4局くらいの交信は、まあ簡単に達成できる。しかし、海外まで電波を飛ばそうとするとそう話は簡単ではない。HFのリグにバッテリー、もちろんアンテナもそれなりの長さになる。まず一番重いのがバッテリーだが、最近は大容量のリチウムバッテリーが安価になって販売されているのでずいぶん軽くなった。特にPCやスマホ充電用のPDバッテリーはサイズも小さくお勧めである。アンテナについては、エンドフェッド型を垂直にしたものやダイポール型を使っている局が多いのではないだろうか。リグについては国内外のメーカーからいろいろなモデルが販売されている。CWによる交信であれば5Wくらいの出力でもオセアニアやアメリカ西海岸くらいは電波が飛んでいくだろう。
・2.1 アンテナポールについて
山の上にはたくさんの木があるので、枝にエレメントを引っかけてアンテナを設置することもできるが、実際にはなかなか都合よく木が立っていないし、上手に電線を高く投げ上げるのも容易ではない。結局、伸縮式の釣り竿を山頂で伸ばしてアンテナポールとすることが多い。風が吹くことも多いのでしっかりステーを取ることも大切だ。ここでアンテナポールの材質だが、グラスファイバー製のものを使うことが常識とされている。導電性があるカーボンファイバー釣り竿ではアンテナワイヤーと電気的に干渉をしてしまうからである。ただ、航空機にも使われるカーボンファイバーは非常に軽くかつ強度が高い素材であるので、その意味では山での運用にうってつけの材料であり、無線用にも使えないかなあと漠然と思っていた。そんな中、インターネット上の情報でカーボンファイバーロッドを使ったアンテナを使い良好な結果を得た報告がいくつもあることを知るに至り、もう少し詳しく調べてみることになった。今回の実験で使用したカーボンロッド竿は、ネット通販で購入した高炭素仕様(詳細な組成などは不明)で中国製13段全長8mのもので、最も太い部分で約20mmの直径である。
図3 実験に使用したカーボンロッド釣り竿。
・2.2 直流電気的特性
カーボンファイバーは炭素繊維とエポキシ樹脂からなる繊維強化プラスチックで、用途によってその配合比率が異なる。無線のアンテナ材料として考えた場合には、できるだけ電気抵抗を低く抑えたいのでカーボン比率の高いものを選んだ方が良いと思われる。今回実験に使った釣り竿はおそらく感電事故防止のため、一番下の段だけはカーボン素材でないらしく導通がなかった。実験を行う時はこのような点にも注意する必要がある。炭素の割合にもよるが、一般に炭素繊維強化プラスチックの電気抵抗率は金属の100倍から1000倍程度あると言われている。こんなに抵抗率が高くては話にならないかと思われるかもしれないが、釣り竿の断面積はワイヤーアンテナに比べるとかなり大きい。例えば今回の実験に使用した釣り竿の一番太い部分の導通部分の断面積は190平方ミリ程度もあるので、電線の導体断面積と比べると2桁も大きく結果抵抗値もそれほど大きくならない。使用した釣り竿の各段の直流抵抗値は、テスターによる簡易計測で5Ωから20Ω程度だった(先端の一番細いロッドは200Ωくらい)。金属クリップでロッド両端を挟んで計測しており、接触の仕方で抵抗値は大きく変化する。接触抵抗を考慮すると実際の抵抗値はもっと小さいかもしれない。
図4 カーボンロッドの直流抵抗の測定。両端に金属クリップを接続してテスターで計測した。
・2.3 高周波電気特性
カーボンロッドアンテナにおいてロッド自体の抵抗値以外に気になるのが各段間の摺動接続部だ。当然できるだけ抵抗値を下げたいので紙やすりなどを使って直流的に導通するように注意を払った。しかし、うまく導通が取れることもあればいくらやっても導通しないこともあり、どうも安定した接続が得られない。こんなことでは山に行ってちょっと砂でも入ったらすぐに動作不良が起きてしまうのではないかと不安になったが、フィールドで接続不良になることはほとんどない。もしかしてと思って摺動部にセロハンテープを巻き付けて絶縁してからロッドを伸ばしてみると、多少の共振周波数のずれはあるものの大きく特性が変化することはなかった。このことからロッドの摺動接続部は高周波的には静電容量的に接続されていることが強く示唆された。実際、摺動部の重なりを50mm、直径を20mmとして隙間の厚さを0.1mmと仮定すると概算の静電容量は300pF程度になる。摺動接続部は十分直流抵抗が小さくなるのであれば直流的に結合しても良いが、そうでなければ容量結合しておいた方がかえって損失を押さえられるのではないかと思われる。
図5 カーボンロッドアンテナの等価回路。
カーボンロッドの各段には10Ω程度の直流抵抗があり、それぞれが100pF程度の静電容量で接続されている。静電容量に並列に抵抗接続になる場合もある。
・2.4 カーボンファイバーロッドと銅線ダイポールアンテナの比較
当局はSOTA運用の時にはエンドフェッド型のアンテナをよく使うのだが、カーボンファイバーアンテナの特性を評価するときにはカウンターポイズの長さや設置方法などいろいろなパラメータの影響を受けることから、今回は平衡型の基本構成であるダイポール型の構成として評価を行った。およそ90°の角度でエレメントを設置、一番根元の部分にクリップを使って給電した。地上高はアンテナアナライザー(SARK-110-ULM)をアンテナに直接接続して計測値を読み取る都合もあり1.5~1.6m程度とした(図6)。
図6 カーボンロッドアンテナを使ったバンザイダイポールアンテナ。
エレメント間の角度はおよそ90°、給電部の地上高は1.6m。
ロッドアンテナの下部に金属製のクリップで接続して給電した(左下: 拡大写真)。
まず初めにすべてのカーボンファイバーロッドを展開した状態でのアンテナ特性を同じ長さの銅線で構成したダイポールアンテナとの特性と比較した(図7)。また図8にそれぞれのアンテナでの1波長共振点付近の抵抗とリアクタンスのグラフを示す。半波長ダイポール動作でのSWR最小ポイントを比較すると約2MHz程度カーボンファイバーアンテナの方が高い周波数で共振していることがわかる。また、低い周波数において銅線アンテナには見られない抵抗成分が数百Ω程度あり、これがカーボンファイバーロッドの抵抗による成分と思われる。カーボンファイバーポールのこの抵抗成分があるためSWRを実用レベルまで下げるにはマッチング回路が必要となる。
図7 カーボンファイバロッドダイポールと銅線ダイポール比較。エレメント長を両方で同じ長さにそろえてある。銅線ダイポールのエレメント間角度はほぼ90°になっている。
表1に結果をまとめた。銅線によるアンテナの場合は6%程度の短縮率であるのに対してカーボンファイバーの場合は18%プラスの短縮率となった。つまり、カーボンロッドアンテナの場合、希望の周波数から計算されるアンテナ長に18%程度余分の長さを付け足す必要がある。
表1 カーボンファイバーと銅線ダイポールの比較。
両アンテナのエレメント長は7.27mで、この長さから計算される半波長共振周波数は10.32MHz。
・2.5 カーボンファイバロッドダイポールのエレメント長さの影響
次にカーボンファイバーロッドダイポールアンテナのエレメント長(段数)を変えた時の特性の変化を調べてみた。
カーボンファイバーロッドを太いエレメントから順に接続し(3、6、9、10、11、12本)、それぞれの構成でのアンテナ性能を計測した。図9に結果を示す。当然、接続本数が少なく短いアンテナほど高い周波数で動作する。接続本数が6本程度までは、SWRは1.5以下でそのままでもアンテナとして使えるが、それ以上の長さになるとSWRは悪化する。太いロッドを接続しているときはロッドの抵抗値はそれほどアンテナ性能に影響を及ぼさないようである。他方短縮率は、6本以下では1以下であるが、それ以上の長さになると1を超える。これは、図5に示すような等価回路を考えた時、より段数を多くするとアンテナに静電容量が付加されることになり、それをキャンセルするために必要なエレメント長によるものではないかと思われる。
図9 エレメント段数を変化した時のアンテナの特性。アンテナの短縮率(左)とSWR(右)
私は山登りが好きで、山岳運用はSOTA、最近ではPOTA(Parks On The Air)と組み合わせて楽しんでいる。HF帯、CWで運用するのが好きだが、HFの山岳運用のアンテナは軽量コンパクトなことが必要です。JG1GPY局より紹介いただいたカーボンロッドを活用した軽量アンテナは、山岳移動に好適と思い、早速製作、フィールドテスト、山岳運用して、好感触を得たので、途中経過をまとめてみた。
・その1 フィールドテスト POTA運用
テストは、折角なのでPOTAアクティベーションを兼ねて、八国山緑地公園(JA-1275)で行った。アンテナエレメントは5.4mのカーボンロッド(前出のものと同一シリーズで重量164g)で、垂直エンドフェッド型として、トロイダルコアに巻いたコイルとポリバリコンで構成されたチューナーを使った。比較対象は山岳移動で使用している、3mのグラスファイバーロッド(207g)に電線を這わせ、同様のチューナーを入れたものとした。
21MHz、CW、5W送信で、地面に建てた2本のアンテナを切り替え、RBN(リバース ビーコン ネットワーク)に拾ってもらい強度を比較する。SNR(信号対雑音比)を時系列的にみると図10のようになった。受信局がバラバラなのでばらつきも大きいが、カーボンの方がよさそうに見える。ということで、実用面では重量的にも優位なカーボンファイバーロッドに軍配が上がった。
図10 従来品との比較(21MHz RBN)
・その2 山岳移動運用 SOTA運用+POTA運用
前出のものは仕舞寸法が長く(77cm)、山に持っていくにはもう少し短いものが望ましい。そこで、仕舞寸法が短い6mカーボンロッド(約40cm、180g)を導入し、実際に山岳移動で使用してみた。比較用のアンテナで同時運用していないので、QSO数で実力を比較してみる。2021年7月31日から9月13日までの期間に登った8山、各山ほぼ30分程度運用、という条件下でHFのQSO数(7~21MHz CW)を対象に交信数をカウントした。
表2 山岳移動での実績比較
図11 山での運用風景(2021年8月28日 飯縄山)
毎回コンディションもロケーションも異なり、アドバンテージの有無はこれだけでは不明だが、少なくとも従来品と同じように使えるものであることは確認できた。カーボンロッドの導電性を積極的に活用し、軽量化するこのアンテナ、実際の山岳移動でその有効性を確認できたので、今後も使っていくつもりだ。
一部で使われ始めたカーボンファイバーロッドアンテナについて、その基本的な特性並びに実運用の結果を報告した。直流抵抗が銅線によるエレメントに比べて大きいことから、熱損失が大きいのではないかとの予想に反して、既存の電線によるアンテナに比べても遜色ない結果が得られたことに正直驚いた。アンテナ動作の解析については極めて定性的な内容しかなく、今後OM諸氏の定量的な解析に期待したいが、コンディションさえ良ければQRPでもDXとのQSOが可能であることが確認できたのは成果であったと思う。なお、今回の実験では投入した電力が5W程度のQRP運用であり、さらに大きな電力を投入する際には発熱などに十分な注意が必要であり、またむき出しの導電体を使用していることから、調整時に電力線などとの接触による感電事故に十分な配慮をお願いしたい。最後に、アンテナの実験に当たって使用するカーボンファイバー竿の選定など多大なご助言をいただいたJS1WWR局に感謝を申し上げる。
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6月4日(土)、JH1CBX/3が14MHz SSBに初オンエアします。
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連載記事 Masacoの「むせんのせかい」はコロナ禍の影響により、取材ができない状況が続いており、状況が改善されるまで不定期掲載とさせていただきます。よろしくお願いいたします。
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JARD、eラーニングでのアマチュア無線国家資格取得を呼び掛けるお知らせを、臨時休校で自宅待機中の小中高生に向けて発表。詳しくはこちら。
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