新・エレクトロニクス工作室
週刊BEACONのNo.116では、0~8Vの実験用の電源を紹介しました。これはサイテックのキットを作ったもので、良く動いています。今回は更にミニとなる電源を作ってみました。このような電源は数台あった方が都合の良い事があるためです。何しろ机上で異なる実験をパラで行う事がありますので、一台では足りないのです。
このような目的ですので、特に0Vから出力する必要はありません。そこで、一般的な電圧可変用のICを使って簡単に作ってみました。写真1のような「ACアダプタ風」として、最大6Vで100mAのミニ電源を紹介します。
写真1 このようなプラスチックケースに入れたミニ電源
電圧を可変する場合、電圧表示をしないと不便です。どのようなメータか、あるいはラジケータを使うのかが問題になります。最初は5Vフルスケールにして写真2のメータを使おうと考えていました。ところが大きさが65×55mmで奥行きが45mmもあり、ACアダプタ風には少々無理でした。少々大きめのケースでも良いと思っていたのですが、奥行きが45mmもあると据え置き型にするしかありません。
写真2 奥行きがあり過ぎて使えなかったメータ
そこで写真3のラジケータを使用する事にしました。オーディオ機器のチューニング用かと思われます。相当濃い緑色ですが、バックライトがあれば映えるのでしょう。目盛板を外し、代わりに0~100のテスト用の目盛を仮付けしました。これで実際に使う分圧器の抵抗を入れて、電圧対テスト用の目盛を取りました。その結果から新しい目盛板を作りました。5Vフルスケールという制約が無くなったため、図1のように6Vまでの目盛としました。後から考えるとVがありませんでした!
写真3 使用したラジケータ
図1 作製したラジケータの目盛
ラジケータは振れがリニアではなく、一般的に中央が広がる傾向があります。そのような目盛になりました。従って、正しい目盛を作ろうとすると結構面倒です。また、今回は透明ではなく相当に濃い緑のラジケータで見やすくはありません。目盛には黒だけではなく赤でも青でも使えるのですが、結局は見難くなるので止めました。バックライトでも付ければ変わった感じになるのでしょうけど、ミニ電源には不要です。このラジケータの使い道を探していたという事情もありました。このような電源には多少見難くても充分と思います。まだ残っていますので、使い道を考えています。なお図1の目盛は、この濃い緑のラジケータの場合です。ラジケータは各々の特性が異なりますので、参考程度にして下さい。
簡単に作る事を考えトランジスタ等は使用せずに、LM317LZを使ってみました。LM317のシリーズといえば1.5Aの製品もありますが、目的が超ミニですので100mA用のLZタイプを使用しています。Lタイプも同様のようです。価格的にも20~30円程度のICです。
出力電圧は図2のように計算できます。最初は出力電圧を最大で5Vと考えていました。そこでR1を3.3kΩでR2を10kΩVRで試したのですが、思ったように電圧が制御できません。計算では1.25~5Vのはずが3.6~7.7Vになってしまいました。ここで、ようやく別の制約に気が付きました。R1とR2の直列のルートには10mA以上流す必要がありますが、これでは全く足りませんでした。10mAも流すのはもったいないのですが、仕方ありません。
図2 出力電圧の計算
最初は最大5Vのつもりでしたが、ラジケータに変えたために5Vの制約が無くなりました。トランスが6V×2ですので、電流は流せないとしても計算上は6V出力にしました。Iadjは大きめの100μAとしてもR2との積は大きくなりません。従って、出力電圧は、ほぼVo=1.25×(1+R2/R1)で決まります。そこでR1が120ΩでR2が500ΩのVRとしました。1.5Aタイプであれば、もう少しRの値にバリエーションがでてきますが、6Vで100mAとすると図3以外は考えられません。ほぼ固定値になると思います。もちろん、500ΩのVRはBカーブのものを使用します。
図3 これで1.25~6V程度となる
このように実験を行い図4の回路としました。作り方も考え方も様々あると思いますが、出力の電圧と電流が決まれば同じような回路になると思います。
ラジケータと直列に入っている27kΩは分圧器です。ラジケータによって最適値が異なりますので注意して下さい。この27kΩは他の電源とデジタルテスターによって決めました。VRを入れて実験をしても決められますが、うっかり0Ω設定にするとラジケータとVRを焼いてしまう危険があります。固定値の抵抗を切り替える方が安全かもしれません。
電源トランスは6V×2の120mAを使っています。全波整流の場合に平滑コンデンサは1000μF程度が必要となります。ケースの大きさを考えて控えめの470μF×2パラにしました。もう少し大きくても良いのですが、仕方ありません。
図5のような実装図を作製してからハンダ付けを開始しました。ハンダ面が図6です。写真4のような基板となりました。この時、平滑コンデンサは少な目の容量を基板上に仮付けしていました。そのため写真4ではCC用のケーブルがありません。まとめ方で少々迷っていましたが、この後でスペースの問題がありコネクタで取り付けるように変えました。電流が少ないので問題にはならないと思いますが、薦められるような使い方ではありません。少なくとも通過させるような構造にするべきなのでしょう。
図5 実装図の部品面
図6 実装図のハンダ面
写真4 作製した基板
基板作製後には写真5のように全体を接続し、最初のテストをしました。入力はAC100Vですので、左上に見える3Aのブレーカを入れています。これはBEACONのNo.127で作った「実験用サーキットブレーカ盤」で、AC100Vを電源とする場合の実験には必ず入れています。もちろんブレーカを入れて安心するのではなく、危険な場所にはテープ等で養生を行い問題のない事を良く確認してから電源を入れましょう。これは自分に対しての戒めでもあります。このようにして動作確認を行いました。
写真5 このようにバラックで動作確認
ケースには写真6のような、タカチ電機工業のプラスチックケースSW-100を使いました。ラジケータの穴あけは写真7のように内側に線を引いて、外側からハンドニブラを使って開けました。緑に見えるのは養生用テープです。ドリルによる穴あけも行いますので、キズの付いやすいところには貼っておきます。ケースの穴あけ完成が写真8です。プラスチックですので、それ程の工作にはなりません。
写真6 タカチのSW-100を使用
写真7 ラジケータの穴は内側に線を引いて外側からハンドニブラで穴あけ
写真8 穴あけ完成のケース
ケースの完成後は、まず写真9のようにラジケータやターミナルを固定しました。このようにラジケータとターミナルが交差しますので、最初に立体的な位置関係を良く確認しておく必要があります。VRの上が黄色く見えますが、ここにはトランスの100V端子が来ます。一応絶縁と耐熱のカプトンテープを貼りましたが、ほとんど気休めでしょう。
写真9 まず主要な部品を固定
写真10のように基板とトランスを入れてホットボンドで動かないように固定しました。ホットボンドが外れたとしても、ショート等のトラブルにならないように作っておくべきです。もちろんAC100Vにはヒューズを入れ、トランスの端子は熱収縮チューブで処理しています。そして、カタカタと「外れた」と気が付いた時には直ぐに補修しましょう。ケース内には余裕が全くありませんので、簡単には外れそうもありませんが・・・。
写真10 配線を行い基板とトランスも固定
なお、ヒューズの下側にかろうじて見えるのが平滑用のコンデンサなのですが、様子が分りません。ヒューズを持ち上げると写真11のようになります。470μF×2パラですが、他と接触しないようにカプトンテープで絶縁しました。簡単に動かないような位置にホットボンドで固定しています。
写真11 隠れた平滑用のケミコンの470μF×2パラ
写真12のようにケースに入れて完成となりました。再度の動作確認を行いましたが、もちろんサーキットブレーカを使用しています。テプラで表示をして完成としました。
写真12 このように完成
トータル的には狙いどおりの感じで、ACアダプタ風の電源を作る事ができました。今のところトラブルも全く無く、便利に使っています。簡単に取り出せて使えるのが良いところでしょう。もちろん、6V以上の実験にも、100mA以上の実験にも使用はできません。今は同じような感じで6~12V版が有っても良さそうと考えています。
電源用の電子負荷を使って特性を測定しようとしたのですが、電流の設定が最低で200mAでした。これでは何も測れませんし、面白くありません。次回はこのために作る事にした「ミニ電源用の電子負荷装置」を紹介します。
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