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おきらくゴク楽自己くんれん

その11 ローコスト7MHz逆V型ダイポールアンテナの製作
ビギナー向けHFデビューアンテナの考察 予算1500円!

JF3LCH 永井博雄


皆さん、こんにちは。近頃IC-705などでアマチュア無線ビギナーの方がHFを始められることが多くなりました。半面、HF運用を始めたものの上手く交信することが難しくて問題を解決できずHF運用をあきらめる方も多いと聞いています。確かにIC-705はコンパクトで高性能、昔のHF初級機の性能を考えると夢のような能力を持った無線機です。しかしHFのアンテナと言いますとメーカー製はいろいろな要望に答える多種多用なモデルが用意されていますが、コンパクトなタイプは運用できる帯域が狭くなり調整も初心者には難しく、広い帯域を求めると効率が下がり飛びがいまひとつだったりします。アースの取り方や設置環境にも左右されますし調整の指標と言えば、SWR測定がほとんどで(SWRが下がっても飛ぶとは限らない)ビギナーの方にはどこをどうすれば性能が発揮できるのか? わからないまま悶々とされているパターンも多いのではないかと想像しています。

そこで私からの提案なのですが、できる限り制約を取り払い理想的な環境を得るため原点に立ち戻り半波長ダイポールで運用してみせんか? これであればHF運用はどんなに楽しいか体感してもらうことが出来るのではないかと強く思います。家にダイポールを張れる場所がないという方、広いフィールドでの移動運用であれば思い切り楽しめます。珍しい移動先なら交信相手の方から喜ばれることもうけあいです。ぜひ移動運用でHF帯を楽しみましょう。しかし、既に安くはないIC-705とメーカー製アンテナを購入され「もうこれ以上自由にできるお小遣いがない」と嘆いておられる方もおられるか思います。そんなあなたに超低予算で楽しめるアンテナの作り方を紹介したいと思います。

1. 逆V型ダイポールアンテナを使う移動運用

私はHFでの移動運用では50W機にモービルホイップアンテナか釣り竿バーティカル+オートアンテナチューナーとの組み合わせがメインでした。ダイポールなどのアンテナと比べて場所を取らず簡単に設営できてQSYが容易なことが主な理由でした。飛びの方はいまひとつですが50Wのパワーでカバーしていたという感じでしょうか。


釣り竿+ATUを利用したバーティカルアンテナ

しかしIC-705を購入して10Wでバーティカルアンテナ運用してみましたが、50W機を使っていた時と同じように楽しむためにはもっと効率のいいアンテナが必要だと感じたので、市販のバランを使った7・10・14MHz対応の逆Vダイポールアンテナを使うようになりました。バンドの切り替えはギボシ端子で繋ぎ変える方式です。ポールは通称ビバポールを呼ばれているホームセンターで3,000円程度の伸縮ポールで6mの高さに上げて逆V型で使っています。この設備でも珍しい市町村で運用することで、多くの局から一斉に呼ばれるパイルを浴びることも可能です。IC-705の10Wでもこのアンテナで運用すれば国内QSOには必要にして十分だなという感想を持ちました。


市販のバランを使ったギボシ式3バンドダイポール

逆V型ダイポールアンテナのメリット・デメリットを上げてみます。

・メリット
構造が簡単で手軽に作ることが出来る。
建てるポールが1本で済む。
一般に垂直偏波のアンテナと比べるとノイズが少なくなる場合が多い。

・デメリット
広い設置スペースが必要。
設置作業が少し面倒(とはいえアースを必要とするアンテナの比ではありません)。

デメリットは広い場所に行きさえすれば解決する物理的な問題です。また車を使った移動運用では運動不足になりがちですから20mダッシュ数本は健康の為にも役に立つでしょう(必ずしも“ダッシュ”の必要はありません)。

また交信相手となる局で強力な電波を出すことのできる局は、高いタワーに水平偏波のアンテナを使っている方が多く、こちらも水平偏波の方が見つけてもらいやすくなります。

・バランについて
バランとは簡単に言うと給電線の不平衡をアンテナの平衡とマッチさせるための変換器です。決してインピーダンスの整合を取るための物ではありません。理屈では必要ということになりますが今回は10Wでの使用です。なかったとしても問題が発生することはないでしょう。念のため手持ち品にメガネコアがありましたのでソーターバランとして使います。これならメガネコアさえあればコイルが苦手な人にも簡単に対応出来るでしょう。もちろんトロイダルコアをお持ちの方は線をまいて強制バランを作られるのもいいかと思います。材料か自信のない方は省いてしまってもいいでしょう。1.5D同軸も普通のリード線で代用しても特に問題はないでしょうからこだわらずに試していただければと思います。

2. 素材の検討と材料集め

給電部に使える良いケースはないものか? いろいろなお店で素材を探してみるといいものが見つかりました。100円均一で見つけたプラスチックのランチ用ケースです。スマートなデザイン、おしゃれな雰囲気。今回の色以外に目立つ赤色もありました。ふたの内側にはゴムパッキンがあり雨の日の防水性能も期待できます。エレメントを給電部に留めるのと吊り下げ用のヒモをつけるのに都合がいい“取手がとっても素敵”です(笑)。何より価格が110円というのが有難いことです。複数の100均チェーンで販売されていますしネット通販でも取り扱いしているようなので入手は容易だと思います。


購入後早速エレメント引っ張りに耐えられるか、本体の強度テストをしてみました。引っ張ることで変形してフタが外れるのではないかと心配していましたが、見かけによらず頑丈で見事に合格となりました。


引っ張り強度のテスト中

エレメントにはスピーカーコード10mを購入しました。平型コードはだいたいどのホームセンターにも置いていると思います。一番多く売られているのが白やグレーの太さ1.25sqのものですがこれらは価格が1000円を超えていました。以前は数百円で買うことができた品物ですが、昨今の材料・輸送費用や銅価格上昇の影響か大きく価格が上がっているのには驚きました。そこで今回はコストを重視してワンランク細い0.75sqを選択しました。絡まっても色違いであればすぐにほどくことができるので赤黒のスピーカー用にしました。もちろん単色の1.25sqのものでも何の問題もありません。


0.75sqスピーカーコード10m

ここで疑問をお持ちの方がおられるかも知れません。一般に半波長ダイポールアンテナのエレメントは波長の1/4です。7MHz(f)の波長λは以下の式で計算されます。


波長42.85mの1/4ですからエレメントは約10.7mということになります。購入したコードは10mですから「あれ?」という方もおられると思いますが、わざと短くしていますので安心してください。今回6m長さのポールで逆V型に設置する予定です。波長の40mに対して給電部の高さがとても低いので、本来の周波数より低い周波数で同調することが考えられます。8~10mのポールでもさほど変わりはないでしょう。そういうことを見込んでの10m定尺品の購入としました。

3. 給電部組立

ランチボックスにM型レセプタクルとメガネコア(ソーターバラン)付き同軸ケーブル(普通のリード線でも可)を取付けてエレメント接続部ネジとつなぎます。ケースは余裕のある大きさですし柔らかい素材なので比較的簡単に加工することができます


M型レセプタクルを取付け


ソーターバランとしてメガネコアを使用


接続端子となるネジを取付け


内部配線は余裕を持たせての接続

先にエレメント長さは10mで十分と書きましたが、少し心配もありましたのでケース内部の配線を少し長目にしておきました。結果長過ぎたとしてもエレメントを切ればいいので“短いよりはマシ”という判断です。

4. エレメントを加工


取手部分にエレメント(コード)を結束バンドで縛る


給電部にエレメントを接続して完成



ガイシ代わりに使えるプラチェーンや塩ビパイプの超短管

エレメント端にロープで引っ張る部分にはガイシの代わりにプラチェーンや塩ビ管を短く切ったものに巻いて結束バンドで止めるのがいいでしょう。
これでひとまずアンテナの完成です。

5. テスト&調整後運用

早速広々として障害物の少ない堤防に持ち出してテストをしてみます。


伸縮ポール先端に塩ビパイプ(VP30)に吊り輪を付けた物をかぶせる


給電部の吊りヒモはハムフェアの名札ケースについていたのを流用


ビバポールを伸ばし6mの高さに

エレメントのコードを引っ張るロープは太さ4mmで長さが5mの物を使い地面に打ったペグに留めました。この設置状態でペグからペグの距離は約23mを要しました。このアンテナの欠点といいますかこれだけの場所は必要ですので移動地を検討する参考にしてください。


今回は地面にペグを打ちました

スペースがあればもっと長いロープを使用するとかフェンスや杭にロープを留めればエレメント端を高くすることが可能で性能もアップすることが出来るでしょう。


エレメント長を調節していない状態のSWRグラフ

アンテナを張り終え、何の調整もせずIC-705でSWR値を測定したところ写真のように7.1MHz以下であれば全然問題のない特性となっていました。本当に10mで同調周波数がバンド内に納まるのか少しだけ? 心配していましたがこの後SWRアナライザーで計測した同調周波数は6.993MHzとバンド下限以下となっていました。まだエレメントが長過ぎるくらいでした。もちろんこれは今回の条件での数値ですので、建て方や周りの環境で変わりますので参考程度にしてください。今回はとりあえず3cmだけエレメントを切り一応同調周波数をバンド下限以上に収めておきました。その状態でバンドエッジに近い7.19MHzではSWR=1.9でした。マストやエレメント端を今より高くすれば帯域は全体的に上がっていくものと思われます。

平日のお昼休みの時間帯でしたので7.10~7.12MHz付近でSSBモードによりCQを出してみました。コンディションが良かったこともあり同時に複数の局から呼んでいただきプチパイル状態にもなりました。予定の時間を過ぎても離れることが出来ずうれしいい悲鳴です。いただくレポートも59ぞろいと言うわけにはいきませんが、数多くのFBなレポートをいただき1時間足らずの運用で23局もの方と交信することができました。

21MHzでの使用は?
参考までに3倍高調波にあたる21MHzバンドでこのままで使えるのかアンテナアナライザーで計測してみました。結果は残念ながら同調周波数が21.8MHzとなり21 MHz バンド内ではSWR=3.0以上をさしていました。AH-705などのアンテナチューナーがあれば十分運用可能になりますができることならギボシ端子などで切替え式にする方が良いでしょう。

6. まとめ

このアンテナの材料購入費用を表にしました。(消費税込み)

M型レセプタクルはBNCでも構いません、入手や接続する同軸コネクタの形状など考慮して選んでください。

IC-705や他のHF機オーナーでHF未運用のみなさん、短縮された垂直系のアンテナでノイズに悩まされているみなさん、アースで苦労しているみなさん、せっかく高い無線機を買ったのですからぜひともHFを存分に楽しんでください。手軽に作れて十分に実用になるこのアンテナを貴方の本当のHFデビューに使ってみてはいかがでしょうか? わずか1,500円程で快適な運用環境を得ることが出来ます。是非とも少しだけの手間と時間をかけて挑戦してみてください。

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