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Short Break

QRP用高周波電圧電流計の製作と考察

2023年2月15日掲載


完成したQRP用高周波電圧電流計

QRP用の高周波電圧電流計を製作しました。今回製作した高周波電圧電流計はトランシーバとアンテナ間の伝送路(同軸ケーブル)に挿入し、伝送路の電圧と流れている高周波電流とで負荷(アンテナ)の状態をモニターしながら運用する測定器です。電圧と電流が分かれば送信出力はP=I・Eで求められることで簡易パワー計にも応用できます。

IC-705の出力(パワー)は百分率で調整できる

今回実験に使ったアイコムのIC-705には、フルパワー10Wを100%として1%ステップで出力調整ができるツマミがフロントパネルについています。外部電源でDC13.8VをIC-705に供給するとIC-705は最大で10Wの出力が出ます。この出力調整ツマミを50%にセットすると出力は5Wとなり、30%とすると3Wとなります。この百分率の出力調整は意外と精度がよく、パワー計なしでも、この調整ツマミを信頼すれば百分率の数字に沿っただいたいの出力がでます。(図1)


図1 IC-705の出力調整のスクリーン

P=I・Eから送信出力を求める

送信電力(P)は、負荷(Z)の両端に生じた電圧(E)と負荷を流れる電流(I)からP=I・Eで求めることができます。これを使って送信出力を知ることができないか、試行錯誤しました。10Wの出力をインピーダンス(Z)50Ωに供給すると、インピーダンスZの両端には22.4(V)の電圧を生ずることが分かります。また、伝送路に流れる電流は、オームの法則I=E/Zより0.45(A)と分かります。(図2)


図2 負荷の両端に生じる電圧と伝送路に流れる電流の計算

送信機から10Wを出したときの電圧は22.4(V)となり、電流は0.45(A)となるので、これらの電圧値、電流値のときを10Wと規定します。別の言い方をすれば、IC-705をDC13.8Vで運用時、100%出力にセットしたときに生ずる電圧と電流を、それぞれのメータで22.4V、0.45Aにセット(校正)して使用するという意味です。

高周波電圧計・電流計

今回製作した高周波電圧電流計は、伝送路の電圧、電流の絶対値を表すものではありません。したがって完成した高周波電圧電流計の指示値から送信電力を求めてもその表示が世の中の絶対的な送信電力の精度でないことを最初にお断りしておきます。あくまでもIC-705の出力が13.8V使用時、10Wの出力であるものとして校正した相対的なメータであることをご理解願います。

(1) 高周波電圧計
私たちが普段使用するテスタには交流を測定するレンジがあります。高周波も交流ですからそのテスタの測定レンジで高周波の電圧や電流が測定できるかといえば、残念ながらできません。使用できる周波数は各家庭に引き込まれている商用電源のすこし下である40Hzぐらいからせいぜいオーディオ周波数ぐらいまでです。

ところがそのテスタに図3に示すような数点の部品で構成される高周波(RF)プローブを接続すると高周波の電圧をテスタで読むことができます。図3に示すこの高周波プローブを通常P型電子電圧計と呼んでいます。最近では50MHzぐらいまで測定できるデジタルオシロも数万円で購入できますが、かつてはRFプローブのついた高周波電圧計で送信回路を設計したり、修理したりしました。この高周波電圧計で表示される電圧は絶対値ではなく相対値ですが、送信機の増幅段の設計や修理にはたいへん役に立ちます。今回製作した高周波電圧計はこの原理を使用しています。


図3 P型電子電圧計の原理図

(2) 高周波電流計
電流は回路に直列に接続した電流計で指示値を読みます。ところがこの原理を使えるのは直流だけで、交流となれば少し工夫が必要です。今回の高周波電流計では、例えば一般的な可動コイル型の電流計を高周波の伝送路に直列に挿入したとしてもコイルのインダクタンスが高周波に対して大きなインピーダンスを持つため電流計として機能しません。

今回は、最近多くの無線機に組み込まれているSWRメータの回路を応用して電流計を製作します。そのキーパーツとなるのが図4に示すトロイダルコア(TR1)です。トロイダルコアでトランスを作ります。そのトロイダルコアの一次巻線に高周波電流を流し、二次巻線に生じた高周波電圧を検波してメータを振らせ高周波電流計とします。その原理図を図4に示します。


図4 製作する高周波電流計の原理図

トランスTR1はカレント・トランス(Current Transformer)と一般に呼ばれています。一次巻線は同軸ケーブルをトロイダルコアに通すだけです。一次側と二次側はトロイダルコアを通して磁気的に結合していますので、二次側にN回巻くとすれば、二次側のコイルには一次側のN倍の電流が流れることになります。

高周波電圧電流計の回路図

前述した図3、図4を参考にして製作した高周波電圧電流計の回路図が図5です。回路図に示した各部品のうち、重要なものについて少し説明を加えます。


図5 高周波電圧電流計の回路図

(1) C1
同軸ケーブルの芯線に流れている高周波電流の一部をC1で取り出し、それを検波してメータを振らせます。今回C1を1pFとしましたが、少し容量が小さすぎメータがフルスケールまで振れませんでした。感度の良いメータに替えるか、結合コンデンサの容量を例えば1pFからの2pFにするとフルスケールまで振るのですが、コンデンサの容量を大きくするとSWRの悪化にもつながります。結合コンデンサの容量はできるだけ小さい方がSWRには影響しないことから最終的には1pFとしましたが、実は基板の裏面のハンダ付け部分に少し多めのハンダを盛り、結合の容量を増す小細工を行っています。

(2) D1~D3
D1~D3は、高周波を検波し直流にします。高周波を検波して直流にするのであれば、どのようなダイオードでも原理的には動作しますが、微弱な信号を取り出しメータを振らせることから、これらのダイオードには接合電位差のできるだけ低いショットキーバリアダイオードを使います。ゲルマニウムラジオでおなじみの1N60でもOKです。

(3) M1、M2
今回使用したメータは、図6のようなインジケータです。無線機やFMチューナで使われていたようなプラスチックのケースに入ったメータです。今回使用したメータのフルスケールを測定すると0.5mAでした。このメータのカバーと文字盤をていねいに外し、パワーポイントで制作した文字盤と入れ替えます。文字盤のサンプルを図7に示します。クリックで拡大し、使用するメータに合わせてプリンタで印刷すれば使えると思います。


図6 フルスケール0.5mAのインジケータを電圧計、電流計として使用

図7 文字盤のサンプル (文字盤画像をクリックすると拡大します)

(4) TR1
トロイダルコアに図8のようにコイルを巻きます。0.3mmのホルマル線を均一に10回巻きます。使用したトロイダルコアの外径は15mmでした。トロイダルコアの部品名や透磁率は分かりませんが、トロイダルコアであれば経験上だいたい動作します。透磁率によって出力電圧、電流は変わりますが、そこはインジケータに直列に取付けるボリュームで調整します。


図8 トロイダルコア(TR1)に巻いたカレント・トランス

組み立て

ほとんどの部品はユニバーサル基板に取付けますが、メータM1、M2や調整用のボリュームR1、R3はフロントパネル、また入出力のコネクタJ1、J2は後面パネルに取付けます。図8で製作したカレント・トランスTR1は図9のように加工した基板(PCB)に接着剤で固定します。完成した基板をケースに組み込んだものが図10と図11です。


図9 カレント・トランスを基板に取付ける

図10 基板を組み込んだ高周波電圧電流計の内部
(それぞれの画像をクリックすると拡大します)


図11 完成した高周波電圧電流計の外観

調整

前述したように完成した高周波電圧電流計は正確に10Wを出力する送信機でメータを校正します。今回はアイコムIC-705を10Wの送信機として使い、図12のように完成した高周波電圧電流計の入出力コネクタにそれぞれ送信機と50Ωのダミーロードを接続します。


図12 高周波電圧電流計の校正

IC-705にDC13.8Vを接続して10W運用ができる状態にします。IC-705の設定バンドは普段よく使用する28MHzまでのHF帯が望ましいです。

IC-705のモードをRTTYにし、マイクのPTTを押して10Wのキャリアを出します。10Wの出力で電圧計の振れを22.4Vとなるようにフロントパネルに取付けたボリュームで調整します。同時に電流値も電流値を可変するボリュームにて0.45Aにセットします(図13)。この22.4Vと0.45Aの積が10Wとなります。これで負荷の状態が変化すれば電流値に変化を生じますから、異常が発生したことが分かります。


図13 高周波電圧電流計の指示値をそれぞれ22.4V、0.45Aにセット

考察

完成後のテストでは28MHzぐらいまではSWRの悪化もそれほどなく使用できましたが、50MHzあるいは144MHz帯以上になるとIC-705から見たSWRは著しく悪化し、使い物になりませんでした。この高周波電圧電流計はトランシーバとアンテナの中間に挿入するため、伝送路の一部となります。高い周波数では、この高周波電圧電流計の挿入が伝送路のインピーダンスに悪影響を与えていることが分かります。

また実運用では、あるバンドで電圧と電流を校正したとしても、別のバンドにQSYするとまた電圧と電流をボリュームで校正する必要がでてきました。これは負荷のインピーダンス、つまりアンテナのインピーダンスは周波数に対して常に50Ωとは限らないためです。参考ですが、50Ωのダミーロードで実験を行うと、1.9MHz~28MHzまではほぼ一回の校正で済みました。

さらに144MHzあるいはそれ以上の周波数になると、ケース内で電波が輻射し、その電波が回路に影響を及ぼし、異常な電圧と電流の指示値を示していることも分かりました。この現象は高周波を検波したあとの回路を銅板等でシールドすることで軽減することが実験で確認できました。今回は、そこまでの修正はできませんでしたが、また機会があればせめて144MHzぐらいまで使用できるようにしたいと思っています。

CL

<参考資料>
CQ出版社 上級ハムになる本
CQ出版社 作りながら学ぶ初めての高周波回路
CQ出版社 エレクトロニクス製作
CQ出版社 トロイダル・コア活用百科

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