Topics from Around the World
今回の記事の原典は、米国ARRLが発行するQEX誌、2020年11月/12月号[1]に「共振同軸ケーブルを用いた80mバンドダイポールの帯域拡大」と題して掲載されたものです。その後、スペインのアマチュア無線家、セルヒオ マンリケ氏(Sergio Manrique/EA3D)が考察を加え、同国のアマチュア無線連盟の機関誌Radioaficionadosの2021年5月号に掲載しました。今回その翻訳と掲載の許可を得ましたので抄訳を紹介します。
ダイポールアンテナの給電部に取り付けられたバランから1/2λの50Ω共振同軸ケーブル(以下同軸ケーブル)と1/4λの75Ω同軸ケーブルを図1のように接続します。また、トランシーバーまでの距離に応じて、任意の長さの50Ωの同軸ケーブルも接続します。
北米の80mバンドは、3500~4000kHzもの帯域に及ぶため、1本のダイポールで全帯域をカバーするには、何か工夫が必要です。IARUのRegion 1の割り当てでは、上側のバンドエッジは3800kHzです。バンドのセンターでSWRが最小になるようにエレメントをカットし、またアンテナの高さや打ち上げ角を調整したとしても、上下のバンドエッジ近くではSWRが3以上になります。今回160mバンドでも同様にこの説明のようになるのか解析してみます。
図1 アンテナの帯域拡大方法の構造図 (出典 [1])
QEXの記事[2]によると、この帯域を広げる方法は1940年代から知られており、QEXに投稿した筆者が所属していたHC8Nコンテスト局ですでに採用していたようです。一般的な条件として、この方法では共振周波数において、アンテナが70~75Ωに近い放射抵抗値(以下抵抗値)を持つことが必要で、後述しますが地上高が非常に低い場合や両エレメントの広がる角度が狭いV型ダイポールでは給電点インピーダンスが低くなるためこの方法は使えません。同様に垂直アンテナにも適用できません。EZNEC+ 6.0を使ったシミュレーションで、さまざまな条件のアンテナの事例を探ってみます。
<例1>
どこにでもあるような次のような条件を考えます。アンテナは逆Vダイポール。エレメントには直径2mmの銅線を使用し、逆Vダイポールの給電点の地上高を30m、電気特性のよくない地面への設置とします。左右のエレメントの広がる角度は120°にすると、バンドのセンター3650kHzで最小のSWRとなります。
図2 例1に示した条件におけるアンテナのSWR特性
黒: 給電点でのSWR。帯域のセンターと上下バンドエッジのインピーダンス。
青: 50Ωの同軸ケーブルが1/2λのSWRと帯域のセンターと上下バンドエッジのインピーダンス。
緑: 50Ωの同軸ケーブルが1/2λと75Ωの同軸ケーブルが1/4λにおけるSWR。
赤: 50Ωの同軸ケーブルが1λと75Ωの同軸ケーブルが1/4λにおけるSWR。
図2は、給電点におけるSWR特性(黒色のライン)に加え上下のバンドエッジとセンターにおけるインピーダンスを表示しています。
1/2λ長の同軸ケーブルを追加
アンテナの給電点には、3650kHzで1/2λとなる50Ωの同軸ケーブルが接続されています。ここではRG-213ケーブルを使うことを想定してシミュレーションを行います。同軸ケーブルの実質的な長さは 82.134m×0.66×0.5=27.104m です。82.134mは3650kHzの1λ、0.66は同軸ケーブルの短縮率です。
図2の青色のラインは、SWRと帯域全体のインピーダンスを示しています。SWRとインピーダンスはセンターの3650kHzではそれほどの変化はありません。
ここからがこの記事の重要なポイントです。この同軸ケーブルは、3650kHzより低い周波数では電気的に1/2λ以下、3650kHz以上では1/2λ以上の長さとして作用します。つまり、共振周波数からずれると、もう一方の端のインピーダンスは50Ωとして再現されず、図2(青字)で見られるような、次に接続される同軸ケーブルの特性インピーダンスに適した値に変換されます。
1/4λ長の同軸ケーブルの追加
先に記載した50Ω、1/2λの同軸ケーブルの延長線上にもう一本75Ω 1/4λの同軸ケーブルを追加します。これは一般によく知られたインピーダンス変換器です。シミュレーションではRG-11Aケーブルを使用しています。
この追加の同軸ケーブルの短縮率は0.66ですから、1/4λは13.552mになります。この場合の共振周波数の変化におけるSWRとインピーダンスの変化は図2の緑色のラインで示しています。
50Ωと75Ωの両同軸ケーブルをつなぎ合わせて、帯域全体のSWRが1.8を超えないようにインピーダンス変換が行われています。追加された2本の同軸ケーブルにおいて、帯域内のSWRが最大となるポイントの最大損失は0.3dBです。
ここで50Ωの同軸ケーブルが1/2λではなく1λとした場合のSWR特性は図2の赤色のラインのようになり、SWR値は常に1.7未満となるはずです。また同軸ケーブルが長くなったこととSWRの関係で、0.3+0.2=0.5dB の損失が加わります。
この時点で、もう一つ気が付くことがあります。図2に戻りますが、マッチングの結果、緑色と赤色のラインがすこし周波数の高い方に「ずれて」おり、SWRは3800kHzよりも3500kHzで高くなっていることが分かります。左右のエレメント長を調整することで、SWRの最適値をセンターに寄せ、バンドの両エッジで最小にすることができます(図3)。アンテナ解析ソフトEZNECによると、エレメントを左右でそれぞれ約14cm長くすれば調整できるようです。その結果が図3です。
図3 実施例1のエレメントを長くした後のSWR特性
緑: 50Ωの同軸ケーブルが1/2λ、さらに75Ωの同軸ケーブルが1/4λのSWR特性
赤: 50Ωの同軸ケーブルが1λ、さらに75Ωの同軸ケーブルが1/4λのSWR特性
実際にどのようなケースでこの伝送路が使用できるかを見ていきます。特に指定がない限り、アンテナを設置する地面の電気特性はよくないとしています。各例で共振周波数におけるアンテナ抵抗をRr、SWRが2以下の場合のアンテナ帯域幅をBwで示しています。全てのシミュレーションで、エレメントの直径を2mmとするとRG-213とRG-11Aの同軸ケーブル、それにRG-58とRG-59の同軸ケーブルの場合は非常に似た結果となります。
<例2>
3.5MHz帯(80mバンド)、給電点の地上高30m、エレメント間の広がり角度が90°のV型ダイポール。Rr=57Ω、Bw=160kHz。50Ωの1/2λの同軸ケーブルでは、全帯域でSWRが2程度に収まります。同軸ケーブルが1λの場合であれば、SWRは1.5から2の間に落ち着くと思われます。地面の電気特性が良ければ、この方法はさらに応用が効くと思います。
<例3>
3.5MHz帯(80mバンド)、給電点の地上高15mのストレート・ダイポール。Rr=71Ω、Bw=150kHzの条件とすると、結果は例1と非常によく似たものとなります。
<例4>
3.5MHz帯(80mバンド)、給電点の地上高15m、アンテナはV型ダイポールでエレメントの広がり角度120°、Rr=61Ω、Bw=150kHz。50Ωの同軸ケーブルを1/2λとすると全帯域でSWRは2弱ですが、これを1λとするとSWRは1.4~1.8となります。
<例5>
3.5MHz帯(80mバンド)、V型ダイポール、給電点の地上高15m、エレメントの広がり角度90°、Rr=55Ω、Bw=150kHzとすると、例2で示した給電点の地上高30mの場合と同じ結果になりますが、この例では給電点は地面からそれほど高くはないため、またエレメントの広がり角度が大きくないため、電気特性の良好な地面の場合にはこの方法は適用できません。
<その他の事例>
ローディングコイル等の入った短縮ダイポールあるいは逆Vアンテナでは、共振周波数での抵抗が低く、また帯域幅が狭いため、この方法は取れません。垂直アンテナを短くした場合も同様です。
いずれにせよ、70~75Ωとは大きく異なる抵抗値を持つ非短絡アンテナでは、共振同軸ケーブルに50Ωや75Ωとは異なるインピーダンスの同軸ケーブルを使用することができます。例えば、1/4λフルサイズの垂直接地アンテナの場合であれば、アンテナの放射抵抗は約30~40Ωを示します。この場合、シミュレーションによれば、25Ωの同軸ケーブル1λ(50Ωの同軸ケーブル2本を並列)と、その後に50Ωの同軸ケーブル1/4λの接続としても問題ないようです。しかし、3.5MHz帯では、その共振ケーブルに使用する同軸ケーブルは波長の関係で物理的な長さが必要となり、現実的ではありません。
以下、地面の電気特性や同軸ケーブルなど3.5MHz帯の例と同じ条件で、1.9MHz帯(160mバンド)の例についても、1810~1850kHzの範囲でいくつか検討してみます。後者の場合、上下のバンドエッジでもダイポールで容易にSWR=5以下を達成することができます。
<例6>
1.9MHz帯(160mバンド)、給電点の高さ30m、エレメントの広がり角度120°、V型ダイポール、Rr=67Ω、Bw=75kHz。50Ωの同軸ケーブル1/2λ、地面の電気特性は悪い。ここでダイポールの左右のエレメントをそれぞれ約35cm長くするとSWRはバンド内で2前後と平坦になります。
<例7>
1.9MHz帯(160mバンド)、給電点の高さ30m、エレメントの広がり角度90°、V型ダイポール、Rr=52Ω、Bw=75kHz。50Ωの同軸ケーブル1/2λ、地面の電気特性がよくない場合を想定すると、左右のエレメントを約28cmずつ長くして、共振点をセンターに寄せてもSWRは2より少し上になりますが、帯域全体で平坦なSWR特性になります。
<例8>
1.9MHz帯(160mバンド)、給電点の高さ15m、エレメントの広がり角度135°、V型ダイポール、Rr=64Ω、Bw=80kHz。50Ωの同軸ケーブル1λ、地面の電気特性が悪い(SWRが1.5~2.3になる)場合を除き、この方法は適用できません。むしろこの場合、1.9MHzという低い周波数であることから同軸ケーブルの長さが必要となり、この方法によるアンテナの設置は実用的ではありません。
一般論として、逆Vダイポールにこの方法を適用する場合は、下記の条件を満たすようにします。
・アンテナの頂点は、波長の1/5以上でなければならない。また一番低いポイントは、地面の電気特性が良好な場合には、より高くすることが必要。
・左右のエレメントの広がる角度は、できる限り90°以上を形成すること。
・アンテナは、帯域のセンターでSWRが最小になるように調整すること。
・アンテナは、ローディングコイル等の負荷で短縮してはならない。
出典・参考文献
[1] J. Purden, W6AYC, “Limitations of the Transmission Line Resonator Approach to Broad Banding 80 m Dipoles”, QEX, November/December 2020, American Radio Relay League (ARRL).
[2] D. Leeson, W6NL, “The Story of the Broadband Dipole”, QEX, November/December 2018, ARRL.
[3] F. Witt, AI1H, “A Simple Broadband Dipole for 80 Meters”, QST, September 1993, ARRL. Available at: https://bit.ly/3qzfv28
<引用>
この記事は、スペインアマチュア無線連盟(Unión de Radioaficionados Españoles)の機関誌Radioaficionadosの2021年5月号に掲載された記事です。本記事の翻訳と掲載は筆者セルヒオ マンリケ氏(Sergio Manrique/EA3D)とRadioaficionadosの許可を得ています。記事は月刊FB NEWS編集部が抄訳したものです。この場を借りて筆者とUREに厚くお礼申し上げます。
Unión de Radioaficionados Españoles (ure.es)
This article was originally published in the May 2021 issue of the official journal of the Unión de Radioaficionados Españoles (URE). The article was supplied by Unión de Radioaficionados Españoles with their kind permission. The translation and publication of this article has been carried out with the permission of the writer (Sergio Manrique/EA3D) and the URE. The translation was abridged by the monthly FB NEWS editorial team. We would like to express our sincere gratitude Sergio Manrique/EA3D and the URE.
Visit their website: Unión de Radioaficionados Españoles (ure.es)
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