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ジャンク堂

第18回 電子回路の放熱
暑さに辟易しながら、熱の流れを考える

JH3NRV 松尾信一


2022年は梅雨が例年より短く、夏が早く来ました。電力危機のニュースも早々と出た一方で熱中症予防のためにはエアコンは迷わず使いましょう、とも呼びかけられています。先日7MHzをワッチしているとシャックの温度が34℃だけどエアコンは使っていないと言われている局がおられました。QSO中に倒れると相手局が迷惑しますよ。


しかし、毎年のことですが夏の暑さには辟易とします。私は暑さに弱いので比較的躊躇せずにエアコンを使っていますが、健康のために車を使わず歩くようにしているので、外出のときの暑さにはたまらないものがあります。

そんな季節になったということで、今回は熱を逃がす放熱について少しお話をしたいと思います。皆さんもいろいろと涼しく過ごす方法をご存じだと思いますが、それを電子機器に置き換えて考えてはいかがでしょうか? あるいは逆に電子機器の放熱をもとに、熱中症予防を再検証してみるのも良いかもしれません。

熱の流れ

電気の流れを下の図のように水の流れに例えた説明は良くされていると思います。


記憶では私の時代にはポンプがない図で説明されていたように思うのですが、最近はポンプが描かれています。電気(電流)は必ず元に戻る必要があるのでポンプが描かれた図のほうがより正しいといえるでしょう。

ところが、熱を水の流れを模した図は下のようになります。


つまり、電流と違って熱は必ず温度の高い方から低い方へと一方向に流れるだけです。熱は湧水のように熱源(上の桶)に湧き出て、その熱は温度の低い所(下の桶)にひたすら流れていきます。

下の桶が小さいと、下の桶の水位(温度)は上がりますが、その桶が無限に近いほど大きければ水位はなかなか上がりません。

熱が流れるパイプが細い(熱抵抗が高い)と、上(熱源)の桶の水位(温度)が上昇します。パイプが太い(熱抵抗が低い)と水位(温度)が下がりますが、最終的には下の桶の水位より下にはなりません。また、同じパイプの太さであっても水位の差(温度差)が大きいほど流れる水量(熱量)が増えます。

放熱とは

先の水の流れに模した熱の移動の図から考えると、放熱とは電力によって生じた熱を周囲の温度の低いところに運び出すことになります。温度差があると温度の高い所から低い所へ否応なく熱が流れます。

その熱の流れる量を極力大きくしようとするのが放熱で、逆に熱の流れを極力小さくするのが断熱になります。また熱が移動する量は先の図で考えると温度差(水位の差)と熱抵抗(パイプの太さ)で決まります。

そうして熱が運び出される先(図の下の桶)は、我々の周りに大量にある空気になります。つまり地上における通常の空間では、放熱とは発せられた熱を周囲の空気(大気)に流し出すことになります。

空気は地球表面上にあまねくありますから我々の発する熱のほとんどを受け取ることになります。もちろん、空気より冷たい氷や岩などは空気からの熱を受け取ります。また、熱放射で地球から宇宙に向けて熱を出すこともありますが、熱放射の場合は地球が太陽からの熱を受け取る方が多いのです。

一般的に電子部品などの電力損失の許容値は周囲温度(Ta)が25℃であることを前提に定義されていますが、周囲温度の正体は周りに存在する空気の温度になります。

そうして考えると放熱でもっとも影響がある部分は空気に触れている部分になります。電子機器の放熱用パーツではヒートシンク(放熱器)になりますが、実際は基板や機器の筐体なども含まれます。

注) 以後はヒートシンクと表現しているものは、必ずしもヒダのあるようなヒートシンクだけを意味するのではなく、空気と接して熱を空気に放出する部分(電子部品のパッケージやプリント基板など)を含めてヒートシンクと表現している場合があります。

色々とある放熱用パーツの効果はどうなのか?

一昔前(二昔前?)、自作パソコンの世界ではオーバークロックが流行り、CPUを冷やすための色々な放熱用のパーツが注目されました。銅板と組み合わせたアルミヒートシンクや大型静音ファン、ヒートパイプやペルチェ素子、カーボングラファイト、あるいは銀粒子を混ぜた放熱用コンパウンド(グリース)など色々な放熱アイテムが出回り、放熱用パーツに投資する金額でワンランク上のCPUが買えるほどでした。

無線機の場合もパソコンと同様に放熱に関して話題になることがありますが、連続送信で無線機がアッチッチになったとか、ファンがうるさいので静音ファンに交換するといったような話題が多いようで、無線機の放熱を更によくするための工夫をするという話はあまり聞かれません。

ところで、放熱用のパーツを考えるときは熱を空気に逃がすためのものなのか、空気に熱を逃がす所まで熱を伝えるためのものなのかによって、区別する必要があります。


上の図では発熱体の周囲を固体物質(ヒートシンク、トランジスタのパッケージなど)が取り囲んで、その周りに気体(空気)があります。白抜きの矢印は固体中を伝わる熱の流れを表し、グレーの矢印は固体表面から伝わった気体の熱の流れを表しています。

人間は体内で生じた熱を内臓や脂肪、血液の流れを経由して皮膚表面から空気へ放熱します。近年、体表面の近くに太い血管がある首筋や手のひらを冷やすと良いという話を良く聞きます。これからすると、体内深部からの熱は血液の流れが運ぶ割合が大きいようです。

ここまでの話から放熱を考える場合、先ずは熱を逃がす先である空気と接している部分が重要であることが分かります。その上で、その部分まで効率良く熱を伝える必要があります。

つまり、放熱は発熱体の出す熱をスムーズに空気まで伝え、その熱を如何に多くの空気に持ち去ってもらえるかが重要になります。

ヒートシンクに貼った銅板やヒートパイプ、あるいはカーボングラファイトなどは固体中を熱がスムーズに移動するためのパーツで、ここだけを強化しても最終的には空気へ熱を伝える部分を超えて放熱することはできません。

機器の小型化には発熱を減らす必要がある。

放熱を周りの空気に熱を逃がすという視点で見ると、表面積が小さな小型の機器は不利になります。機器が小型になると、空気と触れる面積が減るために熱が空気中に逃げにくくなり、結果として機器の温度が上昇します。

小型のハンディトランシーバなどで連続送信をすると背面の金属部分が触れないくらい熱くなることがありますが、これは物理現象としては致し方ないことです。近年は、熱くなる部分を直接人が触れないように、バッテリーケースや樹脂のカバーで覆ったりしている無線機が多くなっていますが、無線機全体から出る熱の量が減っているわけではありません。

機器を小型化するためには本質的には機器の発熱(熱となる電力)を減らすことを同時に進めないと機器の内部/表面の温度が高くなり、壊れたり、使用者がやけどをすることになります。

下の図は日経エレクトロニクスの2018年9月号から引用したものですが、携帯電話やノートパソコンなどの消費電力と筐体容量(大きさ)の傾向をグラフ化しています。


このグラフには自然空冷限界ラインという赤い線が描かれています。これをみると発熱量に比例して機器が大きくなることを示しています。また、ノートPCなどはファンを実装(強制空冷化)することで自然空冷限界ラインを超えることができています。

この自然空冷限界ラインをみると10Wの発熱量では約1L、100Wでは約10Lの容量(大きさ)の筐体が必要となっています。つまり、強制空冷を行わない限り発熱量に比例して機器を大きくしないと機器の内部/表面温度を一定以下にできないことを表しています。

発熱素子の代表である抵抗器は同じワット数でも昔に比べると随分と小型になっていますが、これは材料の進歩によって抵抗器が高温に耐えられるようになったからです。つまり、最近の小型になった抵抗器は昔のものに比べて高温になるので注意が必要です。

ところが電子機器でも人が触れる部分の許容温度と半導体(シリコン)のジャンクションが破損する温度は変わりません。そのために発熱量に応じて必要となる機器の大きさは必然的に決まってきます。

注) ここでいう電力は熱となる電力のことで、必ずしも機器の消費電力と同じではありません。無線機の場合、送信時は消費電力の何割かは電波として空間に放出されるので、それを差し引いた電力が熱になります。

熱の伝わる経路と特徴

冒頭に熱の流れは一方向と書きましたが、その熱が流れる経路には熱伝導/熱伝達/熱放射の3つがあります。

1. 熱伝導
主に熱が固体物質を伝わる経路。物体の分子を通して伝わるために密度の低い気体などは熱伝導による熱の移動量は非常に少なく、銅やアルミなどの金属は熱伝導が良い。

2. 熱伝達
主に固体と流体(気体や液体)との間における熱の移動。固体の熱がその表面と接する気体や液体が対流などで流れることによって熱が運び出されます。熱伝導と違って物質内を熱が伝わるのではなく、熱を受け取った流体が移動して熱を運び出します。したがって、熱伝達には気体や液体のように流動性が必要となります。

3. 熱放射
熱が電磁波(赤外線)として放射される熱の移動。熱伝導も熱伝達も熱を移動させるために物質が必要ですが熱放射は唯一、真空中でも熱を移動(放出)させることができます。

一般的な電子機器を考えると、発熱体から出た熱は熱伝導によってヒートシンクに伝わり、ヒートシンクは表面の空気と接する部分から熱伝達によって周りの空気に熱を逃がします。また、一部の熱は空間に面しているヒートシンク表面から熱放射によっても放出されます。

空気のある通常の空間においては熱放射より熱伝達による熱の移動の割合がかなり大きくなります。しかし、人工衛星や高高度を飛ぶ飛行機などは周囲に空気がない(あるいは希薄)ために熱伝達による放熱ができず熱放射に頼ることになり、放熱が難しくなります。

熱伝達を考える

通常空間における放熱は最終的に周囲の空気に熱を逃がすことを考えると、その部分の役割は大半を熱伝達が担います(一部、熱放射も担いますが)。

発熱体の熱は熱伝導によって固体の表面に運ばれ、その固体の表面に触れた空気(の分子)が熱を受け取り、移動していきます。固体表面には次から次へと新しい空気がやってきて、熱を持ち運んでいくのが熱伝達になります。


上の図で、気体側のマルは空気分子で橙色は熱を受け取り暖かくなったもので青色はまだ熱を受け取っていない、冷えた(周囲温度の)空気を表しています。

したがって、いかに固体の表面が触れる空気の量が多いかが重要で、ヒートシンクの表面積が大きいほど熱伝達による放熱量が大きくなります。

また、空気の動く量も重要です。周囲の空気と固体表面の温度差が大きいほど空気の移動が多くなり熱伝達量が増えます。特にファンなどを使って強制的に空気を動かしてやると飛躍的に熱伝達量が増えます。つまり、いかに多くの量の空気を動かして熱を受け取ってもらうかが重要になります。

対流に依存する自然空冷は空気の流れが微妙で、同じヒートシンクであってもその設置(配置)によって大きく熱伝達量が変化します。

なお、周囲の空間が狭く固体から運び出された熱によって周囲の空気の温度が固体の表面温度と同じになると熱伝達による熱の移動は止まります。

熱伝導を考える

熱伝導は熱伝達とちがって物質の中を熱が通って動くことです。したがって固体物質内における熱の移動が主で、分子密度の低い気体は熱伝導による熱の移動はほとんど行われません。

最終的に放熱を左右するのは熱伝達ですが熱伝達するための熱をいかにスムーズにヒートシンク表面に伝えるかを握っているのが熱伝導になります。

皮肉なことに、熱伝達の主役である空気は熱伝導ではほとんど熱を伝えず、電気でいえば高抵抗になります。空気は動くことで熱を運び出してくれますが、それ自体は断熱材の代表でもあります。したがって、熱伝導の領域では如何に断熱材である空気の存在を無くすかが重要になります。

熱伝導で考えると、金属が有利なことはイメージとしてお持ちでしょうが、樹脂やゴムなどの絶縁材質も金属より熱伝導が大幅に劣るとはいえ、空気に比べると随分とマシです。

非常に大雑把な比率で考えると、金属の熱伝導を100とすると樹脂などは1で金属の1/100程度になりますが、空気は0.01と更に1/100程度になります。

注) 金属や樹脂、気体などはモノによって大きく異なるので、上記の比率はあくまでイメージです。

放熱用シリコンゴムやコンパウンド(放熱用グリース)は、放熱用といっても熱伝導という面では金属に比べて大きく劣ります。しかし空気に比べればはるかにマシで、固体同士を接合したときに表面の細かなデコボコによってできる空気の層を埋めることで熱伝導を向上させます。

そのため、コンパウンドはいかに固体表面同士の空気の層だけを埋められるかが重要となります。コンパウンドは極力薄く塗るようにいわれるのは、下図の左側のように、金属同士が接触している部分には入らず表面のデコボコによってできた僅かな空気の層だけにコンパウンドが入っている状態が理想だからです。


図の右のようにコンパウンドが金属と金属の間の全面に入ると、却って熱伝導が悪化します。

また、熱伝導は一定の抵抗値をもつ金属線のように、距離が短いと抵抗値としては影響が少ないですが、長くなると影響が大きくなります。熱伝達の良いヒートシンクはサイズが大きくなるために、熱伝達を効率よく行うためには隅々まで熱を伝えるために熱伝導が影響しますが、小型のヒートシンクではヒートシンクの端までの距離が短いので、熱伝導の影響は少なくなります。

つまり、熱伝導は大型のヒートシンクほど影響があり、小さなヒートシンクでは銅などの熱伝導の良いものを使っても、アルミ材のヒートシンクとの差が出ないことになります。

また、先のコンパウンドの量においても、仮に全面にコンパウンドがあっても、その厚み(距離)が薄いほど、熱伝導への妨げが少なくなります。同様に放熱用シリコンゴムも薄いほど良いことになります。

熱放射を考える

実は、通常(地上)における放熱では熱放射の効果の割合はそれほど大きくありませんが、それでも対流のみの自然空冷の場合は放熱量の何割かを担うことがあります。大気中における放熱において、熱放射は最後の一押しというところでしょうか。

熱放射は熱エネルギーを赤外線という電磁波で放出するということを考えると、我々に馴染みのある電波と同質です。空間に相対している固体面から放射され、空気などの物質の介在を必要としないために真空中でも熱を伝えます。

熱放射はアンテナと同じで、熱を良く放射するヒートシンク(良く飛ぶアンテナ)は、放射熱を良く受け取ります(良く受信する)。

放射熱で放射された熱は直進して対面にある物質や空気に伝わります。もし対面にある物質の温度がヒートシンクより高いと逆にそこから熱を受け取ってしまいます。

太陽からの熱が地球に届くのは熱放射によるものですから、イメージとしては黒い色が熱放射には有利なように思います。しかし、一般的な放熱の温度領域では赤外線という狭いスペクトラム(周波数)によって熱放射が行われるために、色はあまり関係しません。

ヒートシンクも黒い色のものの方が白いものより良さそうに思いますが実際には差がありません。それよりも金属などでは表面が滑らかであるほど熱放射には不利になります。ピカピカの金属表面は鏡のように光(熱も)を反射しますが、この状態は放射においても不利になります。

したがってヒートシンクの表面は色よりもアルマイト処理や塗装などで光沢(反射)をなくした方が熱放射では有利になります。

熱にまつわる数字や数式など

ここまでは、数式などは一切出さずにお話をしてきました。ここで少しだけ数字/数式について簡単に触れておきます。

電力(W)と発熱量Q(J:ジュール)
Q=W×t

Q:発熱量(J)、W:電力(W)、t:時間(秒)
発熱量Qは熱となる電力と時間の積になるということを表した式です。

ジュールとともに熱のもう一つの単位にカロリー(cal)がありますが、こちらの方が一般的には馴染みがあると思います。カロリーとジュールの間は以下のような関係があります。
1cal=4.184J ∴1J=0.239cal (ただし、温度によって多少変化する。)

ご存じのように、1calは1g(1cc)の水の温度を1℃上昇させるエネルギー量になります。この関係式から、4.184Jの熱が1gの水を1℃上げる熱量になります。

熱抵抗(Rth)
熱抵抗は電気回路の抵抗と同じで、熱の伝わりやすさを表す指針です。冒頭の図では水(熱)が流れるパイプの太さとして表したものです。

熱の伝わる経路として熱伝達、熱伝導、熱放射の3つがありますが、これらは何れも熱設計においては熱抵抗として扱います。したがって、3つの経路を熱抵抗で表すことができれば放熱の計算ができることになります。

熱抵抗を表す式は以下の通りです。
Td=P×Rth ∴Rth=Td/P
Td:温度差(℃)、P:電力(W)、Rth:熱抵抗(℃/W)
なお、温度差は摂氏℃としていますが、本来は絶対温度Kになります。ただ、温度差で考えると℃もKも同じことになるので、日本人に馴染み深い℃としました。

Td=P×Rthという式が表していることは、発熱体を放熱側の2点間の温度差は発熱体からの電力と熱抵抗によって決まるということです。電力が倍になれば温度差も倍に、熱抵抗が倍になればやはり温度差が倍になります。

電子回路技術者向けに熱抵抗の説明ではオームの法則をアレンジした説明が良くされます。
E=I×R
E:電圧(V)、I:電流(A)、R:抵抗(Ω)
このE(電圧)をT(温度差)、I(電流)をP(電力)、R(抵抗)をRth(熱抵抗)と置き換えよ、というものです。このような覚え方も一つだとおもいます。

熱伝導率
熱伝導率は物質で決まる固有値で、単位あたりの熱の伝わりやすさを表します。これは1平方mの面積で1mの距離の先で1K(1℃でも同じ)温度が上昇するときの電力で定義されます。単位はW/m・Kになります。


上の図で、左側から電力を与えて右側との温度差が1℃(1K)になるときの電力をもって熱伝導率(W/m・K)となります。

注) 単位はW/m・℃でも良いのですが、一般的な文献ではKとなっていることが多いので、ここでもKとしています。

したがって、この値が大きいほど熱伝導率が良い(熱抵抗が低い)ことになります。

例えば、銅の場合は398W/m・K、アルミは237W/m・Kになりますが、空気の多くを占める窒素は26mW/m・Kとなります(窒素は単位がmWと1/1000になっています)。窒素はアルミのおおよそ1/10,000です。なお、気体は温度による体積変化(膨張率)が大きいために熱伝導率も変動します。

また、放熱用コンパウンドやシリコンシートなどは1~4W/m・K程度で、金属と空気の間に位置しています。放熱用シリコンシートについてはメーカーである信越シリコーン社のWEBサイトなどで知ることができます。

このような数値をみると、熱伝導において如何に空気の存在が邪魔かを実感することができます。

熱伝達率
熱伝導率と同様に、熱伝達による熱の移動しやすさを表しますが、表面積が1m2の固体の表面温度が流体温度(周囲温度)より1℃上昇するときの値になります。単位はW/m2・K

熱伝達率は流体によって決まる値で、熱を渡す側の固体の材質は関係ありません。固体側はあくまで流体と触れる表面温度が関わることになります。

熱伝達率は流体(気体や液体)によって異なりますが、同時に設置方法によっても大きく変わります。これは流体が動くことによって熱の移動を行うことから、流体の動きによって大きく変化します。

たとえば、下の図のように同じ平板であっても設置方法によって熱伝達率が変化し、図では右にいくほど熱伝達率が悪化します。真ん中と右の平板の違いは熱面が平板の上か下かの違いで、平板が上下とも一様な温度であれば、上面からの熱の移動の方が大きいことを表しています。


フィンの付いたヒートシンクの設置の方向を考えると、下の図のような配置の場合、右側の配置ほど放熱が悪くなります。(赤色部分が発熱部分)一番左のフィンが縦に並んだ状態が一番良いのは理解できると思いますが、一番右のようにフィンを横にするだけで放熱が悪化します。


また、表面積を増やそうとフィンの数を増やしすぎて、フィン同士の間隔が一定以下になると空気には粘性があるために空気の流れが悪くなり、熱伝達も悪化します。

熱伝達を計算する式もありますが、前提条件がややこしいので割愛させていただきます。

熱放射
熱放射は単位がなく、黒体を最大値の“1”として比率で表されます。黒体とは、あらゆる波長の電磁波を完全に吸収/放出する架空の物体です。

株式会社クレセルという会社のWEBサイトに熱放射率の一覧がありますので参考になります。
https://www.crecer.jp/html/use_6.html

同じ金属であっても表面の状況によって熱放射率が変化することが分かると思います。

熱抵抗で考える

熱の伝わる経路として、熱伝達率や熱伝導率、熱放射が存在しますが、最終的には全て熱抵抗に置き換えることができます。

例えば、前回IC-7610の外部LEDメーターを作ったときに使ったLM3914のデータシートをみると、パッケージの熱抵抗は55℃/Wと書かれています。これはICが1Wの電力を消費すると内部の半導体ジャンクション温度が、周囲温度に比べて55℃上昇することを意味します。

この熱抵抗は半導体のジャンクションから出た熱が18ピンの樹脂パッケージの熱伝導率とパッケージ表面からの熱伝達率を合わせて熱抵抗に置き換えた値です。

このデータシートではICのジャンクション温度は100℃までと書かれているので、ICが1W電力を消費する場合は周囲温度が45℃になるとジャンクション温度が100℃に達してICは熱で壊れます。

もし電源電圧を下げるなどしてICで消費する電力を800mWまで減らすとジャンクションと周囲温度との差は 55℃×0.8/1(W)=44℃になり周囲温度は100℃-44℃=56℃まで耐えられることになります。

このように、一般的には部品の熱に関する情報は熱伝導/熱伝達をひっくるめた熱抵抗で提供されることが多いので、実際の熱設計では多くの場合は熱抵抗を元に考えることになります。

もちろん、ICの周囲温度は環境によって変化しますし、部品の配置方法によって熱抵抗が変化することも多くあります。小型のケースにICを押し込むと熱がこもりICの周囲温度が上昇します。この場合は、ケースの内部とケース外部の間の熱抵抗を考慮する必要があります。

熱の計算は色々なパラメータがあって面倒くさく、実際の使用状況(設置状況)も千差万別で精度のよい計算は難しいのですが、それだけに余裕をみた熱設計が必要になります。

人間の放熱を考える。(熱中症にならないためには)

このところの暑さに辟易として放熱に関することを書きましたが、熱中症予防も電子機器の放熱もある意味、同質のものです。

まず、熱伝達を考えると我々は放熱器を背負って暮らすわけにはいきません。したがって熱伝達を良くするために2つの方法を考える必要があります。一つは周囲温度を下げること、つまりエアコンの使用です。周囲温度を下げると発熱体(人間)との温度差が大きくなり、熱伝達量が増えます。

次は扇風機による強制空冷です。これも熱伝達を向上させます。しかし、周囲温度が発熱体の温度との差が少ないと放熱効果は期待できません。近年は体温と気温の差が少ないことも多くなり、そのような状況では強制空冷の効果が発揮できません。

また、直射日光が当たる炎天下では太陽からの熱を熱放射によって受けてしまいますから、日陰に移動することが大切です。近頃は男性用日傘も使われるようになったようで、好ましいことと思います。

しかし、電子機器と人間とで大きく異なることがあります。それは汗(水分)をかくことです。水は気化することで熱を奪ってくれます。電子機器は汗をかかないので、気化熱はほとんど話題になりませんが、実はヒートパイプは気化熱が一役買っています。

気化熱は熱を周囲に逃がすだけの放熱と異なり、エネルギーとして熱を奪ってくれます。したがって、体温と周囲温度がほぼ同じであっても水分が蒸発することができれば、冷却してくれます。汗があると扇風機(強制空冷)は汗の蒸発(気化)を助けてくれます。

ただし、人によって汗のかきやすさは異なり、汗は日頃からかき慣れないと出にくいといわれます。そのため、朝夕の少し温度が下がった時間帯に軽く身体を動かして汗をかく練習をすることも重要なようです。汗は電子機器に比べて人間が持つ放熱面の大きな優位性だな、と思いながら今回の放熱のお話は終わりです。

それでは、Best 73 & 88

参考)
・日系エレクトロニクス 2010年5月から9月号まで連載された「熱設計の基本」
・日経エレクトロニクス 2018年9月号 「クイズと原則で学ぶ実践的熱設計」
・トランジスタ技術2017年11月号付録アナログウェアNo.4 「まちがいだらけの熱対策」
・株式会社クレセルのWEBサイト https://www.crecer.jp/html/use_6.html
・LM3914データシート

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