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第三十五回 tinySAで見るひずみ波形のスペクトラム


Dr. FB

10MHz水晶発振器の出力波形の観測

測定器は昔と比べるとずいぶん廉価になりました。それでもフィルタの特性を見るときに使うネットワークアナライザーや送信機のスプリアスチェックに必要なスペクトラムアナライザーといえば、電子工作マニアには高嶺の花でちょっと手がでそうにもありません。NanoVNAやtinySAが登場して久しいですが、これらの登場で我々電子工作マニアもそれなりに高性能なネットアナやスペアナが数千円で手に入るようになりました。ずいぶん便利な世の中になったものだと実感します。


図1 今回使用したtinySA

今月号の別の記事で10MHzの水晶発振器を使ったOCXOの実験、製作記事が掲載されています。その水晶発振器は電源とGNDを接続するだけで10MHzの信号を得ることができるのですから便利な部品です。その出力をオシロスコープで観測すると図2(右)に示すように歪んでいます。


図2 (左)10MHz水晶発振器 (右)水晶発振器の出力波形

ひずんでいる信号のスペクトルを観測

対象の水晶発振器の出力波形はきれいな正弦波ではないため、その信号には多くの高調波が含まれていることが予想できます。この水晶発振器の信号は、ロジック回路のクロック信号用のため高調波を含む歪みは仕方がありません。これを図3のような接続で、その信号をtinySA(スペクトラムアナライザー)で確認します。実験を行っているシャックには多くの信号を輻射する機器があるため、10dBの外部アッテネーターに加え、tinySA内部の30dBアッテネーターを挿入し、外部から受ける信号が使用するスクリーンに現れないようにします。


図3 出力信号のスペクトルの観測

水晶発振器の出力信号をtinySAで観測したスペクトルを図4に示します。基準波の10MHzは画像の一番左側に表示されているスペクトルです。3倍の高調波は、基本波より約6dBほど低下したレベルで現れています。310MHz付近にも基本波より50dB程度低下したレベルで不要信号が出ています。特に奇数倍の高調波のレベルの強さが際立っています。波形が歪んでいるとこれほど多くの高調波が含まれていることが分かります。


図4 10MHz水晶発振器の出力信号のスペクトル

フィルタを挿入してきれいな正弦波信号を目指す

図4で示したように水晶発振器の出力波形には多くの高調波が含まれていることが信号のスペクトルを見て分かりました。そこでローパスフィルタやバンドパスフィルタ等を挿入し、希望以外の高調波を取り除いてみます(図5)。また、それぞれのフィルタが高調波の除去に対してどのように影響しているかもtinySAを使って視覚的に観察します。


図5 フィルタを挿入して実験

フィルタの効果を確かめる

フィルタを水晶発振器に接続し、それぞれの出力波形を観測したものが図6です。


図6 各種フィルタの効果をtinySAで確認する(各波形をクリックすると拡大します)

High impedanceとは、コイルは高周波に対してXL=2πfLのリアクタンスを持つため単にコイルだけを挿入してリアクタンスの効果を見ました。LPFのカットオフ周波数(fc)は、10MHzです。tinySAのスクリーンでスペクトルを観測しながら100pFのトリマーコンデンサを調整し、ベストの位置にセットしています。したがって正確なコンデンサの容量は分かりません。BPFや下で説明するBEF(Band Elimination Filter)のfcは共振周波数foを求める次式で計算しています。何れもトリマーコンデンサでベストの位置にセットしています。


ここでBPFを挿入しても上図6のスクリーン画像を見れば分かるように、10MHz以外の不要信号も出力されています。オシロスコープでその画像を観測すると一見正弦波のようですが、まだ歪んだ信号波形です。(図7)


図7 SGと水晶発振器にBPFを挿入したときの波形の比較

そこでさらに3倍の30MHzの高調波を取り除くためBEFを挿入しました。60MHz以上の不要信号は大きくカットされましたが、それ以下の信号はまだ大きなレベルで出ています。

次にBPF(1)とBEFを直列に接続してその効果を確認しました。100MHzと120MHzにまだ不要信号が出ていますが、それ以外の信号はフィルタで大きくカットされて、かなりクリーンな信号になったことが分かります。

まとめ

簡単なフィルタの挿入で不要信号を大きくカットすることが確認できました。図8は、もともとの水晶発振器の出力と、その出力にBPF(1)とBEFを直列に接続したときの出力波形を比較したものです。黄色のラインがもともとの出力波形で、青色のラインがBPF(1)とBEFの二つを挿入したときの波形です。


図8 出力波形の比較

別の記事に掲載されている10MHzの基準信号発生器の出力にこのフィルタを挿入することで、どこまできれいになるかは不明ですが、オシロスコープで観測する限り正弦波に近くなったことを実感することができると思います。

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