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FBのトレビア

第六回 トリプレクサーってなんだ


Dr. FB

アイコム株式会社から144/430/1200MHzのトリプルバンドトランシーバー、IC-9700が発売されてから9700効果ともいうのでしょうか、これまで閑古鳥が鳴いていた1200MHzも週末にはFMやSSBの信号を聞くようになりました。

そんな中、各局のラグチューで144/430/1200MHz用3バンドのアンテナのことやトリプレクサーの話をされているのを耳にするようになりました。今回はそのトリプレクサーを取り上げて説明をします。

トリプレクサーの説明ではアイソレーションといった難しい言葉も出てきます。この説明にはデシベル(dB)の言葉も出てきますが簡単に対数(log)の説明もしたいと思います。

1. トリプレクサーとは

トリプレクサーは英語でTriplexerと綴ります。単語の最初の「Triple(トリプル)」の綴りから何となく「3つ」のものから構成されていることが分かります。この3つのものとは、144/430/1200MHzの3バンドのことです。

図1の写真は、コメット株式会社(以下、コメット)のCFX-431トリプレクサーです。トリプレクサーの片側には1個のコネクター(COM)、その反対側には各バンドに対する3本のケーブルが取り付けられています。どちらが入力、出力といったことはなく双方向に使えます。


図1 コメット製トリプレクサーCFX-431

このトリプレクサー(CFX-431)の取扱説明書には、図2に示すような3つの使用例がイラストで紹介されています。トリプレクサーを使用することで様々な接続が可能になります。


図2 トリプレクサーの使用例(コメットCFX-431の取扱説明書より抜粋)

IC-9700は、リヤパネルに144MHz、430MHz、1200MHzの3バンドで独立したアンテナコネクターが装備されています。このことから3バンド用のアンテナとトリプレクサーを使用することで図3のように随分シンプルな接続で運用できることがわかります。


図3 IC-9700とトリプレクサーの組み合わせ接続例

2. トリプレクサーの内部とその回路

コメットのCFX-431トリプレクサーの裏蓋を外して中を見ました。基板上にはL(コイル)とC(コンデンサ)しか取り付けられていません。実物から回路図を起こすと図5のようになりました。この回路図から基板上にはLとCで構成された3つのフィルター回路が組み込まれているのが分かります。図6は、その回路図をブロック化したものです。

内部は、HF帯から1200MHzもの非常に高い周波数帯にも十分な性能が得られるように基板のアース面は広い面積が確保されています。見たところ、回路の部品は一つ一つ手付でしっかりとはんだ付けされているようです。たぶん各フィルターの特性も一台一台丁寧に工場で調整されているものと思います。


図4 コメットCFX-431の内部写真M


図5 実物から起こした回路図(部品番号は編集部が適当に印字)


図6 コメットCFX-431トリプレクサーのブロックダイヤグラム

3. トリプレクサーの動作

1.3〜150MHzの端子とCOMのコネクター間はLPF(ローパスフィルター)になっており、150MHz帯以下の周波数だけを通過させます。一方、COMのコネクターと400~500MHzの端子間はBPF(バンドパスフィルター)になっており、この周波数間の信号だけを通過させます。さらにCOMのコネクターと900~1400MHzのコネクター間はHPF(ハイパスフィルター)を構成しており900MHz以上の周波数だけが通過します。

COMのコネクターと各バンドのコネクターとは、入力・出力の区別がなく双方向に動作します。どちら側から見てもコネクター、端子間インピーダンスは50Ωになっているため図2に記載しましたような様々な使い方ができ、マルチバンドで運用される方にはたいへん便利なシロモノです。

トリプレクサーは3バンド用の3つのコネクターが付いています。「2バンドしか使用しない場合は、空いたバンドのコネクターは50Ωのダミーロードで終端することをお勧めします」と取扱説明書に注意書きとして記載されています。

4.  トリプレクサーのスペック

コメットのトリプレクサーCFX-431の取扱説明書のコピーを添付しました(図7)。その取扱説明書に赤色の枠で囲っている部分を抜き出し、拡大したものが図7(b)です。注目すべきスペックは二点です。一つは挿入損失、もう一つは冒頭でも言及しましたアイソレーションです。


図7 CFX-431の取扱説明書のコピー(コメット提供)

(1) 挿入損失
通過周波数が1.3~150MHzの範囲内では通過損失は、0.2dB以下との記述があります。この数字は小さければ小さいほどトリプレクサーでの損失が少ないといえます。では、0.2dBとはどれくらいの損失かを計算で求めました。計算では、10Wを入力すると出力には9.55Wが出力されることになります。その差、0.46Wが挿入損失です。挿入損失はかなり低いことがわかります。


図8 挿入損失0.2 dB

(2) アイソレーション
スペックによるとアイソレーションは、50dB以上との記載があります。このアイソレーションとは、トリプレクサー内の各フィルター回路の分離度というとわかりやすいかも知れません。例えば144MHzの信号を入力したとき、その出力は反対側のCOMのコネクターから大部分出力されますが、内部回路の結合で、別の端子からも微小ですが漏れ電力を生じます。よってこのアイソレーションの数字は大きければ大きいほど内部回路の分離度はよく、漏れ電力も限りなく低くなるといえます。そのアイソレーション50dBとはどれくらいか計算してみました。入力10Wに対してわずか0.1mWとなりました。


図9 アイソレーション50dB

5. トリプレクサー使用による実運用

筆者はIC-9700にトリプレクサーを接続し、COMのコネクターから同軸ケーブルにて3バンド用のアンテナ1本を接続して運用しています。1200MHzをメインバンドで運用している最中でもSUBバンドでスキャンしながらローカル局をワッチすることができます。トリプレクサーのおかげで同軸ケーブルは1本にまとめられシャックはすっきりしました。


図10 IC-9700にトリプレクサーを接続

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