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ジャンク堂

第17回 秋月電子のレベルメーターキットを作る

JH3NRV 松尾信一


前回、IC-7610でのFT8とALCについて検証しました。そのときに、IC-7610のALCメーターの振れが分かりにくいとも書きました。そこで秋月電子のレベルメーターキットを使って、IC-7610の外部ALCメーター(LEDメーター)を作ってみました。このキットは安価で部品も少ないので簡単に作れます。

秋月電子のレベルメーターキット

秋月電子のキットは基板キットで、完成すると写真のようになります。価格も\550(2022年6月時点)とリーズナブルです。写真は秋月電子通商のWEBから引用しました。


通販でこのキットだけを購入すると送料が別途必要でお得感がなくなります。したがってついつい他のモノも注文してしまうのはいつものことです。(こうしてシャックにはいつ使うか分からないものが増殖していきます Hi)

このキットで使われている、LM3914というICはレベルメーター用のICで、同ICのシリーズには他にLM3915/3916の2種類があります。これらはピンコンパチで、LM3914はリニアスケール、LM3915がログスケール、LM3916がVU刻みのスケールとなっているようです。ただ、現在は秋月電子ではLM3914のみ扱っているようです。

早速キットをネットで注文をすると翌々日には到着。部品も少なく取り敢えず説明書通りに組み立ててIC-7610の外部メーター端子からの電圧を入力してみました。

なかなか良い感じです。LEDは10点の内、振れ始めの5点が緑で、次の3点が黄色、最後の2点が赤、とレベルメーターらしい配色です。

早速、実用化するために手持ちのケースから良さそうなものを探し出し、それに入るように基板を少し改造。ケースはテイシンのTB-55という小型のプラスチックケースを使用しました。

キットではLEDが上向きについているので、写真のようにピンソケットを使って横向きにします。基板上の電源と入力のコネクタ(CN1とCN2)はケースに当たるので外しました。



なお、ピンソケット(下の写真)は10pinでリード長10mmのものを使いました。秋月電子や共立電子で購入できます。(共立電子では連結ヘッダーソケットで検索すると見つかりました)


ただ今回のような使い方をすると接触が不安定なようで、LEDに点灯しない部分が出ました。そのような場合はソケットの足の根元をラジオペンチで軽く曲げると点灯するようになります。

せっかくケースに入れるとなると、少しだけ欲が出てALC専用ではなく他のメーターの時でも使えるように感度切り替えを付けてみました。ケースの後ろに、電源コネクタとメーター電圧入力コネクタ、感度切り替えスイッチの3つを並べました。写真はケースに基板まで組み込んだ状態です。


なお、ケースの蓋にある基板取り付け用の出っ張りがスイッチに当たるのでニッパーとカッターで削りました。また、LEDが見える前面側にはスモークアクリル板の切れ端を貼り付けてLED窓の角穴の粗を隠しています。基板は厚みのある両面テープでケースに貼り付けています。

電源はIC-7610のACCソケット(DINコネクタ)に出ている13.8Vを使います。キットの説明書には電源電圧が5~15Vとなっているので13.8Vを直接繋いでいます。消費電流ですが、LEDが点灯していない状態では3~4mA程度でしたがLEDが全点灯した場合はVR1の調整によって消費電流が変化します。これはキットの回路の都合でVR1を調整するとLEDへ流れる電流が変化するためで、VR1で感度を落とすように調整すると消費電流が増えます。

私の作ったものでは、VR1を最大感度(0Ω)にしてLEDを全点灯させると消費電流は約52mA、感度を通常メーターとなるように調整した状態で約64mAでした。これで電源電圧を14Vとして消費電力を計算すると、52mAのときが728mW、64mAとときは896mWになります。

ICの電力損失をスペックシートで確認すると1365mWで、パッケージの熱抵抗が55℃/Wとなっています。計算ではLEDが全点灯でもICの周囲温度が50℃程度まで持ちそうです。通常は常にLEDが全点灯していないので平均的な消費電流で考えるともう少し余裕があります。

今回は3端子レギュレーターなどを使わず13.8Vを直接供給しましたが、LEDメーターの感度を5Vでフルスケールにするような使い方の場合は3端子レギュレーターなどで電源電圧を下げる必要があります。キットの説明書には5Vでフルスケールにすると消費電流は87mAと書かれています。そうすると電源電圧を13.8Vにすると計算ではICの周囲温度が34℃くらいまでしかもちません。

順番が逆になりましたが、キットの基板周りの回路は下図のとおりです。(基板上の回路はキットの資料を参照願います)入力感度の切り替え(Level SW)はNormalとALCとしています。


ALCではVR1の両端をショートして最大感度にし、Normalで使う場合はキットのVR1で感度を調整します。

なお、当たり前ですがこのスイッチを切り替えてもLEDメーターの感度が変わるだけで、IC-7610本体の外部メーター設定は変わりません。Normalで使う場合にはIC-7610のセットモードで外部メーター出力をPoやオートなどに切り替える必要があります。この切り替えはオマケのようなものです。

回路図では電源端子に逆接防止用のダイオード(Si Di)を入れていますが、電源をIC-7610のACCコネクタから取るので通常は不要です。私はうっかり者なので習慣として入れています。

秋月キットの入力電圧感度と調整について

LM3914は1.25Vの基準電圧を内蔵していますので、最大感度(基板上のVR1を0Ωに調整する)では1.25Vを超えるとLEDが全点灯します。IC-7610のメーター出力は最大で5Vですが、セットモードで出力電圧が調整できます。初期値は50%のようなので、メーターフルスケールで約2.5Vの電圧が出ます。ALCメーターはゾーン最大でメーターの50%の位置なので約1.25Vとなります。なお、外部メーター端子の出力インピーダンスは4.7kΩです。

狙っているのはALCゾーン最大のときにLEDバーがフルスケールまで点灯するところなので、LEDメーターの感度はギリギリです。したがって、ALCメーターとして使用する場合はIC-7610のセットモードで外部メーター出力レベルを調整して振れ具合を合わせます。

私の場合はALCの振れ方をみて、IC-7610のセットモードで外部メーター出力(メイン)のレベルを60%に設定しました。

LEDメーターをALC用ではなく、通常の外付けメーター代わりとして使用する場合のレベルの調整ではIC-7610のセットモードで、外部メーター出力(メイン)をオートに設定します。LEDメーターのスイッチはNormal側にし、受信状態でIC-7610のRF Gainのツマミを回してSメーターがS9を示すように合わせます。その状態でLEDメーターのVR1で黄色のLEDが点灯する直前に合わせます。このように調整するとS9+30dBで一つめの赤LEDが、S9+40dBオーバーで2つめの赤LEDが点灯しました。(下の写真はALCで使用しています)


IC-7610のALCとALCメーター

そもそも、外付けでALCメーターを付けようと考えた根拠のお話です。前回、FT8を前提としてIC-7610のUSBから変調信号を入れて入力レベルとALCメーターの振れ、送信パワーの関係を確認しました。その時のデータをグラフにしてみたのが下の図です。




変調レベルを1dBステップで増やしており、青線がパワー(目盛は左側)で、橙線がALCメーターの振れ(目盛は右側)です。ALCメーターが振れる直前の入力レベルを0dBとしています。

なお、ALCメーターには目盛がないのですが、赤いゾーンの最大の位置はIdメーターの15Aの目盛の位置と同じなのでその点を100%としてIdメーターの目盛を読みました。

グラフを見るとわかりますが変調入力を増加してもALCメーターの振れはゾーン最大かそれより少し上で頭打ちとなります。グラフをみるとALCメーター自体のダイナミックレンジ(振れ幅)はバンドによって多少異なりますが15dB前後になります。


一般的にALCメーターの振れがゾーン内になるように変調レベル(マイクゲインや声の大きさ)を調整せよといわれています。しかしALCメーターが最大に振ってもALCゾーンを大きく越えないため、メーターを見ていてもゾーンを越えたことが分かりにくいです。

なおALCメーターが振れ始める0dBの点でほぼフルパワーが出ています。そこから20dB程度まで変調入力レベルを増やしてみましたがパワーは見事に抑えられています。

ALCのゾーンとは?

そもそも、ALCゾーンは“この範囲であれば送信電波の歪みが許容範囲内”であることを表しています。その昔、私がアマチュア無線を始めたころのバイブルでもあったCQ出版社の「SSBハンドブック」に下の図のようなグラフが出ていました。


実際にはALCによって効果的にパワーが抑えられ、ファイナルアンプの歪みが抑えられても、ALCでゲインコントロールするアンプより前では過入力が抑えられないので歪みが発生します。

下の図はSSB送信機の構成を簡易化したものです。近年はSSBの生成はデジタル処理されているトランシーバがほとんどですが、基本的な考え方は同じです。


ALCの動作を簡単に説明すると送信回路の途中に電圧によってゲインが変化するアンプ(あるいはアッテネータ)を設け、パワー検出レベルに応じてALC制御電圧を変化させてゲインを制御します。

このブロックから分かるように、可変ゲインアンプより後段はレベルが一定になるように制御されますが、それより前段は制御されません。したがって、マイクからの入力が大きくなると、可変ゲインアンプより前の段で歪みが発生します。

つまりALCが完璧に動作しても過入力になると送信機としての歪みは発生します。前回のFT8での検証でも、USB変調入力レベルの設定によっては変調入力が一定以上の過入力になるとALCのゾーン内でもオーディオレベルでの歪みの発生が見られました。

IC-7610のALCゾーンと歪みの関係を調べてみた

前回の検証はFT8でシングルトーンでしたが、今回はSSBを前提に2Toneを用いてALCメーターの振れ始めと、そこから変調レベルを20dB上げてALCゾーンの最大付近の時とでIMD歪みの変化を確認してみました。

1kHzと1.6kHzの2Tone信号をマイク端子から入れています。周波数は14MHzでマイクゲインの設定は50%にしています。

まず、ALCメーターが振れる直前の2ToneのIMD歪みです。


3次歪みと5次歪みが同レベルですが、ピークパワーから約-35dBとまずまずの値です。9次以後の高次IMDが少なく、パワーアンプとしてはスプラッタの少ない好ましい歪み特性だと思います。

次にマイク端子からの2Tone変調信号のレベルを20dB上げてみました。ALCメーターはほぼゾーンいっぱいです。


驚いたことに、歪みはほとんど変化がありません。この結果をみるとIC-7610のALC回路のダイナミックレンジは20dB以上になります。

IC-7610の送信機系統図を見ると、ALCの信号がデジタル信号処理を行っているFPGAにも加えられています。ALC信号がアナログ高周波部分によるゲイン制御だけでなく、デジタル信号処理のレベルの適正化処理にも用いることで、広いALCダイナミックレンジが得られているようです。あるいは、ALC信号とは関係なくデジタル信号処理部分で変調レベルが一定以上にならないように制限しているのかも知れません。

そこで更に10dB、つまりALC振れ始めからマイク入力レベルを30dB UPしました。ALCメーターは14MHzでは僅かですがゾーンを越えました。同じ状態でも50MHzではゾーンいっぱいでした。


流石にSSBの変調周波数帯域内の歪みが増加したようですが、ファイナルアンプなどの高周波段での歪みはあまり変わりません。ALCのゲイン制御は破綻していないようですが、オーディオ処理のどこかで過入力となっているようです。

この結果から、元々のALCメーターのゾーンの意味を考えると通常ではIC-7610はALCメーターの振れがゾーン内であれば一定の歪みレベルに収まっており、問題ないと言えそうです。しかも、ALC回路の動作としてはかなり優秀です。

ただ、ALCメーターの振れはピークパワーに対して変調入力が20dBも高くてもゾーンオーバーしていることが分かりにくくなっています。ピークパワーに対して変調入力が20dBもオーバーしていると、歪みが増加していなくても変調入力レベルとしてはいささか大きすぎます。

マイクゲインを上げ過ぎたり、コンプレッサーを深く掛けすぎたりした局の信号を聞くと音声の間で背景雑音などがうるさく感じられます。あるいは音が不自然な感じになったりと、マイクゲインの設定にはIMD歪みとは別の面からみた適正な設定があります。

私の個人的な考えですが、マイクゲインは音声のピークがパワーのピークに対して6~10dBオーバーする程度(あるいはそれ以下)に設定すると声が不自然にならず、聞きやすさを保つと思っています。IC-7610であればALCメーターがゾーン半分くらいまで振れる程度になります。

今回の外付けALCメーターの振れ

IC-7610のセットモードで外部メーター出力レベル(メイン)を60%に設定した場合の外付けLEDメーターの点灯レベルは以下のようになりました。(LEDメーターのスイッチはALC側)


緑色点灯の範囲で約6dB、橙色まで点灯すると約10dBとなりました。これだと、赤色のLEDが点灯しない範囲であればピークパワーに対するマイク入力レベルオーバーは10dB程度に収まります。

今回はALCのアタック特性まで確認していませんが、近年のトランシーバのALCは過入力に対してのパワーや歪みの押さえ込みは優秀です。しかし、ALCメーターの振れ方の問題から、適正なマイクゲインの設定という面では分かりにくく、昔のようにALCゾーン範囲内であれば良いとは一概にいえないように思います。

また、外付けリニアアンプなどを使う場合、ALC検出はリニアアンプ側で行われるためにトランシーバだけで運用するときよりもALCの特性が悪化する恐れがあります。そのような場合、ALCメーターがゾーン内であっても実際はオーバードライブになっているかもしれません。このような面でもALCメーターがゾーンオーバーしにくいということの弊害があるように思います。

私は、ALCメーターは単にALCが動作したというインジケーターだけでなく、変調レベル設定の指針として存在すると考えています。

昔であれば、トランシーバのケースを開けて抵抗などの定数を変更したりしてメーターを好みの振れに改造したでしょうが、最近のトランシーバではそのようなことができなくなりました。しかし、このような簡単なモノを作って取り付けるのも悪くないと思います。残念なのはIC-7300や9700などの小型機には外部メーター端子がないので、この方法が使えないことです。

もっとも、わざわざ外付けのメーターを作らなくてもALCメーターの振れ方に少し注意をすれば良いだけのことでもあります。

それではBest 73 & 88

参考文献/資料
・LM3914使用レベルメーターキット 秋月電子通商
・SSBハンドブック CQ出版社

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