ものづくりやろう!
私は数年前から航空無線のワッチもすることが多くなってきました。エアバンドの受信時はSDR受信機の周波数を管制塔のアプローチ周波数に合わせスピーカから音を出しています。それと同時にアマチュア無線も聞いていますので、ヘッドフォンの左耳ではアマチュア無線を、右耳ではヘッドフォンを外してスピーカの音を聞いているというながら受信状態です。スピーカから音を出すことも憚られるので広帯域受信機のフォーン出力とトランシーバのフォーン出力を音声ケーブルで一つのボックスに引き入れ、ボックス内で配線を切り換えて左右の耳で別の信号を聞けるようにヘッドフォン切換え器を製作しました(写真1)。航空無線は時間帯によってはたまにしか入ってきませんので、左耳がアマチュア無線の主音声受信、右耳がサブのエアバンド受信というような状態です。写真1の「(3)右面」で側面の3つのジャックをそれぞれ無線機のPHONESやSDR受信機の出力端とつなぎ、それをロータリースイッチでヘッドフォンの右耳や左耳に接続しなおすという簡単な回路です(黄色ジャックにFM受信機、赤色ジャックにIC-705、緑色ジャックにIC-7300を繋いでいます)。
(1)左面 (2)正面 (3)右面
写真1 ヘッドフォン切換えスイッチ
入力3個、出力2個でジャックの間にはロータリースイッチと配線があるのみで、抵抗もトランジスタも入っていません。実際に繫いでいるのはIC-7300、IC-705、SDRの出力です。写真で、「(1)左面」の2つのジャックのうち下側のジャックが常時接続端子で、いつもヘッドフォンを繋いでいます。左面上のジャックにはスピーカを繋いでいます。どうしてもスピーカに出したいときに左にあるトグルスイッチをON(上にあげて)にして左右のスピーカにアマチュア無線とエアバンドが聞こえてきます。ロータリースイッチに緑色や黄色のシールが貼ってあるのが右と左で異なる信号を聞けるモードです。右耳にFMモノラル信号(黄色端子)が、左耳にIC-7300の信号(緑色端子)が入り、両方鳴らしています(ナガラワッチです)。自動で切り替えるのではなくバンドスコープの波形を見て、目視で信号の有無を見つけ、手動で切り替えていました。3年ほど使ってきましたがプラグをよく抜き差しするので接触がわるくなってきましたので作り直すことにしました。作り直したかった機能は、両耳でFM放送をステレオで聞けて、たまにエアバンドやアマチュア無線などの優先信号が入ってくるとその信号を検出して自動的にFM放送からエアバンドやアマチュア無線に切換える機能です。少し長い呼び名ですが、「優先信号を自動切換えできるヘッドフォン切換え器」とでも呼んでおきます。見てくれは悪いですがガチャガチャとリレー音がうるさい装置が出来上がりましたので披露させていただきます。
基本的な仕様を列挙します。
1. 入力信号を3つまで切換えることができる(入力ジャック3個)。
2. 出力信号はヘッドフォンとスピーカに出力できる(出力ジャック2個)。
3. 優先信号と常時受信信号の自動切換えができる。
・回路図
図2が回路図です。RELAY MODULEの中の回路はわかりませんでしたので、機能図として補足しました。作った回路は平滑回路(SMOOTHING)くらい、ソフトウェアはArduinoのソフトを作成しました。
・外観図
製作した切換え器の外観が写真3です。
左が前面です。写真でみえているスイッチ等の機能は次のようなものです。
① 優先信号検出する閾値(しきいち)設定用ボリューム。
② 入出力ジャック切換えスイッチ(ロータリーエンコーダ)。
③ 状態表示用のOLED(入力選択チャンネルや出力状態など)。
④ 電源ON/OFFスイッチ。
写真3の右側が背面写真です。右から2個の出力ジャック、電源ジャック、左の3個入力ジャックです。
図4が接続例を図にしたものです。トランシーバなどのPHONES端子やスピーカ端子と入力ジャックをケーブルで接続します。このうちのどの入力信号をヘッドフォンで聞くのかをローターリエンコーダで選択します。切換えのコントロールはArduinoUNOの互換マイコンを使い、切換えはリレーユニットを使用しました。
図4 接続例
・主要部品
図2の回路図のように、切換え器の主要構成部は、マイコン(Arduino)、リレーモジュール(Relay Module)、検波回路(平滑回路)、その他の部品(ロータリーエンコーダ、有機ELディスプレイ)です。
① マイコン
自動切換え、リレーユニット制御のためにマイコンをつかいました。
② リレーユニット
入力信号の切換え、出力信号の切換えのためにリレーユニットを使用しました。1つのユニットに8個のリレーとリレードライバなどのハードウェアで構成されています。入力信号がFMラジオの時には左右の信号を切換える必要がありますので、1つの信号をON/OFFするために2つのリレーを使用します。このため8つのリレーで4回線の切換えをおこないます。切換えるにはArduinoのデジタル信号端子とリレーユニットのコネクタを接続し、デジタル信号をLOW(HIGH)にするとリレーがON(OFF)します(図5)。リレーユニットの制御端子は、VCC、GND、1から8までのリレー駆動入力端子の合計10ピンを使用します。
接続は図5のように制御信号がマイコンから入り、リレーの接続端子に必要な機器を接続します。図5では入力1を優先入力として配線しました。FMのステレオ放送などを切換える場合には上に記載しましたように右チャンネルと左チャンネルをそれぞれ別のリレーでON/OFFする必要があります。
図5の左にある制御端子をマイコンに接続しています。右側にはリレーの出力端子が8セットあります。各リレーはC(コモン)、NO(ノーマルオープン: 通常はOFF)、NC(ノーマルクローズ: 通常はON)端子がみえていますので配線をしていきます。リレーがONになった時に導通するようにするためには、C端子とNO端子に入力信号を接続します。(このリレーモジュールは数年前にアンテナ切換え器用に安価に購入したもので、ヘッドフォン用の電気信号を切換えるだけのためには大きすぎて、またオーバースペックもいいところです。アナログスイッチなどを使用するほうが静かなアマチュア無線生活を送れると思います。)
図5 リレーユニット
③ 信号レベル検出用検波回路
2つの端子から入ってくる信号に優先順位を設定し、優先信号の入力があったときはヘッドフォンを切換える回路を付加するというのが目標です。図6のように入力1と入力3の2つの信号のうち、入力1を優先したい信号だとして「優先信号」と決めたとします。入力1から信号が来ない(無信号)ときには入力3側にヘッドフォンを切換え、優先信号が入ってきたときは入力1側にヘッドフォンを切換えるという事をしたいわけです。
図6 信号切換え機能
これを実現するためには優先信号の信号レベルを検知する必要があります。マイコンにAD(アナログ・デジタル)変換回路があるので信号電圧の取り込みができますが、信号は図6の入力1のような時事刻々変化する交流信号ですので、図7中のAの信号を半波整流して、図7のCのように信号を平滑化してからAD変換で取り込むことにしました。高周波信号の検波回路と異なり、入ってくる信号は音声周波数帯の信号ですから、図7のように半波整流し、その信号を時定数の大きなRC回路に通して直流化しました。図7のAの信号がヘッドフォンにも導かれるので、レベル低下や歪が発生すると困りますが、私の実験した結果では、優先信号の電圧レベル検出のためにこの回路を間に入れても歪やレベル低下は発生しませんでした。少し歪んでいるのかもしれませんが私が気付かないだけかもしれません。
RとCの積(時定数)が1.5MΩ×1.0μF=1.5と大きな値になります。事前にオシロスコープで数種類のR, Cの組み合わせで確認しましたが、マイコン側で制御をするのでこの値が多少変動しても問題はありません。また、図7の中で可変抵抗器R2を入れてありますが、これは優先信号の閾値を変化させるために挿入したものです。この可変抵抗値を調整してC点の出力電圧を大きくすると感度があがります。場合によってはノイズだけで作動してしまうこともあり、うるさく感じるかもしれません。
図7 検波回路(平滑回路)
検波回路の出力点Cの電圧は優先信号の電圧レベルに比例していますので、あとはこの信号レベルをマイコンに判定させてリレーユニットを動かし、ヘッドフォンの接続先を切換えます(図8)。
図8 検波信号の流れ
④ その他
・ロータリーエンコーダ
この切換え器では入力信号の切換えにプッシュスイッチを使用せず、ロータリーエンコーダを使用しています。ソフトウェアで実現している入力信号の切換えはスイッチを使って表9のような切替えを行っています。表9のような選択をして「何に使うの」って疑問があるかもしれません。私は右の耳と左の耳で同時に別の信号や放送をよく聞きますのでありがたいのですが(内容を理解しているかは別の問題ですが・・・)。
表9 ソフトウェアで実現している切換えの種類
ロータリーエンコーダをどちらに回転させても切換えは一方向にModeが変化していき、Mode6の次はMode1に戻るようにプログラムしています。もともとはプッシュボタンが押されたか否かを検出してModeを変えようとしたのですが、プッシュボタンはチャタリングをよくおこしますので負荷回路を付けて使用していました。ある時ロータリーエンコーダを本来の使い方ではないプッシュスイッチの代わりに使用したところ、チャタリングもあまり発生しないので、それ以降プッシュボタンスイッチの代わりにロータリーエンコーダを使用しています(正統派の使い方ではないとしかられそうですが・・・)。ですので、ロータリーエンコーダは本来右回転左回転の情報検出に使用するのですが、この回路では右に回しても左に回しても回転検出するのではなく、スイッチのオンオフを検出するためだけに使用しています。
・有機ELディスプレイ(OLED)
接続状態や受信信号の電圧レベルを確認するためにOLEDを接続しました。
私の家での無線の運用形態は、9割以上がIC-7300の使用で、残り1割がIC-705でのエアバンド受信や144MHz、430MHzの利用です。このため、この切換え装置の電源を入れない時が9割ほどあります。電源を入れない時には受信音が聞こえるようにIC-7300を優先信号端子として、またリレーユニットのNC(Normal Close)側にIN1を接続し、電源をONにしなくてもIN1の音がヘッドフォンに接続されるように回路を組んであります。このため、ソフトウェア上でも優先信号端子がほかの端子と逆信号で動くようにプログラムしました。
製作はシャーシの加工から始めました。シャーシ加工、検波回路の作成、結線と進め、内部は図10のような装置になりました。配線はいつものようにプリント基板の代わりに可能な限りブレッドボードを使い。その上から固定のためにプラスチックボンドで固定しています。
図10 信号切換え器(内部配線)
検波回路は隠れていますが、図10の黄色の矢印のところにあります。
主要なプログラムは以下の3点ほどです。
・優先信号のモニターを行い、信号を検出したら優先信号に切換える。
・ロータリーエンコーダを回すと動作モード変更(入力装置を切換える)する。
・ロータリーエンコーダのプッシュスイッチが押されたらスピーカ(予備出力)をON/OFFする。
なお、ロータリーエンコーダの制御によく使用される割り込み機能は使っていません。
プログラムリストは以下の通りです。きれいなプログラムが書けませんので見難いことを容赦願います。
プログラムリストの一部(全プログラムのダウンロード)
ヘッドフォンの切換え動作、スレッシュホールドレベルの設定と実施しました。ヘッドフォンの切換えについてはチャタリングを心配しておりましたがロータリーエンコーダをスイッチ代わりに使用したところチャタリングが発生をすることもほとんどなく動作しました。
リレーユニットについてはやはり大きな音が鳴るのは気にかかります。半導体スイッチなどで音無し動作のほうがストレスがたまらずに済むかとおもいます。
動作時のスイッチ状態はOLEDでも判別できますが、リレーユニットを上から見て、LEDの発光でも確認することができます。図11左のOLED上には「IN3 On」と表示されています。この時リレーユニット上のモニター用LEDには右端の2つのLEDが点灯しており、これは入力ラインの3番目(IN3)がONになっていることを示しています。少しはなれたところも点灯していますが、これはIN1のリレーがONになっていることを示しています。これは電源OFF状態でもIN1は出力されるように配線上で逆接続しているために「IN1をOFFにするためには関係リレーをONにする」ようにプログラム上操作していることによります。
(a)OLED
(b)リレーユニットの動作モニター
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