FBのトレビア
Dr. FB
同軸ケーブルとダイポールアンテナの接続点、つまり給電点にバランを挿入することは一般的によく知られています。バランや平衡・不平衡の説明や記事には、平衡型アンテナに不平衡の同軸ケーブルを接続すると左右のアンテナエレメント上の電流分布が図1(b)のように均等でなくなり、左右のエレメントから放射される電力のバランスが崩れるとの記述があります。それが原因でダイポール特有の8の字指向性パターンが崩れ、また同軸ケーブルから多くの電波が輻射されることにもなるとも説明されています。これがTVIやBCIの原因にもなるようで、アマチュア無線家には興味あるところです。バランありとバランなしの説明を簡単な実験を通して調べてみます。
図1 ダイポールアンテナの電流分布
無線機のアンテナコネクターから同軸ケーブルを通して電力を送る線路は不平衡回路であり、1/4λのエレメントを左右に張ったダイポールアンテナは平衡回路です。参考ですがFBのトレビア第四回に「50Ω不平衡ってなんのこと」と題して平衡・不平衡の記事を掲載しています。そちらも併せてお読みください。
バランとは、不平衡回路と平衡回路の変換を行うデバイスです。バランは、英語表記でBalunと綴ります。balanced-to-unbalancedの頭文字を取って合成した言葉です。
バランの理論は昔からあったのでしょうが、Dr. FBが開局した当時、製作するダイポールといえば図2に示したようなもので、これをダイポールアンテナと思っていました。当時はバランの存在は知りませんでした。このダイポールアンテナを使って交信を楽しんでしていましたが、その後隣の家で発生したTVIの解消に一役買ったのが今回のテーマの「バラン」でした。
図2 バランを使わないダイポールアンテナ
図3 バランを使ったダイポールアンテナ
図4は、この記事のために集めたバランです。参考ですが、(b)のバランは、CWのBencher paddleで有名なBencher製です。バランをネットで検索すると多くの情報を得ることができます。その情報からバランの中身もおよその検討はつきます。
図4 様々なバラン
図4に示したバランのうち(a)のバランを分解して内部を調べました。同じ巻き数のコイルが三つ、同じフェライトバーに密巻きされています。その回路を図5に示します。無線機で発生した高周波電力は同軸ケーブルを通してバランのコイルAとコイルBに供給されます。電磁誘導作用にてコイルCにも電力が誘起されますので、そのコイルBとコイルCで誘起された電力をダイポールに供給しています。つまり、無線機で発生した電力はそのままバランを通してダイポールにも供給されていることが分かります。
図5 バランの内部とその回路の略図
高周波電力を供給する二本の線が二本とも同じ条件の線路を平衡線路といいます。同軸ケーブルでは芯線は周りの編み線で外来ノイズから守られています。編み線の部分は芯線とは異なり、ノイズ等に対する条件も芯線より明らかに悪く、また芯線とは物理的な形状も異なります。電力を伝える二本の線の条件が同じでない、つまり我々が普段使っている同軸ケーブルは不平衡線路なのです。図1(a)のバラン入りのダイポールでは、無線機の電力は同軸ケーブルからバランの入力までは芯線と編み線で電力が供給されますが、バラン通過後は図5のとおり、左右対称となるコイルBとコイルCの両端から電力が出力され、それらがダイポールのエレメントを通して高周波が輻射されます。
図6 バランなしのダイポールアンテナの概略図
今回バランありとバランなしの二種類のダイポールを製作し、それぞれダイポールのエレメント上を流れる高周波電流を高周波電流計で測定し、電流分布図を作成します。送信電波は、微小電力のアンテナアナライザーの出力を使いました。実験は、28MHz帯で行いました。
ダイポールアンテナのエレメント長は、片側が1/4λ、もう片側のエレメントも1/4λで、左右のエレメント長の合計は、1/2λとなります。エレメント長を計算で求めてみましょう。ここで、c=3 x 108 (m)、 f= 運用周波数(Hz)ですが、計算しやすくするためにλ=300/28.5として計算します。波長は、下に示すように10.5(m)となります。
ダイポールアンテナの各エレメント長は、波長の1/4λであるため、28.5MHzのダイポールでは、それぞれ2.6mとなります。
図7 半波長ダイポールのエレメント長の計算
ダイポールアンテナで(1)バランを使ったときと、(2)バランを使わなかったときの各エレメントに流れる電流の大きさを高周波電流計で測定しました。測定には図8で示した有限会社大進無線の高周波電流計を使いました。この測定器でエレメントに流れる高周波電流の大きさを電圧に変換し、デジタルマルチメーターの電圧計でその値を表示させます。測定値は、エレメントに流れる高周波電流の相対値を表すもので、正確な絶対値ではないことをご理解ください。
図8 エレメントの高周波電流の測定風景
(1) バランを使ったときの電流分布のグラフ化
(2) バランを使わなかったときの電流分布のグラフ化
図10 バランを使わなかったときの各ポイントの高周波電流のレベル
(1) バランありのダイポールアンテナの各エレメントに流れる電流値の考察
図11は、図9から抜粋したグラフです。ダイポールのエレメントに流れる高周波電流の大きさを棒グラフで表しています。縦軸はその測定した電流値を電圧計で表示しています。図を見ても分かりますが、左右の点線で囲った部分の面積はほぼ等しいことが分かります。測定した各ポイントの電流値の合計は、青色が166.4mV、赤色が162.5mVとなり、数字で見てもほぼ等しいことが分かります。
図11 バランありのダイポールのエレメントに流れる電流値
(2) バランなしのダイポールアンテナの各エレメントに流れる電流値の考察
図12は、図10から抜粋したグラフです。上記同様ダイポールのエレメントに流れる高周波電流の大きさを棒グラフで表しています。図を見ても分かりますが、左右の点線で囲った部分の面積は、赤色側が大きく青色側は小さいことが分かります。各ポイントの電流値の合計は、青色が141.1mV、赤色が166.1mVとなり、数字で見てもその差は、バランを入れたときの差に比べてはるかに大きいことが分かります。
この記事の冒頭で少し触れましたが、バランを入れないダイポールは、左右のエレメントから放射される電力のバランスが崩れると説明されている現象は今回の実験で確認できました。ただ、8の字特性まで崩れるのかどうかまでは検証できていません。左右のエレメントから輻射されるエネルギーが異なるのであれば、ダイポールの指向特性にも影響を与えることは容易に想像できます。
図12 バランなしのダイポールのエレメントに流れる電流値
図13は同軸ケーブルに流れる電流値です。図9、図10から抜粋しています。二つのグラフを見ると明らかに差があることが分かります。バランを接続した左側のグラフのレベルが、右側のそれより小さいことが分かります。つまり、同軸ケーブルとエレメントを直接接続したときは、高周波電流は同軸ケーブルにも流れているようです。本来同軸ケーブルは電波の伝送路としての役目ですが、この実験結果を見る限り同軸ケーブルからも高周波が輻射されていることになります。
図13 同軸ケーブルに流れる電流値
(左)バランあり (右)バランなしの直結
バランなしのダイポールアンテナの左右エレメントから放射される高周波エネルギーには差があることが分かりました。この差がいろいろな書物で述べられている指向特性の乱れの原因になるものであることの推測は付きました。
バランを入れたとき、バランをいれないときのいずれも同軸ケーブルから高周波エネルギーの輻射は確認できました。ただ、バランを入れないときは、入れたときより1.4倍ぐらいのエネルギーが輻射されていることが図13のグラフで分かります。本来、アンテナから輻射されるべき高周波エネルギーが、同軸ケーブルからも輻射され、これがTVIの原因となっていたかもしれません。その証拠に当時OMから頂いたバランを挿入すると、隣の家のTVIはかなり抑えられた経験があります。
今回の実験の最後にアンテナから離れた地点の電界強度を計測しました。実験に使ったアンテナの設置や測定地点の環境などもあり、測定の電界強度はふらふらして定まらず、VHFやUHFのようには行きませんでした。その結果、実験結果としてデータを取得することができず、どちらのアンテナの方がよりよく飛ぶかまでは分かりませんでした。
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