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Short Break

20A電子負荷装置の製作
負荷にNチャネルMOSFETを使用

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フリーマーケットで中古のトランス式30Aの直流安定化電源を購入しました。動作はしていますが本当に30Aの電流を取り出すことができるのか、IC-7600を電源に接続して実験をしてみました。IC-7600はアイコムのHF+50MHz All Mode 100Wトランシーバーです。IC-7600の電気仕様によると送信時最大電流は23Aと記載されています。この電源の試験にはちょうど良い負荷です。

IC-7600にダミーロードを接続し、RTTYで送信を開始するとフルパワーで20A弱の電流が確認でき、購入した中古の電源は正常に動作し一安心しました。次にRTTYのQSOを想定して、20秒の連続送信、20秒の受信を繰り返す試験を行いました。20回目ぐらいで突然電源の出力が出なくなりました。電源のカバーを開け、回路を確認するとトランスの出力側に付いているダイオードブリッジが壊れていました。

電子負荷とは

電子負荷とは電源や電池の性能試験に使う装置です。内部は半導体素子で構成されています。出力端子に接続する負荷を電子的にかつ連続的に設定できるようにしたものです。今回製作したものは、動作中に電源の出力電圧が変化しても一定の電流を流すことができる定電流回路を組み込んでいます。抵抗負荷ではできないことをこの電子負荷装置では実現することができます。

前述しましたが、購入した直流安定化電源の性能試験にIC-7600を使ったのは20Aもの大電流を流せる負荷の持ち合わせが他になかったからです。本当は抵抗器を接続すれば簡単ですが、13.8Vの出力端子から20Aを取り出そうとすると0.69Ωの抵抗に加え、P=I2・Rより、276Wもの電力を消費することができる抵抗が必要になります。入手は容易ではありません。また取り出す電流値を変更しようとすると負荷の抵抗値を変える必要があり、抵抗負荷は現実的ではありません。そこで抵抗の代わりに電子負荷の接続となり、今回その製作となりました。


図1 抵抗負荷器と電子負荷器の概念図

図1の左は、古典的な抵抗器による負荷装置です。流す電流値に応じて抵抗値を変える必要があります。右図は、半導体素子を使った電子負荷装置の概念図です。半導体に大電流を流して負荷器とします。ベースに流す電流を変化させることで、コレクタ電流を変化させることができ、連続した任意の電力消費が可能です。

電子負荷装置の回路図

製作した回路は図2の点線部です。NチャネルMOSFETのVGS(ゲート・ソース間電圧)を変化させて、ドレイン電流(ID)を制御するものです。この装置の電源は、被測定電源(安定化電源)から取り出します。つまり電源から流れ込む電流をこのMOSFETに抵抗のような役割をさせ、熱として消費させるものです。


図2 MOSFETを使った電子負荷器の回路図

装置は、安定化電源の電圧が変化しても常に一定のIDとなるように定電流回路としました。図3(a)、(b)ともVGSの変化でIDが変化します。(a)はVRの可変でVGSを変化させIDを制御しますが、MOSFETに印加する電圧やMOSFETの温度上昇等でIDは意図せず変化してしまいます。(b)は、ソース・アース間に抵抗Rを挿入し、その抵抗の両端で生ずる電圧と基準電圧(VREF)とを比較して絶えず一定のIDとする定電流回路を構成しています。基準電圧は安定化させる必要のあることから、5Vの三端子レギュレータの出力電圧を抵抗で分圧して使用しています。


図3 MOSFETの電流制御回路の原理図

各部品の説明

(1) Q1 (2SK2586)
負荷となる半導体素子にルネサスエレクトロニクス製の2SK2586というNチャネルのMOSFETを使います。(図4) 残念ながらすでに廃番になっていますが流通在庫はあるようです。特にこの品番にこだわることなくドレイン電流(ID)、ON状態でのドレイン・ソース間抵抗(RDS)、それに図5に示す特性図に近似するスペックのものであれば互換性はあります。


図4 2SK2586の端子名(ルネサスエレクトロニクスのデータシートより引用)

2SK2586のIDはルネサスエレクトロ二クスのデータシートによると60Aと記載されています。安定した性能を維持する上で電子負荷の最大電流は20Aとして設計します。図5は同社のデータシートから抜粋したもので、ゲート・ソース間電圧(VGS)に対するドレイン・ソース間電圧(VDS)とIDの関係を示したグラフです。右図はそのグラフを加工したものです。IDは緑の飽和領域ではVDSにそれほど関係なく、むしろVGSに大きく依存していることが分かります。例えば、VGSが2.5VのときIDは10A、VGSが3Vでは40Aも流れることが分かります。飽和領域ではVDSを変化させてもIDはほぼ一定です。負荷に20Aを流すようにするには、VGSはおよそ2.7Vであることが特性図で読み取ることができます。


図5 VGSに対するVDS-ID特性(ルネサスエレクトロニクスのデータシートより引用)

(2) D1 (S60SC4M)
ひとつのパッケージに2個のショットキーバリアダイオードが入っています。安定化電源のプラス・マイナスの出力をこの電子負荷装置に接続する際、誤って逆接した場合でも回路を保護する目的で挿入しています。同等の電流容量の持ったショットキーバリアダイオードであればどのようなものでも問題ありません。今回は、パッケージ内の2個のダイオードをパラに接続して使っています。電源の入力端子にショットキーバリアダイオードを接続する理由は、順方向電圧(VF)が一般的なPN接合ダイオードのVFの0.6~0.7Vに対して0.2Vと低く、安定化電源の電圧降下を低く抑えるためです。


図6 S60SC4Mの外観と内部接続図

(3) R6 (0.1Ω/100W)
図7の部品は、この電子負荷装置のキーパーツともいうべき部品です。大電流が流れますので、それに耐えうるメタルクラッド抵抗と呼ばれるものを使います。抵抗値は0.1Ω/100Wです。抵抗値とワット数から計算では30A強の電流を流すことができますが、十分な放熱が必要です。8cm角のアルミダイキャストの放熱板にこのメタルクラッド抵抗を放熱テープなし、クーリングファンなしに取り付け、10A程度の電流を3分流すと壊れてしまいました。この抵抗は安定化電源の電圧が変化しても常に一定のIDを流す定電流回路を構成するのに使っています。


図7 0.1Ω/100Wメタルクラッド抵抗

(4) 電圧計(DS1)、電流計(DS2)
DS1、DS2は2線式の3桁デジタル電圧表示ユニットです。安定化電源の出力電圧と出力電流をデジタル表示させるもので、ユニット購入したものをそのまま使っています。たいていの安定化電源には電圧、電流計が取り付けられていますので、新たにこの装置に絶対に必要というものではありません。

電圧表示はユニットの赤黒のリード線を安定化電源に接続するとそのまま使えますが、電流表示にはちょっとした工夫が必要です。もとは電圧表示ユニットですからMOSFETのソース・アース間に接続した0.1Ω/100Wの抵抗(R6)の両端に生じる電圧をこの電圧表示ユニットで表示させ電流値としています。仮にこの0.1Ωの抵抗に10Aが流れたとすると、この抵抗の両端には1Vの電圧を生じます。この場合デジタル電圧表示ユニットをR6の両端に接続すると「1.00」と表示します。本当は10Aが流れているので「10.0」と表示したいところですが、電圧は1Vですので「1.00」と表示されてしまいます。1Vの電圧を10倍に増幅するとその電圧表示を電流表示として読むことができます。


図8 電圧を10倍(20dB)にする回路

図8が電圧を10倍にする増幅回路です。もとの回路はオペアンプを使用した非反転増幅回路です。出力をR8とR9でフィードバックさせて利得を持たせています。参考ですがこの回路の電圧利得は次式で求めることができます。R9を可変抵抗器として利得を10倍に調整します。


(5) IC1、IC2 (LM358N)
汎用の単一電源のオペアンプです。一つのパッケージに2個のオペアンプが入っています。IC1は定電流回路に使い、IC2は図8に示した10倍の増幅器を構成しています。

(6) FA1 (クーリングファン)
12Vで動作するクーリングファンです。大電流を流すとQ1、R6、D1から大きな発熱がありますからクーリングファンは十分な放熱ができるものが必要です。今回、この製作で使用したクーリングファンは80×80×25mmです。先に80×80×15mmのクーリングファンで小型化を図りましたが、風量が不足でメタルクラッド抵抗(R6)を1個壊してしまいました。

(7) ヒートシンク
製作は電子回路も重要ですが、放熱対策もたいへん重要です。ヒートシンクは最終的には細かいフィン付きの100×150×14mmのアルミダイキャストを使いました。先に100×100×20mmのアルミダイキャストで実験を行いましたがフィンの数が足りないのか、放熱が意外と少なく、この場合もメタルクラッド抵抗を壊してしまいました。

組み立て

フロントパネルには、電流を制御するボリュームツマミのほか、電源入力端子、電圧、電流表示ユニットを取り付けます。カッコよさも出したいのでディスプレイの前面にはアクリルの窓板を貼り、取り付けネジにはブラックの六角穴付きネジを使いました。


図9 フロントパネルのレイアウト

電子回路はいたって簡単です。定電流回路は、50×70mmのガラスエポキシのユニバーサル基板に組み込みます(図10左)。半導体や抵抗からの発熱を考慮した組み立てが必須です。大電流が流れる部分には無線機の電源用の赤黒DCケーブルを使って配線しました。穴開きのユニバーサル基板に太いワイヤーを半田付けするとワイヤーの引き回し等で扱いが困難となるため、図10(右)のようなネジ付きの端子台を用いました。


図10 ユニバーサル基板に取り付けた部品

ヒートシンクは十分な風量で放熱します。クーリングファンは5mmのゴムシートをシャーシとの間に挟んで取り付けます。風切り音は軽減できませんが、クーリングファンとシャーシの振動はゴムの取り付けが効果あります。


図11 クーリングファンの取り付け

内部の構造

クーリングファンとヒートシンクは、多くの場合ケースの外側に取り付けますが、適当なサイズのヒートシンクとケース、それにクーリングファンがなかったことからそれらを金属ケース内に収めました。冷却不足を心配しましたが、空気は底から取り入れケースのサイドに空けられたスリットから出すようにしたところ、うまく空気の流れができているようです。試験では20A、10分の連続運転でも壊れることなく動作しています。10Aの連続運転であれば30分は余裕で動作しましたので、それなりの空冷の効果が出ていることがわかります。


図12 内部写真

まとめ

電子負荷装置を製作しても普段のアマチュア無線の運用や電子工作にたびたび使う装置ではありませんが、MOSFETの動作や定電流回路、また発熱する部品の取扱いなどの勉強になります。

今回、ひょんなことから中古の安定化電源を衝動買いしたことから電源をテストしてみたくなり、電子負荷装置の製作となりました。一番コストのかかったのは金属ケースです。5,000円ぐらいしました。カッコよく作りたかったということもあり、製品らしくしたいということもありハンドル付きにしました。ヒートシンクの大きさも大きな制限がありました。ヒートシンクに合わせるとケースが大きくなりすぎるし、小さくすると放熱効果が薄れるしで、構造の設計に時間を費やしました。

製作の中でメタルクラッド抵抗が100Wもの容量を持っていることから安心しきっていましたが、これはヒートシンクに完璧に取り付けた状態が最低条件で、ヒートシンクに取り付けない状態では100Wのスペックは満足しません。実験中に2個も壊してしまいました。MOSFETも同様です。しっかりと放熱テープを貼り、ヒートシンクにネジ留めすることが重要です。

一番気がかりなのが本体に取り付けた電流計です。今回使用したデジタル電圧表示ユニットの最低測定電圧は2.5Vです。R6の両端の電圧を10倍に増幅してデジタル電圧表示ユニットに入力していますので、R6には0.25A以上の電流が流れないと2.5Vにはならず、それ以下では電流表示されないことになります。ここはさらに工夫が必要です。

CL

資料提供
ルネサスエレクトロニクス株式会社

協力
株式会社立花電子ソリューションズ

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