特集6
2023年2月1日掲載
2022年、スペインのマイクロ波帯の伝搬は良好でした。特に地中海沿岸では良好なトロッポ伝搬(Tropospheric propagation; TR)が確認されました。また、レイン・スキャッタ(Rain Scatter; RS)を介した通信も多く確認できました。レイン・スキャッタ経由の通信は、SSBモードでは時々了解度が低下するため長距離通信は期待できませんが、FMモードで素晴らしいDX通信行うことができました。トロッポ伝搬では、DATVの実験もたくさんできました。
IQ0SSは、イタリアアマチュア無線協会サッサリ支部(Associazione Radioamatori Italiani Sezione Sassari)のクラブのコールサインです。2022年6月、このクラブは普段の活動に加え、フランスのハイパーアマチュア無線グループによるサルデーニャ島へのマイクロ波エクスペディションに加わりました。
図1 IQ0SSエクスペディションチームのアンテナの設置 (写真提供 Jean Paul, F5AYE)
このハイパーグループは、何年も前から地中海のさまざまな場所でマイクロ波通信による運用を行っています。彼らのマイクロ波帯による運用は、La Grande Bleue(The Great Blue)と呼ばれており、1996年Serge(F1JSR)がMichel(HB9AFO)と共に立ち上げました。
2022年は、Jean Louis(F5DJL)、Jean Claude(F5BUU)、Jean Paul(F5AYE)、それにJean Luc(F1BJD)のフランス勢が加わり、50MHzから24GHzまでマルチバンドでCWとSSBを運用しました。また、地上波のDATVや静止衛星QO-100経由でも運用しました。衛星通信では、衛星テレビ用のチャンネルコード化システムを定義するDVB-S2(S2QSPSK)規格をシンボルレート333で、アップリンクを13cmバンド(2405MHz)、ダウンリンクを3cmバンド(10.495GHz)で運用しました。10GHzバンドでは、地上波での最長通信距離が達成されました。このバンドでは、Maurice(F6DKW)が1000km以上、Daniel(DL3IAE)がそれに次いで950kmを達成しました。(図2)
図2 IQ0SS(GL:JN40CS)のサルデーニャ島における運用状況
スペインでは、13cmバンドにおける運用は、アップリンク2.4GHz、ダウンリンク10GHzの静止衛星QO-100経由の運用に人気があります。この衛星は、SSB、CW、デジタルモードではナローバンドトランスポンダとし、またDATVモードではワイドバンドトランスポンダとして運用することができます。
5月以降、海上の熱逆転により対流圏の伝搬が良好でした。航空機の飛行ルートにアンテナを向け、ルート上を飛行している航空機の機体で散乱させる航空機散乱(AS)による交信の可能性もありました。図3、図4はEA5YB、EA3FLXおよびEA3XUのそれぞれのQSOマップです。QSOマップは下記のウェブサイトの協力を得て作成しました。
http://ok2pbq.atesystem.cz/prog/qso_map.php
図3 EA5YBとEA3FLXのレイン・スキャッタとトロッポによる10GHzのQSOマップ
図4 EA5YB、EA3FLX、EA3XUによる5.7GHzにおける合同運用
6月以降、この地域は午後になるとレイン・スキャッタが発生します。EA3*1、EA5*2エリアから、ピレネー山脈の3000m級の山々を越える南フランスとの交信のチャンスが何度か発生し、8月に入るとほぼ毎日そのチャンスがありました。バレンシア地方のEA5YB(図3)とバルセロナ在住のEA3XU(図5)のQSOマップもご覧ください。
図5 トロッポおよびレイン・スキャッタ経由の10GHzにおけるQSOマップ EA3XU
私(EA3XU)の住んでいるバルセロナから830km離れたGL:JN53SRのIQ5FI/Bビーコン(13cmバンド、6cmバンド、3cmバンドで運用)の設置は、たいへんありがたいです。トロッポの伝搬状況を知るには絶好の指標です。830kmも離れている距離では、電波の特性上、通常の直接波による伝搬はありませんが、幸運なことに私はこのIQ5FI/Bのビーコンを2022年2月、5月、6月、7月、8月、それに10月にも受信し、さらにコルシカ島の23cmバンドのビーコンF1ZAK/B(GL:JN23MM)、TK5ZMV/B(GL:JN41JS)も受信しました。(図8、図9)
バルセロナ(GL:JN11CK)では、フランスに設置されている10GHzビーコン: F5ZAE/B(GL:JN12LL), F5ZWZ/B(GL:JN23XE), F1ZIR/B(GL:JN24VC), F1ZCL/B(GL:JN33KQ), F5ZEP/B(GL:IN94QT)が受信できました。また、バレンシア地方(GL:IM99VC)在住のVicente(EA5YB)からも何度かコールを受けました。(図8、図9)
気象レーダーマップは、地図上の赤い部分にアンテナを向けることで、レイン・スキャッタの可能性を検知し、ビーコンの信号を探すのに役立ちます。ビーコンが見つかれば、レイン・スキャッタの可能性が大いにあり、その方向へのコンタクトを試みることができます。スキャッタによるQSOの可能性はダイナミックで、嵐の進行状況によって刻々と変化します。(図6、図7)
レーダーによるメテオマップ:
スペイン: https://www.aemet.es/es/eltiempo/observacion/radar
カタルーニャ: https://es.meteocat.gencat.cat/radar
図6 気象レーダースクリーンの例エリアは、スペイン、カタルーニャ地方。スペインとフランスの国境に連なるピレネー山脈上のストームの形成は、特に3cmバンド(10368MHz)のマイクロ波通信に使用されます。使用モードは、SSB、FM、CW。(https://es.meteocat.gencat.cat/radar)
図7 地中海のトロッポの予報図2022年7月18日、ヘップバーンにおけるトロッポの予報図(https://www.dxinfocentre.com/tropo_eur.html)
現地のノイズ状況に合わせて、70cmバンド(434~437MHz)、あるいは23cmバンド(1255MHz)でも集中して運用しました。GL:JN53DU のFilippo(IZ5TEP)と双方向QSOを何度も行いました。125から1500までの様々なシンボルスレート(RS)を使用することにも成功しました。また、Liborio(IU2KAC/P)と70/23cmクロスバンドコンタクトを行いました。(図10)
参考情報(編集部追記)
*1: スペインの北東部で地中海に面し、フランスとの国境にあるカタルーニャ地方
*2: バルセロナのある地域で地中海に面したスペインの東側のエリア
GLはGrid Locatorを表しています。
筆者紹介
Benjamin Piñol, EA3XU: https://www.qrz.com/db/EA3XU
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