Monthly FB NEWS 月刊FBニュース 月刊FBニュースはアマチュア無線の電子WEBマガジン。ベテランから入門まで、楽しく役立つ情報が満載です。

今更聞けない無線と回路設計の話

【テーマ2】デシベルと無線工学
第21話 変調器出力振幅と信号劣化(1)

濱田 倫一

2026年7月1日掲載

第21話では、第20話で解説出来なかったデジタル・アナログ変換(DA変換)の前後におけるレベルダイヤグラムの縦軸(デジタル振幅[dBFS]目盛とアナログ電圧[dBµV]目盛)の関係を解説します。併せて対象箇所が信号劣化の開始点である変調器であることから、変調処理とDACにおける信号劣化の概要についても解説します。

1. 実際のレベルダイヤグラムを見る

最初にDACの入出力でレベルダイヤグラムの振幅軸(縦軸)はどのように繋がるのかについて、いつもの「一気通貫で作成したレベルダイヤグラム(第19話の図6)」※1 (図1)を用いて解説します。AさんからBさんまでの通信路においてアナログ信号とデジタル信号の境界が存在するのは「①音声入力」「②変調」「④復調」「⑤音声出力」の各区間です。このうちDACが存在する・・・ すなわちデジタル信号からアナログ信号への変換回路が存在するのは「②変調」と「⑤音声出力」の区間になります。


図1 一気通貫で作成したレベルダイヤグラム

(第19話の図6※1と同じ。下方は省略)

このうち「②変調」区間(図1の黄色太線で囲った部分)のみを抜き出して解説したのが図2になります。


図2 レベルダイヤグラムから「②変調」部分を抜粋(図1の黄色矢印部分)

2. 変調部は信号劣化の開始点

「②変調」部は音声CODEC(coder)が生成した音声データ(デジタルのシリアルデータ列)を無線で送信するためのアナログ変調信号(ここではQPSK変調信号)に変換するブロックで、QPSK波形生成部・DAC・I-Q MOD(直交変調器)の各処理ブロックから構成されます。第5話で解説したシャノンの通信モデル(第5話の図2)に当てはめると、「QPSK波形生成」部の入力送信データ(シリアルデータ)はノイズレスの「符号」、出力はノイズを含む(SNRが定義される)「信号」となり、ここから先が信号劣化を伴う「通信路」です。
さらに詳しく見るため、図3にQPSK波形生成部~DACまでの詳細を示します。


図3 QPSK波形生成~DAC間の詳細構成

「QPSK波形生成」部は「位相ベクトルマッピング」「FIRフィルタ(波形生成)」「ビット間引き・オフセット追加」の各処理ブロックから構成されます。図3において信号規定点(A) ((A)は青丸の中に白抜きのA。以下同様)に入力される送信データ列は、デジタルデータを伝送クロック周期で直列に並べた、いわゆるシリアルデータ列です。この信号は矩形波で表現されることが多いですが、実際に意味を持つのは伝送クロックのエッジタイミング(受信側でデータとしてサンプルされるタイミング)の一瞬だけなので、信号規定点(A)の信号イメージは図中のグラフに示すとおり、1と0のインパルス列と見なします。「位相ベクトルマッピング」部では、このインパルス列を1/-1のインパルス列に振幅拡張(信号規定点(B))後、2ビットずつに区切ってシンボル列とし、これをエンコードして対応するQPSKの位相ベクトル(I-Q座標)にマッピングします(信号規定点(C) (D))。この段階では送信信号はシンボル列と同じ離散値情報であり劣化はありません。この離散値情報(インパルス信号)を無線伝送するためには、連続した信号波形に変換する・・・ つまり符号と符号の間の応答波形を生成する必要があります。これを行うのが「FIRフィルタ(波形生成)」部です。FIRフィルタの動作イメージは次ページの図4を参照ください。FIRフィルタはシンボルクロックの整数倍(図3、図4では4倍)のサンプリングクロックで動作し、入力されたインパルス信号毎に時間応答波形を生成して合成する動作を行い、帯域制限された波形を生成します(信号規定点(E) (F))。

QPSK信号はナイキスト点(データの存在するタイミング)のみを見ると一定振幅ですが、帯域制限を加えた波形に変換すると振幅に起伏が発生します。このため波形生成以降の処理では波形の最大値で回路がオーバフローしないようにナイキスト点の振幅を定めておく必要があります。この結果デジタル生成された波形はアナログ信号と同様、フルスケール振幅と平均振幅の比としてPAPRが定義されます。図2のレベルダイヤグラムにおいては、QPSK信号の場合、PAPR(第13話参照)は概ね6dB程度で設計するのが通例なので、これを踏襲してQPSK波形生成部のバックオフを6dB(セルL57)、信号レベル(振幅)を−6dBFS(セルL60)としています。FIRフィルタで生成された波形データは正負の振幅(図3では+511~-512)を持った信号なので、これをDACの入力データフォーマット(0~255)に変換するのが後段の「ビット間引き・オフセット追加」部です。このブロックではFIRフィルタの出力波形データに512を加算(DCオフセット)して0~1024の振幅に変換後、下位2ビットを捨てて0~256の振幅幅に調整します(信号規定点(G) (H))。なお、ここでいう「波形」はアナログ波形をサンプリングクロックでサンプルした離散値データ列です。

  • ※1  第19話で配布した解説用のレベルダイヤグラムのExcelシートはこちらからダウンロード可能ですので、必要に応じてExcelシートから計算内容等をご確認下さい※2
  • ※2  ダウンロードされたExcelシートに関するご質問についてはご容赦ください。Excelシートの内容に関する知的財産権その他一切の権利は筆者濱田倫一に帰属します。月刊FB NEWS編集部は筆者濱田倫一の許可を得て本件記事を掲載しております。また筆者、ならびに月刊FB NEWS編集部は、これらExcelシートの二次使用に伴う一切の責任を負いませんので、あらかじめご了承ください。なおExcelは米国マイクロソフト社の商標です。

次ページは「波形生成誤差と変調信号の劣化」から

今更聞けない無線と回路設計の話 バックナンバー

2026年7月号トップへ戻る

サイトのご利用について

©2026 月刊FBニュース編集部 All Rights Reserved.