FBのトレビア
Dr. FB
IC-705には別売の専用マルチバッグLC-192が用意されています。BNCのL型コネクターをIC-705に取り付け、そのままLC-192に収めると、IC-705をバッグに入れたままアンテナの取付や同軸ケーブルの接続ができ、たいへん便利に運用できます。このためBNCのL型コネクターは必需品とも言えます。
ところがハム仲間からL型コネクターを使うと受信感度が低下するといった話を聞きました。別のコネクターに交換すると問題なく受信はできるので、IC-705本体の問題ではないことは確かです。にわかに信じ難いですがL型コネクターに問題があるようです。コネクターを長く使っていると、センターピンの接触不良も考えられます。
そうこう考えているうちに、L型コネクターの入口と出口は途中で90度曲がっていますが、どのように接続されているのか、中身が見たいという気持ちに駆り立てられました。普段は変換コネクターの中身を見ることなどありませんが、特殊な方法でその断面を見るチャンスがありました。なんと驚くことに、「これなら接触不良が発生してもおかしくない。事実、これが接触不良の原因では?」と分かりました。
切らずに中身を見るにはX線が思い浮びます。コネクターの外部は金属です。その金属を通して中身が見えるのかといったことも考えましたが、まずはX線透過装置で中身の透視をトライしました。(図1) 金属の中身は見えないと思っていましたが、写真のようにくっきりと内部が写っていました。
BNC側とM側の接続はしっかりと接続されている様子が分かります。このX線写真を見て接触不良が発生するとすれば、コネクターの出し入れによってセンターピンが緩くなったことぐらいしか考えられません。別の問題ですがM-J側のセンターピンの取付けに精度が出ておらず、水平に取り付けられていないことがX線写真で分かります。「なんだ、これは!」と気になります。購入するときに気をつけたいところですが、外から内部は見えませんので、当たりはずれは時の運としか言いようがありません。
図1 X線撮影 M-J側の内部ピンが歪んで取り付けられているのが分かる
図1で透視したコネクターの中身を見るために金ノコを使って切断しました。(図2) この切断で中の構造はなんとなく分かりました。写真では内部全体をクリヤーに見ることはできませんが隙間にライトを当てるとなんとか確認できます。
図2 (左)BNC-P M-Jの切断 (右)内部に光を当てて撮影
この図1、図2の変換コネクターでは、M-J側の取付け精度に問題はありましたが、M側とBNC側の接続は内部でしっかり接続されているようで、接触不良を生ずる可能性は見いだせませんでした。そのため別のL型コネクターを同様に調べました。
図3(左)は、X線写真です。赤丸で囲った部分をよく見ると、90度に折れ曲がっている部分が接触していないように見えます。X線写真で不鮮明であるため、これも金ノコを使って切断しました。このL型コネクターは、一方がBNC-J、一方がBNC-Pです。
図3-1 BNC-P BNC-J L型中継コネクター
図3-1 右側の切断部分の写真を見ると、中にバネのようなものが見えます。別の角度から光を当てて拡大撮影したものが、図3-2です。明らかにバネです。BNC-Pに接続されている導体が90度に折れ曲がるポイントにバネが使われているのです。このバネとBNC-Jの導体とが90度に折れ曲がるポイントで、接触させて接合しているのです。さすがにDr. FBも驚きです。これなら、接触不良を生じても不思議ではありません。
図3-2 切断したBNC-P BNC-J L型中継コネクターの内部(接合部にバネが使われている)
ここまでくると、コネクターの完全な断面を見たいとの思いが一層強くなりました。その方法をいろいろ探っているうちに新兵器を見つけました。機構部品等の材料の検査に使う機械です。(図4)
この機械は、被検査部材を樹脂で固め、その後、回転する研磨材で削っていくといったものです。この機械を使って断面を撮影したものが図5です。たいへんきれいに断面を見ることができます。
図4 (左)調べるコネクターを樹脂で固める (右)断面を研磨中
外観上、異なる3種類のBNC L型中継コネクターを準備しました。(図5)
(A)と(B)のコネクターは、大手インターネット通販で購入したものです。5個で送料込みの1,380円でした。コネクターは(A)(B)共、香港から送られてきました。仮に送料が500円だとすれば、コネクターの単価は約180円です。買値が180円ですから原価は50円以下と思います。
(C)は、ハムのイベントに出店していたお店で買ったものです。何れも価格は概ね1個300円です。コネクターの中身はまさか接触不良を起こすような構造になっているとは、販売しているお店の人も想像もしないでしょう。BNC L型中継コネクターが1個300円程度であれば多くのアマチュア無線家は、購入されているのではないかと思います。
図5 3種類のBNCコネクターの内部
これらコネクターの断面を見て気になる点が2つあります。ひとつは、冒頭にも記述しましたが、コネクターの内部の90度に曲がる部分での接続方法と接触不良の可能性。もう1つが、BNCコネクターの特性インピーダンスです。それぞれ気になるポイントを整理します。
(1) コネクター内部の接触不良の可能性
図5の写真A-2~C-2の写真を見ると90度に折れ曲がる部分の構造は、どのメーカーも苦労している様子が読み取れます。すべて構造が異なりますが、どれを見ても接触不良を生じる可能性があり、中を見てしまうと不安はぬぐい切れません。精密測定には絶対に使えないシロモノです。
中でもB-2、B-3の写真を見ると接触はバネです。B-3をさらに拡大するとそのバネはすでに錆びでおり、その錆がBNCのセンターピンに付着しているのが見えます。(図6)
写真の色からするとバネは金メッキされているようにも思えず、これは接触不良の可能性は大です。ハム仲間のいうL型コネクターの接触不良による受信感度の低下の原因はこれかも知れません。
図6 B-3の写真の拡大図(バネは錆びている)
その他、AおよびCのコネクターについても、入口と出口は確実に銅線等ではんだ付け、あるいはろう付けで接合されているものではありませんので接触不良の可能性は残ります。
(2) コネクターの特性インピーダンス
我々アマチュアは、特にUHF帯以上の周波数で運用する場合、伝送路のロスに気を配ります。そのため、例えば無線機と同軸ケーブルの接合部や同軸ケーブルとアンテナの接合部のインピーダンス整合にはBNCやN型コネクターを使い、同軸ケーブルも含めた伝送路の特性インピーダンスを50Ωに保ちます。
今回BNCコネクターの断面を見ることができました。外見は50Ω系の伝送路で使うBNCコネクターの形をしていますが、その内部構造から果たしてこれらのBNCコネクターは、内部の中心導体の直径とそれを取り巻く外部導体の直径から見てほんとうに50Ωかと疑いたくなります。
これまで調べたBNCコネクターは、50Ω系のものでした。BNCコネクターには、75Ω系のものもありますので使用には注意が必要です。両者とも外観は同じですが、センターピンのサイズが異なります。75Ω系のBNCコネクターのセンターピンは50Ω系に比べて細いため、誤って使用しますと、接続はできますがセンターピンの接続部で接触不良を生ずる可能性があります。BNCコネクターの購入の際には、3D2Vや5D2V用のコネクターであることを確認することが重要です。
図7は、同軸ケーブルの特性インピーダンスを外部導体、内部導体の内径と外径から特性インピーダンスを求める公式ですが、調べたBNCコネクターの内部導体の直径は3種類とも異なるので、どれが50Ωなのか、どれが50Ωでないのか正直分かりません。考えるところ、入り口と出口は直流的につながっていればよいとようにも感じる構造です。
図7 同軸ケーブルの特性インピーダンスを求める公式
BNCコネクターの電気的、機械的仕様は、JISやIEC、MILなどの公的機関で規格として定められています。本来なら特性が保証されているのでしょうが、1個300円前後の値段であれば、「こんなもんか」と諦めてしまいそうです。これなら絶対大丈夫というBNC L型コネクターにお目にかかりたいと思います。
BNCコネクターでもストレートタイプは入口と出口はこういった点接点ではなく導体できっちり接続されているように思います。BNCに関わらず、L型コネクターで接合しているときは特に気を付ける必要がありそうです。
原稿の締め切り直前にまた別のBNC L型コネクターの断面の資料が入手できました。(図8) この写真を見て、さらに驚きました。FBDX
図8 右側のコネクターの接合部は絶縁チューブが挿入されている
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